「ふふ、いい様ね――――」
まるで抜け殻のような女を見下し私は微笑した
口の端から唾が垂れ、床にはいたる所に彼女の憎悪の証のサインが残されている
目は色を失い、生気はなく『生ける死人』の状態だ
最初の方は私や冬香を見るなり憎悪の眼光を刺すように向けてきたけど――――
今は死人、私を見ても何の反応も示さずにゆらゆらと揺らめく瞳は天を見つめ動かない
口にしてあった声を出せないようにしていたモノは既に取ってある
なぜか、それは・・・・声すら発することの出来ない程に見せ付けたやった
私と涼ちゃんが愛し合う姿を・・・・
冬香と涼ちゃんが愛し合う姿を・・・・
「どうしたの?言い返さないの?南・条・秋・乃――――さん?」
遥か高みから言い放ってやる
薄汚れた売女のくせに私の涼ちゃんに恋慕するだなんて許せなかった
心が自分のモノにならなかったからって監禁し、陵辱するだなんて――――
私は思った――――
この女には死よりも遥か大きな苦しみ・・・・そして醜い死を――――
その身に刻み付けてやると――――
死以上の苦しみ与え、廃人にした―――――
あと、は――――
私は隣に居る冬香と頷き合うと廃人と化した南条秋乃の拘束から解いた
何の反応もない、くふふ――――ふはははは!
やった!やったわ!まさかここまで出来るなんて思ってもなかった
人間をここまでどん底に落とすことが出来るなんて思ってもなかった
落ちなさい、もっとよ!もっと!もっと奈落に落ちるの!
これは――――最後の工程よ
生ける死人を崖まで連れて行って冬香と一緒に突き落とす
まるで腕が天空へと伸ばされる、生きることにまだ執着しているの?
許さないわ、死になさい・・・・このまま
幸いなことに南条秋乃は失踪扱いになっている
警察の人は事件性はなし、ただの家出と判断したからだ
あの時といい、今回といい――――ほんとバカみたい
それにこの辺りは自殺の名所
入ってくるのは自殺志願者だけ、地元の人も年に一人か二人程度が入ってきて山菜を採るのみ
まず見つかる可能性はない
「バイバイ、負け犬さん――――」
「あは、やったね、お姉ちゃん♪」
「ええ、やったわ!やっとよ!」
人を殺した罪悪感などはまるでなかった
あるのは南条秋乃を殺せた喜びと涼ちゃんをこの手にした至福のみ
身を震わせ歓喜する、『ついにやってやった』と――――
「涼ちゃん!聞いて♪」
帰るなり私と冬香は涼ちゃんに抱きついてこの喜びを伝えた
「南条秋乃がね!消えたんだよ!お兄ちゃん!」
「そうなの!だから、もうなにも怖がることはないのよ♪」
「ほ、ほんと?」
信じられないとばかりに涼ちゃんが不安げに聞いてきた
安心して、これからはずっと一緒よ・・・・
涼ちゃん――――
「あ、ああ――――」
恐怖、憎しみ、愛憎、悲しみ――――
その全てを喰らって『彼女』は戻って来た
愛する『彼』の元に・・・・
「な、南条・・・・秋乃・・・・」
『彼』の恐怖が木霊した
「ダメじゃない、殺すんなら――――徹底的にやらないと!」
冷たい手が夏美の頬を這って行く
振り返る夏美の視界が微笑む青ざめた肌の『彼女』でいっぱいになった
右手は優しく夏美の頬を愛撫し、左腕はあらぬ方向へ折れ曲がりその機能を失っている
全身が水に濡れ、白い服に赤い点が浮かぶ
後ろに広がる死の世界を前に夏美は死の恐怖を身近に感じた
自分は死ぬのだ、そう思った瞬間――――
夏美の喉が裂かれ『彼』に夏美の血が降り注いだ
「きゃはははぁ!!!!」
死神が嗤った、この世のものとは思えぬ声で――――
「嫌!嫌ぁぁぁぁぁ!!!!!!」
生にすがり逃げ出すとする冬香
「あら、逃げちゃだめよ――――」
冷たい手が冬香の脚を掴んだ
「――――ッ!」
冬香の身体が一瞬宙に浮かび倒れた
「なにが愛してるよ、結局逃げるんじゃない――――」
『彼女』は微笑し倒れた背中の上に馬乗りになった
「やっぱり涼さんには私しか居ないの、これでわかったでしょ?」
『彼女』が振り返り返り血を浴び呆然とする『彼』に笑って見せた
あまりに美しいその笑みに『彼』は蛇に睨まれた蛙のように硬直する
「死ね、カスが――――!!!!!」
「嫌ぁぁぁぁあああああああああああ!!!!!!」
死が互いを別つ時までずっと一緒ですよ、いえ――――
死を迎えても二人はずっと一緒です――――
そう、二人はず〜っと、ず〜っと――――
一緒です――――
涼さん、愛してます――――
私はずっと、あなたの私でいます――――
だから、これからもずっと――――
私だけの涼さんで居てください――――
私はようやく手に入れた、私の世界を――――
涼さん、あなたと私が作る美しい世界で、いつまでも一緒にいましょう――――
もう、誰にも邪魔させない、私と涼さんの愛を――――
ずっと、ずっと一緒だよ、涼さん――――
FIN『キミ想う』 |