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『遺骨倶楽部』部屋



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 今は誰も使っていない、しかし物置にもなっていない部屋の中。未だ使用していた人物の面影が
漂う空間で茉莉は軽く溜息を吐いた。そして愛しそうに彼が使っていた本棚や机、
コンポなどを手指で撫でる。家族の未練からか、何一つ移動されていないそれらの家具は
綺麗に掃除されていて、埃一つ付いていない。それ故に表面を撫でると彼自身が付けた傷の感触が
直に伝わってきて、茉莉は小さく微笑んだ。
「先輩」
  茉莉はつい先日死んでしまった最愛の人を呼んだ。付き合っていたけれども照れ臭さや
長い間の習慣で、とうとう名前で呼ぶことはなかった。
  吐息を一つ。
  そして全ての家具を撫で終えた後、ベッドへと視線を向けた。思い出すのは、
過去に幾つも産まれた思い出だ。皺一つなく綺麗にメイキングされたベッドからだけは
当時の生活臭がしないけれども、体はしっかりと覚えている。
  ゆっくりと腰掛けて目を瞑れば、無数の光景が浮かんできた。
  彼と自分と、彼の妹の由香。その三人でここに座り、よく話をした。素直になれないのか
甘え方の下手な妹は辛く当たっていたけれども、自分と同じくらい彼が好きだったことを
茉莉は知っている。
「それを私がからかって」
  小さく笑いながら、茉莉はポケットから白い小片を取り出した。

 私はその小片、先輩の遺骨を見て吐息を一つ。
「寂しいです」
  仰向けに倒れると、ベッド付属の小さな棚に頭をぶつけてしまった。何故ぶつけてしまったかと
言えば理由は簡単で、端に座っているからだ。自分一人しか座っていないのに、
こうして端の方へと寄ってしまったことがおかしかった。
  そうしてしまったのは、
「癖、ですね」
  三人で座っていたときは先輩を中心にして自分が右、由香が左に座っていた。
それが長く続きすぎたせいか、そうした習慣が体に染み付いている。
  だから、余計に寂しくなる。
「寂しいです」
  無音を掻き消すようにもう一度呟いたが、答えが返ってくる筈もない。
寧ろ隣に先輩が居ないことを余計に思ってしまい、目頭が熱くなった。
  乱暴に手指で拭う。
  いじめられ、辛いと思ったときに声をかけてくれた人。
  苦しいとき、呼べば駆け付けてくれた人。
  泣きたいときに泣かせてくれて、その後で涙を拭ってくれた人はもう居ない。
「会いたいです」
  死ねば会えるのだろうかと思ったけれど、すぐにその思考を捨てた。自殺なんて、
先輩が一番嫌いな行為だ。初めて会ったきっかけも、私の自殺を止めたことだった。
  どうしよう、と心で呟く。
「会いたいです、先輩」
「大丈夫よ、すぐに気にならなくなるから」

 振り向いた茉莉に向かってバットを振り下ろした。骨を砕く独特の感触が掌に伝わってくるのが
何とも気持ちが良い。昔から嫌いだったけれども、やっとすっきりできた。
「あはっ、死ね」
  長い間お兄ちゃんの隣に居た罪は重い、死刑にしても、尚軽いと思える程だ。
それでも優しいあたしは死刑で済ませることにした。お兄ちゃんが使っていたバットで
殺してあげたのはサービス、これなら茉莉も満足だろう。
「死ね死ね」
  お兄ちゃんを怒らせたり悲しませたりしたくなかったから我慢していたけれど、
死んでしまった今、あたしを止める人はもう居ない。心のもやになっていた泥棒猫も、
もうすぐ居なくなる。
「死ね死ね死ね死ね」
  積年の恨みを込めて何度も振り下ろす。手に伝わる感触は、もはや固い部分など残っていないと
あたしに教えてくる。それでもまだ足りずに何度も打ちのめした。
  数分。
  床に硬質なものが落ちる軽い音が聞こえて、漸くあたしはバットを止めた。吐息をしながら、
額の汗や返り血を拭う。全く、兄さんの部屋やベッドを汚して悪い泥棒猫だ。
「邪魔よ」
  あたしはベッドの上から茉莉の死体を退かすと、床に落ちていたものを拾った。

 ベッドの上、寝そべった由香は袖口で兄の遺骨を拭った。表面は何かで加工してあるのか、
血の跡もなく白い表面が表れる。それを満足そうに見つめて、兄の名前を呼びながら口付けた。
はしたない音をたててねぶり、とろけた表情で身をくねらせる。
  異常な光景だが、それを止める者は存在しない。
  由香は唾液で夕日を反射する遺骨を胸へと這わせ、そのまま滑るように股間へと移した。
既に洪水とも言える量の蜜を溢れさせているのが、下着越しでも分かる。愛液によって出来た
染みを広げるようにクロッチ部分をなぞり、由香は甘い声を漏らした。
「お兄ちゃん、早く、入れて」
  呟きながら下着を下ろし、秘部の中へと骨を侵入させた。粘着質な水音を響かせながら
細長いそれを出し入れさせると白く泡立った密に混じり、赤い液も漏れてきた。
溶けあって薄桃色になったそれを手指で掬い、嬉しそうに舐める。
  つい先程まで処女であった筈なのに、その顔は淫靡に歪んでいた。
  痛みを感じさせないような嬌声を響かせ、うっすらと汗をにじませながら、
由香の体が大きくのけぞった。数秒そのままの姿勢を維持し、やがて力が抜けたように肢体を伸ばす。
「お兄ちゃん」
  荒い息を吐きながら、虚ろな目で天井を見た。
「ずっと一緒だよ、あはっ」
  割れ目に挿入ったままの骨を撫でながら、満足そうに目を閉じた。
「あははっ、ずっと、ずっと一緒だよ」
  夕日だけじゃない赤い色に染められた部屋の中、由香の笑い声が響いた。

2006/09/09 完結

 

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