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ハーレム!裏の顔は修羅場!



1

「急げ急げ!!乗り遅れっぞ!茜!!」
「はぁ、はぁ、ま、まってよぉ………シュンちゃぁーん……」
「ああん、んな甘い声出されたら脱力しちゃう。」
「ば、バカッ!シュンちゃんのバカッ!」
そんな気持ち悪いやり取り(自分でいってちゃお終いだね)をしながら全力で走る俺、
倉橋俊太、独身…………17歳。
その後ろを追尾ミサイルのようについて来るのが幼馴染みの美原茜。……そうっ!幼馴染みなのだ。
はい、今うらやまいしなぁなんて思ったあなた。現実はそううまくいきません。
毎朝起こしに来てくれて、美味しいご飯作ってくれて、かいがいしく世話してくれて……
なんてのは……夢なんだぁ!!!!
みんな逆!朝の弱い茜のために俺が起こして、
料理の下手な茜のために飯を作ってやって………うぅ……
そんな茜が今日、映画を見に行こうと隣り町まで電車で来たのだが、帰り道、
茜のやつが寄り道しながら帰ろうといったとたん、道に迷う。
天性的方向音痴の茜に先導させた俺が馬鹿だったのだが。
気付けばもう二つ先の町に。駅に着いたら終電ギリギリ………そんな今の状況。

プルルルルル…………
「やばっ!しまる!はやくいくぞ!!」
「う、うん!」
発車ベルがなり、ドアが閉まる寸前で車内に滑り込む。足が挟まれるのにギリギリだった。
よく思うのだが、どうしてこういう時開けてくれないのだろう。
も、もしかして………Sなのか!!
「はぁ〜、危なかったね、シュンちゃん。」
「いや、俺も実はSなんだ。」
「?」
「あっ、いやぁ、なんでもないさぁー。それより、疲れたから座ろうぜい。」
ドカッと座席に腰を下ろす。もう終電だったためか、客は俺達以外にだれもいなかった。
だから俺は、今しかできないことをやる!
「……ねぇ、シュンちゃん。」
「ん!なんだ?」
「………なんで荷物を置く網のところで寝てるの?」
「これはな、昔やったゲームで終電にのったとき、ここで寝てる奴がいたんだ。
その感覚を自分でも味わいたくてネ。」
「…実際に自分でやってみてどう?」
「HAHAHA!金網が体に食い込んで痛いだけだね…………ごめ、降りるから手伝って。」
鞄を持ってもらい、もそもそと降りる。あー、馬鹿やってたら眠くなってきた。

「茜。駅に着くまで寝るから、近くなったら起こしてくれ。」
「うん。」
茜の返事を聞いた途端、急激な睡魔に襲われた。おかしい程の睡魔に……夜も遅いせいか?
さっき走ったからか?………いいや………寝よ……









「ん………」
不意に目が覚める。まだ茜が起こさなかったということは、まだ着いてないのか。
「おい、茜、まだ………」
周りを見て茜を探す。と………俺はそこに、絶望の果てを見つけた。
「うゅ………ん……くぅ……」
「AKANEが寝てルーーーー!!!!!??」
起こしてくれといったのに、返事してくれたのに、座席にうずくまるように爆睡していた。
そうだ……こいつは高校受験でも居眠りをこいた奴だった………(受かったのが奇跡だが)
「おい!茜!?起きろ!今どこだよ…」
「ん〜……えへへ……シュンちゃんが百人……シュンちゃんが百一人……ふふふ………」
「キャーーー!」
この様子だとだいぶ前からお眠りになっている様子。現在地を確認しようと、
窓を覗いてみたが、真っ暗で分からない。そんな時……

『次は、上坂町、上坂町。お降りのお客様は………』
それは女神の声か。女性のアナウンスが、降りるべき駅の名前を告げてくれた。
良かった、なんとか間に合った………
「おい!茜!着いたぞ。起きんしゃい。」
「あん……まだそういうのは……早いよぅ……でへへ……」
「くっ……」
こやつめ。俺が優しく起こしてやっとるというに、涎を垂らしながら幸せそうな顔をしてやがる。
こうなったら!秘技!!
「ぐへへへ……こっちの口も涎がタラタラだなぁ。」
セクシャルハラスメント!
「……んぅ…」
最終電車で爆睡中の女の子に言葉責め……ふと窓に写った自分の姿を見て、俺は車両のど真ん中で
まだ見ぬ親に土下座をした。生まれてきてメンゴ…
プシュー
そんな誰にも見られたくないイベント発生中、電車のドアが開いた。駅についてしまったのだ。
致し方ない。最後の手段だ。
「よっと…」
茜を腕の中に抱き抱える。強制移動させていただきます。しっかし……最近は茜を抱えたこと
なかったが、相変わらず軽いなぁ。
そのまま電車を出ると、駅には人っ子一人いなかった。

走り去る電車。車内の明かりは、夜の闇へと飲まれ、消えていく。
「はぁ〜〜〜〜〜〜………来世はもっとましな幼馴染みつかまえよ。」
腕の中の茜を見る。こっちの気も知らず、まるで俺の腕をハンモックのようにして寝ている。
ギュ……
居心地がいいのか、しっかりと服につかまり、気持ちよさげな顔をする。まったく……
こいつは無防備すぎるんだ。
別に恋人でもない俺をこんなに頼って。あーあ、こいつと付き合う奴は、災難だろうな。
面だけはいいからな。
「……こいつは迷惑料としていただいとこう。」
ボフ!
茜の胸にダイビング!ん〜無い乳!!ビバッ無い乳!俺はこの胸の将来性について、
二百文字でまとめられるように思考しながら、帰路についた。





翌朝。
「ふぁ…ぁ……」
さすがに昨日遅かったせいか、まだ眠気が取れない。二度寝をかましたかったが、俺の朝は忙しい。
まずは手早く着替え、顔を洗う。そして再び二階へ。
そして窓から身を乗りだし……
「とう!」
バン!
アクション俳優がごとく、隣りの茜家のベランダに跳び移る。

茜も俺も一人暮らしなため、俺が起こしてやらないと恐らく永遠の眠り姫となってしまうだろう。
残念かな、まだ合鍵をもらうほど好感度は高くないようだ。
……ベランダから侵入させる方がどうかと思うが。
ベランダの窓を開けると、もう茜の部屋。昨日あれから一度も起きてないのか、
服がそのままで寝ている。……俺が着替えさせるわけにはいかんですよ?
「おーらー!起きろ!!朝だっぞっ!!!」
ボン!!
毎朝恒例。ベットに向かってバックドロップをぶちかます。
「うくぅ……ふぁ……おはよ……シュンちゃん……」
これぐらいしないと起きないのだ。恐らく俺は、世界一のバックドロッパー(?)になっているだろう。
やっとこさ起きた茜を脇に担ぎ、部屋を出て階段を下りていき、リビングへ。
かって知ったるなんとやら。もう茜の家は、俺の家同然だった。
茜をテーブルに座らし、台所へ。ぱっぱと手際よく料理を作る。
「おーら、食らいやがれ家畜ども!俺様の手料理だ。よく味わって食いな!」
今日の朝食はトーストに豚肉のピカタ。料理の盛った皿を、茜の前に置いていく。

「んふ〜♪……ごはん♪ご飯♪シューンちゃんのご飯♪いっただっきまーす♪」
相変わらず美味しそうに、嬉しそうに食べていく。この笑顔を見ると、なんだか作った甲斐があり、
報われる。
……が、それとは別に、一つの不安も浮かび上がる。
その不安を、今日初めて口に出して伝えてみようと思う。
「おまえさぁ……」
「ん?」
箸を止めず、ばくつきながら顔を向ける。
「……将来、一人になっても大丈夫か?」
「……ふえ?」
急に箸を止め、質問の意味が分からないといったような視線を向けられる。
「俺だってさー、いつまでもこうやって面倒見られるってわけじゃないじゃん?
今のうちに料理とか覚えた方がいいんじゃね?」
「…う、ん……あはは、でも私、料理苦手で……」
……一度作らせた時の悪夢が蘇る。うん……封印。
「ははは、そっだったなー。んなら、バリバリのキャリアウーマンにでもなって、
家庭に優しい、主夫になる旦那でも探すこったな。」
「うん………ぱく……で、も……シュンちゃんの料理が、一番美味しいよ。
うん、毎日食べたくなるぐらい…ぱく…おいひい……」
あーあー、あんなに頬張っちゃって。みっともないですぞ。もっと女の子らしくしないと………
本当に将来が心配ですよ、ボカァ。

2

さて、ことの異変はすでに始まっていたのだ。そう、あの電車から降りた時から。
「ふぅ、やっと洗い物も終わったな。おい、茜。そろそろ学校いくぞ。」
「うん。」
鞄を持ち、二人で玄関を出た瞬間………
「………」
出勤中のOLに出くわした。うむ、だいぶレベルの高い女性だ。ここは一発……
「おはようございます、Mrs。今日も雲一つ無い、いーい天気だ。」
ふぁっさぁと前髪をかき上げながら、ウインクして見る。総命中率五パーセントの必殺技だ。
「…………」
が、彼女は無反応のまま、こちらをじーっと見ている。ガン見ってやつか。
……い、いやぁ、冗談なんだから、まじで見られても………
「き………」
なにか言いたげにぼそりと喋り出す。
「ん?木?」
「きゃあああぁ!!!!ば、化け物〜〜!!!」
いきなりそう叫び、走りさってしまった……
「ふう、おまたせ、シュンちゃん。」
ようやく靴を履き終え、表に出てきた茜。
「茜、手鏡持ってる?」
「え、うん。」
渡された鏡で、自分の顔を見てみる。………うん、いつもと変わらない、ハンサムが映っている。

「なぁ、茜。俺って、化け物みたいな醜悪面してるか。」
「え?ぅ、ううん、そんなことないと思うよ。………どっちかといえば…………
か、かっ、かっこ………」
「そうだよなぁ。いつもと変わらないよなぁ。」
茜の言葉を聞き、一安心。いざ登校開始と思い、茜に振り向くと……
「…………」
「あのー、茜サン?なんでそんなに頬を膨らませてらっしゃるのかな?」
「………知らないっ!」
ああ、出たっ!茜のお得意、知らないっ!攻撃。茜は俺を無視するように、スタスタと歩いて、
先に行ってしまった。ああなると機嫌直すのに面倒なんだよなぁ。
トボトボと一人、登校する。茜の機嫌をどう直そうかなぁと考えていると………
ヒソヒソ……
ヒソヒソ……
「ん?」
なにやら囁くような、ヒソヒソ話が聞こえる。なんだなんだ、カレーに混入する気か?
「なんだぁ?」
そう思って回りを見渡して見ると………
「っ!」
「ひ!」
「きゃあ!」
回り中女の子に見られていた。目が合う度、なんだか恐れられているように、
悲鳴のような声をあげる。
(おいおい……俺に見惚れられてもこまるぜぇ。)

そんな時……
「い、いました、お巡りさん!あそこ、あそこですっ!」
さっきのOLが、こっちを指差しながら叫び、誰かをよんできた。それは………
「まちなさいっ!そこの未確認生命体!!」
拳銃を構えながら走って来る婦警だった。
「ちょ、ま……!」
「問答無用!!」
その言葉どおり、何の言い訳もできずに取り押さえられ、地面に伏せられた。
「な、何しやがる!?さすがの俺も怒っちゃうぞ!?」
カチャ…
こめかみに当てられた銃口………
「ごめんなひゃい。」
こればかりは抵抗できなかった。婦警は荒っぽく俺の手を後ろに回し、手錠をかけた。
「え、いや、まじで?な、なに!!?新手のSMプレイ!?」
「話は交番で聞くっ!いいからとっととついてこい!?」
「ぐはぁ!ちょぉ、まっ!ひっぱんな……」
手錠に縄を付け、ズルズルと引っ張られていく。ああ、町内晒者の刑をうけるなんて………
く、くやしい!






交番
「で?」
「で?……っていわれても、ねぇ?」
こっちが聞きたいくらいですよ。いいや訴えたいくらいですな。

「とりあえず……何者か答えて。」
婦警は相変わらず厳しい視線を投げ掛け、そう聞いてきた。
「何者って……んー、人間?」
とりあえずボケてみる。
「はぁ?あなたみたいのが人間なわけないでしょ?」
「えっ?」
予想外の答えにびっくり。まさかボケ返されるとは……くっ、この婦警、タダものじゃねぇ!
「そんな低い声にガッチリした体型……どう見たって人間じゃないわ。」
「はぁ?そりゃそうだろ、男なんだから。」
誇らしい息子もついてますよ、ええ。
「男って…………なに?」
「はぁぁ!?男は男だよ!俺が男であんたが女!!」
「ええ、私たちは女よ………ここに住む者みんなは。」
「へ………」
その時、頭の中のコムピュウタがフル作動。あわてて交番のドアを開けて左右を見渡すと……
「えっ!?へっ!?」
右に女の子!!左にも女の子!!どっちを見ても女の子ぉ!!
「男がいねぇ〜〜〜〜!!!!!!」
………世界は女の子だけで満ち溢れていた。
同時に、俺の頭も夢と畏怖に満ち溢れた…………
「はいはい、叫んですっきりした?」

「次は泣きたい気分death……」
またぐいぐいと引っ張られて、イスに座らされる。
「ふーん………男、っていう生物なんだ。」
「同じ、人 間だ。とりあえずこの手錠をはずせやい!」
「いや、はずしたらいきなり暴れて………」
「…………」
「あば、れて………」
「………………」
「くぅっ、そんな子犬みたいな目で見つめるなぁっ!」
もうひと押し!
「…………………」
「わ、わかったから、はずすから!」
カチャ
「うわっはーい、ありがとさん……えーと……そういや、なんて名前だっけ?」
「え、ええっ?……えと、宮原エリナ…」
「ふーん、んじゃっ、あんがとさん、エリナちゃん!」
「だ、誰がエリナ『ちゃん』だっ!年上の人には……」
「ノンノン、そんなおかたいこと言わないで。」
そんなエリナちゃんをからかっていたその時……
「シュ、シュンちゃん!おかしいよっ!ここ、女の子しか……」
茜が物凄いパニック状態でやってきた。あー、そういや茜もこの世界に紛れ込んだことになるのか。
ま、当然の反応だろうな。

それから勝手に交番を出て(エリナちゃんは怒ってたが) 茜ととりあえず帰宅。
この世界には女の子しかいないと説明し、なんとか落ち着かせる。
「でもでもっ、昨日まで男の人もいたのに、なんで急に……」
「慌てるでない、茜!俺にはこの世界に来てしまった理由が、三つ、思い浮かんでおる。まず一つ!」
「う、うん。」
「俺達は同じ夢を見ている……」
「……有り得そうだけど、こんなリアルなのを夢と言えない気が……」
「二つ!」
茜の指摘は華麗にスルー。
「ここは元いた世界とは別の世界……いわゆる、パラレルワールドってやつだ。」
「…うん、私もそんな気がする。」
「三つ!……俺は、この可能性が一番正しいんじゃないかと思う!」
「な、なになに?」
茜が興味津津に聞いてる。
「それはな…」
「うん、うん……」
「…ここは俺の脳内世界だっていう可能性だ……」
「…………」
「……………………」
「……………………………」
バキッ!ドカッ!ズドッ!
バタン………

3

「ふぁ……あーあ、寝て起きたら夢だったなんてオチはなしかな………」
翌朝。
あれから茜と家に帰り、いったん休むことにした。茜が憔悴しきっていたからだ。
茜は家事ができないくせに(余計か)神経質なのだ。
そのため……
「おーい!アカネェェ!出てこないのかぁ!?…………はぁ、だめか。」
家に引き籠もってしまった。どうやらかなりのショックを受けてしまったらしい。
まぁ、無理もないか。俺みたいに楽天的に考えればいいんだけどな。
窓も鍵をしめているため、茜の家に入ることができない。自殺するようなほどのことは
ないだろうけど、心配だな……
「アカネェェ!俺、一応学校いってくるから、なんかあったらきてくれな!」
茜の家に向かってそう叫んでから、俺は学校に足を向けた。
茜の話だと、町の構造や学校の形などは全く同じらしい。
つまり、上坂町であって上坂町でない。……いったいどんな世界なんだろう。
パラレル?夢?……んー、難しいなぁ。
そんな考えごとをしているうちに、学校についてしまった。
…うん、同じ上坂校だ。一寸の狂いもないな。

校門に突っ立ているせいか、またもや注目の的になってしまっている。
それにしても………か、カワイコチャン(死語か)しかいないよなぁ。なんてレベルの高い。
そんな女子どもの群れを突っ切り、校内へ。うむ、中も何一つ変わらんな。とりあえず職員室へ。
なんだか転校してきましたって感じでドキドキだ。
ガラッ
思いっきりドアを開ける。すると……
「むっは〜〜〜!!」
大人の女、女、女!!綺麗なおねいさましかいないじゃないか。
ああ、やっぱりここは俺の脳内世界だという確率が高くなったかもしれない。
ヒソヒソ…
ヒソヒソ………
よほど幸せそうな顔をしていたのか、教師全員、白い目で俺を見ながら囁き合っている。
うぁー、なんだか疎外感。するとそこに……
「ああー!お、おま、おまえ、倉橋じゃないか!!」
聞き覚えのある声が、右側から飛び込んで来た。
「ほへ?」
まさか名前を呼ばれるとは思ってもおらず、変な声をあげてしまう。声のした方を向いてみると、
一人の白衣を来た女性がツカツカと歩み寄って来た。そいつは……
「あっ!てめぇ、誰かと思ったら、酒乱教師じゃねえか!」

「誰が酒乱教師だ!天才教師とおよびなさい。」
(自称)天才教師こと、松村礼奈。
化学の先生だが、授業以外はほとんど準備室から出てこないアホ教師だ。
ちなみに酒乱教師というのは、いつも酒臭いからである。
「ってーこたぁ、なにか?あんたもこっちに『飛ばされた側の』人間か?」
「相変わらず口の悪い餓鬼め……まあいいか、誰も知らない人しかいない世界よりはましか。
ああ、一昨日夜遅くに帰って起きたらこれだ。」
「一昨日夜遅くにって……どうせまた居酒屋を飲み歩いてたんだろ。」
「う、うるさいっ!自分の給料をどう使おうとかってだろう!?」
否定しない辺り、悲しいねぇ。
「ゴホン、と、とにかくだ、私は元の世界への帰り道を探す。
お前は……とりあえず学校に登校してろ。なにかあったら伝えたいからな。」
「登校つっても……クラスは?」
「ああ、それなら心配ない。どうやらこの世界では、私は二年二組の担任らしいからな。そこに来い。
私が話をつけといてやる。」
「ふぅん、わかった。」
「では先に教室に行っててくれ。私は校長に話をしてくるからな。」

そう言うと、くるりと背を向け、颯爽と去って行く。嗚呼……眩しい!眩しすぎるぜ!!礼奈センセ!
今この瞬間だけ尊敬するよ!
「はい、尊敬タイム終了。一瞬だけだからね。」
もう礼奈センセの評価は酒乱教師に。さぁて、教室に行こっと。





グルッと遠回りをして教室に向かうが、誰一人としてすれ違わない。
たぶん、さっきなったチャイムが朝のHRの開始だったんだろう。
俺もそろそろ教室に向かうかなぁ……
ガタァン!!ドサドサドサ!!
「な、なんだぁ!?」
急に何かが倒れるような、大きな音がした。この目の前の教室……これは図書館だ。
音はここから聞こえたと思う。
そーっと中の様子を覗いて見る。
まさかとは思うが、ドロボウが入ったなんてこともあるかもしれない。
「……誰かいるんですかー?」
……………返事なし。慎重にゆっくりと中に入る。そういえば図書館なんて初めてかもしれない。
ドキドキ初体験だ。
古い紙のような匂いが部屋中に充満している。だが嫌な匂いではない。
なんとなく落ち着くような、そんな匂いだ。

中は思ってた以上に広く、普通の教室三部屋分はあるだろうか。
高い本棚がずらりとならんでいるせいか、だいぶ薄暗い。
そして一番奥まで来てみると……
「うお!?」
なんと本棚が二つほど倒れ、大量の本が山積みになっていたのだ。
他の本棚と比べて低い物だったため、それほど大事にはなっていないようだが……
「一体なんでこんな………あっ!」
本日二度目の驚き!なんと本と本棚の山の下から、手が出ていたのだ。
どうやら下敷きになってしまったらしい。急いで上に乗っかっている物をどかす。
二次災害が起こらないように慎重に慎重に……すると、山の下からは小柄な可愛らしい少女が
姿を見せた。
恐らく高い所の本を取ろうとして、失敗したのだろう。明らかに本棚の方が彼女よりも高い。
「お、おい………大丈夫か?」
体を起こして、ほっぺたを軽くペチペチと叩く。
「………」
彼女は少し体を揺らすと、ゆっくりと目を開けた。
「……………」
驚いているのか、状況を把握できないのか、無表情のまま俺の目をじーっと見つめる。……見つめる。
見つめる!

「えぇっと……だ、大丈夫かぁ?」
なんだか恥ずかしくて、場を誤魔化すようにもう一度聞いてみる。すると彼女は。
コクン
「………」
黙ったまま頷いた。あちゃー、やっぱり俺って未知生物だから恐れられちゃってるのかなぁ。
「あー、いや、別に俺、君を取って食ったりなんてしないよ。オレサマオマエ、マルカジリ、
なんてことは……」
スタスタ
「あ、あらら?」
喋ってる途中に彼女は、また無表情のまま歩き、机の上でなにか書き始めた。
ピラ…
そして手渡された紙に書かれていたのは…
『ごめんなさい、私、耳がきこえないの。』
「はいはい、そういうことね……」
そしてまた彼女はなにか書き始め……
『あなたは「男」という人。昨日から噂になってる。』
なんだか事務的な書き方で暖かみが無いなぁ。そう思いながら、自分も紙に書く。
『ああ、そうだよ。「男」の倉橋俊太。よろしくな。』
『私の名前は三井歩。』
よろしく、とは言ってくれないようだ。やっぱりUMAみたいに非人間みたいに見られてるんかなぁ。
そんな彼女の顔は、相変わらず仮面をつけたように無表情だった。

4

「遅い!倉橋俊太!」
「フルネームで呼ばないでくれよ。恥ずかしいじゃないか。」
教室の前につくと、いきらに礼奈センセに怒鳴られた。図書館で時間とられちゃったんだから
仕方ないじゃないか。
「…はぁ、まあいい。一時間目はちょうど私の授業だからな。自己紹介だけでも済ましておけ。」
そう言いながら教室に入っていく礼奈センセの後ろをついていく。あー、ドキドキするなぁ。
こんなに緊張するの何年ぶりだろ。ただ教室に入るってだけなのに。
ガラッ
ジロジロ……
「ぅぅ……」
予想どうりといった感じか。何十個もの瞳が、一斉に突き刺さる。嗚呼、胃に穴が開きそうだ。
「えー…さっき話したからわかるだろうが、今日からしばらくこのクラスで
一緒にやっていく転校生だ。……ま、見た目どうり変な奴だが、危害を加えるような奴じゃない。
相手してやってくれ。」
……あんたの言う『変な』と、みんなの『変な』は違う気がするが……
「ほら、自己紹介。」
「え?お、おう。」
礼奈センセに促され、教壇の上にのぼり、一言。
「今日から一緒になる、倉橋俊太です。」

まずは掴みから。無難挨拶をするが、みんなの表情は変わらない。俺を探るような目をしている。
「趣味はエロ本探索、及び鑑賞。あ、そこはあくまでも鑑賞なので実用化はしません。」
いきなりセクハラ。これでだいぶ空気が変わるはず!
「あの〜、エロ本って……なんですか?」
「な、にぃ!?」
エロ本を知らぬだと!?あの妄想を具現化してくれる逸品を知らないだとぉ!!
「ぐっ、な、なぜだ…」
「ふふ、つめが甘いようだな、倉橋。」
「礼奈センセ…」
「この世界は女性のみ……すなわち!男性向け色本など、存在しないのだよ!!」
「なぁっ!!?」
……なんだと…つまり、今家にある本以外、補給することができないだと!
「ど、どうすればいいんだ、隊長!!補給線を絶たれ……どうやって生きていけば…」
「答えは一つ……」
「そ、それは………」
「オ・ナ・禁!」
「………センセ。」
「…………なんだ?」
「乗ってくれたのは感謝するが、さすがに女性がオナ禁とのたまうのは………」
「……う、うるさいっ!さっさと席に着け!窓際の一番後ろだ!」

「へいへ〜い。」
追いやられるように席に向かう。…ここが俺の席。日当たり良好、風通しよし……これは……
「居眠りにうってつけじゃないか!」
昨日はあんまり寝れなかったからな。ここらで爆睡して体力回復といこうか。
イスを引き、座ろうとしたそのとき……
スカッ
「ウェッ!?」
バターン!
なんとも情けない格好で、思いっきり尻を床に打ち付けてしまった。なにが起こったのかわからず、
辺りを見回してみると、みんな笑いを堪えるように体を震わしていた。
「ぐふっ……だ、誰だ……こんな今時の小学生もやらないような古いトラップを仕掛けたのは…」
「あっははは!おもしろーい。君、単純だねぇ。」
「なんだ!……と…ぉ…」
真後ろから声がして、振り向いてみた。単純と言われ、ちょっとカチンときてしまったのだが、
声を出した張本人を見た途端、言葉を失ってしまった。
なぜなら……
「ちっこいなぁ……」
本当に小学生ぐらいの少女(幼女)が、気持ちいいぐらいの笑顔で立っていたのだ。
「むぅ、小さいって言った!これでも君と同い年なんだよ!」

怒っているのか、頬を膨らましてそっぽをむいてしまった。うむ、こいつは他の奴等とちがって
絡みやすいかもしれない。
「いや、失礼。いくら小さくても、レディにあることは変わりない。これはそのお詫びだ。」
彼女の手を取り、手のくぼみにキス………をすると見せかけて、飴玉を握らせる。
「あ!な、なによー!結局子供扱いじゃないよ!」
「ハン!エロ本の『エ』の字も知らない初っ子が、俺さまのキスを頂けるなど、片腹痛い!」
「モゴ……にゃに…モゴ……をー!」
「口いっぱいに飴玉転がしても、説得力無いわい!」
ツン、ツン
ほっぺたの飴玉をつついてみる。あの小さな飴玉でこんなに口が膨れてんだから、
本当に小さいんだな、こいつ。
「……この世界には、ロリやペドといった概念も消えるのかな…………ビバ!
姓、犯、ざぁびりゃほっ!」
「……授業中に物騒なことをさけぶんじゃない…」
礼奈センセ……教卓のイスを投げないでください。わちきの美顔が傷物になってしまいまする。
ムク
「うわ、もう復活した。」
「まぁいい、お前とはうまくやっていけそうだ。」

 

「小波。」
「ん?」
「名前だよー。佐伯小波。それが私の名前。」
「おお、そうか、よろしくな、パワプ○君。」
「倉橋、それはコナ○だ。」
「バーロォ、か?」
「それは○ナン……ええい、さっさと授業を始めるぞ!」
そんな礼奈センセが切れ気味の状態で授業は始まった。








キーンコーン……
「あっ!」
という間にお昼休み。寝てたから本当にあっという間だ。一応弁当は作ってきたからな、
さっそく食べようかね。
「俊太くん、一緒に食べよ!」
弁当を机の上に用意していると、小波が机をガッと合わせてきた。
本当に小学生だな。そんなとき………
ガララ!
勢いよく開かれた教室のドアになんとなく目を向けてみると。
「おろ?」
歩が立っていた。キョロキョロと教室中を見回している。友達でも探しているのだろうか。すると……
「………!」
「んぉ?」
スタスタ……
歩と目が合った途端、こっちに向かい、目の前に立った。
カキカキ
『どうした?歩?』
『今日の朝のお礼に来た』
『お礼って…別に…』
「ねえねえ、なにやってるの?」

「あ、すまん、ちょっと。」
『早く、図書館来て。』
その紙を見せられ、クイクイと袖を引っ張られる。その力についていきそうにフラフラと歩くが……
「ちょ、ちょっと!俊太くん!歩と一緒にお昼食べるんでしょ?」
いや、ちゃんと約束したわけでもなしに。
「……………」
「…な、なによ。」
カキカキ
『あっちいって、貧乳』
「んな!ひ、貧乳………ひ、人が一番気にしてることを……あなただって変わらないくせに!」
「…………」
クイクイ
「こ、こらぁっ!無視して俊太くんを連れていくなぁ!」
「こ、こらこら、ケンカするでない。」
目の前で睨み合い、牙を剥き合う(主に小波が)ロリペド二人。
「と、とりあえず、今日は図書館に行くから、な?また明日もあるんだ。」
「うーぅー……」
まったく、俺は新しいおもちゃじゃないんだから。そんなことで拗ねるんじゃないっつの。
しょうがない。今日の昼飯はお預けになるかもしれんが、お礼をしたいと言うんだ。
しっかり受けてやるのがこっちの礼ってもんだな。
俺は歩に引っ張られるように、教室を出ていった。

5

所変わって図書館。俺は椅子に座って待っていた。歩は待っていろといったまま、
どこかに消えてしまった。
「お礼………か…」





『お礼……これしかなかった。』
制服を脱ぎ始める歩。
『ぉ、おい!なにをして…!』
『私を…もらって。』
『ごくり。』





「ゲヒャッファー!そんなことになんねーかなぁ!!」
おれ様妄想劇場が終わった頃、歩が奥からやってきた。俺は顔を180度変え、超真面目モード(ふり)に
突入した。
『おまたせ。』
『いや、全然まってないよ。歩ちゃんがお礼をくれるんだからね。』
『うん、お礼。』
余談だが、真剣な顔しながら、紙に言葉を書いて会話するのはかなり滑稽に見えるだろう。
『これ。』
「ん?」
机の上に置かれたのは、皿に盛られたクッキーだった。
『これは?』
『今日、家庭科の時間が調理実習だった。それでクッキー作ったから、食べて欲しい。』
『おぉ!サンキュー!』
見た感じメチャメチャうまそうだ。黒いからチョコクッキーかな?ふふん、料理に関しちゃ、
ちとうるさいですぞ。

「いただきます。」
適当に一つ掴み………パクリ。
もぐもぐもぐもぐ…
『どう?おいしい?』
もぐもぐ……
「……」
もぐも………
「ぶっはぁ!!!」
そして逆噴射!机の上にクッキーの残骸をぶちまけてしまった。こ、これは……ショッパイ、
いや、そんなもんじゃない塩辛い。
簡潔にいえば、クソ不味い。
『どうした?吐き出すほどにおいしかった?』
アラヤダ、彼女ったら。本気の目でそう聞いてきましたわよ。まさか……これをおいしいと
おもっているのか?……どう返事しよう…
俺は口の中の燃え上がるほどのヒート!を押さえながら、脳内フル動員して三つの選択肢を
見つけ出した。
A、『あは、及第点のそのまた及第点だね。』
B、『うん…超個性的な味だよ。』
C、机に突っ伏し、気絶する。
おい!どれも遠回しに不味いと言ってるだけじゃないか!だ、だめだ。
彼女の期待と不安のまなざしに、正直に答えることができない。
『ひ、一つ、聞きたいことがある。これ、砂糖はどのくらい入れた?』
『入れてない。』
うは、直球で返事されちゃったよ。

『つまり、砂糖と塩を間違えた、と?』
コクンと頷く。うん、そんなのは食べた瞬間わかったよ。でもこれは……間違えたとかいう次元じゃ
ないような気がする。
『……塩、どのくらい入れた?』
俺は核心について、恐る恐る聞いてみた。
『……本に書いてあった数量分入れようと……したら…』
『したら?』
『手が滑って容器の中身全部ぶちまけた。』
バタン
俺はそれを聞いた瞬間、本当に気絶した。嗚呼、ごめんよ、俺の体。お願いだから、
高血圧にはならないでたもー。
そんなことを考えたまま、俺の意識は闇へと消えていった。






……ンカーンコーン…
「ん、るふぁ……」
どこかでチャイムが鳴ってる……ん?どこ?ああ、ここは学校じゃん……授業始まっちゃうかな?
起きないと……
ムニ
「うぅ?」
起きようと床に手をやろうとしたら、なにか柔らかいものを掴んでしまった。それと同時に、頭がかってにゆさゆさと動く。
「を、を?」
何事かと思い、ゆっくり目を開けてみると……
「………」
目の前に歩の、相変わらずの無表情があった。

そしてこの状況……こ、これわぁ!
「ゆ、め、の、膝枕ー!」
俺の頭は歩の膝の上に乗っていた。おふぅ…こいつぁおいしいぜ…
『おはよう。』
『おっはー。』
が、よく考えるとメチャメチャ恥ずかしい。誤魔化すために、ペーパートークを開始する。
『えー……今のチャイム、授業開始?』
『いいえ、終わり。もう今は放課後。』
「へ?」
視線を動かし、時計を見てみる。なるほど、俺はそんなに気絶していたのか。
『ごめんなさい。』
『ん?なにが?』
『変なクッキー食べさせて……こんなふうにしてしまって。』
その時、彼女は初めて人間らしい……申し訳なさそうな表情を見せた。
『料理は初めてか?』
コクン
『そうか……んー、俺もな、いきなりムエタイボクシングをの試合に出ろ、なんて言われたら、
一ラウンド三秒でKOされちゃうんだ。』
『?』
『まぁ、何が言いたいかというとな、初めてなんだから仕方ないさ。』
俺はちょっと名残惜しいな、と思いながらも、膝から頭を離し、立ち上がる。
それに合わせ、彼女も立ち上がり、互いに向きあう。

 

『まぁ、その点、料理は俺のベストフィールドだからな、今度時間のある時にでも教えてやるさ。』
『ありがとう。』
相変わらず、味の無い書き方だったが、顔からは嬉しさが染み出していた、
声を出すことを知らないから、きっと感情の表し方も知らないんだろうな。
『おっし!そんじゃ今日は気分転換だ!街に遊びへ繰り出すぞ!』
コクン
嫌がるかと思ったが、彼女は頷き、素直についてきてくれた。
ガラララ…
ダッダッダッダッダッ!
「コナミンキィック!!」
ドコォ!
「フグオォ!!」
突然、電波ゆんゆんヴォイスと共に、小型人型ミサイルが飛んで来た………小波だった。
「ふふーん、転校生君?初日にサボりとは、やってくれるねー。」
「それには……深い訳が……」
「訳がもワキガもないよ!さぼったのは事実!罰としてぇ、私と街で遊びに行くぜよ!」
クイ
歩はそれを無視するかのように俺の体を起こし、腕を引いていく。
「そうねー、最初はショッピングでー、適当に街をぶらぶらしたらレストランで食事………
ってゴラァ!まてや!そこの無口女!!」

『な、なんか小波のやつ、性格違わないか?』
『あいつが腹黒いのは有名。有名すぎて腹黒いとも言えない。』
ああ、もう素となっちゃってるわけね。
『でも、馬鹿だからまわりからは人気ある。』
『わかるきがする。』
「ちょっ!馬鹿ってなによ!これでもロリータ小波、懸命に生きてるんですよ!?」
「あー、はいはい、俺も歩と街へ遊びに行くところだったんだ。一緒にいくか?」
「わーい!行く行く!!」
やっぱり馬鹿か。いや、単純だ。
「でもその無口女がいるのがムカムカしますねぇ。なんだか生まれて始めての感情が
胸に渦巻いてるよ。」
「良かったじゃないか!新たな感情の発見は、未来への足掛かりとなる!!
やりましたな、小波博士!」
「うむ(^ω^)」
『俊太、行くよ。そんな腹黒、放っておいて。』
グイグイ
おやおや、こちらも新たな感情の表れですか。いやっはっはっ、良きことかな。
「いつか刺されてもしらないぞっ、と。」
「通り過ぎ際に変なこと言わないでよ!?礼奈センセェ〜〜〜。」
以後、夜道は後ろに気をつけるとしよう。

 

注)人が多いので、略名が入ります。

 

             
              
エリナ「……で?なんでここにいるんだ?…5」
俊太「良く考えたらさ、この街、娯楽施設が少ないわけよ。……6」
小波「そうそう、エリナッチさぁ、職権乱用してなんか作っちゃってよ。………7」
歩『………8』
エ「無理よ……それに、だからって交番に来ないでよ。私だって暇じゃないんだから………9」
俊「えー、どう見たって暇じゃん。メチャメチャ平和だし。………10」
小「だよねー。この町で犯罪が起きたなんて、聞いたことないよ。………11」
歩『……12』
エ「犯罪は無くても、書類を書いたりしなくちゃいけないのよ。………13」
俊「その書類に涎垂らして爆睡してたのは誰だよ。…1」
小「ホント、だから平和なこの町に左遷させられたんだよねー。……2」
歩『…3』
エ「お、大人を馬鹿にしたなぁ!みんな逮捕するぞ!……4」
俊「ちょ!それこそ職権乱用じゃねーか!……5」
小「刑務所で臭い飯食わされるのって本当なの?…6」
歩『……7』
エ「ふぅ……いえ、あれは間違いよ。下手すれば、刑務所にいた方が
ちゃんとした暮らしできるわよ……8」
俊「ふーんさっすが、だてに警官やってないね……9」
小「あー……刑務所はいろっかな。エリナッチ、逮捕してくり……10」
歩『……11』
エ「馬鹿ねぇ、自由のすべてが奪われるのよ。……12」
俊「そんなんやだなぁ。まぁ、小波なら大丈夫だ。どの刑務所も受け入れ拒否してくれるさ。……13」
小「そうだよねー。私みたいな健気な少女をそんな目に合わせたくないんだよねー。……1」
歩『馬鹿は受け入れ拒否ってこと……2』
小『てんめー!!どうしても私を馬鹿扱いしたいのかー!!』
エ「小波が馬鹿だってのは町の掟みたいなもんだからねー…………3」
俊「あ、ダウト!」
エ「俊太!貴様!見ているな!!」
俊「だぁ!!!警棒振り回すな!!トランプで本気だすなぁ!!」
そんな平和なあふたぬーん。

6

「うー、疲れたぁ。」
エリナちゃんが暴れ回ったせいで交番内はぐちゃぐちゃ。
あと片付けの手伝いまでさせられちまったぜ。
時間はもう七時近く。あー、やばい。茜のやつ、お腹空かして待ってるだろうなぁ。だが大丈夫。
ぬかりは無い。しっかりと食材は買ってきた。久しぶりにご馳走でも作ってやろうじゃないか。
「ただいまーっと。」
誰もいない家に無事帰宅。材料を持ったまま、二階へ向かう。料理は茜の家の台所でやるから、
全部もってかないといけない。
「さぁ!まるでサーカスの猿のように、身軽に舞う!!」
部屋の窓からベランダへ。食材を持ってたってへっちゃらさ。
ダン!
「ふぃー、おーい、茜。遅くなっちまったけど、これから夕飯の準備するぞー。」
呼び掛けてみるが反応は無い。いつもなら忠犬のごとく駆け寄り、尻尾があったら千切れんばかりに
振っているであろうほどの笑顔をみせるのだが……
「いないのか……あら?」
なんとなく窓に手を当ててみると、すーっと開いた。うーん、気が進まないが、勝手に入っちゃうか。
ま、茜だしな。怒りはしないだろ。

 

「おーい、入るぞー。失礼しますよっ……」
窓を開け、カーテンを開けると……
「うはぁ!?」
茜が、いた。居るには居るんだけど、その状況が普通じゃなかった。砂嵐のテレビをじーっと
凝視しながら、体育座りで1ミリも動かないでいた。
テレビの明かりで、くらい部屋にうっすらと浮かんだ茜の白い顔は、軽いホラー映画なんかよりも
不気味だった。
「あ、アキャネ?ご飯に……す、する?」
おお、なんと情けない。この俊太とあろうものが、声が裏返ってしまったではないか。
「………」
だが、茜は無反応。まるで歩ちゃんを思わせるほど、無表情のままだった。こんな茜は珍しい。
「あのー……聞こえてます?」
そう言ってベランダから茜の部屋に入った途端……
「どう……だったの……」
「は、ひ?」
茜の地獄に沈むような声が届いた。
「学校………どう、だった?」
「え?あ、ああ、そう、学校ね。うん。」
初めてみる茜についついへっぴり腰になってしまう。いや、いかんぞ。ここはドーンと胸を張って、
茜のやつを安心させてやらないと、男が廃るってもんだ。

「そうそう、礼奈センセがいたよ。あの人も俺達と一緒で、こっちに迷い混んじゃったんだってサ。」
「礼奈センセ?」
ピキピキ
なんだろう。茜の言葉が部屋の温度を下げてる気がする。
「あー、あとはぁ、図書館で歩ちゃんて娘と知り合って…」
ピキピキ
「…同じクラスに、小波って馬鹿とも……仲良く……なって…」
ピキピキピキ
なんか寒い。いくら夏場だからって、クーラーの回し過ぎはよくないとおもいます。
「それ、で?」
あ、茜様がお怒りになられてる。いつの間にか体育座りから立上がり、自分の机をごそごそ漁ってる。
だが、走り出した俺のトークは止まらない!!
「それがさ、みんなおかしくて、どこか抜けてる奴等ばっかりなんだけど、うん。楽しいね。
奇妙キテレツ摩訶不思議奇想天外四捨五入出前迅速落書無用、て感じだね。」
ピキ!!
あ、なんが空気中の水分が凍った気がする。
「……なんでこんなに遅くなったのぉ?」
「あ、それはね、エリナちゃんたちと交番でトランプで遊んでたらさ。」
パリーン!!!
全身を寒気が撫で、なにかが砕けたっ!!

「………の…」
「え?」
「俊………の……」
なにか茜様がぼそぼそと言っている。聞こえないので近付こうとした瞬間……
「俊ちゃんの!!ブァカァァァ!!!!」
その怒号と共に、茜は机からいろんなものを投げ付けてきた。
ヒュン!
直定規!!
ブン!
三角定規!!
シュッ!
分度器!!
「わー!!ばっ!!やめっ!!」
そう叫びながらも、撤退!!
「もー!!!俊ちゃんのバカバカバカバカ!!!私が一日中布団の中で
『茜、大丈夫だよ。俺がそばにいてやるから。』
『俊……ちゃん…』
ベットIN!
なんて妄想膨らましてたのに、そうやって女の子たちとお楽しみしてたなんてぇ!!!
バカーー!!!」
「も、妄想っていっちゃったよ!?」
まだ凶器は降り注ぐ!!
キーン!
コンパス!!
シャッ!!
鉛筆!!
ポイ
消しゴム…あ、これは大丈夫。
ブーン!!
教師用コンパス!!?
ブォン!!
包丁!!!!!!なんでー!!!!
「ちょっ!!お前はノ○マロかよ!?」
最後に飛んで来たサイン色紙が、うまい具合につむじに刺さった。

 

ガラララ、ピシャッ!
なんとか窓を閉め、攻撃を防いだ。だが、茜はツカツカと歩み寄って来た。
ま、まさか追撃でもするのか!?
だがそんな考えとは逆に、茜は窓の鍵を閉め、カーテンも閉じてしまった。
あちゃー、あれは相当怒ってるサインだ。
なんどか茜を怒らしたことがあるが、あいつ、不機嫌になると自分の部屋に
閉じこもる質なんだよなぁ。
「も、もう知らないからなっ!どうなっても!」
久しぶりに俺も怒っちゃうぞ!
「…め、飯はちゃんと食っとけよ!!」
怒ることに徹することができない俺、ヘタレ。正直、いままで本気で怒ったことなんてないからなぁ。
基本、フレンドリーにいきたいわけさ。
「…気が向いたら学校か交番に顔だせよな!俺、だいたいはそこにいるから。」
最後に一言付け足して、俺は自分の部屋に戻った。
「あー、今日は長かったなぁ。なんか疲れたよ。」
ベットに寝転がり、茜からもらったセントバーナードの縫いぐるみを抱き抱える。
「僕はもう……疲れたよ…パト……」
PiPiPiPiPiPi…………
そんな時に鳴り響いた携帯。

 

「むぅ、世界名作劇場ごっこをしているというのに、無粋な輩め。いったいどこのどいつだ。」
一応今日知り合ったおんにゃにょこには電話番号とアドレスは教えたからなー。
着メロからして電話か。んじゃ歩ちゃんじゃないな。
「って出ればわかる話か。」
ピッ
「もしもしー。」
「も、もしもし?……わ、私だ。」
「私?……えと、その声………礼奈センセ?」
「だ、だれだそれは!?私だ………エリナだ。」
「あー、はいはい、エリナちゃん。どうしたん、こんな時間に。あれだけ散々遊んだでしょーに。」
「別に遊び足りないわけじゃない!!その……だな……」
「?」
なんだかいつもの勢いが無い。借りてきた猫みたいに静かだ。
「実はな……事件が…おこったんだ…」
「おー、仕事じゃん。よかったね。」
「あ、あぁ、それなんだが……な、その…」
うーん。なんだかうじうじしてるなぁ。しゃーないな。こっちから聞くとするか。
「で?どんな事件が起きたの?殺人?強盗?集団テロ?」
「いや、空き巣なんだが…」
「なんだ……ただの空き巣かよぅ。」
「な、なんだとはなんだ!?空き巣だって立派な犯罪なんだ!!」

「はいはい、ごめんよ。で?俺に電話したのなんで?」
「ああ、その……て、つだってくれないか?」
「What!?おーい、俺は民間人だぜ?いや、ここではまともな人間扱いもされてないんですよ?」
「そ、それは謝る。それに…私、事件をあつかうのは初めてで……緊張してるんだ。」
「はぁ。」
「だから……手伝ってくれ!!」
「えー……どうしよ…」
「頼む……警官の私がこんなこと言うのもおかしいが……」
くっそぅ、女の子のお願いには弱いんだよなぁ。とくにこういった弱ったタイプは。
「わかったよ。手伝いつっても、そんなに力になれないからな。」
「あ、ああ。助かる。一緒にいてくれるだけでいいんだ。お前がいると……なんだか落ち着けるんだ。
頼れるというか……」
「そ、そうっかなぁ。そう言われると悪い気はしないなぁ。オケ、今からいくから。」
ピッ
そうかぁ、頼れるかぁ。これも男だからかな?
早速私服に着替え、交番に向かう。どうやら今夜は寝れないらしいな………

7

「エリナちゃん。来たぜー。」
夜道を交番まで歩いて、ようやく到着。よく考えたら、俺が襲われる可能性もあったじゃん。
ま、いっか。どうせ相手は女の子だし。
「あ、来たわね。」
俺を見た途端、笑顔で駆け寄ってきた。うーん、エリナちゃんも茜と同じで犬タイプだな。
いつもはツンケンしてるけど。
「ふふ、ついに私の力が必要になったのかね?ワトソン君。」
「……別に、あんたの力を借りたいがために呼んだわけじゃないわよ。」
「な、なんだとー!一緒にいれば頼りになるって泣きべそかいて電話してきたのは
どこのどいつだっけぇ!?」
「う、ぅ……し、仕方ないでしょ!?誰だって初仕事は緊張するもんなのよ!?」
「初仕事っていうよりさぁ……初めて犯罪をあつかうんじゃないの?」
「う、ん……」
あっはは、この様子だと、この平和な町に赴任させられた理由がわかるなぁ。
仕方ない、ここはいっちょ………
「エリナちゃん!気をつけ!!」
パンッと両肩を掴み、落ち着かせる。
「は、はひぃ!」
急にやられて驚いたのか、声が裏返ってしまったエリナちゃん。

「エリナちゃんの職業は?」
「警官…」
「なんのためにここにいる?」
「町の治安を守るため……」
「オッケ、それならエリナちゃんが落ち着かないと。」
「う、うん。」
自分を落ち着かせようと、深呼吸をしているエリナちゃん……
不謹慎だが、その端正で真剣な顔を見たら、一つの考えが思い浮かんだ。……やっても大丈夫かな?
…知識が無いっぽいし…大丈夫……だよな?
「えーと…ごほん!エ、エリナちゃん?」
「な、なに?」
やべ、緊張してきた。いやいや、いつものテンションでやればいいんだ。なにも深い意味は無いさ!
「うん…あのさー、ちゃんと仕事できるようにおまじないかけてやろうか?」
「え?おまじない?…私、そういうの信じない質なんだけどなぁ。」
「いや、きっと効くと思うよ。スピード逮捕に繋がるって。」
「うん……じゃあ、お願いできる?」
よっしっ!なんだか騙してる気がしないでもないけど、ここまで言っちまったから引き下がれない。
「い、いくぞ。目をつぶって。」
「ん。」
エリナちゃんが目をつぶった瞬間………キスをした。

「んん!?ん……」
最初は驚いていたみたいだが、だんだんと抵抗が無くなっていく。
「んふぅ……ぁ…」
五秒ぐらいだろうか。どうやらエリナちゃんの息が続かないようなので、唇を離す。
「……ぁ」
「…………」
サァっと血の気が引いていく。……お、俺は何を……彼女の無知に付け込んで……こ、殺される!?
「えと……あっははははは、はぁ……お、おまじない完了だ!さぁさぁ!犯人逮捕にのりだそう!!」
ごまかすために茶化してみる。やばい……ずっと下向いてる。本当に殺されるかも。よくて逮捕か。
「あの……」
「え、え?」
長い沈黙を破り、エリナちゃんが口を開く。
「もし……犯人を逮捕したら……」
「うん?」
次はあんたを逮捕だ、とかか…?
「もっとしてくれる?」
「も、もっとって、今の?」
「うん。」
「あ、あはは、こんなのでよければいくらでも。」
「や、約束よ!?」
「オッケ、オッケ。でも掴まえないとおあずけだからな。」
「ええ、わかってるわよ。それでは、犯人捜索に行ってまいります!!」
ビシッと敬礼をし、交番から飛び出していった。
ふぅ、俺もかえろ。

8

「ふぁ……まだ眠いぜぇ……」
この世界に来て何度目の朝だっけ。うーん、なんの解決策も探さないままでいたけど、まずいかなぁ。
でも、結構ここも楽しいんだよなぁ。
「さて、行きますか。」
朝飯を一気に平らげ、学校へ。一応茜に声かけてみるか。
「うぉーい!アカネー!!今日も学校行ってるから、なんかあったらそこに来いよー。」
返事は無しか。あれだけ怒ってたからなぁ。しばらくは顔もみせてくれないだろうな。
まったく、ちょっと仲良く遊んだでたからってヤキモチやくなよな。あいつは昔から
俺以外に心を開かないから将来が心配でしょうがないですよ。
「ふぅ。」
学校に行くまでの道。もう町中に俺の存在が知れ渡っているせいか、
あまり好奇の目をむけられなくなった。しかし……ひとつ困ったことが。
そう、俺の性処理だ。これだけ周りにかわいい子がいるんだから、妄想しほうだいだと
思っていたんだが、いざその時になると、なんだか罪悪感でできない。
かといって性欲が治まるわけでもない。このままだといつか暴発する恐れがある。
そいつはまずいなぁ。

学校
正門にはやはりたくさんの女の子。 相変わらず(まだ数日だが)の風景だが、今日は…違う!
自分の視線が明らかにセクハラチックになっているのがわかる。元の世界では、この学校の制服は
かわいいと有名だったが、その猛威をこんなことで痛感するとは思わなかった。
女の子しかいないんだから、姓知識にも乏しいはず。ちょっと口先で騙せばうまい具合に……って俺!
それはレイープじゃないか!そこまで墜ちてはおらんよ!!
「はぁ…でもなぁ…溜まってるんだよなぁ。」
元の世界で禁欲なんてしてなければよかった。失敗だ。
「ぉ--ーい!!!」
ガッ!
「うおっ!?」
突然の呼び声とともに、背中になにかが飛び付いてくる。ああ、こんなことしてくるやつは
一人しかいない。
「小波か?」
「はいあなたの聖天使、コナミンです。」
性天使?いやいや、俺。何を考えているんだ?Cカップ以下の女の子はパスだと決めたじゃないか(嘘)
まぁ何が言いたいかというと、ロリコンは犯罪です。
「どうしたんだよー。シュンー。朝っぱらから元気ないぞ。」
「普通朝だから元気ないだろ。」

「いいや!違うね!私のしってるシュンは二十四時間元気だね!」
「はっ!」
そうだよ、俺!お前は悩んでうじうじするタイプじゃないんだ!
自分の思いにまっすぐに生きるんだヨ!
「へっへぇ、小波!お前の一言で目が覚めたぜ!」
「おう!さっきまでと目の輝きが違うぜ!」
「俺は!!やりたいようにやってやるぜ!……オナニーをな!」
結局女の子に手を出せない俺ヘタレ。
「う、うん?オナニーって何か知らないけど頑張って……うひゃぁ!?」
突然の寄生とともに、フッと体が軽くなった。小波が背中から降りた……
ドスン
いや、落ちた。
「おい、どうし……あ、よう!歩!」
歩が小波の襟元を掴んでいた。どうやら歩が引っ張って落としたらしい。
「いってて……む、お前!また私とシュンのスキンヘッドを邪魔したなぁ!」
小波の喋った言葉をそのまま紙に書き、歩に見せる。
『それを言うならスキンシップ。あほ。』
「あ、あほ。ですってぇぇ〜〜」
どうしてこの二人はこうもソリが合わないんかな。顔を合わせる度に喧嘩してるような気がする。
つーか二人って知り合いだったのか?

『それに……』
ズイ
歩は座り込んでいる小波を見下すような視線でほほ笑むと、(ゾクリときたのは内緒だ)俺の背中に
よじ登って来た。
『ここは私専用の場所。』
「お、おぃ!?」
初めて乗ったのにいきなり専用ですか?そんなに俺の背中って居心地いいのか?
「なっ!?なにが専用だ!そこは私のお気に入りなんだ!」
『ダメ。渡さない。』
ギュウ
歩の抱き付く力が強くなる。まぁ、歩も小波と同じロリーだから性欲が沸くことは……
ムニ
「を、をを?」
な、にぃ!この背中の感覚は……体感したことはないが、間違いなくオッパイの感覚…
振り返って歩の顔を見てみる。脱力したような、幸せな顔をしていた。
こいつ、着痩せするタイプだったのか。これは結構大きいな!
「なにニヤニヤしてんだよー!私のときはそんな嬉しそうにしてなかったじゃん!!」
「は、はは?」
いかん。鼻のしたが伸び切ってたか。それにしてもこの胸。うむぅ……やばい…
せっかく抑えようとしてた性欲が……
『とりあえず、降りてくれ。』
それを見せると、歩は不機嫌な顔をしながらも降りた。

「はぁ、はぁ。じゃ、じゃあ俺、行くとこあるから。」
ダッシュで逃げ!だってこのままいたら暴発しちゃうんだもん!背中に小波の怒号、
歩の視線が突き刺さっていたがキニシナイ!風のように駆け、校舎の中へと逃げ込んだ。
「ふぅ……このままじゃ体がもたないよなぁ…」
そういえば礼奈センセが元の世界に帰る方法を探すとか言ってたよな……
「当てにならないだろうけど。」
一か八か。小さな望みに賭けてみようではないか。どうせ研究なら化学準備室にいるだろ。
まだ朝のHRにまで時間があるので、立ち寄ってみようか。
準備室
ガララララ
「れっなセンセ〜…って酒クサ!!」
相変わらずの匂いだが、今回ばかりはちと違う。臭さが強烈になっている。
「センセ〜、いないの?」
ジャングルのごとく整理されていない部屋の奥に行くと……
「いた…って寝てるのかよ。」
酔い潰れたのか、白衣のまま、机に突っ伏して寝ていた。ほんと、よく退職にならないよな、この人。
机の上にはエチルアルコール。まぁーた学校の備品呑みやがったな。
いつかメチルアルコールをのむんじゃないかハラハラだよ。

9

「センセ〜、起きてくださいよ。HR始まっちゃいますよ。」
「うふぅ……ぅ…」
ダメだ。真っ赤な顔しておきやしない。こりゃ相当酔ってるな。なんでまたこんな悪酔いを……
「センセ〜、おーい。……起きないならセクハラしちゃうぞ!」
「……くぅ…」
起きない。隊長!!シュンタ・クラハシ少佐、突貫します!!
「ゴクリ…」
そうそう。意識しないで、いつものテンションでいこう。セクハラつったら…胸だろ…
ムニ
「お、おお…」
礼奈センセ、白衣でよく分からなかったけど、結構でかいな……
よし、今日はこの感触をおかずにしよう。そのためにはもっと揉んで覚えて……
「んん……ふぁ…」
時々小さな声を出すが、起きる様子はない。酔っ払ってたことに感謝だ。
ムニムニ
よし……次は服の下に手を入れよう。ただし白衣は着せたまま。この方が興奮する。
服はTシャツ一枚だけなため、捲り上げる。
そして……禁忌の花園、ブラジャ!!
「ハァ、ハァ…」
変態みたいな呼吸してるけどキニシナイ!というか変態そのものだけどキニシナイ!!
そう、気にしたら負け。ここは突き進むのみだ!

「ん……」
「!」
礼奈センセが顔をごろんとこっちに向ける。起きたと思ったが、まだまだ爆睡だ。
こっちを向いたために唇に目がいった。
「ムムム……いや、ダメだ!」
寝ている女性の唇を奪うなど反則。あー、俺紳士、超紳士!!
「ではブラジャを…」
紳士と変態の移り変わりは忙しい。どうやらフロントホックらしい。
これをつけてる娘でよくあるシチュが
『あ、あれ?外れない……』
『…前にあるのよ。』
これだね。そんな脳内妄想フル放送でお送りしています、セクハラ劇場。
さぁ、いよいよブラジャが外れましたっ!つ、次は……ついに直に…
プニ
「お!は!あかさagptmga%◆´〇∀・ω^……」
こ、れ、は、やわらかぁーい!!!噂に聞いてはいたが、これがマシュマロのような感覚か!
だ、ダメだ。これ以上は刺激が強い……このままじゃピュアな心を失ってしまう。
名残惜しいが、おかずにするには十分に触ったので、ブラジャを戻し、服を着せ、
そっとその場から立ち去ろうとした……瞬間!
「ふふふ…今ので十分なのか?」
「へ?」
バッターン!

気付いたらいつの間にか倒れていた。もとい、倒されていた。そのうえに乗っていたのが…
「せ、センセ……」
「ふふ…気付いて無かったとでも思ったのか?このエロエロ小僧め…」
鼻が触れ合うほどに近くまで顔が寄せられる。その顔はとても淫美だった。
ぬれて虚ろな瞳、上気した頬、下腹部に感じる暑い体温。そして酒臭い吐息……酒臭い!?
「あ、あんた!まだ酔っ払ってるな!?」
「あははは〜!にゃーんのこっとでしょうかぁー!」
ガバッ!
完全な酔っ払いの笑い声を上げながら、ズボンを引きずり下ろされる。
「あららー、ボッキボッキねぇ。このまま授業なんか出たら、
手当たり次第女の子に手を出しちゃうんじゃないのぉ?」
「うっ!」
た、確かに。ここでおかずを手に入れたら、夜まで我慢できないかもしれない。
「だからぁ、センセーが一発、抜いといてあげますねー。
………ふふ、もう我慢汁まででてるじゃない。」
「ま、まて!これでも一応生徒と教師なわけで……」
「酔っ払いモードの礼奈ちゃんに、倫理観など存在しないのだ!いっただきまーす!」

 

パク
「う……おぅ…」
センセが俺の一物に食いついた瞬間、腰が砕けたように脱力した。こ、これが女の体か!!
「ふふ、その様子だと初めてみたいだなぁ?」
「……くっ!」
「ふふん、だったらお姉さんに任せなさいぃ……んちゅ……んく…」
「おふぅ……」
ああ、流されてるよ……でも……これは、やめられない!止まらない!!
「ちゅるるーー!じゅぼ……ぬちゃ……んん!…ふぅ…」
さ、さきっぽに舌が絡んで……や、ばい!
「うぁ…やべ…」
「…んぅ……ちゅぅ……ぷぁ!」
「へ?え?」
「へへー、まだまだですよー。」
咥えるのをやめたかと思うと、また俺の上に乗っかってくる。
ま、まさかもしかして本番ですかぁー!?
「ま、まいったな……こ、心の準備が。」
「……なぁ、倉橋?」
「え?」
「私のことを、覚えているか?」
「…礼奈センセは礼奈センセでしょ?覚えてるもなにも知り合いなんだから……」
「むぅっ!それなら思い出すまで本番はお預けだ!」
「ええええええ!?」
「まぁ心配するな。なにも出してやらないとは言ってない。…よいしょ。」

 

礼奈センセの太股に、息子が挟まれてしまった。これはいわゆる、素股ってやつか!
これはこれで興奮する。ちょっと残念だけど。
「ほらほら、気持ちいい?」
「は、ひ…」
確かに気持ち良かった。自分の右手とは格が違う。あまりの気持ち良さに、腰が勝手に動いてしまう。
「うわ、こらっ、うごくなぁ。」
ぐいっと押しつけるように体重をかけてくる。ああっ!そんなに乱暴にやられたら、やばいって!
「センセ…いきそ……」
「んん?…ふぅ…ふふ…いいわよ、お姉さんにいっぱいかけちゃいなさい。」
ゾクリとした。脳みそが爆発するように真っ白になった次の瞬間…
ドクン!ドクン!
「ひゃぁ!…あ、あぁ……すごいぃ…いっぱ、い……あはぁ……ん、ぅ…」
バタン
「あ、あら?センセ?先生?」
俺が果てた瞬間、センセは白濁まみれになりながら気を失った。近付いて確認してみると……
「すぅ…」
「ね、寝てやがる……」
酔った勢いでやっちゃいましたか。…ここは隠蔽工作だ!無かったことにしてしまおう。
さすがに先生と生徒がやっちゃったのは、なんか罪悪感がある。

「…これでよしっ。」
とりあえず礼奈センセの体を拭き、服を着させる。そして来たときと同じように
机に突っ伏した状態にする。
「あとは運次第!」
これで起きて夢だったと思い込んで欲しい。
さすがに生徒を逆レイプしたなんて認めたくないだろうな。いくら礼奈センセでも。
「でわでわ、さらば!」
HRが始まりそうなので、教室に戻る。まぁまだ礼奈センセは寝てるから大丈夫だけど。
「うむ…しかし…」
気持ち良かった!最高だった!
これでしばらくは性欲を抑えることに努力しなくてすむネ。体が軽いよ。
「あ、いたいた!」
教室の前に来ると、待っていたのか、コナミンが声を掛けてきた。
「……」
「な、なに?そんなに見つめて?や、やだなぁ。いくら私が秋田美人だからって
そんなに見とれなくても。」
うむ、ロリーにも反応しなくなった。これで犯罪が怒る可能性は消えましたな。
「フッ!秋田美人は四字熟語じゃないから。」
「は、鼻で笑いやがりましたね……ってそうそう、シュンにお客さんだよ。……珍しいけど。」
「は?客?」
誰だろ。もしかして茜のやつがきたのか?

誰かと確かめようと教室に入る。すると俺の机に座っていたのは……
「あ、倉橋!!やったよ!私やったよ!」
「あ!エリナちゃん!?」
なぜかエリナちゃんがいた。交番ほったらかしてなにやってんだ?
クラスのみんなも困惑してるじゃないか。
「ど、どうしたの?」
「あのね!昨日の夜のうちに、空き巣犯つかまえたのよ!」
エッヘンといった感じで胸を張る。ん?空き巣犯をつかまえた?…もしや……
「も、もしかして……アレをやりたいがために学校まで?」
「ええ、もちろんよ。」
まじか……確かに約束はしたけど、こんなところでなんて…
止めようと思ったが、すでに時おそし。
気付けば目の前に、またエリナちゃんの端整な顔が迫っていた。
「んん!?」
「ん…」
「な、なにやってんの!?シュン!」
…衆人環視でキス……なんだか今日は朝からハイペースだ……きっとよくないことが…ガララララ!
「よーっし!お前たち!朝のホームルームをは…じめ…る……ぞ…」
ガララララ!
「シュンちゃん!昨日はごめんね!私、もっと前向きにかんがえ、て…み…る……」
……四大怪獣大集合……
『じーーーー』
もとい、五大(以下略)

10

「うぅ……うぇーん…ぐす……、おか、おかぁさん……おとおさん……」
私がまだ七歳……小学校二年の春の時。私とシュンちゃんの親が死んだ。小学校によくある遠足の日。
前から仲の良かった私達の親が、旅行に行くことになった。久しぶりの旅行……
そうお母さん達は喜んでたのに………なのに………
「なん、で………死んじゃったの……うぇぇ…」
旅行から帰る途中、大型トラックとの正面衝突。たったそれだけの。
即死と言う呆気ない出来事だった。
「茜……」
その時、そばにいてくれたのがシュンちゃん。
大好きだった親を無くし、無気力だった私を支えてくれていた。
シュンちゃんも親を無くしたのに、私の前では涙も流さず、弱音もはかず。
いつもの……変わらないシュンちゃんでいてくれた。
「ほらほら!料理作ってみたんだよ!ちょっとこげちゃったけど……へへ、目玉焼きだ。」
「いらないっ!!なにもたべたくない!」
ガシャーン!!
ひっくり返ってこぼれた料理。割れてしまったお皿。あの時、シュンちゃんの手が切れて
血が出てたのに、それを必死に隠して。

「あっはっはは、やっぱり焦げたのはいやだよなー、うん。俺もいやだし。
焦げをたべると癌になるってのは俗説なのかねー。」
そうやっていつも笑って、私に元気を分けてくれて。この頃からかもしれない。
シュンちゃんに頼って生きてきたのは。
「シュンちゃん、かえろ。」
私も元気になってきた、小学校五年の時。クラス変えがあった。
シュンちゃんと違うクラスになるかと心配だったけど、運良く一緒になれた。
だけど……もう一つの不安が沸きあがってきた。それは…
「えぇ……うん、と………みんなとサッカー……」
「かえ、ろうよぉ……」
「あー!倉橋、茜ちゃん泣かすなよー。」
「いじめだよ、いじめー。」
「いやー、しまったなぁ。二組の生徒会長たるオレ様がいじめはよくないなぁ。」
「あの……生徒会長は僕……」
「サランラップ!(シャラップ)俺はクラスの裏のテイオーなんだ。」
シュンちゃんは優しい。だからいつも私と一緒にいてくれる。私がわがままを言っても、
怒らずに聞いてくれる。それはきっと、シュンちゃんも私のことを好きだから。

でも………その好きは、どういう意味だろう。小さい頃からのよしみ?放っておけない幼馴染み?
私は違う。私はシュンちゃんを、一人の男の子として好き。異性として意識している。
その気持ちに気付いたのは、中学二年の時。
毎週火曜日、私は図書委員なため、シュンちゃんには教室で待ってもらっていた。
当然、一緒に帰りたいから。
でもその日……教室にもどってもシュンちゃんはいなかった。机の上には、鞄が置いてあったので、
まだ学校にいるということだ。
きっとトイレにでも行っているのだろうと思い、シュンちゃんの席に座って待っていた。
シュンちゃんの机………なにやら落書きが書いてある。
『高山ティーチャーが自分が独身だと愚痴った回数7』
もう、シュンちゃんたら。授業も聞かないでこんなことばっかりしてて……
でも、また一つシュンちゃんのことを知れて嬉しい。
ガサ…
ただなんとなく、机の中に手を入れて。触った紙切れを掴んだから、机の上に出してみたら…
「あぁ…え?…」
可愛らしい、ピンクの便箋だった。最初はまた、シュンちゃんの冗談かと思ったら…

「な、に……これ…」
そこには丸みのある……女の子の字が書いてあった。内容は……見るまでもない、ラブレターだった。
「あ、ははっ……もぅ、シュンちゃんたら…破っちゃうなんてひどいなぁ…」
ラブレターは真っ二つに裂け、グシャグシャになっていた。あ…でも。
「…やっぱり…」
もう一度机の中を見ると、封筒もあった。ということはもうこの内容を見たあと…
もう一度手紙を元に戻し、確認してみる……今日、放課後に体育館の裏で……
だめ、ダメ!ダメだよ!!!そんなの無しだよ!
気付いた時には教室から飛び出し、駆け出していた。体育館の裏…ちょうど今そこで、
告白……もしOKしちゃったら?シュンちゃんがいなくなっちゃう?
そんなの、考えられない。私にはシュンちゃんしかいないんだから。
シュンちゃんがいないと生きていけないんだから。
「はぁっ、はぁっ……」
体育館のそばで、息を整える。走ってきた疲労と緊張で胸がいっぱいいっぱいだ。
今にも破裂しそうなほど。胸がいたい。
「…来てくれて、ありがとうございます……」
「あー…うん…」

その時、ちょうど女の子とシュンちゃんの声が聞こえた。
見つからないように影からそっと覗いてみる。
……いた。シュンちゃんと、女の子だ。
「えと……手紙をみてもらってわかると思うんですけど……しゅ、俊太さん、す、好きです!
私と付き合ってください!」
「………」
シュンちゃんは黙ったまま夕陽を眺めていた。なんですぐに断らないの?なんで考えてるの!?
「…あの、返事……」
「うん…嬉しい……けど、さ。……ワリィ、君とは付き合えないなぁ。」
「え……」
やった!そうだよ、シュンちゃん!!断って正解だよ!!
「ど、どうしてですか!?誰か好きな人でもいるんですか?」
「いやぁ、いないけど。」
もうっ、しつこいよ!ふられたんだからさっさといなくなってよ!
「じゃ、じゃあ!」
「うん……君が俺を好きだと言ってもさ、俺は君を好きじゃないから。
そんな一方通行な付き合い方じゃ、長持ちしないよ。」
シュンちゃんたら、本当に優しいんだから。もっと厳しく突き放せばいいのに。
そうすれば私以外に、誰も寄らなくなるのに。
私はもう大丈夫だと思い、その場を後にした。
教室
あれから数分。まだシュンちゃんが帰ってこない。もしかして変なふうに絡まれちゃったのかな?
だとしたら……助けた方がいいかな?
「ふぃー……おっ、待ったか?」
そんなことを考えていたら、シュンちゃんが戻ってきた。
「いやぁ、便秘気味でさぁ、久々の開通に手間取ってしまいましたよ。」
もう、シュンちゃんたら。私に心配かけさせないためにそんな優しい嘘をつくなんて。
でもね、信じてるよ。シュンちゃんは私が好きだから誰とも付き合わないんだよね。
それなら、シュンちゃんが私に告白してくれるまで、ずっとまってるからね。
ずっと、ずっと、ずぅっとね!!!

To be continued.....

 

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