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ぶらっでぃ☆まりぃ



1 『ある女騎士の心情』

 そう。一言で言えばムカつくヤツ。わたしの、騎士としてのプライドを一瞬で粉々にした憎き男。
あいつに持っているわたしの感情はそれに尽きる。

 わたしはこう見えて騎士の素質を十二分に持っていると自負している。素質だけじゃない。
  トレイクネル家と対を成す騎士の名家、トリスタン家出身の地位に慢心せず、厳しい訓練もこなしてきた。
  おかげで女性としては異例の十五歳で騎士に叙任された。実際、わたしは同期の騎士の誰よりも
  優れているつもりだ。
  ときおり、同じ女性騎士である戦姫、マリィ=トレイクネル卿と比べられることもあったけど。
  わたしにはむしろ好都合だ。乗り越える壁は高ければ高いほど、越えたときの気分が清々しい。
  英雄と謳われる者ならライバルとして申し分ない。それがトレイクネルの人間なら尚更だ。
  いつか。マリィ=トレイクネルを超える騎士になってやる。それが当座の目標だった。

 だというのに。新任の騎士が集う、訓練合宿で私の予定が大幅に狂ってしまった。

 新米騎士如きにわたしの相手が出来るわけがない。わたしには何の実りもない合宿なのに。
  こんなことならすぐに戦場に出た方がずっといい。そう思っていた。
  でも、その合宿で手合わせしたあいつはあっさりわたしの鼻っ柱をへし折った。
  合宿の前に飛び入りで突然騎士に叙任され、私と同期になった男。
  ……それがわたしを負かした男の正体だった。
  それからだ。打ち負かすべき相手がマリィ=トレイクネルからあいつに変わったのは。

 どれだけ努力してもあいつはいつもわたしを追い抜いている。
  声を掛ければ、あっちはわたしのことを特に気にも留めてない。
  わたしはあいつを負かしてやろうと必死なのに。
  その、まるで「俺はお前なんかメじゃないぜ」的な言い方がカンに障る。しかも朗らかな笑顔で。
  だったら無視すればいいのにそれが出来ない。腹が立つほど気になる、あいつはそんな存在だった。

 だから。わたしはあいつを見つけると、いつもこう言ってしまうのだ。

 

「ウィリアム=ケノビラック!!わたしと勝負しろッ!!!」

 

「それは昨日したじゃないか、マリカ」

 城内の回廊。そこでわたしにびしっ、と指をさされ、げんなりした表情でこちらに顔を向ける一人の騎士。
  ウィリアム=ケノビラック。腑抜けた顔をしているこの騎士の名だ。
  わたしがマリィ=トレイクネルより先にまず越えなければいけない壁。

「城内で大きな声出すの、恥ずかしくない?」
  一部始終を見ていたまわりの人間が奇異の視線をわたしたちに向けていた。
  ……少し恥ずかしくなった。
「うるさいうるさいうるさい!!!それにわたしを馴れ馴れしくファーストネームで呼ぶなっ!!」
  わたしは怒っているのに、ケノビラックは「またか」といわんばかりに苦笑いを浮かべている。
  田舎者丸出しの日和見な態度。ムカつく。
  こいつはどうやらどこかの田舎出身の傭兵だったらしい。
  一月ほど前の戦――――――隣国を大きく退かせたフォルン平野の戦いで大きな武勲を立て
  騎士に抜擢されたそうだ。
  その戦いの戦果のおかげで現在戦争は暫しの休止状態になっている。
  戦争中にも関わらず城内が平和なのはそのためだ。
  こいつのおかげで今の平和な生活があると思うと余計憎々しい。

「だいたい何で俺がそんな目の敵にされなきゃならないか解らないんだけど」
  性懲りもなくそんなことを抜かすか、この男は。
「だっ、だまれ!!我々が部隊に正式配属されて散り散りになる前に、
  わたしはお前を倒すと心に誓ったのだ!!」
「今日は何だか一段と怒りっぽいね……」
  わたしの言葉に何か気付いたように。
「あ、マリカって確か魚嫌いだったっけ。今日の昼食が焼き魚だったから機嫌が悪いんだ」
  見当違いの事を口にした。

 …頭にきた。

「死にさらせぇぇぇ!!!」

 わたしは剣を抜き刺突を連続で突き出した。
  まったくこの男は!この男は〜っ!!!うらうらうらうらぁぁぁ!!!

「うわっ、危なっ、危ないって!城内で抜剣する騎士がどこにいるんだよ!!」
  慌てた声を上げてはいるが、実際は私の剣をことごとくかわしている。
  おのれぇ、何故当たらん!!

「いいから勝負しろ!!ケノビラック!!今日という今日はお前に引導を渡してやる!!」
「わ、わかった!勝負するからやめてくれーっ!」

 やっと色好い返事を聞くことができた。やれやれ。最初からそう言えば良いものを。
  少しだけ気分が良くなってわたしは剣を鞘に収めた。

「では早速勝負だ!ウィリアム=ケノビラック!」
「えぇ!?ちょっと待ってよ。俺にも準備があるんだから」
  ケノビラックが不満そうに言った。情けないヤツめ。…まぁいいだろう。
「ならば半刻後、城の中庭に来い。そこで決着をつけてやる!」
  本心は少しでも早くケノビラックと手合わせしたかったが、仕方ない。
  敵に情けをかけるのも騎士道のひとつだろう。
「わ、わかったよ…」
  はぁ、とため息を吐いてケノビラックはそう答えた。

「いいか!絶対に逃げるなよ!!」
  わたしは最後に釘を刺してその場を離れた。

 ――――――今日こそあいつを「参りました、マリカ様。どうか私めを奴隷にしてください」
  と言わせてやる。
         覚悟しろ、ケノビラック。…………にへら。

 回廊を歩きながらわたしは込み上げる笑みを堪え切れなかった。

 

 

 

「はぁ〜…」
  結局、彼女の勝負を引き受けてしまった。訓練合宿からこの二週間、もうこれで何回勝負したか。
  嬉しそうにスキップなんてしながら立ち去るマリカの後ろ姿を眺めながら、俺はもう一度ため息をついた。

 マリカ=トリスタン。俺と同期の女性騎士だ。現在は俺と同じ新米騎士の訓練部隊に所属している。
  最初見かけたときは口調も男っぽくて近寄りがたい、まさに武人といった感じの女性だと
  思っていたのだが。
  最近の彼女を見て富みに感じるのは、本当は意外と愉快な子なんだなぁ、という親近感。
  とはいうものの。ことあるごとに勝負を持ちかけられてはこっちの身が保たない。
  勘弁してもらいたいものだ。
  彼女がファーストネームで呼ばれることを嫌っていても呼び方を変えないのはそれに対する
  俺のささやかな抵抗だ。

 …愚痴ったところで始まらない。とりあえず詰め所から刃を潰した剣を拝借しに行くか。
  用意せずに行ったら真剣でやろうとか言い出しかねない。

 そう考えて詰め所に足を向けたところで厨房から誰かの引き止める声が聞こえた。

「ウィリアム様」
  俺に声をかけたのは厨房で何かしら料理をしていた侍女だった。
「あれ?シャロンちゃん?」
  その侍女は俺の良く見知った顔――――俺たちの部隊の雑事や世話をしてくれている
  シャロンちゃんだった。
「マリカ様の怒鳴り声が聞こえたのですが…“また”ですか?」
  それだけでシャロンちゃんの言っていることが通じたのが悲しすぎる。
「うん。“また”なんだ」
  げんなりしながら彼女の問いに頷く。
  あぁ。面倒臭いなぁ。でもやっぱり行かないとマズイよなぁ…。
「………」
  俺が三度目の嘆息をしている横でシャロンちゃんが顎に手を当て何か考えていた。
「シャロンちゃん?」
  変に思って彼女の顔をまじまじと見つめる。やがて彼女は顔を上げ、口を開いた。
「…ところでウィリアム様。以前おっしゃっていた、シーフードのポトフというものを作ってみたのですが、
  試食をお願いできますか?」
  彼女の言葉で淀んでいた俺の心にぱぁっと光が差した。
「え!?ほんとに出来たの!?シャロンちゃん食べたことないって言ってたのに」
「えぇ。ですからウィリアム様にご賞味願いたいのですが」
  今日はツイてないとおもっていたけどそうでもないらしい。
「よし、それならすぐ食べたい!いや、食べさせてください!」
「ではこちらに」
  俺は上機嫌で厨房の中に案内された。

 

 

 ―――――――――・・・・・

 

「う〜ん。普通のより煮込みに時間をかけないってことは解ってるんだけどなぁ…」
「食材がよくないのでしょうか」
  あれから。俺たちは二人でポトフと格闘していた。
  彼女の作ったシーフード・ポトフはそれはそれで美味しかったが、俺が食べたものとは違う味だった。
  シャロンちゃんはそれに納得せず、どうすればあの味になるか何度も試行錯誤しながら料理している。

「別にそこまでやらなくても美味しいよ、シャロンちゃん」
  さすがにシャロンちゃんに苦労をかけているのに罪悪感を感じ、そう言ったのだが。

「いえ。どうしてもウィリアム様に文句なく『美味い』と言ってもらいたいので」
  決して彼女は諦めなかった。無言で鍋を見つめている。
  あ、やば。ちょっとじ〜んときた。

「わかった!こうなったら俺も完成するまで付き合うよ!」
  俺は本格的にシーフード・ポトフの完成に向け、彼女の隣に立った。

 ――――――――何か忘れているような気もするけど…ま、いっか。

 結局、シーフード・ポトフに白身魚を霜降りにして使うと気付いたのはそれから一時間後だった。

 

 

 

 

 

 夕暮れ時。城の中庭で一人の女性が肩を震わせながら立っていた。

「おのれ……」

 夕日に照らされながら立ち竦むその姿は見るものに哀愁の念を与える。
  中庭には人っ子一人いなかったため、そんな念に駆られる者など皆無だったが。

「に、逃げたな……ケノビラック…」

 彼女の目には涙。いい年こいて半ベソをかいていた。
  約束の時間からどれほど経ったのか。間抜けにもウィリアム=ケノビラックにすっぽかされたと
  気付いたのはたった今だった。

「おのれーーーーーっ!!!!許すまじ!!!ウィリアム=ケノビラック!!!!」

 アリマテア城の中心で、彼女は呪詛を叫んだ。誰も聞いちゃいないが。

 ――――――――次の日、ウィリアムにこの顛末の皺寄せがきたのは言うまでもない。

2006/07/02 完結

 

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