所変わって図書館。俺は椅子に座って待っていた。歩は待っていろといったまま、
どこかに消えてしまった。
「お礼………か…」
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『お礼……これしかなかった。』
制服を脱ぎ始める歩。
『ぉ、おい!なにをして…!』
『私を…もらって。』
『ごくり。』
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「ゲヒャッファー!そんなことになんねーかなぁ!!」
おれ様妄想劇場が終わった頃、歩が奥からやってきた。俺は顔を180度変え、超真面目モード(ふり)に
突入した。
『おまたせ。』
『いや、全然まってないよ。歩ちゃんがお礼をくれるんだからね。』
『うん、お礼。』
余談だが、真剣な顔しながら、紙に言葉を書いて会話するのはかなり滑稽に見えるだろう。
『これ。』
「ん?」
机の上に置かれたのは、皿に盛られたクッキーだった。
『これは?』
『今日、家庭科の時間が調理実習だった。それでクッキー作ったから、食べて欲しい。』
『おぉ!サンキュー!』
見た感じメチャメチャうまそうだ。黒いからチョコクッキーかな?ふふん、料理に関しちゃ、
ちとうるさいですぞ。
「いただきます。」
適当に一つ掴み………パクリ。
もぐもぐもぐもぐ…
『どう?おいしい?』
もぐもぐ……
「……」
もぐも………
「ぶっはぁ!!!」
そして逆噴射!机の上にクッキーの残骸をぶちまけてしまった。こ、これは……ショッパイ、
いや、そんなもんじゃない塩辛い。
簡潔にいえば、クソ不味い。
『どうした?吐き出すほどにおいしかった?』
アラヤダ、彼女ったら。本気の目でそう聞いてきましたわよ。まさか……これをおいしいと
おもっているのか?……どう返事しよう…
俺は口の中の燃え上がるほどのヒート!を押さえながら、脳内フル動員して三つの選択肢を
見つけ出した。
A、『あは、及第点のそのまた及第点だね。』
B、『うん…超個性的な味だよ。』
C、机に突っ伏し、気絶する。
おい!どれも遠回しに不味いと言ってるだけじゃないか!だ、だめだ。
彼女の期待と不安のまなざしに、正直に答えることができない。
『ひ、一つ、聞きたいことがある。これ、砂糖はどのくらい入れた?』
『入れてない。』
うは、直球で返事されちゃったよ。
『つまり、砂糖と塩を間違えた、と?』
コクンと頷く。うん、そんなのは食べた瞬間わかったよ。でもこれは……間違えたとかいう次元じゃ
ないような気がする。
『……塩、どのくらい入れた?』
俺は核心について、恐る恐る聞いてみた。
『……本に書いてあった数量分入れようと……したら…』
『したら?』
『手が滑って容器の中身全部ぶちまけた。』
バタン
俺はそれを聞いた瞬間、本当に気絶した。嗚呼、ごめんよ、俺の体。お願いだから、
高血圧にはならないでたもー。
そんなことを考えたまま、俺の意識は闇へと消えていった。
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……ンカーンコーン…
「ん、るふぁ……」
どこかでチャイムが鳴ってる……ん?どこ?ああ、ここは学校じゃん……授業始まっちゃうかな?
起きないと……
ムニ
「うぅ?」
起きようと床に手をやろうとしたら、なにか柔らかいものを掴んでしまった。それと同時に、頭がかってにゆさゆさと動く。
「を、を?」
何事かと思い、ゆっくり目を開けてみると……
「………」
目の前に歩の、相変わらずの無表情があった。
そしてこの状況……こ、これわぁ!
「ゆ、め、の、膝枕ー!」
俺の頭は歩の膝の上に乗っていた。おふぅ…こいつぁおいしいぜ…
『おはよう。』
『おっはー。』
が、よく考えるとメチャメチャ恥ずかしい。誤魔化すために、ペーパートークを開始する。
『えー……今のチャイム、授業開始?』
『いいえ、終わり。もう今は放課後。』
「へ?」
視線を動かし、時計を見てみる。なるほど、俺はそんなに気絶していたのか。
『ごめんなさい。』
『ん?なにが?』
『変なクッキー食べさせて……こんなふうにしてしまって。』
その時、彼女は初めて人間らしい……申し訳なさそうな表情を見せた。
『料理は初めてか?』
コクン
『そうか……んー、俺もな、いきなりムエタイボクシングをの試合に出ろ、なんて言われたら、
一ラウンド三秒でKOされちゃうんだ。』
『?』
『まぁ、何が言いたいかというとな、初めてなんだから仕方ないさ。』
俺はちょっと名残惜しいな、と思いながらも、膝から頭を離し、立ち上がる。
それに合わせ、彼女も立ち上がり、互いに向きあう。
『まぁ、その点、料理は俺のベストフィールドだからな、今度時間のある時にでも教えてやるさ。』
『ありがとう。』
相変わらず、味の無い書き方だったが、顔からは嬉しさが染み出していた、
声を出すことを知らないから、きっと感情の表し方も知らないんだろうな。
『おっし!そんじゃ今日は気分転換だ!街に遊びへ繰り出すぞ!』
コクン
嫌がるかと思ったが、彼女は頷き、素直についてきてくれた。
ガラララ…
ダッダッダッダッダッ!
「コナミンキィック!!」
ドコォ!
「フグオォ!!」
突然、電波ゆんゆんヴォイスと共に、小型人型ミサイルが飛んで来た………小波だった。
「ふふーん、転校生君?初日にサボりとは、やってくれるねー。」
「それには……深い訳が……」
「訳がもワキガもないよ!さぼったのは事実!罰としてぇ、私と街で遊びに行くぜよ!」
クイ
歩はそれを無視するかのように俺の体を起こし、腕を引いていく。
「そうねー、最初はショッピングでー、適当に街をぶらぶらしたらレストランで食事………
ってゴラァ!まてや!そこの無口女!!」
『な、なんか小波のやつ、性格違わないか?』
『あいつが腹黒いのは有名。有名すぎて腹黒いとも言えない。』
ああ、もう素となっちゃってるわけね。
『でも、馬鹿だからまわりからは人気ある。』
『わかるきがする。』
「ちょっ!馬鹿ってなによ!これでもロリータ小波、懸命に生きてるんですよ!?」
「あー、はいはい、俺も歩と街へ遊びに行くところだったんだ。一緒にいくか?」
「わーい!行く行く!!」
やっぱり馬鹿か。いや、単純だ。
「でもその無口女がいるのがムカムカしますねぇ。なんだか生まれて始めての感情が
胸に渦巻いてるよ。」
「良かったじゃないか!新たな感情の発見は、未来への足掛かりとなる!!
やりましたな、小波博士!」
「うむ(^ω^)」
『俊太、行くよ。そんな腹黒、放っておいて。』
グイグイ
おやおや、こちらも新たな感情の表れですか。いやっはっはっ、良きことかな。
「いつか刺されてもしらないぞっ、と。」
「通り過ぎ際に変なこと言わないでよ!?礼奈センセェ〜〜〜。」
以後、夜道は後ろに気をつけるとしよう。
注)人が多いので、略名が入ります。
エリナ「……で?なんでここにいるんだ?…5」
俊太「良く考えたらさ、この街、娯楽施設が少ないわけよ。……6」
小波「そうそう、エリナッチさぁ、職権乱用してなんか作っちゃってよ。………7」
歩『………8』
エ「無理よ……それに、だからって交番に来ないでよ。私だって暇じゃないんだから………9」
俊「えー、どう見たって暇じゃん。メチャメチャ平和だし。………10」
小「だよねー。この町で犯罪が起きたなんて、聞いたことないよ。………11」
歩『……12』
エ「犯罪は無くても、書類を書いたりしなくちゃいけないのよ。………13」
俊「その書類に涎垂らして爆睡してたのは誰だよ。…1」
小「ホント、だから平和なこの町に左遷させられたんだよねー。……2」
歩『…3』
エ「お、大人を馬鹿にしたなぁ!みんな逮捕するぞ!……4」
俊「ちょ!それこそ職権乱用じゃねーか!……5」
小「刑務所で臭い飯食わされるのって本当なの?…6」
歩『……7』
エ「ふぅ……いえ、あれは間違いよ。下手すれば、刑務所にいた方が
ちゃんとした暮らしできるわよ……8」
俊「ふーんさっすが、だてに警官やってないね……9」
小「あー……刑務所はいろっかな。エリナッチ、逮捕してくり……10」
歩『……11』
エ「馬鹿ねぇ、自由のすべてが奪われるのよ。……12」
俊「そんなんやだなぁ。まぁ、小波なら大丈夫だ。どの刑務所も受け入れ拒否してくれるさ。……13」
小「そうだよねー。私みたいな健気な少女をそんな目に合わせたくないんだよねー。……1」
歩『馬鹿は受け入れ拒否ってこと……2』
小『てんめー!!どうしても私を馬鹿扱いしたいのかー!!』
エ「小波が馬鹿だってのは町の掟みたいなもんだからねー…………3」
俊「あ、ダウト!」
エ「俊太!貴様!見ているな!!」
俊「だぁ!!!警棒振り回すな!!トランプで本気だすなぁ!!」
そんな平和なあふたぬーん。 |