「これはストーカーですね」
大きな目でパソコンのディスプレイに映し出された物を見てなんの躊躇いもなく風乃は言った
長く艶やかな、長く黒い髪が俺の頬に触れた
『普通』の男ならくすぐったさの中に感じる仄かな香りにノックアウトだろう
けど、俺は世間一般で言う『普通』とは少し違う
全身に廻る冷ややかな物に負け少し距離を取る
「・・・・・」
その瞳には多少の怒りが伺える
普段あまり感情を表に出さない、彼女の珍しく見せる感情
人間離れした美貌にしばし見惚れてしまいそうになってしまう
優華がさばさばとした美少女なら、今目の前にいる少女は純和風の美少女だ
中学の頃、二人と一緒に出かけると嫉妬の嵐に飲み込まれそうになることがしばしばあった
名は上島芹
付け加えるなら超大金持ちだ
そして、ここは俺の部屋だ、なぜそんな超絶美少女が俺の部屋にいるかと言うと・・・・
ヨズキ、最近俺のクラスの転校してきたこれまた超絶美少女のネットでの名
そのヨズキとのメールでのやり取りと、オンラインゲームでのログを見てもらっているのだ
優華に相談しても良かったのだが、親友だという話しだし・・・・
けど付き合いが長いので彼女の話をすると優華が不機嫌になるのがわかってしまう
それに加え、優華は嫉妬深い・・・・どんな攻撃を受けるのか想像するだけで身震いする
なので、芹に頼んだのだが・・・・
怒っている、なぜだか・・・・怒っている
話を戻そう、なぜログを見せているかと言うと・・・・・
ヨズキは男だと言って、俺に近づいて来たからだ
しかしリアルで逢ったヨズキは優華や芹に引けを取らない美少女
これは戸惑わずには入れない
そして、俺はログを見返して顔を真っ青にした
俺はヨズキは男だと信じて疑わずに女の人には言えないようなことを何度も相談している
もちろん、女体の神秘についても・・・・
最後のやり取りが最近『彼女』ができたことを伝える物だった
「訴えましょ!すぐに社会的に抹消しましょう!ついでに優華とも縁をきりましょう!」
普段大人しい子がこうも興奮しながら迫ってこられるとすさまじく怖いものがある
顔が整っているの余計にだ
「なんで優華が出てくるんだ」
「あ、いえ・・・・つい本音が・・・・」
本音?ま、いいか・・・・ひとまず保留だ
今回のはただ怖くて人に話を聞いて欲しくて相談したのであって
月夜に報復するためのものではなかったからだ
不満げに頬を膨らませる芹をなだめて家まで送ると俺はすぐに部屋に戻り瞼を閉じた
『貴方を、私だけのものにしたい・・・・』
またあの夢だ・・・・そして、大きな音が俺を襲う
耳元に響くのは女の子の泣き声と近くの大人がざわめく声だけ
暗い視界が開く
「また・・・・か」
俺は起き上がるとなにもなかったように、制服に着替え学校に向かった
「和地〜〜〜!!!!!」
明るい声と共に背中に重みが加わる
ついでに柔らかな感触・・・・はわぁ〜
いかん、いかん・・・・・
なにをしているのだ俺は・・・・
「こら!抱きつくな!」
例によって女性恐怖症の症状はでない、
月夜はそれをいいことに毎日このようなスキンシップを取ってくる
「ひぃ!」
振り返る俺の視線の先には月夜ではなく教室から無言で俺を見つめる優華の姿だった
俺がガクガクしていると、赤い液体が彼女の身体に降りかかった
んな!――――背筋が凍った
ち、血か?ちょっとまった!こんなときは110番だっけ?119番?
なんだっけ、あわわ・・・・
あたふたする俺に優華は引きつった顔で笑むと手に持ったトマトジュースのカンを振りかぶった
どうやら、握力だけで握りつぶしたらしい、中身が噴出すほどだから、
完全につぶれているに違いない
あれ?あれれ?おかしいな・・・・カンが迫ってくるよ?
『カコーン!』と見事に俺の額に直撃するとカランカランと地面に転がった
あんた、メジャーリーグに行けるよ・・・・はは
『ふん!』と視線を反らす優華に俺は親指を立てた
我ながら惚れ惚れするほどの会心の出来だったと思う |