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姉妹日記 『もう一つの姉妹の形』



8C

「秋乃さん・・・・どうしてここに?」
「恋人なんですから、家族が居ない間は私が面倒みないと・・・・そうでしょ?」
  どうして夏姉ちゃんと冬香がいないのを知っているのかそんなことどうでもよかった
「秋乃さん、話があるんだ・・・・ちょっとこっちにきてくれないかな?」
  僕がそう言うと彼女はエプロンを脱ぎ火を消してこちらにとことことやって来た
  僕の前までやって来ると秋乃さんは、はにかんだ
  昔の僕なら、この笑顔に一発でノックアウトされていただろう
  でも、今は・・・・彼女が・・・・信じられない・・・・
「前にも言ったよね?僕・・・・キミのこと信じられないって・・・・・」
「あれは、でも・・・・あんな些細なことで・・・・」
「キミにとっては些細なことかもしれない・・・・でも」
  好きな子が、双子の姉妹と入れ替わって僕と接していた
  その理由は解らない、でも僕に嘘を付いたのは事実
  僕は南条秋乃が好きだった
  けれど、僕の好きな南条秋乃はどっちの南条秋乃なのか解らない
「謝ってるじゃないですか・・・・だから、そろそろ許してください・・・・
  それにほら、私のこと好きだっていってくれたじゃないですか」
「なら、教えてよ!僕の好きだった南条秋乃はどちらの南条秋乃なの!キミ?・・・・それとも、
  双子の妹さん?」
  彼女にこの答えが解るわけが無い、だって僕の想いだから
  僕にしかわからないことだから・・・・
「私です♪」
  僕は驚いていつの間にか下げていた顔を思い切り上げ彼女を見た
「どうして、断言できるの・・・・」
「だって、私と涼さんは赤い糸で結ばれているから・・・・」
  頬を赤に染め身体をくねらせる秋乃さん
  こんな可愛いらしい姿に男ならドキリとするはずなのだが・・・・
  僕には恐怖しか、なかった
  完璧だ・・・・完璧な・・・・・
「こ、これ以上・・・・僕に付きまとわないで!」

 怖い、その可愛らしい顔が・・・・
  怖い、その愛らしい瞳が・・・・
  そして、思い出す・・・・彼女の記憶
  初めて逢った日・・・・
  メガネを掛けていて髪はおさげ、クラスでは目立たない子だった
  今は覚えていないほど些細なきっかけで話す様になって気さくで優しい子なんだ気づいた
  容姿の相談をされたとき初めて、彼女が魅力的な容姿をしていると気づいた
  彼女がクラスの女子のリーダー格にイジメに遭い泣いている彼女を見て僕が割ってはいり
  イジメをやめさせると彼女はこれでもかって位にお礼を言って涙した
  涙しながらも笑顔を作る彼女を見て気づいた
  僕は彼女を護りたい、彼女が好きなんだと・・・・・
  高校に入って、すさまじく可愛らしくなった彼女
  あまりの人気ぶりに少し寂しくなった
  けれども、会話してみて変わっていない彼女を見て安堵した
  年明け、告白されて正直嬉しかった・・・・
  告白も受ける気でいた・・・・彼女が
  好きだったから・・・・・
  その後、自分から告白しようと思った時に夏姉ちゃんから『あの事』を聞くまで僕は・・・・
  彼女が好きだった・・・・
  あの出来事のあとの彼女は・・・・僕にとって恐怖でしかなかった
  何度も送られてくるメール・・・・毎日何十回も掛かってくる電話
  バレンタインの日、ふと振り返ると居たにこやかな彼女・・・・
  家に帰ってふとカバンを見るといつの間にか入っていた、チョコを見て驚愕した
  怖かった、どうしょうもなく・・・・彼女が・・・・
  だから、ここで決着を付ける・・・・
  ここではっかりと拒絶しておかないと泥沼にはまり込んでしまう
「キミのことが・・・・信じられない!怖いんだ!」
  だから、もう僕のことはほっておいてくれ・・・・
「・・・・・・・」
  彼女は無言で俯いた
  腕を少しぶらぶらとさせゆっくりと近い距離をさらに近づけてくる
「涼さん・・・・」
「今まではゆっくりと治療しようと思っていましたけど・・・・これは早急な治療が必要ですね」
  ゆっくりと顔が上がった
  その瞳から伝う涙の意味するものが・・・・僕にはわからなかった
「我慢してくださいね・・・・涼さん・・・・・私も悲しいんですよ、辛いんですよ?」
  か細い指がゆっくりと僕のほうに向かってくる
「く、来るな!!!!」
  僕は踵を返し、急いでその場から逃げ出した

 

 とりあえず自分の部屋の飛び込みドアを閉じ鍵を掛ける
  助けを、夏姉ちゃん・・・・冬香・・・・・
  ケータイを探してポケットをごそごそといじくる
  ない・・・・
  辺りを見回してケータイを探す、充電器のみで本体が無い・・・・
  僕が机の上を探そうとしたときだった
     
       ドンドンドン!!!
       ドンドンドン!!!
       ドンドンドン!!!
 
  みしみしと音を立てドアが激しく叩かれた・・・・
「ひ・・・・・」
「涼さ〜ん、開けてくださ〜い!」
  秋乃・・・・さん・・・・・もう・・・・・勘弁してよ・・・・
「来るな・・・・来るな!!!!」
「涼さんは病気なんです・・・・私が治療してあげます・・・・だから早く出てきてくださいよ〜」
  なにが病気だ、病気なのはどう考えてもキミじゃないか・・・・・
  僕はドアから目を離さずに手探りで机をまさぐった
  ない、ない・・・・どこだよ・・・・
「ケータイなら、私が拾っておきましたよ・・・・」
  僕の考えを見透かした秋乃さんがそう言った・・・・
  もう逃げ場はなかった・・・・・
 
  いったい何時間僕は恐怖に堪えていたのだろうか?
  気づいた頃にはもう時間は深夜だった
  僕は恐る恐るドアを開き廊下の様子を伺った
  誰もいない・・・・
  僕は辺りに細心の注意をはらいながら廊下に出ると音を立てないように一階に降りて
  電話を手に取った・・・・
〈ふわぁ、どうしたの・・・・お兄ちゃん・・・・・〉
「こんな深夜にごめん・・・・実は・・・・」
  ガチャ・・・・・・
  小さな音と共に電話が切れた
「はぁ・・・・はぁ・・・・・はぁ」
  息が荒くなる、手が震える
  その震える手を冷たい手がそっと触れた
「捕まえた・・・・ふふ♪」
  ドアを叩きすぎて痛々しく腫れ血が流れるその指一本一本が妖しく動き
  恐怖で動けないでいる僕を静かに押し倒した・・・・
  丁寧な動作で僕の服を脱がし、彼女はこれでもかというほど笑んだ
「さぁ、治療を始めましょうか・・・・涼さん♪」
  僕の見た秋乃さんの笑顔の中で一番輝いていたのはこの笑顔だった

 

           原案協力
           ID:qHrtV38X様
           ID:AlrB1mWC様
           ID:HC9HFMGk様
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           ID:3gLpz3fG様

9C

「あ、秋乃・・・・さん、やめて・・・・」
  涼さん、そんな目で私を見ないでください
  痛い、痛い、痛い・・・・恐怖と哀れみの混じった瞳を・・・・
「涼さん、選んでください・・・・」
「え・・・・?」
「私を、選んでください・・・・」
  私だけを見てください、他の女なんて目もくれずに私だけを・・・・
「ご、ごめん・・・・僕」
「どうして!どうして私を拒絶するの!?
  中学の時言ってくれたじゃないですか!
  キミは可愛いって!私あの時嬉しかった!
  だから、頑張っておしゃれした!!
  恥ずかしかったけどスカートだって短くした!
  髪型も有名な美容師さんに頼んで女の子らしくしてもらった!
  なんでかわかりますか!?
  涼さんに綺麗だって、可愛いって!
  もっと、もっと!もっと!もっと!言って欲しかったから!!
  私を見て欲しかったから!!!
  ちゃんと私を私として見て欲しかったから!!!
  でも、自信が持てなかった!私は地味な子で涼さんは眼中にないと思ってた!
  不安だったから!だから春乃に頼んで涼さんのこと色々聞いてもらったの!
  私はあと一歩が踏み出せないから!?でも涼さんのこと知りたかった!!
  涼さんの好きなもの、涼さんの好きな食べ物!涼さんの好きな映画!
  好きな女の子の髪型!好きな女の子のタイプ!
  いっぱい!いっぱい!もっと知りたい!涼さんのこと涼さんよりも知りたかった!!!
  自信がなかった!だから、春乃に涼さんのこと聞いて私は涼さん色の私になりたかった!
  みんなあなたの為にしたことなの!解ってくれますよね!?
  不安だっただけなんです!入れ替わったのも告白の時とデートの時だけです!
  もう、二度としません!!謝ります!それでも許せないのなら!
  私に全部ぶつけてください!激しく折檻してください!
  激しく抱いてください!私が痛がっても止めずに激しく!
  私、涼さんの為なら何でもします!あなたの為なら死んだって構わない!!
  だから・・・・私を・・・・受け入れてください」

 ほんとんど息継ぎなしで私は涼さんに訴えた
  私がどれだけ涼さんを想っているか、どれだけ愛しているか
「僕は・・・・」
  ようやく私の想いが届いたのか涼さんは少し頬を染めた
  そして、申し訳なさげに私を見つめる
「キミの想いはわかった、でも・・・・僕・・・・」
  なに!解ってくれたんじゃないの!!!
  ならどうしてよどむの!聞かせてよ!
  愛してるって!私だけをって!!!!
  どうして!?どうしてなの!!!
  ・・・・どうして・・・・
  不意にあの女どもの顔が浮かんだ
  己の不幸を逆手にとって、涼さんと同居しているあの二人の顔を
  今まですっかり忘れていた、そうだ・・・・あの女どものせいなんだ
「あの女どもになにを吹き込まれたの・・・・」
「ち、違う!全部・・・・僕のせいなんだ、僕は二人に逃げたんだ」
「・・・・それ、どういうこと」
  火山の噴火前のようなぐつぐつと岩の溶ける音が耳に入ってきた
「抱いたの、あの二人を・・・・」
「・・・・」
  何も言わない、これは・・・・肯定だ
  がん・・・・!
  押し倒した状態のまま私は涼さんの肩を思い切り掴んだ
  痛みに顔をゆがめる涼さん・・・・
「あ、ごめんなさい・・・・」
  お詫びの印に私は涼さんの両肩を舐めてあげた
  気持ちよかったのか、涼さんは小刻みに身体を震わせた
「僕にはキミに愛される資格なんて・・・・ない」
  嘘・・・・嘘だ、嘘だと言って!!!
  ・・・・思い出した、涼さんは病気なんだった
  だってそうでしょ?私を受け入れられないなんて病気以外の何ものでもない
  あの女どもの汚れた肌が私の涼さんに触れた
  汚れたそれが涼さんの身体を巡り、身体を病魔に犯された

「涼さん、ここまで言っても解ってもらえないようですね」
  半裸だった涼さんをさらに裸に近づけていく
「あ、秋乃さん!」
「先ほど言いましたよね?涼さんは病気だって、だから私が治してあげます
  大丈夫ですよ、こう見えても私は医者の娘、多少の医学知識はあります」
  それでも拒絶の行動をやめない
  ・・・・これは深刻です、はやく治療を
「やめてくれ!!!」
  何かが私の中で弾けて零れた
「許さない!あの女ども!私の涼さんを汚したばかりか、洗脳までして!!
  そうですよね!涼さんは優しいから、今の状況では私を受け入れられない!
  涼さんの優しさに付け込んで、許せない!!!
  大丈夫ですよ、あとであの女どもにはきっちりとお灸を据えます!
  聞かないようなら二度と涼さんの近くに来れないようにズタズタにしてやるんだから!!
  涼さんは何も悪くありません!さぁ、私と愛し合いましょう!」
  私は下着を脱ぎ涼さんの陰茎を自分の恥部にあてがった
  治療を始めますよ・・・・涼さん
  くちゃ!
  水音と共に涼さんのが私の中に侵入してくる
  すぐに全身を痛みが巡った
  私の純潔が涼さんに貫かれた証拠だ
「く・・・・ふぅぅぅ!!」
  痛い、痛い・・・・膣内が裂かれたような感覚
  けれでもその激痛ですら、今の私にとっては快感そのものだ
  この痛みも苦しさも全部涼さんが私にくれるモノ
  嬉しくないわけが無い
  私は涼さんを喜ばせる為に腰を振り、涼さんの快感を誘う
  すると涼さんはうまく私の腰の動きと自分の腰の動きをシンクロさせた
「な、慣れてる・・・・」
  涼さんは少なくとも性経験がある
  それは先ほどの会話からも理解できる

 けれども理解は出来ても納得はしない、あの女ども・・・・今後涼さんに近づくようなら
  地獄のどん底に落としてやる、死よりも苦しく辛い思いをさせてやる
  そうね、まずは涼さんの治療からね・・・・
  そのあと、あの女どもの前で涼さんに十万回・・・・もっともっと
『愛してる』って言ってもらおう
  それで涼さんと私が交わる姿をたっぷり見せてやる
  泣いて叫んでもやめてやらない
「うく・・・・秋乃・・・・さ」
  あ、いけないいけない・・・・今は涼さんの治療に専念しなきゃ
「胸・・・・見えてたほうが・・・・興奮するよね?」
  胸元をはだけさせ、下着を取り胸を露出する
  そして涼さんの手を取り胸に当てる
  涼さんの指がわずかに動き感触を確かめる
  そうだよ、涼さん・・・・心の中に私を染み込ませるの
  私の感触を・・・・私の温もりを・・・・
  忘れられないくらいに・・・・
  私は涼さんを深く口付け唾を流し込んだ
  涼さんは一瞬戸惑いの表情を浮かべたけどすぐに私のを飲み干した
  身体の中から私のを侵食させ、もう私以外のことを考えられないようにする
  そうすれば、涼さんは私を拒絶をしない・・・・他の女を見ることも無い
  私以外の女を見るなんて、重症の中の重症だよ
  でも大丈夫だよ、私がすぐに直してあげるから
「涼さん・・・・涼さんは私以外の女を見ちゃいけません、触っちゃいけません、
  触れられてはいけません」
  独占欲が爆発する
「話してはいけません、同じ空気を吸うことすら汚らわしいと思ってください・・・・
  もし破ったら・・・・」
  させないけど・・・・
「涼さんのコレ・・・・ちょん切っちゃいますからね♪」
  膣が締まったのが解る、涼さんが小さくうめいた
  瞬間、私の膣内に涼さんの想いがぶちまけられた
「あ、あぁぁぁん!」
  血の混じったそれを見ながら私は凄まじいまでの快感をこの身に味わった
「まだですよ、私の膣内に全部出して・・・・すっからかんになるまで治療を続けますからね♪」

10C

「それでは、お家からお洋服取って来ますね♪」
  私はそう言って足取り軽く涼さんのお家を出た
  あぁ、清々しい・・・・こんなにも爽快感が溢れたのは初めてだ
  今までうじうじしていた私がバカみたい、はやく自分の気持ちに素直になっていればよかった
  そうすれば、あんなブタ女どもなんかに涼さんの操を奪われたりしなかったのに
  そうだ、私は二度もその現場を見ている
  けど次の日にはもう頭の外に出ていた、どうやったら涼さんが振り向いてくれるか
  そのことだけが頭を覆い尽くしていた、そして私の悲願は成就した
  今出来うる限りの最高の形で私は自分の純潔を彼に捧げることが出来た
  これで涼さんだけは信じてくれる、私の噂はただの噂でしかない
  本当の私はそんな女ではないとわかってもらえたはず
  これで身実共に私と彼は一心同体で人生共同体となった
  共に生き共に死ぬ――――
  ああ、幸せ――――
  いけない、いけない・・・・これからは涼さんに女を近づけないようにしないと
  涼さんは優しいから、些細な心遣いが出来て、いつも天使のような笑顔で接している
  どんなにブサイクな女でもそれは変わらない
  本人は気づいていないようだけど、学校では女子人気をある人と二担するほどなのだ
  もう一人の人は、正直な話容姿が良いだけ・・・・それだけ
  涼さんとは大違いもいいところだ、涼さんは容姿は女の子みたいで可愛らしく、
  性格まで申し分ない
  容姿だけのもう一人の・・・・なんて名前だっけ?
  確か先週だったかな?私に告白してきたけど、すぐに蹴ってやった
  私は涼さん専用だもの、当然よね――――
  あ、でもそのことを話して涼さんの嫉妬心を煽って、夜は激しく――――
  想像しただけで涎が垂れてきた
  涼さん、ああ見えて嫉妬深いのよね〜
  まぁ、私を愛してくれてる証拠だけどね・・・・ふふ

 昨日の電話、様子が可笑しい、私はそう思ってお姉ちゃんに昨日の電話の件を話してみた
「うぅ〜ん、心配ね〜」
  ダメだ、こりゃ・・・・
  ここは私がしっかりしないと・・・・
「うんしょっと」
  がさごそと音を立ててお姉ちゃんがカバンを弄っている
「な、なにしてるの?」
「決まってるでしょ?帰るのよ・・・・・お家に、涼ちゃんに悪い虫でも付いてたら困るでしょ?」
「でもでも!お給料は?私たちそのために」
「先ほどおばさんがね、可愛い二人が仲居さんしてくれたおかげで話題になって売り上げが
  二倍だったて、喜んでたわ」
  そう言ってお姉ちゃんは封筒を私に手渡し、またカバンの中に物を入れ始めた
  私は手に収まる封筒を見て、驚きで目を見開いた
  思ってた金額の数倍は入っている、これで・・・・
  お兄ちゃんの負担も少し楽にしてあげられる
「さ、帰りましょう」
  しっかりと私の分の支度を済ませて、お姉ちゃんは私に荷物を渡した
「う、うん!」

「うぐ!うぐ!うぐ!!!」
  ダメだ、動けない・・・・口を縄で塞がれ助けも呼べず
  身体を腕輪に繋がれた鎖で拘束され、脱出も不可能
  そして僕の股間には油性マジックで「秋乃専用」と書かれている
  首元がヒリヒリと痛む、彼女が付けた無数のキスマークのせいだ
  腕輪も秋乃さんの持っている鍵がないと外れないようになっている
  どうしてら良いんだよ、もう――――
  いったい何が彼女をそこまで駆り立てるのか僕には解らなかった
  いくら僕が酷い拒絶の仕方をしたからって、あれではまるでストーカーだ
  ――――いや、彼女はもうストーカーだ
「うぐ!くぅぅぅ!!!」
  必死でもがいて逃げようとする、腕輪が食い込み血がにじんだ
  ダメだ、それにこれ以上したら逃げようとしたのがバレてしまう
  その時の彼女の血走った目と嫉妬に狂う顔が容易に想像できて僕は身体を恐怖で震わせた
  突然扉が開く音がした、彼女が帰ってきたんだ、僕は再び訪れる恐怖の時間を思い絶望した
「ただい・・・・・ま、おに――――」
「あら、涼ちゃんったら、そういう人だったの?言ってくれればお姉ちゃん女王様に
  なってあげたのに」
「って!一人でうなことするわけないでしょ!それよりはやく助けてあげようよ!」
  天使が舞い降りた、二人の純白の天使が僕を地獄の底から引き上げてくれた
             

              原案協力
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              ID:KH6Ae6NlL1esCa31'>ID:L1esCa31様

11C

「チャ〜ン、チャン、チャ、チャ〜ン、チャン、チャ、チャ、チャ〜ン」
  結婚式の定番の音を一人、口ずさむ
  虚しく響く声が静かな空間に溶け込み、闇を深めた
  楽園だった、昨日までのこの場所は・・・・
  けれどその楽園は一日と経たずして崩壊し、私は奈落に落ちた
  ――――涼さんが誘拐された
  迂闊だった、あの女共がこんなにもはやく帰ってくるなんて思いもしなかった
  あの時だ、涼さんを誘き出すために涼さんの部屋と電話との間を空けておいた時だ
  少し目を離した隙に涼さんがどこかに電話を掛けてしまった
  推測だけど、涼さんはあの女共二人のどちらかに電話したんだ
  そして、電話を受けた内のどちらかが不審に思い帰ってきた
  すぐ切ったつもりだったので明確なことはわからないはずなのに
  ――――仮にも女だ、男の人よりかは勘は良いだろう
  殊、涼さんのことになるとその察知能力は研ぎ澄まされるようだ
  どれも推測の域を出ない、けれども・・・・一つだけ揺ぎ無い事実がある
  嫌がる涼さんを無理やりにあの女共が連れ去ったということだ
  可哀想に、涼さんは私との絆を表す証であった腕輪を無理やりに剥ぎ取られ、
  悪女共に連れ攫われてしまった
  けど、あの悪女共にも誤算がある
  私を甘く見過ぎているという点が悪女共の最大の誤算だ
  あの悪女共は私よりも頭が悪い、成績もそうだけど、もっと後々のことも考えるべきだ
  第一、私が帰ってくるまでの時間は極僅か、その間だけで荷物をまとめ出ていくことなどできない
  近く必ずこの家に姿を現さねばならない、まぁ近場の店かなんかで買えば良いものもある
  なのでここに戻ってくる可能性は極めて低くなる
  そして・・・・第二―――――

「ふぅ〜、ここまでくれば安心だね〜」
  涼ちゃんは心底安心したのかその表情から笑みが読み取れた
  帰った私たちがまず目にしたのは陵辱しつくされた涼ちゃんだった
  目は虚ろ、残ったのは恐怖と深い傷痕だけ
  平静を装っていたけど、内から溢れ出ようとするあの女への殺意を抑えるのに必死だった
  ここ数ヶ月すっかり安心していた、涼ちゃんは嘘が大嫌いだ
  小さい頃からずっと一緒だった私は良く知っている
  涼ちゃんは小さい頃にお母さんに捨てられた
『必ず帰ってくるから待っててね』
  偽りの言葉、自分も連れて行ってくれと泣きじゃくる子供を黙らせる魔法の言葉
  まだ幼い涼ちゃんはその言葉を一途に信じ母と別れた場所でその人を待ち続けた
  魔法は何時か解けてしまう、涼ちゃんが小学生になった頃ようやく事実に気づいた
  心の拠り所を失った涼ちゃんは次第にやつれていった
  私と、なぜか同い年なのに涼ちゃんを『お兄ちゃん』と呼び始めた冬香は必死で
  涼ちゃんを元気付けようとした
  結果少しずつではあるけど涼ちゃんは生を取り戻した、そして今の心優しい涼ちゃんになった
  けれども『嘘』『偽り』その二つの事柄すべてに拒絶反応を示し問答無用で嫌悪し拒絶の意を表した
  だから、涼ちゃんにとって『嘘』『偽り』の二つの絶対不可侵条約を犯した南条秋乃を
  涼ちゃんが受け入れる訳がない
  その私の安易な発想がこの事態を招いてしまった
  ごめんね、涼ちゃん・・・・
  懺悔の念で胸をいっぱいにしながら、鍵穴をいじると案外もろかった手錠を外し、
  冬香は脚と口を縛る縄を解いた
  そのあと涼ちゃんの乱れた服を整え支度も早々に家を後にした
  家を出てしばらくしてから私は親戚の人に電話してしばらくの間、その家のご厄介になることにした
  その親戚は近場にいるので一時間ほどで目的地に着き私たちはホッと肩をなでおろした
「・・・・・顔色、悪いね」
  冬香が顔色の悪い涼ちゃんの額に手を伸ばした時だった
「――――ひぃ!!!」
  拒絶反応を示し涼ちゃんは後ろに引いた
「お、お兄ちゃん・・・・?」
  唖然とする冬香を涼ちゃんは恐怖心いっぱいで見つめている
「冬香・・・・」
  私が冬香の肩に手を置くと冬香はゆっくりとうなずいた
  それを合図に二人で涼ちゃんを抱きしめる
「・・・・・っ!」
  尚も恐れの念を崩さない涼ちゃんに二人で優しく呼びかける
「大丈夫だよ、お兄ちゃん」
「お姉ちゃんが守ってあげるからね」
「私もお兄ちゃんを守ってあげるんだから」
  のどかな田舎の村、静かな空間、あるのはすぐ横を流れる川のせせらぎと風になびく枝と葉が
  織り成す心地良い音のみ
  私たちは穏やかで暖かな抱擁をいつまでも交わしていた

 ―――――第二、ここに戻って来ないとなると親戚の家を頼るしかない
  それが誤算なのか?当然私にその親戚の家を探る手段は皆無だと思われているはず
  けれども私には涼さんのケータイがある、親戚の欄を用心深く見ていく
  履歴の中で頻繁に連絡を取った親戚を調べる
  いくら休みとはいえ親しい親戚でなくては泊めてくれなんて頼めない
  そしてそれはあの女共寄りのはず
  あの女共の旧姓の苗字で尚且つ一番頻繁に電話を掛けている所が逃走場所だ
  あった、ついでに自宅の履歴も見てみる、やはり同じ家に頻繁に電話を掛けている
  私は涼さんのケータイからその家に電話を掛けてみた
「もしもし、堺ですけど?」
「あ、私・・・・涼さんのクラスメイトなのですが、彼・・・・
  私の家に来たときケータイを忘れてしまったらしくて、自宅にかけたのですがいないようなんですよ
  なので履歴の一番上に電話した訳なんですけど」
「ああ、涼くんたちなら今、家に来ているんですよ」
  独特のなまりがある、田舎の人だ
「あの、私・・・・届けに行きたいのですけど、住所を教えていただけませんか?」
  疑うことを知らない田舎の人を騙し、私は住所を聞きだした
  もちろん、突然行って驚かせたいからこのことは黙っていてくれと付け加えておいた
 
  涼さん・・・・今から私は勇者になって魔王に攫われてしまった
  あなたを命を賭けて助けに行きます、もちろん途中で魔王を討伐してです
  魔王を倒して平和になったら二人だけのお城で幸せに暮らしましょう
  ―――――だから、もう少し待っててくださいね

12C

 案外近場にあったあの女共の隠れ家
  夜にはもうその根城にたどり着いた
  私は今から、悪女共を討伐し、涼さんを取り戻す!
  川の穏やかなせせらぎにしばし耳を傾け熱い想いを少し鎮める
「ふぅ〜」
  私が深呼吸した時だった、月の光に照らされたシルエットが一つ私の方に向かって来た
  私は咄嗟に木の陰に隠れ様子を伺った・・・・その人は涼さんだ!
  喜びのあまり飛び出し抱きつこうとした時、今度は二つのシルエットが現れ涼さんのと重なった
  許せなかった、あの女共が・・・・
  涼さんをたぶらかし洗脳し私から遠ざけあげくの果てには奪い去った
  限界だった、私の思考回路も理念も自我も・・・・
  そろそろ決着をつけましょうか?
  最後に勝つのも笑うのも私です、涼さんをモノにする為なら私は修羅となり
  邪魔するモノすべてをなぎ払ってやる!
  神も私に味方してくれている、涼さんはあの女共を残してどこかに立ち去った
  勝機を見出した

 恐怖で一杯だった心が夏姉ちゃんと冬香のおかげでその気持ちを洗い流すことが出来た
  二人には感謝だ、二人とも僕が、夏姉ちゃん、冬香の両方と関係を持ったことを知っても
  尚僕を思ってくれている
  なら、僕は全力でその想いに応えるしかない
  だから―――――次にまた秋乃さんと対峙したときは僕の本当の気持ちを伝えよう
  そして、さよならしよう・・・・南条秋乃が好きだった僕に
「りょ〜お〜さ〜ん♪」
  え―――――

 心が壊れそうになる、なぜなら後ろからの声に振り返った僕の視界に入ってきたのが
  秋乃さんだったからだ
  愛らしい容姿を存分に際立たせる服装で天使のように笑む
  けれども僕にとってその微笑は恐怖の対象でしかない、冷たい汗が背中を伝った
  細く白い指が僕に迫ってくる
  ――――逃げなきゃ、頭で理解していても身体がいうことを聞いてくれない
  恐怖が完全に僕の頭の神経を掌握し、縛り付ける
「大丈夫ですか?怖かったですね?でも、もう安心ですよ?悪女共の手から助けだしてあげます」
  指が頬を這い、唇をなぞる――――
「もらった!!!!!」
  瞬間、影から人が飛び出し秋乃さんを抑えた

「やったよ!お姉ちゃん!!!!」
  く、油断した・・・・物陰から飛び出した冬香によって私は両手を拘束されてしまった
  そして冬香の呼びかけに夏美が不敵に笑みながら私に近づいてきた
「涼ちゃんにしたこと、存分に後悔させてやるんだから・・・・」
  私が涼さんに付けた腕輪を手にも持ちカチカチと音を鳴らしながら夏美は近づいてきた
  そっか、涼さんを助ける前に、まず魔王共を倒さなくちゃいけなかったんだ
  つい、舞い上がってしまって、私のバカ!
「・・・・っ!」
  私は夏美が腕輪をつけようとした瞬間、僅かな隙を突き飛び起きると
  脚に忍ばせておいたナイフを手に取った
「あぁぁぁ―――――!」
  まず、冬香に標的に据え飛び掛る
  馬乗りになり私は冬香の右肩に思い切りナイフを突き刺した
「あ・・・・が!」
  瞳孔が開き苦悶する冬香が無事な左の手で私の腕を凄まじい力で掴んできた
「・・・・・・」
  ナイフを右肩から引き抜く、血が飛び私の顔を鮮血に染める
  私は自らの顔が血に汚されるのも気にせずに今度は左肩を突き刺した
「きゃは♪見てみて〜、血が吹き出たよ〜涼さ〜ん♪」
  私は子供が親に自分の作った工作を見せるかのように血に染まった手に平を見せた
  驚愕し、顔をゆがめる涼さん、待っててね、すぐにこの女共をぶっ殺してやるから
  私はもだえる冬香のわき腹を思い切り蹴り飛ばすと今度は標的を夏美に変えた
  それを察知し咄嗟に逃げようとするけど、下げた脚を元の位置に戻した
「ふふ、逃げないんだ?いいのかな〜♪死んじゃうよ?」
「逃げるわけない、涼ちゃんは私と冬香で守ってみせる」
  良い度胸してるじゃない、さすが私から涼さんを奪い去っただけのことはある
  けどね、勝者は私、その未来だけは誰も覆せない
  一旦距離と取り、先ほどと同じように飛び掛る
  それを見て夏美は姿勢を低くして私にタックルしてきた
「く!」
  倒れた拍子にナイフが手元から落ちた、すぐに夏美はそれを蹴り遠くへ飛ばすと
  すぐに私の両手を抑え馬乗りになった
  すぐに私の首に手が掛けられる
「く・・・・ふふふ」
  この場に及んでなぜ余裕を見せられるの?
  そんな表情で夏美が私を見た
「ナイフが、一本だけって――――どうして思ったの」
  私はもう片方の脚に忍ばせておいたナイフを取ると首を絞める腕の肘のちょっと上を
  逆手に構えたナイフで突き刺した
「あぁぁ!!!!」
  痛みで我を失い私から離れてその場に膝を付き私に背を向ける
  私は後ろから夏美の肩を掴んでこちらに振り向かせ右手を思い切り踏みつけてやった
「あく・・・・ぅ」
  踏みつけるのをやめ、痺れで動けないその手にナイフを刺した
「あぁぁぁぁああああああぁぁ!!!!!」
  想像を絶する痛みに夏美は苦痛から逃げようとして必死でもがいた
  さぁ、そろそろとどめと行きますか?

13C

 とどめ、だ・・・・長らく続いたこの戦いもようやく終わりを告げる
  まずはこの女・・・・夏美からだ
  この女が一番許せない、私の目の前で涼さんの唇を奪い、そして私から寝取った
「涼さん、見ていてください、今から・・・・最後の治療を開始しますからね」
  ニコッと笑んで私はナイフを天空に向かって思い切り振り上げた
「死ねぇぇぇぇぇ――――――!!!!!!」
  痛みにもだえながらも夏美は迫る刃先を察知し身体を横にずらした
  私はすばやく地面からナイフを抜くとまた振り上げた
「しぶといんだよ・・・・はやく死んじゃいなよ・・・・醜女」
「あぁあああぁぁあぁぁ!!!!!」
  急に聞こえてきた奇声と共に私の脚から痛みが前進を巡った
  見ると夏美に馬乗りになり正座のような形を取っていた私の脚にナイフの先が食い込んでいた
  口にナイフを咥えて必死で私の脚にナイフを食い込まそうとする冬香
  なぜ、この女がナイフを?
  そっか、さっき蹴飛ばされたやつか
「お兄ちゃんをいじめる人も寝取ろうとする女も、私が全部やっつけてやる!」
  冬香に意識を集中させたのがまずかった、夏美が最後の力を振り絞り私を押しのけた
  なす術なく私の身体は地面に投げ出され叩きつけられた
  その拍子に落ちて地面に転がったナイフを夏美は血に染まった手で掴むと私の上に馬乗りになった
  さっきまで私がとっていたポジションを取られ私は身動きがとれなくなってしまった
「死ぬのはあんたよ、涼ちゃんを苦しめる、泥棒猫が――――!!!!!」
  肩先に切っ先が食い込んだ
  脚のときとは比べ物にならないほどの痛みが私を襲った
「まだまだよ、あんたには地獄を見せてやるんだから・・・・ふふふ」
  冬香も私の腕を拘束し不敵に笑んだ

「だ、大丈夫?」
  涼ちゃんが心配げに私を見つめ包帯を取り替える
「あ、お姉ちゃんばかりずる〜い!お兄ちゃん!私も私も!!」
  涼ちゃんはやれやれと方をすかすと今度は冬香の包帯を取り替え始める
  そして私は衣装ダンスの隙間から覗く憎悪に満ちた瞳を見つめ微笑んだ
  中にはもちろん、南条秋乃を縛って入れている
  なぜ警察に突き出さなかったかって?
  そんなことしても私の気が晴れないからだ
  あの出来事は強盗に刺されたとして南条秋乃のことは一切口にしなかった
  被害者の私が犯人を匿うなどと思われるわけもなく案外簡単にこの状況に持ち込めた
  それと、涼ちゃんはこのことを知らない
  だって、その方が涼ちゃんの本音を聞かせられるでしょ?
「ふぅ〜、終わった〜」
「涼ちゃ〜ん、お姉ちゃん〜涼ちゃんに癒してもらいたいな〜、なんて」
「あ、私も〜」
  こうして私たちは涼ちゃんと私たちの行為をあの女に見せ付けてやった
「あん!あぁぁん!涼ちゃん好きよ!!!!!」
「僕もだよ!夏姉ちゃん!」
「私は〜!?ねぇ私は!お兄ちゃん!!!!」
「冬香も、大好きだよ!!!」
  凄まじい殺気を背中ぬ受けながら私たちは何時終わるとも知らない夜の営みを続けた

14C

「ふふ、いい様ね――――」
  まるで抜け殻のような女を見下し私は微笑した
  口の端から唾が垂れ、床にはいたる所に彼女の憎悪の証のサインが残されている
  目は色を失い、生気はなく『生ける死人』の状態だ
  最初の方は私や冬香を見るなり憎悪の眼光を刺すように向けてきたけど――――
  今は死人、私を見ても何の反応も示さずにゆらゆらと揺らめく瞳は天を見つめ動かない
  口にしてあった声を出せないようにしていたモノは既に取ってある
  なぜか、それは・・・・声すら発することの出来ない程に見せ付けたやった
  私と涼ちゃんが愛し合う姿を・・・・
  冬香と涼ちゃんが愛し合う姿を・・・・
「どうしたの?言い返さないの?南・条・秋・乃――――さん?」
  遥か高みから言い放ってやる
  薄汚れた売女のくせに私の涼ちゃんに恋慕するだなんて許せなかった
 
心が自分のモノにならなかったからって監禁し、陵辱するだなんて――――
  私は思った――――
  この女には死よりも遥か大きな苦しみ・・・・そして醜い死を――――
  その身に刻み付けてやると――――
  死以上の苦しみ与え、廃人にした―――――
  あと、は――――

 私は隣に居る冬香と頷き合うと廃人と化した南条秋乃の拘束から解いた
  何の反応もない、くふふ――――ふはははは!
  やった!やったわ!まさかここまで出来るなんて思ってもなかった
  人間をここまでどん底に落とすことが出来るなんて思ってもなかった
  落ちなさい、もっとよ!もっと!もっと奈落に落ちるの!
  これは――――最後の工程よ

 

 生ける死人を崖まで連れて行って冬香と一緒に突き落とす
  まるで腕が天空へと伸ばされる、生きることにまだ執着しているの?
  許さないわ、死になさい・・・・このまま

 幸いなことに南条秋乃は失踪扱いになっている
  警察の人は事件性はなし、ただの家出と判断したからだ
  あの時といい、今回といい――――ほんとバカみたい
  それにこの辺りは自殺の名所
  入ってくるのは自殺志願者だけ、地元の人も年に一人か二人程度が入ってきて山菜を採るのみ
  まず見つかる可能性はない
「バイバイ、負け犬さん――――」

「あは、やったね、お姉ちゃん♪」
「ええ、やったわ!やっとよ!」
  人を殺した罪悪感などはまるでなかった
  あるのは南条秋乃を殺せた喜びと涼ちゃんをこの手にした至福のみ
  身を震わせ歓喜する、『ついにやってやった』と――――
 
「涼ちゃん!聞いて♪」
  帰るなり私と冬香は涼ちゃんに抱きついてこの喜びを伝えた
「南条秋乃がね!消えたんだよ!お兄ちゃん!」
「そうなの!だから、もうなにも怖がることはないのよ♪」
「ほ、ほんと?」
  信じられないとばかりに涼ちゃんが不安げに聞いてきた
  安心して、これからはずっと一緒よ・・・・
  涼ちゃん――――

「あ、ああ――――」
  恐怖、憎しみ、愛憎、悲しみ――――
  その全てを喰らって『彼女』は戻って来た
  愛する『彼』の元に・・・・
「な、南条・・・・秋乃・・・・」
  『彼』の恐怖が木霊した
「ダメじゃない、殺すんなら――――徹底的にやらないと!」
  冷たい手が夏美の頬を這って行く
  振り返る夏美の視界が微笑む青ざめた肌の『彼女』でいっぱいになった
  右手は優しく夏美の頬を愛撫し、左腕はあらぬ方向へ折れ曲がりその機能を失っている
  全身が水に濡れ、白い服に赤い点が浮かぶ
  後ろに広がる死の世界を前に夏美は死の恐怖を身近に感じた
  自分は死ぬのだ、そう思った瞬間――――
  夏美の喉が裂かれ『彼』に夏美の血が降り注いだ
「きゃはははぁ!!!!」
  死神が嗤った、この世のものとは思えぬ声で――――
「嫌!嫌ぁぁぁぁぁ!!!!!!」
  生にすがり逃げ出すとする冬香
「あら、逃げちゃだめよ――――」
  冷たい手が冬香の脚を掴んだ
「――――ッ!」
  冬香の身体が一瞬宙に浮かび倒れた
「なにが愛してるよ、結局逃げるんじゃない――――」
  『彼女』は微笑し倒れた背中の上に馬乗りになった
「やっぱり涼さんには私しか居ないの、これでわかったでしょ?」
  『彼女』が振り返り返り血を浴び呆然とする『彼』に笑って見せた
  あまりに美しいその笑みに『彼』は蛇に睨まれた蛙のように硬直する
「死ね、カスが――――!!!!!」
「嫌ぁぁぁぁあああああああああああ!!!!!!」

 死が互いを別つ時までずっと一緒ですよ、いえ――――
  死を迎えても二人はずっと一緒です――――
  そう、二人はず〜っと、ず〜っと――――
  一緒です――――
  涼さん、愛してます――――
  私はずっと、あなたの私でいます――――
  だから、これからもずっと――――
  私だけの涼さんで居てください――――

 私はようやく手に入れた、私の世界を――――
  涼さん、あなたと私が作る美しい世界で、いつまでも一緒にいましょう――――
  もう、誰にも邪魔させない、私と涼さんの愛を――――
  ずっと、ずっと一緒だよ、涼さん――――

 
 
 
 
 

FIN『キミ想う』

2006/10/01 完結

 

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