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しっとな日々



1

「月夜月夜憑きYO月夜〜〜っ!!」

「えぇいウルサイっ、人の名前連呼するな、あと字が違うのが一回あったぞこらっ!」

昼休み、屋上で一人もふもふとサンドイッチを食べていたら、
一応友人である佐倉 美星(さくら みほし)が雄叫びの如く叫びながら現れた。
ぷぷ、女なのに雄叫び、ぷくくくっ

「ちょっとぉ、一人ベクトルの違うツボ入った笑いしてないで話聞いてよ〜っ」
「失礼な、笑いのツボが独特と言いなさい。で、あによ?」
うん、あのね…と言いつつあたしの隣に座る美星。
シャギーのかかった栗色のショートヘアーに、まぁ見栄えは良い顔立ち。
一見美少女一歩手前、中身暴走爆進お馬鹿な友人である。

「何か今、物凄く失礼な事を考えてなかった?」
「あんたエスパーか、レベルは5位か?」
「考えてたんかいっ、って漫才してる場合じゃなかった、大変だよ月夜、大変なんだよっ?」
いや、疑問系で言うな、意味分からないから。
まぁ、あんたの頭が大変なのはよく分かったけどさ。

「その汚い耳の穴かっぽじってクスコで拡張してプラグ詰めて聞いてねっ」
いや、最終的に聞こえないだろ、それ。と言うか誰の耳が汚いだぁコラ、ア〇ル扱いするなっ。

「あのね、和磨君が穢れた売女と恋人になっちゃったんだよーーーっ!!」

…………ほぇ?

「美星、ワンスアゲイン、もう一度」
「だから、私の愛しの王子様の和磨君が、淫乱汚物売女の告白受けちゃったんだってばぁっ!!」
うわ、珍しく泣きそうな顔だ美星。
と言うか、え、マジで?
か、和磨が?人違いでなくて?
「か、和磨と言うのは反逆している人とか、じゃなくて?」
「不動 和磨、通称笑わずの和磨の和磨君だってのっ」
…………最悪だ。
最悪で最低で最高に最悪だ、あの和磨が、私の和磨が、女と…つきあうだとぉっ!?
許せん、何が何でもそれだけは許せん、許してたまるかコンチクショウ!
「どうしよう月夜、やっぱりあれかな、手始めに下駄箱に猫のウンコ入れて、
そんで包丁でブスリかなっ?」
「いや、落ち着け美星。周囲に迷惑な嫌がらせの後殺害って飛び過ぎだから」
あははは、目の前の友人のお陰で怒りが冷めちゃったよ、どうしてくれるこの暴走お馬鹿。
まぁ、私としては嫌がらせは大いに結構なのだが、流石にブスリはねぇ、駄目だよねブスリは。
「せめてサクッ、にしておきなさい」
「月夜、それあんま変わらない」
そうかしらん?
まぁとりあえず。
「美星、情報収集に行くわよ。敵を知り己を知るのが勝利への一歩」
「了解、そのついでに和磨君の体操着を拝借しよう、今日三時間目体育だったから…じゅるり」
こらこらそこの見た目一応女子高生、その行動はあまりにオヤジで変態ですよ。
そういうのはバレないように密かに楽しむのが乙女なんだから。

手早くサンドイッチのゴミを片付けて、あたし達は屋上を後にした。

Mission1 『ターゲットを捕捉せよ』

いまだ昼休みの廊下を駆け抜け、和磨の在籍している教室前へと到達する。
いや、ぶっちゃけ自分のクラスなんだけどね。
「それで、告白した女の情報は?」
「うん、同じクラスの綾瀬 光っていう雌豚だよ」
ナチュラルに口悪いわね美星。まぁもう慣れたけどさ。
それにしても…
「綾瀬か…強敵ね」
そう、この上なく強敵なのだ、綾瀬 光という女は。
今時珍しい大和撫子を地で行く才女。
温室育ちのお嬢様って言葉がよく似合うのだこれが。
おまけにマイペースでボケボケ。
ある意味メイン張れるヒロインタイプね。
「で、どうする月夜、やっぱり机の中に生ゴミ入れて、
階段突き落とした後全力での踏みつけが理想かな?」
「だから周囲にまで影響ある嫌がらせの後に殺すなっての」
全く、殺るなら完全犯罪を目指さないと。
そう、それも惨めで悲惨で最高に残虐な死に方を…
あれ、結局同じかあたし?むしろ酷い?
「つ、月夜、大変大変っ」
「あによ?……って、なんじゃありゃぁっ!」
教室の後ろの扉から中を覗き込むと、そこには――――

「不動くん、美味しいですか?」
「ん」
「良かった、このから揚げも自信作なんですよ?」
「ん」

――――バカップルオーラ全開の二人が居た。

「……………………」
「美星美星、無言でカイザーナックル装備しない」
「なによ、そう言う月夜だってナイフ出してるじゃない」
おっといけない、一応学校だってこと忘れてたわ。
まぁドンマイ私、あんな光景見せられれば誰だってこうなるわよね。
現に、クラスに居る男子が殺意の視線で和磨睨んでるし。
でも流石だ和磨、全く動じてない。その苗字は伊達じゃないんだね。
「えぇい憎々しい憎々しい、和磨君に手作り弁当だなんて…私も食べて欲しいのに、
むしろ私が食われたいみたいな?」
「カニバリズムじゃないっての和磨は」
まぁ、私も食われたいけど。むしろ食べちゃいたいみたいな。
おっと、想像して少々濡れてしまった。
でも大丈夫、多い日でも安心ですから。
「で、とりあえずどうする?」
「そうだね、もう昼休みも終わるし、放課後までに各々で対策考えよう」
いまだにあの和磨が告白にOK出したことが信じられないが、
和磨とイチャイチャしているあの女は許せない。
なので、ちょいと痛い目に遭ってもらうことにしました、えぇ決定ですとも。

和磨と親しくしていいのは、あたしと美星だけって決まってるんだから…さ。

3

淡々と進行する午後の授業。
本日の五時間目はMrラリホーマこと歴史の本田。
句読点が存在しないかのような独特の言葉に、クラスの半数が眠りの世界。
「すぴ〜、すぴ〜…」
ほら、あたしの後ろの生徒も熟睡中…ってこら美星、寝るなバカ、作戦考えろって言っただろっ!
あぁもう、本当にこのおバカ娘は…。

「…………………………」

ちらりと、横目で和磨の姿を覗き見る。
和磨は他の男子のように眠らずに、一心不乱に――――ニ〇テ〇ドーDSやってた。
駄目じゃん。
まぁ兎も角。
横目で窺う和磨は、やっぱり素敵だ。
無口無表情無愛想の三無を極めた和磨の表情はやっぱり無表情。
だけど、あたしには分かる。
今の和磨の状態は、恐らくスパ〇ボとかで敵を撃破している歓喜か愉悦だろう。
和磨はクールで紳士に見えるが、実際はかなり腹黒くて残虐で鬼畜な男だ。
その危険っぷりが逆にあたしにはカリスマ的でもうグッドなんだけどね。

あたしと和磨の出会いは小学生の時。
当時、家庭の環境から荒れていた私は、とんでもない悪ガキで、悪童女なんて呼ばれてた。
友達は一人も居なくて、唯一の友が美星だった。
美星も家庭環境のことで周囲から孤立していたいじめられっ子。
あたし達は、お互い似た境遇であることに一種の仲間意識を持っていた。
二人だったら寂しくない、二人だったら怖くない。
そんな関係だった。
ある時、あたし達二人は前々から敵対していたガキ大将グループに囲まれてしまった。
流石に数には勝てず、あたし達は紐で縛られて蹴られまくった。
やがて、小学生の好奇心が異性の身体に興味を示し、あたし達の服を脱がそうとし始めた。
その時、和磨が来てくれた。
ただ、登場が普通じゃなかった。
「待て!」とか、「やめろ!」なんて言葉を発して登場するのがヒーローだけど、
和磨はまったく違っていた。

―――ゴズッ!―――

鈍い、嫌な音が響いて、ガキ大将グループの一人が倒れた。
倒れた理由は頭を鉄パイプで殴打されたからで、
殴打したのは不気味な無表情を張り付かせた当時の和磨。
「な、何するんだよおまえっ!?」
「ひ、ひとごろしだぞっ!」
騒ぎ立てる連中を和磨は一瞥して、鉄パイプで再び殴りかかった。
その後はもう阿鼻叫喚の地獄絵図。
泣き叫ぶ小学生を、同じ小学生が無表情に鉄パイプで殴り倒す、そんな光景。
今思うと、普通にトラウマ光景だよな、あれ。
グループのガキを全員半殺しにした和磨は、無表情にあたし達の紐を解き、
無表情にあたし達二人の頭を撫でて、そして去って行った。
普通なら恐怖やら畏怖やら抱くのだろうけど、
どうもあたしも美星もその辺りの感覚がおかしいらしい。
なにせ、そんな和磨に恋心を抱いたのだから。
それも強く。
後日、当然和磨は学校やら警察やらで呼び出された。
何を聞かれても答えず、怒鳴られても動じない和磨に、大人達は気味悪がっていた。
もっとも、怒鳴っていた大人達、悪ガキどもの保護者はその後大恥かいて帰っていったけどね。
あたしと美星が校長室に飛び込んで、あの連中のことあること無いこと叫んでやった。
教師達の間でも持て余していた悪ガキどもだけに、効果抜群。
ざまぁみろだ、へへへ。
…でも、和磨のやった事は過剰防衛と言われ、厳しく叱られていた。
でも、心配で窓の隙間から覗き見ていたあたし達に、和磨は少しだけ笑みを見せてくれた。
もうここで完全にアウト、あたし達の心には、キューピットの矢なんて目じゃない、
ロンギヌス級のぶっといモノが突き刺さった。
それ以来、あたし達はつかず離れずの位置をキープし続けた。
本当は恋人以上の関係になりたいけど、和磨は煩わしいのを嫌う。
だから、影から見つめ続ける、それがあたし達の恋愛協定。

でも、あの女は図々しくも和磨に近づいた。
これだけでも許せないのに、告白、恋人、手作り弁当。
もう許せない、許さない。
綾瀬 光、あんたには最高に悲惨で惨めな目にあってもらう。
そう、最高に悲惨な、惨めな思いをして―――死んでくれよ?

2006/08/04 To be continued....

 

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