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妻として



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 店内は薄暗く、オレンジ色の照明がカウンターの向こうに有るお酒の瓶に反射して煌めいている。

「どうぞ。」
  黒いタキシードを綺麗に着こなしている男性が、グラスを私の前に置いた。
  グラスにはやや黄色がかった色の液体が入っていて、グラスの縁にはレモンが半切れ、
  縦に引っ掛かっている。
  本当はもっとこのお店の雰囲気に合ったお酒を頼みたかったんだけど、
  私はお酒には強くないから仕方なく軽い物を頼んだ。

「それで、話って何ですか…?」
  私が口を開くと、隣に座っているここに連れてきた張本人がビクッと反応した。
「…もう、俺たちも長い付き合いだよな。」
  少しの静寂の後、私の恋人、康介さんがゆっくりとした口調で話し始める。

 初めは私と康介さんが出会った日の事。
  想いを打ち明け合った時の事。
  初めてキスした時の事。
  ゆっくりと…噛み締めるように話している康介さんの顔は、少し緊張しているように見えた。

「そう言えば、美樹は俺を呼ぶ時『先輩』としか言ったことが無いよな。」
  話が一段落した所で、康介さんがそう言う。
  私は、「康介さん」と呼びたいのだけれど、私には康介さんと一緒に居た学生時代が長すぎて、
  そう簡単に変えられない程に定着してしまったのだ。
  今更変えようとしても、恥ずかしくて変えることなんて出来ない。

「だって…今更、『先輩』から変えるなんて出来ませんよ…。」
  そう言った途端、待ってましたとばかりに康介さんが笑顔になる。
  康介さんの笑顔が私を射抜いて、初めて会った時みたいなときめきを感じた。
「その事なんだがな、美樹の『先輩』癖を治療するのに良い薬を持って来たんだ。」

 

 笑顔のまま、康介さんは私に向かって言う。
  だけど、その時の私には康介さんの言葉の意味が全く分からなかった。
  まさか、精神科とかで貰ってきた薬をそのまま私に飲ませる訳では無いだろうし…。
  第一、そんな薬なんて聞いた事も無いし見た事もない。

「その薬はな、飲んだりして体内に入れたりするタイプじゃないんだ。」
  そう言うと、康介さんは着ていたスーツのポケットから藍色の小箱を取り出した。
  てのひらサイズのそれを、康介さんは木で出来たカウンターの上に乗せる。
  それをぼんやりと眺めながら、私はグラスに少し口を付けた。
  これから少しでも飲んでおかないと、気持ちが変になってしまうかもしれないから。

「しかも高い金属と石で出来ていて、大体俺の給料の三ヶ月分くらいするんだ。」
  更に言ってから、康介さんは藍色の小箱にゆっくりと手をかける。
  側面の中程に有る切目に指を掛けて、上に引き上げると、それは簡単に開いた。
  中には、銀色に輝く輪が入っていて、頂点には眩く輝いている石が見える。
  その康介さんが出した物を見て、私は目の錯覚だと思い、しばらくまばたきしていた。
  何度まばたきしても消えないそれを見て、段々目が熱くなって、自然と涙が溢れてくる。

 このお店の照明を綺麗に反射して、私の目に映るそれは、私が秘かに願っていた物だった。

「…結婚してくれ、美樹。」

 そんな言葉が、いつになく真剣な康介さんの口から聞こえて、
  私はしばらく康介さんに抱かれて泣いた。

 

 それから数ヵ月後、康介さんと結婚した私は、二人だけが住む愛を育む場所に住んでいた。

「行ってらっしゃい、先輩。」
「ああ、行ってくる。」

 未だに恥ずかしくて康介さんの事を名前で呼べないけど、
  康介さんはそんな私をかわいいって言ってくれるし、
『先輩』って言っていた方が初々しかった学生時代の頃を思い出して、
  康介さんの愛を確かめられて良いと思う。

「あ…ちょっと待ってください。」
  康介さんがドアに手を掛けた所で、私はある事を思い出して康介さんを止めた。
「先輩…溜まってませんか?」
  もう二週間程前からだろうか。
  最近の康介さんは会社が忙しいらしく、家に帰ったらすぐ寝てしまうようになった。
  きっと、疲れているだろうからと思って、そのまま休ませていたのだけど……。
「あの…まだ少し時間があるみたいだから…先輩の…出して、あげますけど。」
  その言葉を言った途端、身体が熱くなってしまうのが感じられた。

 正直、身体がヘンな感じになってしまうのも無理は無いと思う。
  もう二週間も康介さんのせいで禁欲されている私は、限界を通り越していたから。
(…はしたないと思われてもいい。康介さん…私を抱いて下さい…。)
  でも、私の願いは叶わなかった。

「ゴメン、今日は朝早くから会議が有るんだ」
  そう言った康介さんは、そのまま家から出ていってしまう。
  康介さんが居なくなってしまった後も、しばらく私はそのまま佇んでいた。

 きっと、康介さんが冷たいのは、はしたない事をしてしまった罰なんだろう。
  これからしっかり従順な妻になれば、ちゃんと康介さんは帰って来る。
  そうポジティブに考えて、私は今日の妻のお仕事を開始した。

 

 その日の夜。
  少し早めの夕飯を作り終えた私は、康介さんの帰りを待っていた。
  いつもなら遅くても九時には帰ってくるけれど、もう日付が変わる時間帯になっている。

 椅子に座りながら、私はテーブルの上でラップに包まれた肉じゃがと焼き魚を見つめていた。
  ご飯茶碗とお椀は、私のと康介さんの分、二組共裏返しにしてある。
  私は、ご飯は一緒に食べると約束していたから、康介さんから言われるまでは
  勝手に食べないようにしていた。

 …そういえば、電気を付けてないや。
  暗くて良く見えない壁掛け時計を眺めると、部屋に電気が付いて無い事に気付いた。
  ぼんやりしているのは私の悪い癖だ。まさか、暗くなっているのに電気を付けるのを忘れるなんて。
  急いで電気を付けて、また椅子に座り私は康介さんの事を待つ。

 少し経って、カチャリ、と玄関の方から聞こえてきた。
  私の大好きな康介さんが帰ってきたんだ。
  早く康介さんの顔が見たくて、急いで玄関に向かう。
「おかえりなさい、先輩。ご飯にしますか? それとも…」
「悪い、疲れたから寝る。」
  そう言うと上着を私に渡して、康介さんは二階に上がってしまう。
  折角何時間も康介さんに言おうと考えていた台詞は、最後まで言いきる事が出来なかった。

 せめて、康介さんの匂いだけは感じていようと、私は康介さんに渡された上着に鼻を押し付ける。
  鼻孔に拡がる甘美な康介さんの匂いに、少しだけ違和感を感じた。
  それは、甘いような、キモチワルイような―――

「女のヒトの、匂いがする。」

 誰も居なくなったこの場所で、私は一人呟いた。
  そして、心の中にどす黒い感情が渦巻くのを感じて、
  その感情を消すために、もっと康介さんを愛そうと思った。

 

 私は康介さんの事を信じているし、愛し合っていると思う。
  だから、これは心の隅に有る邪念を振り払う為の、私と康介さんの愛の確認作業だ。

 私は、康介さんが今も働いているビルの向かいに有る喫茶店に居る。
  ちょっと、康介さんがどんな事をしているのか気になったからだ。
  あと、康介さんの鞄にはこっそり長時間録音可能のレコーダーが入っている。
  これさえ有れば康介さんが何をやっているのか手に取るように分かるし、特に何も無ければ
  一人で寂しい時に康介さんの声をいつでも聞く事が出来る。

 まだかな…。
  もう六時になったから、そろそろいつもの康介さんなら帰ってもおかしくないはず。
  そんな私の気持ちを意識してか、康介さんらしき人影がビルから出てくる。
  まるで康介さんと私は気持ちが通じあっているような気がして、
  窓に写る私の顔が笑顔になっていた。
  今の私を見てくれたら、康介さんはかわいいって言って
  キスしてくれるかもしれないと思いながら、康介さんに置いていかれるのは嫌だから、
  急いで会計を済ませて、康介さんの後を追う。

 少し早足で歩くと、いつもと変わらない康介さんが前に居た。
  スーツ姿でしっかりと歩みを進めるその姿は、やっぱり格好良くて、
  惚れ直してますます好きになった。
  でも、そんな康介さんの後ろ姿を見ながら、私は一抹の不安を覚える。
  私と康介さんが一緒に住んでいる家から、少し遠回りしているような気がしたから、
  私は知らず知らずの内に手を強く握って、掌に赤い跡をつけていた。

 

 しばらく歩いた所で、康介さんは二階建てのアパートの前で立ち止まった。
  ボロ臭さと陰気臭さがセットになったようなボロアパートの階段を、
  康介さんが自然な動きで上っていく。
  上りきって、少し歩いた所で、康介さんは勝手にドアを開けてアパートの中に入ってしまった。

「何で…?」
  私には康介さんの行動が理解出来なかった。
  もちろん、あのアパートが康介さんの男友達の家、と言うことも有る。
  でも、友達の家にわざわざ仕事帰りに向かうだろうか。
  ここは家に帰ってから向かっても、さほど変わらない距離なのに。
  ―――オンナの、ヒト?

 それは、康介さんには一番有り得ない事だ。
  だって、康介さんと私は、世界で一番愛し合っていて、今も心と心で繋がっているから。
  私の小指には赤い糸が今も付いていて、糸の先には康介さんが居る。
  だから、これは康介さんが望んでいる行動じゃないんだ。
  きっと、悪い人に騙されていて、仕方なく来ているに決まっている。
  だから、私は妻として急いで騙されている康介さんを悪い糞女から助けてあげなきゃいけない。

 そして、康介さんを苦しめたゴミに報復するのだ。
  無慈悲に、人間が脳に刻む事が出来る最大限の苦痛を与えて。
  自分が産まれてきた事に絶望して、人間からかけ離れた叫び声をあげても生温い。
  塵芥が命乞いをしても、早く殺される事を望んでも、永久に苦しませよう。

 そして、康介さんに抱かれて、頭を撫でられながら
「美樹は、俺の世界で一番大切な妻だよ」って囁いて貰うんだ。

 

 そんな康介さんと私の愛の邪魔者を確認するために、私は急いで鉄で出来た階段を上った。
  所々塗装が剥げて錆びているから、ここは建ってから結構経つのだろう。
  階段を上り切って、突き当たりまで歩いた私は康介さんが入った扉の前に立つ。
  表札は目を上げたらすぐに目的の物は見つかった。
  それは、白いプラスチックで出来た板に、黒い文字で堂々とドアの脇で自己主張している。

「斎藤 由紀…?」
  どんな醜い名前だろうと考えていたら、意外な人の名前が表札に書かれていた。
  その人は、康介さんの実のお姉さんでもあって、
  私の人生で康介さんに次いで長い付き合いの親友でもある。
  私の今の立場だとお義姉さんと言う事になるが、今でも大切な親友だ。

 私の頭の中で最後に見た親友の姿が投影される。
  綺麗に礼装を着こなしたお義姉さんは、私と康介さんに捧げる祝辞を読んでいた。

 でも、結局その祝辞は最後まで言うことは無かった。
  お義姉さんは、半分程読んだ所で、急に顔を押さえて泣いてしまったのだ。
  その時は、ただ立派になった康介さんや、
  成長した私を見て感動していたと思っていたのだけど―――
「まさか…ね。」
  私は昔からお義姉さんにこっそり康介さんとの恋の相談をしていたし、
  お義姉さんは応援してくれた。
  お義姉さんにも嫉妬してしまうなんて、
  と自分の嫉妬深い新たな一面を見て少し自己嫌悪をしてしまった。

 それから私は、中に入って、康介さん、お義姉さんと少しお話ししようか、とも思ったけど、
  お夕飯の準備もしなければいけないから、私は康介さんより一足先に家に帰る事にした。

 

「な…んで…?」
  時計を見ると、もう日付は変わり、三時を回っていた。
  でも、康介さんは未だ帰って来ない、もう、とっくに会社から出ていた筈なのに。

「なんで…よ…。」
  何故康介さんが私を独りにするのか理解出来ない。
  世界で一番愛し合っていて、私がテーブルを爪が割れるまでひっかき続けて耐えているのに。
  血の味が口一杯に広がる程に唇を噛んで待ち続けているのに。
  なのに、私の空間には康介さんが居ない。
  有るのは空虚と、今も康介さんを拘束している誰かへの嫉妬。
  胸が張り裂けそうで、私は自分自信を抱いて暖めた。
  目の前に、康介さんが優しく微笑んでいるのを想像して。

 苦しい、苦しいよ康介さん…。
  康介さん、何処に行っちゃったの…?
  あんなに愛し合っていたのに、私の気持ちを置いてけぼりにしてしまうの?
  これなら、あのアパートで康介さんを捕まえて、家まで一緒に帰れば良かった…。

「おい、どうしたんだ?」
  そんな時、康介さんの声が聞こえた気がして、部屋の扉に顔を向ける。
  でも、私の瞳には康介さんの姿が霞んで見えて、ますます私の気持ちを暗くするだけだった。
「康介さんっ…!」
  抱きついて、康介さんの胸に埋まりながら大きく息を吸う。
  …ああ、やっぱりオンナの匂いがする。

 臭い、吐気を催すその匂いを避ける為に、私は康介さんに抱かれながら康介さんの匂いを求めた。
「美樹…。」
「あ…は…康介さんの…匂い…。」
  私の身体は下の方に向かい、腰を降ろして、康介さんの匂いを一番感じる所に頬を擦り寄せる。

 

 頬を擦り寄せていたら、康介さんのアレが段々硬くなっていくのが感じられた。
  康介さんの硬くなるモノが頬を突く度、私に欲情してくれるのだと再確認出来て、
  顔が綻んでいく。

「先輩…おっきくなってきましたね。」
  もうすっかり元気になった康介さんのをさすりながら、私は康介さんに優しく言った。
  ズボン越しに感じる康介さんの感触に、口の中で唾液が大量に分泌される。

 本当はすぐにでも康介さんのアレを口に含んでくちゅくちゅしたいけれど、
  私は康介さんの従順な妻だから、
  康介さんに無許可で行為を始めてしまうのは、はしたなくていけない事だ。
  ちゃんと、康介さんからの許可を貰ってから始めるのが、妻としてのたしなみである。

「私に…先輩のコレ、楽にさせて下さい…。」
「…ああ。」
  康介さんの許しを得て、私はにっこりと微笑むと、ファスナーを口に含んでゆっくり下に下ろした。
  ファスナーを下ろした途端、濃い康介さんの匂いと湿っぽい熱気が鼻に伝わって、
  私の下半身から愛液が溢れていく。
  康介さんより先に興奮してしまうなんてはしたないと思いながらも、
  私は口を上手く使って康介さんの
  ペニスを外に出してあげた。

 康介さんのモノは、私を狂わせるのに充分過ぎる魅力を持っていて、
  愛おしくて堪らず私は口を近付ける。

 

 初めはこれから始める事を康介さんのにも許しを乞うように、鈴口にキスをした。
  キスした途端、ビクッと反応して私の鼻に柔らかい感触が触れる。
  そんな康介さんのアレの様子を見て、康介さんの方を見たら、顔が少し赤くなっていて
康介さんの事を可愛いと思ってしまった。
  更に、横、裏の方に口を付けて、康介さんの次の言葉を誘う。

「…口で、咥えてくれ。」
  …やっと康介さんのを味わう事が出来る。
  内心小踊りしたい程私の気持ちは高ぶりながらも、
  私は康介さんのペニスをゆっくりと口に含んだ。

 口に含んだ途端、康介さんの味が口一杯に広がって、意識が飛びそうになる。
  なんとか正気を保って、唇で扱きながら、舌を上手く使い康介さんを悦ばした。
  康介さんが悦んでくれるのが、手を取るように分かるフェラチオは、
  私のお気に入りの行為でもある。

「あむ……ふぁ…」
  粘膜と粘膜が擦り合って、クチュクチュといやらしい音が暗い部屋に響く。
  唾液が口から溢れて床を汚してしまうのも構わず、私は愛の奉仕を続けた。
  更に、先端から大量に先走った康介さんの液体を舐めとり、すすって嚥下する。
「ふぅ……」
  息が苦しくなって、一旦ペニスから唇を離した。
  もちろん、手は康介さんのを握ったままで、
  軽く扱いて刺激を絶やす事なく与え続けるのを忘れない。

「せんぱい…今日はどこに出しますか…?」
  康介さんもそろそろ我慢するのが辛そうな顔をしていたから、私は康介さんの希望を聞いた。
  妻として、夫の考えを第一に考えるのは当然の事だから、夫が出したい所に出させるのは
正しい妻の在り方と言えるだろう。
  他の雌犬だとすぐに自分の欲望を優先してしまうから、康介さんを満足させる事はまず出来ない。
  康介さんを十二分に気持ち良くして、射精させる事が出来るのは、世界で私だけだ。

 

「口に…出したい。」
「わかりました…私の、お口に一杯出してくださいね…先輩。」
  言い終わって、すぐに康介さんのペニスを咥えて激しく愛撫する。
  苦しそうな康介さんと、康介さんのペニスを早く楽にしてあげる為だ。
  康介さんは早く射精したくて、私は一刻も早く精液を飲みたい。
  双方の利益が一致する行動をお互いに楽しむなんて、何て夫婦らしいんだろう。

「もう…出そうだ…。」
  そんな事を考えながら口のピストン運動を続けていたら、康介さんに限界が来たみたいだ。
  急いで先端を口に含んで、根本を扱き、射精の時が来るのを待つ。

「…んむぅ!?」
  ペニスの裏に何かが通るのを舌で感じた瞬間、
  びゅっと康介さんの精液が私の口の中に吐き出される。
  最初はしゃくりあげたペニスを押さえ付けるのが精一杯で、
  射精を防ぐ事が出来ずに喉の奥に康介さんの精液が叩き付けられた。
  叩き付けられた途端、激しく咳き込みそうになったけど、
  その衝動を必死で押さえ付けて康介さんが出す精液を、私は全て口の中に受け入れる。

「ごほっ…ごほっ……」
  全て口に入れた後、耐えきれず私は口を押さえて咳き込んだ。
  康介さんがくれた大切な精液は溢さないように、そして誤って飲み込まないようにする。
  まだ、康介さんから精液をどうしするか聞いていないからだ。
  もし、勝手に飲み込んだら…。

 康介さんは、私の事をいうことを聞かない勝手な妻だから、
  と言って棄てられてしまうかもしれない。
  康介さんの判子が押された離婚届けを、テーブルに叩き付けられて、
  冷たい言葉を言われてしまうかもしれない。
  そして、私を棄てた康介さんは―――

 康介さんが知らないオンナの人と居るのを想像したら、頭が割れそうだった。

 

 そんな‘もしも’を振り払う為に、私は康介さんを悦ばすのに専念する事にする。
  口の中には未だにドロリとした康介さんの精液が池を作っていて、
  息を吸うと濃い精臭が肺に流れていった。
  康介さんの匂いがここに有るから、康介さんは私の物だ。
  そう考えたら少し元気になってきた。

「へんふぁい…へいふぇき、ほうふぃまふか?」
  精液のこれからを相談するために、康介さんに私は口を開く。
  口に貯まった精液のせいで、上手く喋ることが出来なかったが、
  口を開けてアピールしたので意味は通じたようだ。
「飲んで、美樹。」
「ふぁい…」
  精飲の了承を得た私は、名残惜しむように康介さんの精液を飲み始める。
  唾液で薄まったせいか、あまり抵抗も無く康介さんの精液は私のお腹の中に流れ込んだ。
  一杯飲んだから妊娠してくれたら良いな、とついでに私の身体に無理な注文をしてみる。

「お掃除も、しておきますね。」
  仕上げに、少し小さくなった康介さんの鈴口に唇で触れて、中に有る残滓を吸い出した。
  うどんをすすったような音がして、残りの精液も私の中に入る。
  更に、亀頭も舐めて綺麗にしたら、康介さんのはすっかり元の硬度を取り戻した。

「先輩…元に戻っちゃいましたね…。」
  あと一押しで康介さんのモノが私の中に入る…。
  もう私のはビシャビシャで、液体が外に流れるのを防がないと狂ってしまいそうだ。
  口には出さないけれど、誘うように上目づかいで康介さんにおねだりをする。

「ちょっと…始める前に風呂に入らせてくれ、汗がキツくてな。」
「は、はい。」
  期待していた台詞とかなり違う言葉が康介さんから出てきて、軽く動揺してしまった。
「先に寝室で待っててくれ。」
  そして、そう言うと康介さんはお風呂場に向かって歩き出す。
「もう…。」

 ほてり続けている体をどうしたら良いか考えていたら、康介さんの鞄が目に入った。

 

 …レコーダーは今も録音を続けているのだろうか。
  鞄を開け、手を入れて探したら簡単に、入れておいた棒状のレコーダーが見つかった。
  小さな画面に『REC』と黒い文字が表示されているから、
  見付からず康介さんの声を録音し続けていたのだろう。
  録音の状態を止めて、ポケットにしまい二階の寝室に向かう事にする。

「はあ…。」
  寝室に有るダブルのベッドに横になって、私はレコーダーを見つめた。
  ほっそりした棒状レコーダーには、先端にマイクがあって、
  私は機械には詳しく無いが店員の話ではかなり高性能らしく、
  録音された声は誰の声か容易に聞き分けることが出来るらしい。
  少し私の財布が痛んだが、これからの生活の為だ、仕方ないだろう。
  少なくとも、これに康介さんを誘惑しているゴミ女の正体が録音されているかもしれないのだから、
  それだけで何万もかけて知らない機械を買った甲斐が有ると言うものだ。

 そんな事を思いながら、でも、私は録音された音を聞くのは恐ろしかった。
  ―――もし、康介さんとゴミ女が仲良くしていたら。
  そんな事は無いと思いながらも、私は『再生』を押すことが出来ない。

 今日は…お義姉さんの家で話し込んじゃって遅くなったんだ。
  再生してもお義姉さんと康介さんが話しているだけで、
  知らない人と康介さんが密会してるワケじゃない。
  『再生』を押して、何も無ければ、安心して康介さんと一緒に愛し合う事が出来るんだ。

 未来の希望と康介さんへの信頼が、私の震える指を動かして、小さな『再生』のボタンを押した。

2006/08/16 To be continued....

 

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