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姉妹日記 『もう一つの姉妹の形』



1

「前から、好きだったの・・・・私と付き合ってくれないかな?」
  誰も居ない学校の屋上、僕は下駄箱居にあった手紙
〈屋上で待っています〉
  短い文章を読んで屋上に向かうとそこには学校のプリンセスの南条秋乃さんが居た
  僕を確認すると慌てて姿勢を正し、僕が「どうしたの?」と聞くと・・・・・
  突然告白された・・・・
  中学の頃からの憧れの存在だった秋乃さんに告白され、僕は今にも天に昇りそうなほど嬉しかった
  だって、あの南条秋乃さん・・・・だよ?
  容姿はもちろん勉強もできてすごく気立てのいい子だ
  中学の頃はそうではなかったけど、今では学校のプリンセスにまで上り詰めている
  聞く話によると学校の50%を超える男子が彼女を狙っているって話だし
  でも、浮いた話が一つもなくいまだに男性経験は皆無らしい
  その結果、許婚がいるなどレ○だの色々噂されていたけど・・・・
「あの、秋乃さん・・・・」
「え、あ・・・・」
  声を掛けると秋乃さんは驚いて背筋を伸ばした
「もう、少し考えさせてくれないかな?」
「あ、そうだよね・・・・いきなりだもんね、でも・・・・本気だから私・・・・」
  僕が頷くと彼女は近くに置いてあったカバンを取ると足早にここから去ろうとした
「あ、送っていこうか?」
「あ、いいよ・・・・気にしないで」
  手を振ると無邪気に笑んで秋乃さんはその場を去っていった

 どんどん、心臓の鼓動が速まっていく
  僕は落ち着かない気持ちをなんろか静めようと屋根に登って月を見上げた
  南条秋乃・・・・最初逢ったのは、中学のとき・・・・
  メガネを掛けていて、皆から地味だって言われていたっけ
  友人も少なく、彼女曰く中学で一番自分を気に掛けてくれたのは僕だったとか
  高校に入って彼女のイメージは変わった
  急に女の子らしくなって、入学当初すごく話題になった
  変わったことにではないその美貌が・・・・だ
  いい意味での話題を呼び、今や学校のプリンセスとまで上り詰めた彼女からの告白・・・・
「お〜い、大事な話があるんだ・・・・下に来てくれ!」
  父さんの声が僕を現実に引き戻した
  僕は頭を何度か振ると下に降りていった
 
「夏美ちゃんと冬香ちゃんのことなんだが」
  窓から自分の部屋に戻り、下の階に降りるとそこには
  父さんと夏姉ちゃんと冬香が僕を待っていた
「二人のご両親が先日亡くなったのは知っているね?」
  僕が頷くと父さんは一瞬複雑そうな顔した・・・・
「簡潔に言うと、二人を預かることにしたんだ」
  え・・・・・
  後ろの二人を見てみると申し訳なさそうに頭を下げた
「・・・・・僕は良いと思うけど」
  不安が嬉しさに変わる、僕が笑んで見せると二人も笑んだ・・・・
  今日はなんだか色々なことがあったな・・・・
 
「あの、涼さん・・・・」
  朝の登校中か弱い声が僕を呼び止めた、この声は・・・・秋乃さん?
  振り返るとそこには秋乃さんが居た
  俯き加減で僕を上目使いに見つめ頬を染めた・・・・
「昨日の・・・・その・・・・・」
  意図しているのは解る、僕も彼女が・・・・返事をしようとした時だった
「涼ちゃん!」
  いつもの間延びした声ではない、必死な声の夏姉ちゃんが僕に駆け寄ってきた
「おじ様が・・・・おじ様が」
「どうしたの・・・・?」
「いいから、早く来て!」
  少し遅れてやって来た冬香が有無を言わさずに僕の手を掴んだ
「あ、涼さん・・・・」
「ご、ごめんね・・・・急用らしいんだ」
「あ、はい・・・・・」
  僕が謝ると彼女は少し残念そうな顔をしたけど、すぐに頷いてくれた
 
  その日、僕は不慮の事故で父さんを失った・・・・
  この二日で僕は天国と地獄・・・・
  人生の仰天がいっぺんにやって来た・・・・

2

「大丈夫ですか?少し痩せたようですけど」
  一週間ぶりの学校・・・・まず最初に僕を迎えてくれたのは秋乃さんの心配の声だった
  僕が元気なく頷くと、冷たい手が僕の額と重なった
「熱はないようですね・・・・よかった」
  心底安心したかのように肩を降ろして秋乃さんは満面に笑んだ
  やつれた僕の心もその笑顔だけで少し癒された気がした
「だ、大丈夫だよ・・・・」
  とても大丈夫というような声ではない・・・・
  それでも彼女は少し安心したのか穏やかに笑んだ
「涼ちゃん♪」
  いい雰囲気の僕と秋乃さんの間に割ってはいるかのような夏姉ちゃんの声
  振り返ると夏姉ちゃんがニコニコしながら僕たちに近づいてきた
「・・・・・」
  一瞬歩みを止め夏姉ちゃんは秋乃さんを見て一瞬顔を伏せてすぐに上げた
「涼ちゃ〜ん♪」
  そのまま僕の腕に抱きつくと踵を返して秋乃さんに背を向けようとする
「ちょ、夏姉ちゃん・・・・どうしたの?」
  見ると夏姉ちゃんは僕と同じ学校の制服を着ていた
  夏姉ちゃんと冬香は女子高で僕とは違う高校のはずなんだけど・・・・
「今日から、同じ学校に行くことになったの・・・・よろしくね〜♪」
  おどけて言うとめい一杯の力を込めて僕をその場から放そうとする
「あの、涼さん?」
  不思議そうに僕たちのやり取りを見ていた秋乃さんがようやく口を開いた
「あ、この人は・・・・・」
「涼ちゃんの婚約者の夏美です」
  僕の言葉を止めるかのように夏姉ちゃんの声が割って入る
「今は同じ屋根のした一緒に暮らしてるのよ?」 
  秋乃さんはもちろんだけど僕も唖然としてしまった
「だから、これ以上涼ちゃんに近づかないでくださる?」
  唖然で力の入っていない僕を引きずるようにして夏姉ちゃんと僕は秋乃さんから離れていった

「どうして、あんな誤解を招くようなこと言ったの?」
  ようやく平静を戻した僕がそう声を掛けると夏姉ちゃんは神妙な面持ちでこう言った
「あの子ね、有名なのよ・・・・誰とでも寝る女だって」
  え・・・・・
「知らないの?私たち今日入学したのに、すぐに噂が耳に入って来たのよ?」
  まさか、そんな訳ないよ・・・・
「あんな売女なんて忘れて、お姉ちゃんと一緒に居ましょ〜」

「あの、涼さん・・・・」
「あ、ああ・・・・・・」
  冷淡な返事をして僕が席の腰掛けると、秋乃さんがやって来て悲しげな顔した
「婚約者って・・・・その・・・・・」
  口をもごもごさせながらそう問うと秋乃さんは俯いてしまった
「秋乃さん、なんか変な噂の話・・・・聞いてる?」
  言葉を切り僕は続きを問われないようにした
  だって、想い人がそんな・・・・
  だから僕は遠まわしにそう聞いくことで僕は不安を解消しようとした
「もしかして、誰とでも寝る・・・・っていうの・・・・ですか?」
  罰が悪そうな彼女に僕が頷くと秋乃さんはこれでもかと両手をバタつかせた
「ち、違います!私そんなんじゃないんです!男性経験だってないし、
  それに・・・・初恋だって涼さんなんですから!!!!!!」
「・・・・・・あ、秋乃・・・・さん?」
  突然のカミングアウトに僕はもちろんのことクラスメイト全員が「あ」の口にし静寂が包み込んだ
「あ・・・・うぅぅぅぅ」
  自分の発言の意味することにようやく気づいたらしく秋乃さんは顔を真っ赤にして
  縮みこんでしまった
  穴があったら入りたいと言いたげに僕を見つめ少しはにかんだ
「あの噂・・・・は」
「・・・・・・」
「まだ、イジメられてる?」
  秋乃さんは縮こまりながら首を横に振った
「イジメほどでは・・・ただ、変な噂を立てられるだけです」
「そっか、変なこと聞いてごめんね」
  そう言うと秋乃さんは構いませんと両手を振って僕を許してくれた
「そうだ、今度デートしない?」
「え、デート・・・・・ですか?」
  頬を赤くしたまま秋乃さんは可愛く小首をかしげた
「うん・・・・・」
  すると、秋乃さんは嬉しそうに頷き僕の手を握った
「ありがとうございます!」

「あ、涼さ〜ん」
  デートの日・・・・
  僕は初めて見た私服の秋乃さんに僕は思わず見惚れてしまった
「どう?似合うかな〜?この日のために新調したんだけど?」
  心なしか明るい秋乃さんに僕は微笑むんで頷くと秋乃さんは嬉しそうにその場で跳ねた
「よし、これで好感度アップ!」
  普段とは違う秋乃さんの元気っぷりに少々度惑いを感じたけど、
  新たな秋乃さんの一面に僕も嬉しくなってきた
「じゃあ、行こうか!」
  差し伸べられた手を握り僕たちは人がにぎわう繁華街にくり出した

間奏へ

3

 お兄ちゃんが私以外の女とデートするとお姉ちゃんから聞いたとき目の前が真っ暗になった
  大丈夫、お兄ちゃんが泥棒猫なんかに惑わされたりしない、
  強引に迫られて仕方なくデートするんだ
  そうだって自分に言い聞かせても、心の中の嫉妬心には勝てず
  私はお兄ちゃんを尾行することにした
  なにさ、腕なんか組んじゃったりして・・・・
  そんなことしたってお兄ちゃんは・・・・・
  頬を染めるお兄ちゃんを確認し私は足元をぐらつかせ倒れそうになってしまった
  けど、こんなところでよろめいてなんていられない
  私は脚を踏ん張って気合を入れ尾行を再開した・・・・
  あ〜もう!イライラする・・・・
  なんでそんなにくっ付くの!
  お兄ちゃんもデレデレして、だらしない・・・・
  でも・・・・
  私は改めて、お兄ちゃんの隣で満面に笑む南条秋乃を見つめた
  引き締まった身体、線もすごく細い
  俗に言うモデル体系っていうのかな?
  胸も・・・・あれ?前に学校で見たときはもう少し大きかったような・・・・
  そんなことどうでもいいか・・・・
  顔も人形のようでまるで人が作ったかのように整っている
  それに加えあのプロポーション・・・・
  私は自分の身体を見下ろしてため息をついた・・・・

 ようやく私の地獄のような時間は終わりを迎えようとしていた・・・・
  二人は手を振り合って別々の道を歩みだした・・・・
  私はお兄ちゃんの方ではなく南条秋乃の方を尾行した・・・・
  どうしても南条秋乃の弱みを握りたかったから・・・・
  でも、私の期待とは裏腹に何事もなく家まで来てしまった
  噂どおり誰とでも寝る女だったら・・・・男の一人や二人呼び出すと思ったけど
  どうやら噂はただの噂でしかなかったらしい
  落胆する私の少し先で南条秋乃が叫んだ
「ただいま〜」
  声と共にドアが開き誰かが出てきた
  その人物はそわそわしながら南条秋乃に近づき何事かを聞いている・・・・
「え・・・・・」
  その人物の姿を確認した私は驚愕し、目を丸くし食い入るように先の人物を見つめた
「ただいま、秋乃・・・・」
「お、お帰り・・・・それで・・・・どうだった春乃?」
「ああ、もうばっちし・・・・うまくやったよ」
  春乃?初めて聞く名に私はまた驚いた・・・・
  双子・・・・?
  同じ髪型・・・・同じ顔
  ただ違うといえるのは胸の大きさだけ
  さっき思った違和感は勘違いじゃなかったらしい
  南条秋乃の方が少し大きな胸をしている・・・・
  でも、なんで・・・・?
  小さな疑問が浮かんだけど・・・・
  私は当初の目的の弱みを見つけ、拳を握り震わせ歓喜した
  やった!やったよ!お兄ちゃん・・・・私
  ついにやったよ!あの女お兄ちゃんを騙してたんだよ!
  ふふ・・・・やったよ!
  これで、これで・・・・・

 翌日・・・・私は南条秋乃を屋上に呼び出した
「あの・・・・涼さんの、妹の冬香さんですよね?初めまして!?」
  まったく、どうして何食わぬ顔していられるのかな?
  お兄ちゃんを騙してるっていうのに
「それで御用とはなんですか?」
  こんな女と話すなんて時間の無駄、だから簡潔に言った
「あんた、お兄ちゃんを騙してるでしょ?」
「え・・・・・」
  あ、動揺した・・・・
  南条秋乃は罰の悪そうにたじろぐぎ瞳を揺らめかせた
「騙してるって・・・・なにを?」
「言い逃れするの?まぁ、いいわ・・・・これ以上お兄ちゃんに近づくんならそのこと
  ・・・・バラすから」
  私は格闘技で勝利を収めた勝者のような気分を味わいながら微笑み
  敗者を見下した
「じゃあね・・・・南条秋乃さん」

間奏

4

 私は目の前に広がる光景に唇を噛み締めた
  あの女、南条秋乃が馴れ馴れしく涼ちゃんの腕を取り、仲良さげに歩いている
  私は見るに見かねずに二人に近づき涼ちゃんに馴れ馴れしく涼ちゃんに触れる汚れた手を払った
  女は私を睨み威嚇する、牽制を無視し私は涼ちゃんに笑いかけた
「涼ちゃん、騙されちゃダメよ・・・・」
  私が目線で女にメッセージを送った
  意図を理解した女の顔が恐怖で青ざめるのを見て私は口元を緩め涼ちゃんの手を取った
「さ、帰りましょうか・・・・涼ちゃん」
「え・・・・あ・・・・・でも」
  涼ちゃんはあの女を見て少し戸惑った
  その瞳に映るあの女の不安な顔・・・・
  あの女が吐いた息を吸う涼ちゃんの呼吸・・・・
  涼ちゃんと同じ地面にあの女が立っている・・・・
  私はそれすら許せずにいる・・・・
  何時からだろう・・・・こんなにも嫉妬深くなったのは
  何時からだろう・・・・こんなにも涼ちゃんを愛してしまったのは
  そんなことどうでもいいか・・・・
  いま許せないのはあの女の存在そのものだ
  道端の石ころのくせして私の涼ちゃんに近づくなんて許せない・・・・
  ましてや私が何年も秘め暖めた想いを踏みにじるようなことなどさせない
  涼ちゃんは私の物、私だけの物・・・・・誰にも渡せない
「あんた、涼ちゃん騙しといてまだ・・・・近づく気?」
  私は嫉妬と怒りに任せ、冬香から聞いたあの女の弱みを口に出した
  たったそれだけのことなのに血が騒ぎ、恍惚感は身体を巡る
  それに凄まじく上出来に言えた、さりげなく会話が途切れないような抜群のタイミングで
  私は冷静な声で・・・・
「わ、私・・・・・は!」
「騙す?騙すってなに?」
  当然食いついてくる涼ちゃん、だから私はこう言った
「この子ね、双子の姉妹がいるのよ?それでね・・・・時々入れ替わってたんだよ?」
「え・・・・・」

 あらかじめ決めていた言葉を今思いついたかのように言い、涼ちゃんに微笑みかけた
「涼ちゃんに告白したのはどっちなのかな?デートしたのは?
  いまももしかしたら双子の姉妹さんかもしれないわよ」
  涼ちゃんの手からカバンが落ち、呆然とあの女を見つめた
  ふ、ふはははは!やったわ!これでもう涼ちゃんはこの女を信じることなんてできない!
「ほんと・・・・なの?」
  確認しなくたってわかるわよね?
  あんな顔して俯いた、否定の言葉も吐かない南条秋乃を見れば
「あれ?どうして違うって言えないの?涼ちゃん、やっぱりあの噂ほんとかもよ?
  だって大嘘つきだもんこの子」
  涼ちゃんは裏切られた悔しさで拳を握り、目元を引きつらせた
  涼ちゃんは昔から嘘が大嫌いだったもんね?
  ほらほら、はやくこの子にとどめ刺しちゃって!
「僕、キミのこと好きだった・・・・・でも、もう信じられないよ!」
「ま、待って!これには理由が!!!」
  なにを今更、私がこんな子無視して行こう
  そう言おうと思った瞬間、涼ちゃんは物凄い形相であの女を睨んだ
「離して!」
  いつの間にか涼ちゃんの腕を掴んでいた手を払うと涼ちゃんは、微笑み涙した
「りょ、涼・・・・・さん?」
  少しの間のあと涼ちゃんは重い口を開き言葉を発した
「僕の好きだった、南条秋乃は・・・・どっちの南条秋乃だったの?」
  このさい、涼ちゃんの初恋を奪われたのは大目にみてあげよう
  そんなことどうでもよくなるほどに涼ちゃんは南条秋乃を拒絶したのだから
「ごめん、噂もそうじゃないって信じてる・・・・キミはそんな軽い子だなんて思ってないし」
  少し優しい言葉を掛ける涼ちゃん
  でも私には次の言葉があの女にとどめを刺す
「でも、信じられないよ・・・・キミの言葉・・・・全て・・・・・今は・・・・・全部」
  それを知っていた
  私は涼ちゃんの涙を拭って、優しく微笑む
「夏・・・・・姉ちゃん」
  私を見て涼ちゃんは空を見上げ涙を見せないようにした
「涼ちゃん・・・・・」
  私は涼ちゃんの頬に手を重ね、自分の方に向かせた
  そしてゆっくりと唇を寄せ、口付けた
「・・・・・ん」
  涼ちゃんの肩の向こうで嫉妬に塗れ絶望する南条秋乃を見て私はニッと笑んだ
「夏・・・・姉ちゃん?」
「好きよ、涼ちゃん・・・・・あの女のような偽りの想いじゃないわ・・・・本気で好きよ」
  私が笑むと今度は涼ちゃんから私を求めてきた
  もう、涼ちゃんったら・・・・・これ一応、私のファーストキスなんですけど?
  でも良いわ・・・・
  私は見せ付けるようにあの女に私と涼ちゃんが舌を絡める様子を見せつけ
  これ以上ない位の優越感を味わい、それに加え涼ちゃんとの情熱的な口付けに幸せのあまり
  肉体的に絶頂しそうになるのを必死で堪えた

間奏

5

 なんだろう?今日のお姉ちゃんは何時になく上機嫌だ・・・・
  鼻歌なんて歌いながら料理するお姉ちゃんなんて初めて見たよ・・・・
  お花畑をバックにスキップしそうな勢いのお姉ちゃんとは対照的に
  今日のお兄ちゃんは顔を俯けたり元気がなかったりと沈んでいる
  声を掛けても「なんともないよ」そう言っていつものお兄ちゃんに戻り笑顔を作る
  でもすぐに表情は曇り悲しげに俯く、その繰り返しだった
「熱でもあるの」
  おでことおでこをくっ付けた、驚くほど冷たいお兄ちゃんの肌に一瞬驚いてしまった
  でもそれ以上にお兄ちゃんからしたシャンプーの香りに私は違和感を覚えた
  いつもはツンと鼻をつくようなお兄ちゃんのシャンプーの香りに混じって
  お姉ちゃんのシャンプーの香りがした
  私は髪が痛みやすいのでお姉ちゃんとは違うシャンプーを使っている
  だから、私のシャンプーの香りではない、私は頭を巡った光景にハッとし息を飲んだ
  上機嫌なお姉ちゃん、どこか沈んだ様子のお兄ちゃん・・・・
  お兄ちゃんから漂うお姉ちゃんのシャンプーの香り
  点と点とが繋がり私は驚愕した、お兄ちゃんがお姉ちゃんのシャンプーを
  使った可能性もあるけど・・・・
  考えないように、気づかないように・・・・二人の様子が違うのを・・・・
  二人の間に漂う、空気を見ないように・・・・
  けど・・・・できなかった
  私はお兄ちゃんが大好きだから、愛しているから
  小さい頃病弱で家の外に出れないで退屈していた私を外に連れ出し、
  楽しいという感情を教えてくれた
  そのあと、両親に怒られそうになった私を庇い、自分が勝手に連れ出したと言ってくれた
  後で来たおじさんがお兄ちゃんの頭を殴って大声で怒鳴ってもお兄ちゃんは泣かなかった
  私に心配を掛けたくないから
  涙を溜め、私を安心させようと微笑むお兄ちゃんを見て私は思った
  この人とずっと一緒に居たいって

 深夜、遠くで聞こえる車の音以外しない中で私はお兄ちゃんの部屋にこっそり忍び込んだ
  驚いたことにお兄ちゃんはこんな時間でも起きていて、一人か考え事をしているようだった
「冬香?」
  暗闇の中でお兄ちゃんは私の姿を捉えて「なんでこんな時間に?」と目で語った
  私はなにも言わずお兄ちゃんの横に腰掛た
「失恋でもした?」
  そう問うとお兄ちゃんは目線を反らした、そして窓の外を見てため息をついた
  肯定なのか否定なのか解らない、でも・・・・
「私が慰めてあげようか?」
「え・・・・・」
  声と共に視線が私に戻ってきた
  この機を逃さずに私はお兄ちゃんに思い切り抱きついた
「どう、前はあるかないかって言ってた胸・・・・結構大きくなったでしょ?」
「そんな小さな胸で誘惑してるのか?」
  どうやらからかっていると思ったらしいお兄ちゃんはおどけてそう言うと私を離そうとした
  私はそれを許さずにさらに強く抱きつき、離すもんかとお兄ちゃんに訴えた
  上目で見つめ、「こら・・・・」と言うお兄ちゃんの唇に口付け言葉を止める
「ん・・・・・ん・・・・・ん」
  私の人生初となるキスは数秒で終わり、初めてにしてはねちっこく舌を絡めた
「冬香?」
  ようやく私の意図を知ったお兄ちゃんがなにをしているんだという表情で私を見た
「本気だよ、私・・・・・」
「・・・・・・」
「いいよ、お兄ちゃん・・・・」
  お兄ちゃんの服をつたない手つきで脱がして、私も一枚一枚服を脱いでいく
「ふ、冬香!!!!」
「あん、お兄ちゃんあんまりがっつかないでよ」
  獣のように私に飛び掛かりお兄ちゃんはまるでなにかを忘れたいかのように私を激しく抱いた
  もう、初めてだったのに・・・・お兄ちゃんの鬼
  でもいいの・・・・これでやっと・・・・お兄ちゃんは私もモノだもの・・・・
  少し気になることはあったけど・・・・
  そう、お姉ちゃんだ・・・・けど、失恋したお兄ちゃんの心の隙間に
  無理やり入り込んだだけだと思う
  気にすることもない、今はこの幸せを胸いっぱいに感じていればいいんだ・・・・
  お兄ちゃんの腕に抱かれ私は今までで一番安らかな眠りについた

「あ、ん・・・・く・・・・あん!」
  一人涼さんのことを思って私は一人自分を慰めていた
  まさか、あんなことになるなんて・・・・
  どうしても自分に自信がなかった、そして勇気もなかった
  だから、告白のとき妹の春乃に頼み込んで私に成り代わって告白してもらった・・・・
  デートの時も私は地味だから嫌われたらどうしよう・・・・
  嫌われたくなくて私はまた春乃に私のふりをして涼さんとデートして頼んだ
  春乃は「もうコレで最後だよ」そう言って承諾してくれた
  たった二度・・・・それだけのに・・・・私は全てを失った
  やるせなさがこみ上げ、私は一人で自分を慰めることしか出来なかった・・・・
 
「おわ、どうしたの?目にクマさんがあるよ?」
  挨拶も早々に春乃がそう言った・・・・私は軽く解釈してイスに腰掛けた
「それで、どうなのよ?あの彼とは?」
  心にナイフが刺されたように胸の中が跳ね心が騒いだ
「・・・・・・」
「もう、内気なんだから・・・・せっかく私が手を貸してあげたのに」
  また心が痛んだ・・・・

 やってしまった・・・・僕は頭を抱え苦悩した
  勢いとは言え、夏姉ちゃんとキスし冬香とやってしまった
  どうすればいいんだ?もう取り返しがつかないのは解っている・・・・
「・・・・・・」
  なにかごまかす様にケータイに手を伸ばした・・・・
  メールBOXを見るとほぼ全てが秋乃さんからだった・・・・
『秋乃:逢いたいです・・・・』
『秋乃:返事ください、涼さん』
  最初のだけ見て僕はケータイをベットに置いた
  少ししてケータイが鳴った、また秋乃さんからだ
『秋乃:いま、涼さんの家の前まで来ています・・・・お話、聞いてくれませんか?』
  窓を光を閉じるカーテンを開き外の様子を見る・・・・
  居ると解ってたのにそこに居た秋乃さんを見て僕は驚いてしまった
  僕と目が合うとニコッと笑んだ
  僕は慌ててカーテンを閉じて秋乃さんから目を背けた
  自分の存在をアピールするかのようにケータイが鳴った
  ゆっくりとした動作で僕はケータイの電源を切るとベットに置いた
「・・・・・・」
  コンコン、ドアを誰かが叩いた
  まさか・・・・秋乃・・・・さん
「涼ちゃん?お姉ちゃんよ〜開けて〜」
  夏姉ちゃんか・・・・僕はホッとしてドアを開いた
「あら、浮かない顔ね?」
  ・・・・・・・
  開けた瞬間唇が触れ合い、そして夏姉ちゃんはいつものように笑んだ
  その瞬間、僕の逃げたいという思いが弾け夏姉ちゃんをその場に押し倒していた
「あん、もう・・・抱いてくれるなら、ベットで・・・・ね?」
  僕は何度かうなずくと夏姉ちゃんの身体をベットに運びその大きな胸に顔を埋めた

間奏 間奏2

6

 快感を舐り合い僕たちは荒々しくベットに横たわった
「りょ・う・ちゃ・ん♪」
  嬉しそうに僕の胸に頬ずりし夏姉ちゃん
  もう、なにがなんだかわからなくなっていた・・・・
  昨晩は冬香・・・今日は夏姉ちゃん
  己の愚行を思い返した、僕は二人を利用した
  彼女を・・・・秋乃さんを忘れる為に
「ごめん・・・・」
「いいのよ〜、そんなことより・・・・」
  夏姉ちゃんが雨のように僕の身体にキスした・・・・
「もう一度・・・・しましょ?」
 
  翌日・・・・
  僕は何度かコンタクトを取ろうとする秋乃さんを無視し続けた
「あの涼さん・・・・」
「・・・・・」
  無言で立ち去る僕・・・・振り返る事無く僕はその場を・・・・去った

 放課後、一通のメールが来た
『秋乃:私、もう自分を偽るのをやめました・・・・自分に正直に生きます』
  どういうことだろうか?
  そんなことよりももっと疑問に思うべ点がある
  なんで彼女が僕のメールアドレスを知っているのかってことだ・・・・
  昨日のメールもそうだ、彼女にメールアドレスなんて教えていない
  凍ったように僕の体の動きが止まった
  振り向くと満面の笑みがそこにあった、南条秋乃・・・・
「どうしたんですか?涼さん・・・・?」
  頬にその手が触れる前に僕はその手を払った
「やめてくれ!」
  少し赤くなった手のひらを撫でながら彼女は僕を上目遣いに見つめてきた
「どうしたんですか?なにもこわがることなんてないんですよ?涼さん」
  その瞳に生気はなく薄くなっていた・・・・
  僕は踵を返して走り、その場から逃げ出した
 
  ふふ、涼さんったら・・・・照れちゃって・・・・可愛い
  異性に慣れていない涼さんの反応に私を頬を染めその後姿を見送った
  でも・・・・いまのあんまりだと思うな・・・・いくら恥ずかしいからって手を払うなんて
  あとでしっかりと言い聞かせないと・・・・
  私は何度か涼さんにメールを送って後ろを振り返った
  すると数人の女子が物陰に隠れた
  その理由は簡単明白・・・・今日がバレンタインだから
  まず私は涼さんの行動に細心の注意をはらいながら机や下駄箱のなかにある
  薄汚れたチョコを廃棄し放課後は後ろに張り付き涼さんが他の女と接触できないようにした
  いくらなんでも私の目の前でチョコを渡すなんて愚行できるわけないか
  私が笑むと彼女たちは悔しそうに目を細めた
  ダメよ、彼は私のなんだから・・・・私はもう偽らないし誤魔化さないの・・・・
  この間のあれが私に自分にもっと自信を持てってことだったのよね?涼さん・・・・
  だから・・・・私・・・・もっと自分に自信を待つことにしたの・・・・

間奏

7

 まただ、もう・・・・涼さんの浮気者・・・・
  涼さんがクラスの女の子と楽しげに雑談している場に私はつかつかと歩み
  彼の背中を軽く押した
「涼・・・・・」
  あは、『さん』付けなしで呼んじゃったよ・・・・照れりこ
  でもいいよね?だって私たち・・・・恋人なんだものね・・・・ふふ
  振り返ると涼さんの顔が強張った・・・・
「あ・・・・きの・・・さん?」
  酷いな、もう・・・・まるで化け物を見るみたいに・・・・ちょっとショックだよ
「なに、話しているの?」
  腕を取り胸に抱き寄せると、涼さんの顔が赤く染まる
  ふふ、照れちゃって・・・・可愛いんだよな・・・・もう
  食べちゃいたいな・・・・・
「あれ、二人って付き合ってるの?」
  そのやり取りを見て、クラスメイトの子がそう聞いてきた
  あ、やっぱり?恋人に見える?嬉しいな〜♪
  より強く腕を抱きしめると、涼さんは身じろぎして少し後ろに下がった
  離すものかと瞳と行動で示すと涼さんは諦めたのか抵抗をやめた
「やっぱり付き合ってるんだ・・・・・」
  私たちのイチャイチャぶりを見てクラスメイトの女子がため息混じりにそうつぶやいた
  当てられちゃった?それほどお似合いかな?私たち・・・・照れりこ
「残念、私〜、神坂のこと狙ってたのに〜」
  猫なで声と共に彼女の指が涼さんの胸を這って行く
「ねぇ、そんな誰とでも寝るなんて女なんかより・・・・私なんて・・・・どうかな?」
  この女、男の人に媚びることに慣れている、どういえば男の人の心が動くかよく知っている
「・・・・っ」
  気づいたときには私は怒りに身を任せ涼さんにベタベタ触れる汚らわしい手を思い切り叩いていた

 

「痛〜っい!酷い〜」
  それを逆手にとって彼女は私がいかに酷いかということ大げさなリアクションでアピールした
「・・・・・私の涼さんに・・・・気安く触れないで・・・・・」
「あ、なにか言った?」
「涼さんと同じ空気吸うな・・・・同じ地面に立つな・・・・同じ世界に生きるな・・・・」
「なに電波なこと言ってるの?元々、あんたのこと気に食わなかったのよね・・・・
  中学のときはメガネのおさげ、うじうじイジメられっ子だったのにさ」
  彼女は少し間を置いて肩をすかすと大きな声でこう言った
「高校に入って、可愛くなって態度まで大きくなっちゃった?
  可愛いからって調子に乗ってるんじゃないわよ!」
  クラス中の視線が私たちに注がれ、廊下の野次馬が窓から顔を出し面白がっている
「いいじゃん、そんな可愛い顔してるんだから・・・・
  たくさんのボーイフレンドの中の一人でしょ?だったら一人くらいいいじゃん、神坂を私に頂戴よ」
  ・・・・怒りを通り越すと人間は頭が真っ白になるらしい
  今の私がそうだ、さっきまで怒り一色だった頭の中が今はクリーンになり
  さっきより怒りは増しているのに状況がはっきりと解る
  私が一歩踏み出し言葉を発しようとした時だった
  乾いた肌の音がして私はさっきまで感じていた涼さんのぬくもりが離れたのに気づいた
「叩いてごめん・・・・でも、いい加減な噂を鵜呑みにして・・・
  人を中傷するキミがどうしても許せなかったんだ」
  いつも大人しい、涼さんがこんな行動を取るなんて・・・・
  私はもちろんギャラリー全員が呆気に取られている
「涼・・・・さん」
「・・・・神坂」
  愛だよね?愛の力?きゃは♪嬉しぃ〜♪
「・・・・・」
  私はそっと涼さんに近づき肩をポンと叩いた
  振り返った顔に間髪入れずに顔を近づけ、私は涼さんと口付けた
「・・・・んむ」
  驚きで見開かれた目が私一点を見つめる・・・・
  やっとだよ、やっと私のファーストキスを捧げることができたよ・・・・
「んぱ!!」
  肩に手を置かれ、私は無理やりに引き離された

 

「秋乃・・・・さん・・・・」
  私は涼さんの頬にチュッとキスして青ざめた表情の負け犬を見下ろした
「どう、私たちがどれだけ愛し合ってるか・・・・解った?」
  ふふ、なにも答えられないでしょ?
「涼さん、屋上でご飯食べに行きましょ?」
  なにも答えることの出来ない負け犬なんてほっておいて私は彼の手を取り、
  ギャラリーをかき分けて廊下に出た

「秋乃さん・・・・誤解を招くこと・・・・しないで欲しいのだけど」
  周囲を見回して人がいないのを確認すると涼さんは小さくつぶやいた
「誤解って?」
「キスしたり愛し合ってるとか・・・・そういうの」
  もう、照れちゃって・・・・可愛いな
「涼さんが女性に慣れていないのは知ってますけど、私にまで壁作ることないじゃないですか」
「壁?」
「はい♪私たち恋人なんですから・・・・ね?」
  涼さんは悲しげに俯きこう言った
「キミとは付き合えないよ・・・・」
  え、いま・・・・なんて言ったの?
「ごめん、夏姉ちゃんと冬香が待ってるから・・・・行くね」
  唖然とする私の手を振りほどき彼は足早に駆けて行った
  遠くなっていく背中を見つめ私は微笑んだ
  ようやく状況が理解できたよ・・・・ダメだよ涼さん
  涼さんが照れ屋さんなのはわかるけど、これは度が過ぎると思うよ
  ここは恋人の私がなんとかしないとね・・・・
  だってほら・・・・結婚したら毎日一緒なんだよ?
  今のうちに慣らしておかないと照れ屋の涼さんがストレスで死んじゃうよ
  ここは私が一肌脱いであげなきゃね

 

 怖い、秋乃さんのあの目が・・・・
  クラスメイトの女子と会話するだけで彼女は物凄い形相でその光景を睨むように見つめる
  以前は大人しく清楚で・・・・大人しい子だったのに・・・・
  正直な話・・・・好きだった女の子がそんなになってしまって
  僕はどうしていいのかわからなくなっている
  でも、学校も休みだし・・・少しの間・・・・安息が続く・・・・はず
  春休み・・・・夏姉ちゃんと冬香は親戚の家に行っていて今は僕一人・・・・
  二人と関係を結んでしまいそれに加え秋乃さんの豹変ぶりなどで心が休まることのなかったけど
  一人の時間を持てるようになって少し気が楽になったように思える
  秋乃さんの件はともかく、夏姉ちゃんと冬香の件は・・・・あまり楽観視できないな
  秋乃さんはそのうち諦めてくれるだろう・・・・でも二人は・・・・・
  コンビニの袋をブラブラと揺らしながら僕は誰も居ない家の前まで・・・・
  あれ?明かりが付いてる・・・・もしかして
  僕は家の中に急いで入り廊下とリビングを繋ぐドアを開いた
「お帰り!ふた・・・・り・・・・とも?」
  見えた人影は一つ・・・台所でよく見知った、けれどこの場では見慣れていない少女が立っていた
「あ、涼さん・・・・」
  満面の笑みが僕を出迎えた・・・・
  その少女は・・・・秋乃さんだった・・・・・
「どうして・・・・・鍵は!?」
「ダメですよ〜、鍵の隠し場所はちゃんとしていないと・・・・
  ストーカーでも勝手に入ってきたらどうするんですか?ただでさえ涼さんはモテルのに・・・・」
  テーブルの上に乗っている門の近く置いてある植木の下に隠してある予備の鍵を見て
  僕はゾッとした
「待っててくださいね・・・・もうすぐご飯出来ますから・・・・」
  僕は・・・・・

A 『なにも出来ずにただ立ち尽くした』
B 『彼女を拒絶した・・・・』
C 『??????』

間奏

To be continued.....

 

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