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亡者



1

…いつも、意地悪ばかりしていたあの子は
どこへ行ってしまったのだろう?

部活の先輩から告白されて、
有頂天だった僕は幼馴染みにそれを報告した。
なんだかんだで長く一緒にいた友達だったから、
きっと目一杯からかいながらも祝辞の一つでもくれるだろう。

そう思っていた僕の目には
寂しく微笑んだ一人の女の子が写っていた。
今にも泣きだしそうな笑顔で「おめでとう」、
そう一言だけ言って走り去っていった幼馴染み。

どうでもいいような理由でいつも僕の部屋に上がり込んでいた彼女、
自分にしか渡されない義理のチョコレート、
恥ずかしいからやめてほしいのに、いつまでも握られていた手の熱さ―――。

もっと早くに気付いていたら僕はきっと…。
ごめん、心の中で呟いた言葉。
それでもおめでとうと言ってくれた女の子に感謝を。

「…ありがとう。」

明日は先輩と生まれて初めてのデートに行く―――。

 

 

…一週間後。

僕はこの恋が死に至る病だと気付いた。

2

さっきのあたしは最悪だった。
もっと上手くリアクションできたろうに、
涙目一杯に溜めて「おめでとう。」だ?
悲劇のヒロインかあたしは。
ただの負け犬だっての。
同情なんて絶対引きたくない。
あいつの前ではかっこよくいたいのに。

あたし達は幼馴染みで、
若かりし頃からその関係に変化はない。
これからも無いだろう。

―――「彼女、できちゃったか…。」
悔しいなぁ。
多分あたしがもっと積極的に
振る舞ってたら落とせたのに。

二人が心地いい関係に甘んじてたのが敗因か。
元々あたしには友達以上の可能性はなかったのかもしれないが。

どちらにしてもここで区切りをつけるべきだ。
あいつの人生に不必要な波風をたてることはないだろう。

考えるまでもなく。
諦めなきゃいけなくて。

「…………がぁぁぁっ!!!!!」
ガッ!
ブンっ!!
ガシャーン!!!

「……あっ!?」

しまった!?
ついジクジク考えている自分に腹が立って
目の前にある隣家の窓に手元のペンケースを投げつけてしまった!!?
ていうかここでいう隣家とはつまりアタシの幼馴染みのアイツの家でつまりその窓とは
あいつの部屋でっっ!?

 

―――「ちょ、おま何やってんだユキィィィィイイイ!!!!」
あらん限りの大声で叫ぶ。
幼馴染みとはいえ仕方ない。
奴は今、精密な射撃で僕のタマを取りに来やがった。

あいつの様子でも伺おうかと窓に近づいた瞬間、
カーテン越しにも関わらずそれを察知し、
速度によってはゆうに人を殺せるであろうアイアン製品を撃ちだし、
その上本来障害物となるはずの窓ガラスを利用し
破片によりさらに殺傷力を高める始末。

……なんて奴…!!

「なんだこれお前、
逆恨みって言うんだぞこーいうの!!」

「へ?…へっ!知らないよ!
あたしの受けた心の痛みその身体で受け止めやがれっ!」
「な!?この野郎!
さっきはやけに大人しいと思ったらそんな事考えてやがったのか!!
黙って殺られる俺と思うなよ!」

―――うわ、あいつ何か投げてきたっ。
女の子に暴力って最低かよ!
負けじとあたしも投げ返す。
一応、怪我しないようにぬいぐるみとか枕とか。
向こうもそういうつもりだったらしく
枕1、枕2、座布団。
おっと、攻撃が止んだ。
どうやら弾切れらしい。
ふはは!!
女の子の部屋にある「柔らかい物」の数なめるなよ!?

 

いや、何やってんだ、あたしは。

 

「………うーん。
僕も片付けなくちゃ駄目だったのかな?」
「なんならあたしの部屋で寝る?
女の子に一人重労働させながら。」
「ひどいよね、それ。」
「あぁ…駄目…今になって心の傷がうずいて…。」
「なんで僕の方が立場弱いのっ!?
惚れた弱みとかそういうのは!?」
「諦めなよ…、あんたは一生、
あたしの奴隷なんだから…。
かわいそう…。」
「同情するなら自由をくれ!?」
「わぁ古い。」
「罪の意識なんてまったく皆無!?

…別によかったのに、
片付けぐらい、手伝ってくれなくても。
僕の部屋なんだから。」
「あたしのせいじゃない。
いいよ?ホントにあたしの部屋使って。
あんたの枕もあるしさ。」
「いいよ、お前こそ部屋戻りなよ。」
「…やだ。片付ける。
あはは、キリなさそうだね。
一緒にしよ?」
「…まぁいいか…、
あ…。」
「何?」
ガラスの破片に混じって、
銀色のペンケースが落ちてる。
あたしの投げた物だ。

「…まだ使ってたんだ。」
「…別に。買い替えるのも面倒だったから。」
「現に今放り投げてたもんね。」
「それぐらい憎らしかったのよ!あんたが!」
「うわべっこり。」
「え、…ホントだ…。」

見ればもうめちゃめちゃにひしゃげてる。
ていうかあたしこんなに力あったのか。

…もう使えないかな…。

小学生の頃、
みんな分厚くて重い筆箱を使ってたのに対し、
こいつは一人だけスマートなペンケースを使っていて
ひどく大人びた感じがし、それが羨ましかったものだ。

…ま、あたしがパンツと引き替えに貰い受けたのだけどね。
こいつは昔からパンツに異常な執着を見せていて、
そういう意味でもある意味大人びていた。

「パンツ大臣だもんね…。」
「なんでいきなり人のトラウマ的ニックネームを感傷的に呟くの!?
その憂いを含んだ表情にちょっとドキっとしちゃったよ!?」

「…サクラ。」
あたしは幼馴染みの名前を呟く。
そういえば「あんた」以外の名前で呼んだのは久しぶりだ。
こいつもしばらくぶりに言われて顔が引き締まってる。
真面目な話を聞く顔だ。

「…またパンツと引き替えに、
ペンケースくれない?」
「もうそこまでパンツに興味ないよ!?」

あ、駄目か。

2006/10/02 To be continued

 

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