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ぶらっでぃ☆まりぃ



2 『傷は男の勲章?』

今回のお話は先日投下した本編の20話Aと関連付けて読むと
ちょっと面白いかも知れません。

 城内にある兵の訓練場。
  いつものように剣の鍛錬をしようとそこに訪れると、既に先客がいた。

「あ、おはよう。マリカも訓練?」

 暢気に挨拶をするこの先客はウィリアム=ケノビラック。
  わたしと同じ訓練部隊に所属する新米騎士だ。
  今は一段落着いて汗を流すため、水浴びをしているらしい。それはいいのだが。

「きょきょきょきょ、今日は早いのだなっ」

 素っ頓狂に声が裏返っているのが自分でも分かった。思わず顔も反らしてしまう。
  い、言っておくが別にわたしはドキドキなどしていない。鼓動も、へっ平常どおりだ。
  たとえわたしの顔が赤くなっているとしても、その原因がケノビラックの晒している…
  は、半裸の上半身にあるわけではない。
  男の裸など、騎士を目指した頃から飽きるほど見ているからな、うん。
  だだだだから今さら、ケノビラックごときの裸に動揺するわけがないだろう。

「……?」

 ほ、ほらケノビラックも勘違いしているではないか。わたしがこいつ如きに劣情を抱くはずが
  ないのに。
  こ、ここはしっかり誤解を解いておかなければ。

「よ…よぉへー、を生業にしてた割には、生傷が余り見当たらないのだな」

 ケノビラックの裸体など何ともないということをアピールするため、
  わたしはその晒された肌を真正面から見た。
  食い入るように。ねめつけるように。それはもう隅から隅までずずずいっと。

「はぁはぁ……」

 む、いかん。気合を入れすぎて息が切れてしまった。ちなみに興奮しているわけではないからな。
  断じて違うぞ。

「ま、まぁ傭兵やってたって言っても一年だからね。部隊のメンバーにも恵まれてたし」
  わたしの視線にたじろぎながら答えるケノビラック。相変わらず腹立つほど謙虚な台詞だ。
  理由がどうあれ前線で戦っていながら、生傷が少ないと言う事はそれだけ剣の才を
  持っているということだろう。あまり認めたくはないが。

 それにしても。ごくっ。
  意外と綺麗な肌をしているのだな、ケノビラックは。細身でありながら無駄のない
  精錬された筋肉。じゅるっ。
  あ、いや、単純に関心しているだけだ。だから別に興奮してないと言っているだろう。

「ん…?その傷は?」
  わたしは彼の脇腹を指して尋ねた。
  生傷の見当たらない身体ゆえに目立つ、ひとつの傷痕。形状から察するに恐らく矢傷だろう。
  しかも目新しい。

「あぁ、これ?フォルン平野の戦いのときにちょっと、ね」
  照れたように頬を掻くケノビラック。少しだけその顔が誇らしげに見えた。
「なんだ?珍しく自慢げではないか」
  何かこの傷にまつわる話でもあるのだろうか。普段見ることのないケノビラックの表情に
  わたしは少しだけ興味が沸いた。

「いや…別にそういうわけじゃないんだけど……
  フォルン平野でさ、孤立してた騎士が一人いたんだよ。しかも結構な数の敵兵に囲まれてて
  助けに入ったんだ。
  それで遠くから狙ってる弓兵に気づいてなくて、やばいと思ったら身体が勝手に飛び出してた」

 聞けば、それほど武勇伝という話ではないが。むしろ矢を捌けずその騎士の代わりに
  怪我をしてしまったという失敗談に聞こえる。
  でも、なぜかケノビラックはその話を嬉しそうに話した。

「しかし、その騎士も戦況を見誤ったな。実に情けない」
  ……いったいどうしたのだろう。少しだけ腹が立った。
  ケノビラックがその騎士のせいで傷を負ったのだと知ると、なんともいえない怒りが芽生えた。
  まさか。別にケノビラックを危ない目に合わせたことに怒っているのではないだろう。
  単に不甲斐ないその騎士に対して怒りを覚えているだけだ。うん、きっとそうだ。
  兎角その騎士がどんなヤツなのか気になった。

「……その騎士はどんな男なのだ?」

「え?あ、いや男じゃないよ。マリカと同じ女性騎士。腕は……はっきり言って
  かなり強そうだったなぁ。
  凄い数の敵に囲まれてたのに割りとケロリとした顔してたんだよ。もしかしたら俺の助けなんて
  要らなかったのかも」

 なぜそんな楽しそうな顔するんだ、お前は。わたしには目もくれないくせに。しかも女?
  まったく腹立たしい。

 ……ん?女騎士で、凄腕…?……まさか。まさかその騎士は。

 

「それにしても。ははっ」
  ケノビラックが思い出したように吹き出した。それを訝しげに見ていたわたしに言い訳するように。
「あぁゴメンゴメン。その子、俺に庇われたと気付いた途端、大泣きしながら何度も謝ってたの
  思い出したら可笑しくなってきて…。
  変だろ?見ず知らずの俺にずっとゴメンなさいゴメンなさい言いながら戦ってたんだ。
  傷そのものは止血さえしとけば大したことない怪我だったのに。
  やたらと腰の低い騎士なんて初めて見たよ。騎士ってより何処かのお嬢様みたいで。
  …あの子きっと出世しないだろうなぁ」

 腰の低い凄腕の女騎士。間違いない。その女は――――――

「なんというか……騎士なのに可愛らしい感じの子だったな…」
  そうのたまうケノビラックの表情を見て、わたしはカチンと来た。

「ふんっ!」

 ごすっ!

 鞘に収まったままの剣をケノビラックの頭に打ち降ろした。
  かなり痛かったのかその場に蹲る。ザマみろ。あんな女なんかに鼻の下伸ばした罰だ。

「〜〜〜〜っ…!い、いきなり何するんだよ、マリカ」
「うるさいっ!!さっさと服を着ろ!いつまでも休憩してないでわたしの訓練に付き合えっ!!」
  ほんとにムカつくヤツ。わたしはこれほどお前のことばかり気にかけていると言うのに。
  あろうことかあの女にうつつを抜かすとは。

「うぅ…自分だって俺に話振ってきたくせに…」
  文句を言いながらも渋々と服を着始めるケノビラック。
  なんだかんだと言いつつ結局わたしに付き合ってくれるところは純粋に好感が持てるのだが。
  いや、好感と言っても男としてではなく、一人の人間としての話だからな。

「では、剣を取れっ!ウィリアム=ケノビラック!」
  訓練用の剣を構え、わたしはケノビラックを見据えた。

 ――――――あんな女なんかには負けない。
       強い女が気になると言うなら、あの女が霞むくらい強くなるだけだ。
      そうすれば。きっとこいつも。

2006/07/10 完結

 

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