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暗殺者の記憶



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「それじゃ俺は焚き木を拾ってくるよ」
「私は食事の用意をしておくわ」

そう言ってあの人はあの女から離れて森の中に入って行った。
愛しい愛しいあの人。私の勇者様はこれで数時間は戻って来ないだろう。
何故なら人を目的地に着くのを遅らせる初歩的な迷路魔法を森にかけたから。
そして火を起こし、狩りで仕留めたのであろう鳥をナイフで捌き始めたあの女。

どう殺してやろう?

あの女に代わって食事の用意もしなければならない。
愛する私の勇者様に食べてもらう料理だ。
材料などは限られているとは言え手抜きなどできはしない。
あの女も袋の中からも鉄串を取り出して………私に向かって投擲!
私が避けた次の瞬間、鉄串は私が居た場所へ串の半ばまで深々と突き刺さる。

やってくれるじゃない。

あの女の殺気で空気がピリピリと震動する。
奇襲が無理なら、と意を決して隠れていた樹の陰から出てあの女と対峙した。

「あら?てっきりモンスターだと思っていたら貴女だったのね」
「ご挨拶ね。元とは言え『仲間』じゃない」
「『仲間』ねぇ……… 幻影種族。貴女の種族は魔王側についたのでしょう?」

私たち3人は魔王討伐のため長い旅を続けてきた。
人間種族の勇者様とこの女剣士、そして幻影種族の暗殺者の私。
だけど一ヶ月前、幻影種族は魔王軍の軍門に下り私と勇者様は敵同士になってしまった。

それでも1ヶ月間、昨日まで族王の命を無視し勇者様との旅を続けるが、
軍門に下ったはずの幻影種族が勇者のパーティーに居ることが魔王軍の中で問題となり、
近日中に私が勇者様から離れなければ、幻影種族は老若男女問わず処刑と宣告された。

昨日そのことを打ち明けると勇者様は私のために戦力ダウンは覚悟の上で
私がパーティーから離れるのを認めてくださったのだ。

でも私としては不満だ。たとえ私以外の幻影種族が死のうが私が沢山産めばいいだけ。
幻影種族の子を………勇者様の血が流れる次世代の幻影種族を。

「もしかして勇者様の首を魔王に献上するつもり?」
「フフ、そんなことはしないわ。それに今日用があったのは勇者様じゃなくて貴女なの」

『私に?』と言いかけたあの女に溜めなしの無拍子で袖からクナイを撃ち込んでやった。
防具に覆われていない額を狙った突き。
でもいつもなら肉に突き刺さる感触が手に伝わるはずなのに、代わりに手にはかすかな痺れ。
へぇ、不意打ちで必殺の一撃を出したのに、私のクナイを剣で受け止めるなんてやるじゃない。
流石ここまで魔王軍を倒してきたことはあるわね。

「フン、勇者様じゃなくて私を殺そうってわけ?」
「実はそうなのよ。邪魔なのよ貴女は」

淡々と語気を荒げず喋りながら身体はクナイによる二撃目を放つ。
プレートに守られている心臓ではなく露出している首への横凪の一撃!
しかし今度はバク転してかわされて距離も取られてしまった。

「理由くらい聞かせてくれるわよね? おおかた魔王軍への手土産かしら?」
「違うわ。魔王は関係なく貴女が邪魔なの、貴方さえ居なければ勇者様は私だけを見てくれるわ」
「つまり恋の私闘ってわけね。でもね、勇者様が何で魔王討伐の任に志願したか理由を知ってる?」
「そんなこと聞きたくないわ」
「いいえ、言わせて貰うわ! 勇者様はね、私のことが好きなの! 私を愛しているの!
  私が貴族出身だから魔王を討伐すれば下級官吏の息子でも結婚を許されると思って志願したの!
  私も宮廷で震えている男なんかじゃなく結婚のために命を掛けている勇者様こそ
  夫に相応しいと思ってるの!
  昨晩、貴女と別れた日の夜だって勇者様は私に愛を囁いてくれたわ!
  勇者様と私は相思相愛なのだから貴女の入る隙間なんてゼロなのよ!」

この女、いやメス豚は一気に話すと勝ち誇った笑みを浮かべた。
このメス豚。このメス豚。このメス豚。このメス豚。このメス豚。このメス豚。
このメス豚。このメス豚。
このメス豚。このメス豚。このメス豚。このメス豚。このメス豚。このメス豚。
このメス豚。このメス豚。
このメス豚。このメス豚。このメス豚が憎い。このメス豚を殺したい。
このメス豚を火炙りに掛けてやりたい。
八つ裂きにしたい。全身の生皮と生爪を剥いで苦しませてやりたい。
生きたまま内臓を引きずり出してやりたい。
目鼻口を潰し四肢を切断して家畜として飼ってやりたい。生きたまま鼠に食わせてやりたい。
ゴブリンに輪姦させて汚れた子を孕ませてやりたい。無間地獄に叩き落してやりたい。
………そしてなにより口惜しいのはこの女の言葉が事実だというところだ。

「………………」
「あらあら黙っちゃって、想定外だった? アハハ、絶対に得ることのできない物って
  この世にはあるのよ!」
「………………」
「いいこと?、貴女が、私を殺しても、勇者様の愛は、得られないの、おわかりかしら?」
「………は、はは、ははは、貴女の持論は終わり? そうねぇ、いいこと教えてあげるわ。
  それでも、私は、勇者様の愛を、得る方法を、知っているの!!」

そう叫びながら持っていたクナイを投擲、間を置かずにダッシュして間合いを詰める。
メス豚はクナイを器用に弾くも私に間合いを詰められ………

………次の瞬間、メス豚の首は血飛沫と共に吹き飛んでいた。

ギャロット、暗殺用の鋼線。しかも絞め殺すのではなく切り殺せるように魔法強化した私のとっておき。
あははは、あは、あははははは、あははははははは、あはは、あははは、あは、あははは、あはは、
あはは、あは、あはは、あはははははは、あはははは、あははははははははは、
あははははは、あはは、
殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。
殺した。殺した。
殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。
殺した。殺した。
コロシタ。コロシタ。コロシタ。コロシタ。メス豚ヲコロシタ。メス豚ヲコロシタ。メス豚ヲコロシタ。
メス豚ヲコロシタ。メス豚ヲコロシタ。メス豚ヲコロシタ。メス豚ヲコロシタ。メス豚ヲコロシタ。
コレデ勇者様ハ私ノモノ。勇者様ハ私ノモノ。勇者様ハ私ノモノ。勇者様ニ愛ヲ囁カレルノハ私。
勇者様ト添イ遂ゲルノハ私。勇者様ノ子供ヲ産ムノハ私。私ハ買ッタンダ! アノメス豚ニ買ッタンダ!

辺り一面に笑い声が木霊する。とうとうやった、勇者様との愛を邪魔する第一の障害を切り裂いた。
文字通り。
次はあの秘術だ。影を司る幻影種族のみ扱える影魔法。
死体を食らうことによって他人に成り代わる秘術。

………………………………………あはっ、秘術も成功!

 

「勇者様?」
「遅くなってごめん、どうも帰り道で迷っちゃって」
「焚き木拾いおつかれさま。食事の用意できてるわよ」
「ん、明日はいよいよ魔王の城だね。怖いかい?」
「ううん、魔王を倒したら勇者様と結婚、そのためなら私………」

………私、なんでもするわ。

2006/10/13 To be continued

 

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