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魔女の記憶



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勇者様、お慕い申し上げます。

勇者様と初めて出会ったのは1年前、城の謁見の間でしたね。
代々勇者の称号を帯びている一族の貴方は王様の依頼で魔王の討伐に行くところでした。
でも領土防衛のために各国がそれぞれ大規模な正規軍を出せないという理由で、
少人数の特別部隊を討伐に向かわせるなんて。
それを知ったときあの王には殺意を抱いたものです。
なにしろ他の国が国の面子を掛けて名の知れた冒険者やお抱えの勇者を出しているのに、
私たちの王と来たら代々勇者の一族とはいえ傍流のしかもまだ子供を出すのですから。
でも、今ではわりと感謝もしています。
そのおかげで勇者様と出会えたのですから。
そして私は王命で勇者様のお供をすることになりました。

覚えていますか?
他の仲間を探すため冒険者登録所に行くも、私を見るや誰もが仲間を断る状態。
私は魔王に呪われた魔女の家系。勇者様が居なければ子供にも石を投げつけられます。
それでも勇者様は私に向かって笑いかけてくださいました。
そして結局ふたりだけで魔王討伐の旅に出ることになりましたね。

覚えていますか?
お互い旅は初めてで最初の頃は地図の読み方や食料を得る狩りなどで失敗してばかり。
襲ってくるモンスターも剣が効かない敵や私の攻撃魔法が効かない敵も沢山いました。
それでもお互い助け合って笑いあって、どんな困難も乗り越えてきましたよね。

覚えていますか?
魔王の城に侵入するアイテムを見つけたとき、他の勇者のパーティーは既に全員が
全滅したという報を知りましたね。
それまで分散していた魔王の追っ手が私たちに集中することを知って恐怖で眠れない夜もありました。
そんなときはふたりで一枚の毛布に包まって語らいながら一夜を過ごしましたね。

覚えていますか?
決戦前夜に悔いを残さないためにお互い愛の告白をした夜のことを。
お互い生き延びたら必ず添い遂げようと誓いましたね。
勇者様は私の初めての相手であり私は勇者様の初めての相手なのですよ。
勇者様を受け入れたあの夜の痛みと感動は今でも覚えています。

そして覚えていますか?
討伐後の謁見で勇者様との結婚の願いを許されなかった私を。
逆に魔王を倒した英雄の勇者様に褒美に王女との結婚を命ぜられたときのことを。

勇者様のことは伝聞以外なにもしらないあの女。
世界を救った勇者を婿に迎えると言う政治的な理由を知らないあの女。
無邪気に勇者様に纏わりついているあの女。

憎い。あの女が憎い!勇者様の伴侶と言う地位だけを欲しがっているあの女!
王女というだけで私が文字通り命を賭けて手に入れた勇者様の愛を真横から盗んだあの女!
私が勇者様に翻意を促そうとしたときに兵を使って私を拘束したあの女!
私が地下牢に幽閉されているときに晩餐会で勇者様とワルツを踊っていたあの女!
私が毒入りの食事を食べさせられて苦しんでいるときに勇者様を寝室に無理矢理連れ込んだあの女!
あの女があの女があの女があの女があの女があの女があの女があの女があの女があの女があの女が
あの女があの女があの女があの女があああぁぁぁぁ!!あのメス豚は殺す!あのメス豚は殺す!
あのメス豚は殺す!あのメス豚は殺す!あのメス豚は殺す!あのメス豚は殺す!あのメス豚は殺す!
アノメス豚ハ殺ス!アノメス豚ハ殺ス!アノメス豚ハ殺ス!アノメス豚ハ殺ス!アノメス豚ハ殺ス!
アノメス豚ハ殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!
殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!殺ス!

こうして瀕死の状態で脱獄した私は王国に禁呪で呪いを掛け…………

………呪いの反動で魔王となりました。

勇者様、お慕い申し上げます。

あれから60年が経ちましたね。
もしふたりが結ばれていれば今頃孫たちに囲まれて幸せな日々を過ごしていたはずです。
昨夜部下の魔将から報告がきました。
私たちの仲をを引き裂いたあの国はもうありませんが、別の国が用意した勇者と女剣士が
私を討伐するためにもう城の近くまできているそうです。
そして今、玉座の間に繋がる階段を駆け上がる音がします。
勇者様、もし私がそちらに行ったら60年分の愛を一度にくださいね。

 

………ところで今度の勇者と女剣士も、私たちみたいになるのでしょうか。

2006/10/09 To be continued

 

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