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魔法少女



第1話 『魔女、現る』

199×年

世界はそこそこに平和だった。各地でテロや天変地異が多発していても、人類滅亡の
足音が聞こえるほど逼迫してはいなかった。……そう、この時までは。

 

―――日本―――

この日、日本のはるか上空に突如魔方陣が現れ、一人の女性が召喚された。
この突然現れた女性は箒に跨り、黒いマントにとんがり帽子、長い黒髪を靡かせて空を飛ぶ姿は
見た目は魔女っぽいが、
世間の魔女のイメージとはかけ離れた、無駄に高いテンションはおおよそ魔女らしくはなかった。

「きゃる〜〜ん♪はーい、みなさんこんにちは!!私は魔女界から人間界へ男を漁りに……
ごほんごほん、この日本の平和を守るためにやって来たシーンって言いまーす。
さーて、どこに行こうかな?って寒!!!」

あまりの寒さと、低い気圧による眩暈に耐えながら、何とか必死で地表近くの高度まで降りて来た。

「はあはあ……登場早々死ぬかと思ったわ。よーーし、まずはこの国の首都にいきましょ。
きっと人も多いしイイ男もわんさか……ぐへへへへへへ、選り取りみどりね。
よーーーーし、レッツゴーー!!……くしゅんっ!!!」

―――数日後、東京都―――

人口ウン千万人のこの大都会は現在、未曾有の大混乱をきたしていた。

「避難警報です。空を飛ぶ正体不明の物体が現在新宿上空にて破壊活動を行っております。
情報によりますと、自衛隊と在日米軍が交戦中とのことですが、くわしい情報は不明です。
現在新宿に居る方は速やかに避難して下さい……」

「んもう、何よこれ!!私の仕事の邪魔をしないでよ!!」

何よあいつら!!変な機械に乗って分けわかんないこと言ってきたと思ったらいきなり
何か飛ばしてきて……。防御壁が無かったらどうすんのよ!!
大体私を何とかしようなんて馬鹿の考えそうなことだわ。
私は貴方たちを守るために来たんだからね!!

さすがの自衛隊や在日米軍といえども、雷や地震には対抗する術は無く
シーンが通った後には戦車や戦闘機の残骸が無残にも打ち捨てられていた。

「やっぱり美人は目立つのかしら……。もう少し郊外に行くか」

あても無く適当に飛んでいること数時間。突然シーンの耳に男の叫び声が聞こえてきた。

「た、助けてくれーーー!!」
「男♪どこどこ?……あ、あれね。大変!あんなイイ男が追われているわ!」

シーンの視線の先には、悪党に追われている青年の姿があった。

うんうん、イイ男じゃない♪……そうだ!!丁度使い魔が欲しかったのよね。
あの男にしよっと。

シーンは急降下して、追われている青年と追っていたおっさんの間に割り込むように空から降り

「ちょっとおっさん!!こんなか弱い青年を追い掛け回すなんて許さない!!」
「な、何だぁ!?」

突然の乱入者に驚いたおっさんだったが、シーンはお構いなしに

「畜生道に堕ちちゃえ――!!」

シーンが杖を一振りすると、アラ不思議。おっさんは可愛い黒ブタさんになってしまいました。

「トンカツになって反省しなさい!!(ビシッ!)」
「ブヒー!!(なんじゃこりゃー!)」

変な決めポーズが決まった所で、本来の目的である追われていた青年の方を振り向き

「さーて、そこのあ・な・た♪。私は命の恩人なんだから言うこと聞いてね。ふふっ」
「ち、ちょっと待って!!命の恩人ってこれは映画の撮影――」
「んもう、ごちゃごちゃうるさいわね!」

シーンは何かぶつぶつと呟いた。
すると右手が光だし、青年の胸の上に右手を重ね
「え〜〜〜い♪」

シーンの右手の光が消えたと同時に、青年は地面に崩れ落ちた。だがシーンの右手の先にも
青年が立っていた。
「あ、あれ?俺が倒れている?」
「幽体離脱成功!次は!」
シーンが懐から取り出した物。それは汚い泥人形だ。

「が―ったい!!ジャキ――ン!!」
「うわあああぁぁぁぁ!!!」

泥人形を青年の魂の中に入れた瞬間、魂は泥人形の中に吸い込まれ、代わりに泥人形が
まるで空気を吹き込まれている風船のように大きくなり、やがてそれは青年と瓜二つになった。

「よし、成功!!今日からあなたは私のしもべよ。」
「は?冗談じゃない!!何でそうなるんだよ!」

シーンは少し困った顔をして

「だって私とあなたは契約しちゃったし、第一契約解除する前に私が死ぬか半径10メートル以上
離れるとあなた本当に死んじゃうわよ」

それは青年にとって到底呑める話ではなかった。

「くそっ!一体なんなんだよ!……じゃあどうやったら契約解除できるんだ?」
「それは――」
「こら―――!!!!撮影の邪魔すんな!!!誰だおまえ!!!」
「亀有くん、大丈夫ーー?」

遠くから撮影スタッフとおぼしき人々が大勢やってきた
が、シーンは動じたふうもなく

「ん?なんかサツエーがどうとか言ってるけど、目的も果たしたし退散するとしますか。
っとその前に」

地面に横たわる青年に向かってシーンがジロリと睨んだ瞬間、青年の肉体は火柱に包まれた!!

「あ―――!お、俺が燃える!」
「これでよし。さ、行くわよ!!!」
「よくねぇ!!くそ、離せ―――………」

青年の腕を取り、シーンは飛び去っていき、後に残された人々はただぼーぜんとするしかなかった。
一人と一匹を除いて

「ブヒッブッ――(元に戻せー!)」
「亀有くん……そんな……アイツ……アイツが!!!!!」

一方その頃

 

アメリカ・ハワイ島のマウナ・ケア山山頂にあるすばる望遠鏡で星の観察をしていた学者は、
ある現実を受け止められないでいた。

「一体どういうことだ!!!今の今まで分からなかったなんて!!」
「しかし、信じられませんが真実です。「今出現した」のです。でなければあれほどの
質量、大きさの物を発見出来ていないはずがありません!!!」
「くそっ!!この事実をどう報告したらいいんだ……」

すばる望遠鏡が捉えた物……、それは地球に向かっている3個の直径10キロ程の隕石だった。

 

地球衝突まであと 5日

第2話 『魔法少女、語る』

新しい使い魔の亀有をゲットしたシーンは、一路神奈川へ飛んだ。
東京にこれ以上いると面倒なことにになりかねないからだ。
とある高級ホテルにチェックインし、最上階の部屋を取り中に入ってみると―――

「わあ〜〜、綺麗な夜景ね〜〜」

確かに窓の外には横浜ベイブリッジのネオンが輝いていて綺麗なのだが、そんなことよりも―――

「あの―、夜景は置いといてとりあえず自己紹介しませんか?俺の名前は亀有。
亀有和哉(かめありかずや)って言います。」
「へ――、カメアリって言うんだ。えっと私はシーン・Λ(ラムダ)って言うの。
朝も夜も宜しくね。チュッ♪」
「おわっ!!」

不意打ちに投げキッスをしたシーンだったが、全力で避けた亀有に

「む〜〜〜、何かちょっとムカツク!!!女の子の好意は素直に受けなさい!!」
「俺を勝手に使い魔にして、肉体を消し炭にした張本人に向ける好意は持ってない!!いや、
今はとりあえず現状を把握しないと。幾つか質問があるんだけどいい?」
「質問?……あ〜〜、3サイズね。上がトップが88。アンダーが―――」
「ちっが―――う!!!サイズじゃない!!ってか随分巨乳だな……はっ!!」

どんどんシーンのペースに嵌っていく亀有だったが、気を取り直して

「いかんいかん。すっかりペースに乗せられてる。……まず、お金は幾ら持ってるんですか?」

そう、シーンはチェックインの際、懐から百万円の札束を取り出して「これで足りる?」なんて
言って周りを驚かせていたのだ。

「オカネ?……ああ、あの紙の束のことね。それなら一杯あるわよ、ほら。」

そう言ってマントの裏をゴソゴソ弄っていたら、札束が出るわ出るわ

「え〜〜……っとこの国の単位で1オクエンぐらいあるわ」
「1億円!?……シーンってお金持ちだったんだ」

それを聞いたシーンは不思議そうな顔をして首を傾げ

「オカネモチ??それは分からないけど、この紙の束なら家で印刷―――」
「ぎゃ―――!!!ストップストップ!!!それ以上言うな!!」

この世界とシーンの世界とはどうも常識や価値観は全然違うようだな。
何にしてもこれ以上関わるとえらいことになりそうだ。何とか使い魔の契約を解除して
おさらばしないと……

「ハアハア……。じゃ、じゃあシーンがこの世界に来た目的は?」
「目的?表向きは間もなく落ちる隕石から地球の平和を守るためよ」
「え???……隕石???間もなく落ちる???……冗談……じゃないよな」
「マジマジ。あと数日後にドカ――――ンって落ちるわ。だ・か・ら、私たちが来たのよ」
「マジかよ……。ん?「表」ってことは「裏」は何なんだ?」
「ん―――」

ドンドンッ!!

そこまで話していた時、激しくドアがノックされて

「警察だ!!今すぐドアを開けろ!!!」
「え?警察?まさかシーンを逮捕に?どうし―――」

ちょっと混乱していた亀有だったが、シーンから漂う殺気に続ける言葉がなかった

「ふぅ……ん、変な飛び道具といい、私をどうこうしようといい、どうもこの国は魔女が
嫌いなのかしら。まあどうでもいいか。カメアリ、この箒に掴まって!!」

言われるまま箒に掴まった亀有を確認したシーンは

「しっかり掴まっててね。……ん――――」

杖を握ってブツブツ呟いていたら、先端に付いていた水晶の球が
不気味に怪しく光りだし、そして

「吹き飛べ――――――!!!!!」

真横に杖をフルスイングした瞬間、あたり一面を爆風が薙ぎ払った!!

「さ、星空のデートに行きましょ♪」

自分も箒に跨り、満月の星空へ飛んでいった。

「あ〜〜あ、暖かいベットでカメアリとあーんなことやこーんなことしたかったな……」

上空数百メートルの所で空中に浮いていたシーンは残念がっていたが、亀有からしてみれば
ひとまず貞操の危機は去ったようだ。

「なあ、シーン。さっきの話の続きだけどさ、私「たち」ってことは魔女ってまだいるのか?」
「いるわよー。私を含めて6人召喚されているわ。……ほら、噂をすれば」
「シ〜〜〜ンちゃ〜〜〜ん!!」

シーンが上空を見上げた視線の先に、満月をバックに浮かぶ一つの人影。
ただ、その人影の背中には2枚の蝙蝠みたいな羽が生えてて、それを大きく羽ばたかせて飛んで来た。

 

「うう……、亀有くん、何でよ……、ぐすっ」

こんな……、こんなことって……。これからだったのに……。
アイドルグループとしてこれから売り出そうという、この時に……。

一人の女性が、亀有の肉体の消し炭を握りしめながら泣いていた。

これも全部あの魔女のせい……
私の全てを奪った魔女め……
許せない、絶対許さない!!!!全てを賭けて復讐してやる!!!
相手が魔女だか何だか知らないけど、それだったら悪魔に魂を売ってでも!!!

第3話 『魔女、集う』

「シ〜〜〜ンちゃ〜〜〜ん、会いたかったよ!!」

月を背に飛んでいた蝙蝠の羽を持つ少女(見た目)は、シーンを見つけるやいなや急降下し、
体当たりをしてきた。

「おっと、相変わらず猪突猛進ね。フライヤーは」
「えへへ。シーンちゃんを見たらつい、ね」
「あの〜〜、どちらさんですか??」

まったく状況についていけない亀有は恐る恐るシーンに聞いた。

「?シーンちゃん、だれこのニンゲンは」
「ああ、紹介するわ。「使い魔」のカメアリよ」
「へ〜〜、カメアリってんだ。私は「南アメリカ」担当のフライヤー。宜しくね」

俺は目の前に起きている現実を受け入れなければいけないんだろうか。
魔女っていうのも相当受け入れられないけど、この背中に羽を生やしている女の子を
どう認識すればいいのやら……
ん?「南アメリカ」担当??

「ち、ちょっと!!「南アメリカ」担当って何??」
「え?シーンちゃんその辺説明してないの?」
「そういえば邪魔ばっかりされてて、説明してなかったわね。……そうね、このあと「お茶会」
が始まるから行きながら説明するわ」




―――西ヨーロッパ―――

「キシャアアアアアアアア!!!」
「バンプ、もうその辺にしなさい」

バンプと呼ばれたレッドドラゴンは、炎のブレスを吐いて攻撃してきた戦闘機を
撃ち落していた。そのドラゴンに跨っている魔女は面白くなさそうにその光景を見つめて

「何百年経っても「ココ」は変わらないわね。……魔女にとっての古巣、そして忌まわしい土地」
「グルル………」
「……そうね。感傷に浸ってる場合じゃないわね。そろそろ向かうか」

炎のブレスで焼かれた市街地を尻目に、ドラゴンは目的地へ向けて飛びだった。

 

「さっき魔女は6人召喚されたってとこまでは話したわよね。で、各地に現れた魔女は
担当区があって、その区で一番魔力が集まるポイントを探し出し、来るべき隕石撃退に備える
ってわけ。おわかり?」
「なるほど……じゃあシーンはどこなの?」
「私?決まってるじゃない〜〜。カメアリ担当よ♪うふっ」

潤んだ瞳で亀有の胸やお腹をツンツン突くシーンの手を払いのけ

「違うだろ!!場所は何処だって聞いてんの!!」
「んもうマジメね〜〜。私は「極東、東南アジア」担当よ」
「あ!シーンちゃん、着いたよ」

フライヤーが指差した場所。それは正に有りえない光景だった。
何も無い空間、所謂空中に「島」が浮かんでて、噴水や花が咲き乱れ、
その中央に丸いテーブルを囲むように6脚の椅子が置いてあった。
言うなれば「空中庭園」と言った所か。
二人はゆっくりと着地して

「もう何でもアリだな……というかすごい」
「わーーい、一番乗りぃ!!」

フライヤーが飛びつくように椅子に座り、シーンもその隣に座ろうとしたが

「皆が集まるまで暇ね……そうだ!!」
「ん?どうした?……えっとシーン、何そのにぎにぎした手つきは!!ちょっと!!
眼が不気味に光ってるんですけど!!じりじり近づくな!!……こうなったら!!」
「あ?!逃げた!!フライヤー、追うわよ!!」
「がってんだ〜〜」




10分後

「イヤッ!!……や、やめて……おかーーさーーん!!」
「へっへっへっ。呼べど叫べど助けなんかこないわーー!!わっはっはっ」
「シーンちゃんえろえろ―――!!」

そんなに広くない庭園では、どう足掻いても逃げても無駄で結局捕まり
野卑な声をあげながらシーンは亀有の服を剥がしに掛かっていた。
抵抗空しく亀有は服をひん剥かれ、パンツ一丁で最後の抵抗をしていた。が、
いよいよという時に急に辺りが真っ暗になり

「……ちっ、あと一歩という所だったのに」
「へっ?」

シーンが見上げた先、そこにはよく映画や漫画で言うところの「ドラゴン」が
ゆっくりと降下してきて、適度な空き地に降り立った。
それを見ていたフライヤーが駆けつけてきて

「ね、ね、シーンちゃん。カメアリ見つかると面倒じゃない?「ニンゲン」の使い魔が何で
「お茶会」に参加してんだ――!!って言われるかも」
「あ、そうかも。カメアリ、コッチに来て」
「あ、ああ」

シーンがカメアリの手を引っ張って連れ込んだ先、そこはちょっと奥にある林だった。

「この姿のままじゃ多分八つ裂きにされるだろうから、暫く「コッチ」に入ってて」

そう言ってシーンが取り出したのは、コアラのぬいぐるみだ。

「え、ちょっとこれに入ってろって……どういうこと?」
「こういうことよ。えいっ!」

亀有の胸に手を当てたシーンはそのまま胸の中へ手を入れ、何やらもぞもぞしたかと思ったら、
何かを掴みそれをぬいぐるみに入れた。

「どお?感じは」
「うっ……うっ……俺って泥人形になったりぬいぐるみになったり……」

手の平サイズに戻った泥人形を片付け、ぬいぐるみを手にとったシーンは

「「お茶会」が終わるまで、ちょっとだけ我慢してね」




コアラのヌイグルミを抱えて急いでテーブルに戻ってみると、ドラゴンに乗っていたと思われる魔女が
2人テーブルに近づいてきた。

「……………………着いた」
「さすがにドラゴンのスピードでも結構遠かったわね」

もうドラゴンぐらいじゃ驚かないが……また凄い組み合わせの魔女が来たもんだ。
一人は、所謂ゴスロリファッションに傘を持った魔女に
もう一人は甲冑を着た……騎士?いやたぶん魔女だろう。
ドラゴンをあやしている所を見ると、ドラゴンの使い手なんだろうか?

「先客がいたか……これであと2人、か」
「……………………来た」
「シ―――――――――――ン!!!!てめえ!!!殺す!!!」

下品な言葉と共に何かが飛んできたが……

「あ、あれ、と、止まらない!!きゃ――――!!」

哀れ、飛んできた「ヒト」は庭園の奥の林に突っ込んでいった。
と同時に地平線の彼方からゆっくりと何か大きい物体が飛んできた

「キャ―――!!カメアリ、何よあれ!!」
「へ?何って……ああ、あれは飛行船だよ」
「ヒコウセン?それって何よ!!ニンゲンの兵器?だったらぶっ壊してやる!!」
「ちょっと待て、あれはただの乗り物!!別に何もしないよ」
「……そうなの?」

そう、よく広告を船体に貼り付けて空をゆっくり飛んでいるあの飛行船だ。
その飛行船が庭園の上に止まると、ステップから誰かが降りてきた。

「うん、この乗り物は気に入った。コトが終わったら魔女界に持って帰ろう」
「承知致しました。お嬢様」
「ヤッホ―――!!シーンちゃん元気してる?」
「ゲ、カットお姉ちゃん?!何で!!」

2006/12/10 To be continued.....

 

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