INDEX > SS > 扉(仮)

扉(仮)



1

「信二、いる?迎えに来たよっ早くいかないと間に合わないよ―」
「真由美さん帰って下さい」
「あれ、香奈ちゃんおはよう。信二は?まだ起きてないの?
じゃあ私が起こしてあげよ―かなっ」
「真由美さん、お願いだから来ないで下さい。兄はあなたのものでは無いんです」
「あれ―香奈ちゃん何言ってるのかなぁ?信二は私がいないと寂しくて死んじゃうんよ?
だから私が迎えに来てるのに。ね、信二はどこ?」
「……兄は渡しません。家にも絶対入れません。」
「なに思いつめた顔してんの?信二がいる場所なら私はどこにだって行くよ。
ひょっとして信二が私のものだってことが嫌なの?認められない?
あはっ香奈ちゃんブラコンだもんねぇ…でも無駄だよっ信二は私と行くんだから」
「やめて下さい!兄はいかせません!」
「…妹だからって調子に乗んないで。あの時信二があなたをかばったのは信二が優しいからだよ!!」
「違います、真由美さん。兄はもうあなたのことなど想っていません。ひたすら恐れているんです!」
「どきなさい雌犬が。信二を渡しなさい」
「絶対に嫌です。…あなたはもう、死んでいるのに」

そうだ。この雌犬を排除するために帰宅前を狙ってわざわざ待ち伏せてたのに。
信二にうっかり気付かれてしまった。かばう信二と言い争っている内に
居眠り運転のトラックが私をひき殺してしまった。でも、かえって好都合。
このまま信二を一緒に連れて行けばこんな雌犬のいない、2人だけの世界にいけるから。

「それがどうしたの?いいから、信二に会わせなさい」

カンカンカンカン…
踏切で警報が鳴っている。が、信二は線路の真ん中にぼんやりと立って動かなかった。
「…お兄ちゃん?……お兄ちゃん!だめっ!!」
香奈が信二を突き飛ばして2人がもつれ合いながら線路脇に転がった。
同時に電車が轟音とともに通り抜ける。
「何やってるの!?轢かれるつもりだったの!!?」
「ごめん……真由美が…真由美がいたんだ」
その日は2人で家に帰って、無言で夕食を食べて、眠った。そうするしか無かった。
青ざめる信二に幻覚だよ、と笑い飛ばすことは香奈にも出来そうに無かった。
両親が外国に赴任して2人暮らしである状況を初めて悔しく思った。
そして次の日の朝真由美が信二を「迎えに」来た。
「いいから、信二に会わせなさい」
顔がつくような至近距離で妄執と対峙するのは怖かった。
が、どうやら真由美は家には入れないらしい。
「絶対にどきません。兄はいかせません」
睨み合いは30分を超えた。信二が起きてしまう。兄が真由美と会ってしまった場合どうなるのか
香奈にはわからなかった。かといって追い払う方法もわからない。
じりじりと焦りばかりがつのる。

 

「そう…ねえ、じゃあ香奈ちゃんに問題ね」
突然の明るい声に呆気にとられる香奈を置き去りにに言葉は続けられた。
「私はどうやら所謂幽霊ってやつです。幽霊と言えば憑依!ちょっと強引だけど。
で、私にもそれってできるのでしょーか!?」
「…え、あ」
「答えは、出来るっ!!じゃあお邪魔しまぁす」
何かが体にまつわりつくような嫌な感触を最後に香奈の意識は途切れた。

 

口腔を這い回る艶めかしい感触で目が覚めた。
「…っ!!香奈!?」
途端に頬に衝撃が走る。現状が理解出来ない。妹が馬乗りになって全身密着でキスしてきて
目が覚めていきなり頬全力で張り飛ばされていやいやその素晴らしい笑みはなんだ。
……そしてこの凄まじい違和感はなんだ。
「おはよう、信二」
パジャマの薄い感触を通して伝わる胸や太ももの感触に下半身へ血が集まるのがわかった。
妹に欲情してどうするとは思うが致し方ない。
「私の名前、間違えないでよ…たとえこんな雌犬の中に入っててもわかってくれるよね?」
「ま…ゆみ」

 

「あはっせいかーい。それにしても信二はこんな体でも欲情するんだねえ…」
香奈の細い指が腹から胸に上がって来る。違和感ではなくはっきりと恐怖を感じた。
香奈だが、どう考えても真由美だ。
「でも信二が愛してるのは、私だけだよね?」
真由美の手つきで香奈の指が鎖骨をなぞって喉元にたどり着いた。
「私だけだよね?」
繰り返す真由美に対して肯定以外を返すことは出来なかった。
そして首に食い込んでいく指を止めることも出来なかった。

 

「先輩、この被疑者の子まじでヤバくないですか?」
「ああ間違い無く精神鑑定行きだろうな。全く最近の若い奴らはわからん」
「恋人失った兄貴をいきなり絞殺する女の子の気持ちなんて俺にもわかりませんよ」
「お前も気をつけろよ?俺ら刑事なんて官職は恨み買いやすいから訳わかんねえ奴に
絞殺されるかもしれねえ」
「女の子なら大歓迎なんですけどねえ…」
「それはねえな」
「先輩には言われたくないっすね」

2006/11/26 完結

 

inserted by FC2 system