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4.0GHzの林檎(仮)



1

少年-日野 竜-の朝は、まず間違いなく寝坊で始まる。
竜が高校に入る以前から父親はアメリカにいた。無論仕事で。
彼が中学を卒業すると、途端に母親が父のもとへと出て行った。

何でも、『高校生なら一人暮らしぐらいして見せなさい』とのこと。

言いたい事をはっきり言うのは、母親の汚点だと竜は考える。
話がそれた。

彼には幼馴染が一人いる。
とは言っても学園のアイドルとか呼ばれてたり、何でもこなす完璧超人な幼馴染ではない。
端的に言えば、自己中・強欲・飾り気重視な、凡百の女学生だ。
しかし竜は彼女に告白したこともある。

まぁ、平々凡々な容姿の竜である。結果は目に見えていた。
フラれたのは中学卒業の日で。
その日以来、竜は彼女と目を合わせることもなかった。

其れほどまでに酷く扱下ろされたのだ。

竜は毎朝、食パンにマヨネーズ(時々からしマヨ)を塗ってハムをはさんで、
簡易サンドイッチにして食べる。
どうやら今日はまだ余裕があったようで、落ち着いて朝食を摂れる。

『では、今日は昨日の議会で決まりました【一夫多妻制度】について特集を行いたいと思います』

何となくつけたテレヴィションから、この現代日本では聞きなれない単語が聞こえてきた。

…結局、その日テレビに夢中になってしまった竜は、生涯で初めて遅刻してしまうこととなった。

Act.1

─side 竜。

竜が遅刻したことに、担任教師の女は強く言及しなかった。
それは恐らく竜が一人暮らしであること、体があまり強くないことを知っているからだろう。
気をつけろ、とだけ注意されて職員室から開放された竜を待っていたのは、
クラスメイトの少女・霧生ソラだった。

「お前が遅刻って、珍しいな?」
「うん。少し気になるニュースがあってね」
「・・・ニュースってな?鳥肌が立つぞ・・」
「一夫多妻制度が導入されるってさ」

教室まで歩きながら、暫しの談話。
一夫多妻ってなんだよ〜、などと漏らすソラに苦笑などをしてみる。
この少女といるとき、竜はひどく穏やかで満たされた気になる。

「一夫多妻ってのは、一人の夫にたくさんの妻がいてもいいってことだよ」
「へぇ〜。これもあれか、乳児化の影響かねぇ?」
「少子化だよ、ソラ。乳児化なんかしたら、日本はそれこそお終いだ」
「う、うるさいな。ミスだよ。ミステイクってやつさ!」
「もう、ソラったら・・・」

顔を真っ赤にして、喚く少女。
呆れ顔で、それでも楽しそうな少年。
廊下を並んで歩く二人を見つめる一対の瞳が、背後にあった。

 

 

─side 桜子。

「おはよう、竜君」

音楽室への移動の最中、少女と並び歩く部活仲間の少年を見つけて、
私は精一杯『いい先輩』『美人の先輩』『気さくな先輩』を演じて挨拶をする。
声に気付いてくれた竜君がこっちを向いて、

「あ、おはよう御座います先輩!」

あぁ、これだけで丼にご飯100杯はイケそうな笑顔。
当然、脳内の竜君フォトグラフに保存するのを忘れない。
これから一ヶ月、いや一年は今の笑顔だけで自慰に浸れる。
しかしそんな事を考えるのは後でいい。
今は『いい先輩』であることが最優先だ。
嫌われてしまっては、元も子もないのだから。

「今日は重役出勤なのね?また体を悪くしたの?」
(そうだったら、これからは毎日私が竜君をお世話してあげるからね)
「いえ、少し気になることをテレビでやってまして。」

苦笑で返してくれる竜君。
─まったく悪い子。自分の魅力を解せず、そんなにころころと表情を変えて、
私を魅了するんだから。お陰で濡れちゃったわ?─

内心、このまま襲いたくなる。
しかし私の一部がそれをとどめる。
チャンスはまだある。きっと、あるのだ。
…そのとき、竜君の隣にいた雌豚が始めて声をあげた。

「おい、もうすぐ授業始まるぞ?」

それを聞いて、私と竜君は同時に腕時計を確かめる。
こんなところで、私たちは通じ合っている。

「あ、そうだねソラ。じゃあ先輩、また明後日の放課後にでも」
「えぇ。では、授業をがんばってね?」
「はい」

あの雌豚。あいつがいなければ竜君とあと十秒も話が出来ていたのに。
それに、私でも、この私でも先輩なのに、呼び捨てにされている。
─…許しがたい。
この怒り、あの雌豚を四肢を裂いて身体中の肉を千切り、心の臓を抉り肺腑を穿ち、
達磨にした後浮浪者の穢れた精液漬けにしても許しえない。

ギリ、と歯軋りの音が聞こえた。

2006/08/25 To be continued.....?

 

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