INDEX > SS > 生きてここに…ANOTHER

生きてここに…ANOTHER

1〜23話
本編


第24章 Another

 暗くなった窓の景色の向こうに誰かが居る
  全身が凍りついたように強張り頭に逃げろと命令が駆け巡った
  俺は額の汗を拭うとできるだけ平静を装った
「詩織さん・・・・奈々さん・・・・」
  二人の肩を掴んでドアに向かう
  かつかつと三人分の足音が響いた
  速く・・・・速く!俺は焦りのあまり窓を見やってしまった
  気づかれた・・・・そう思った瞬間、物陰から姿の見えない黒い人影が大きな窓に向かっていく
  刀先がガラスにめり込みヒビが入る
  刀を引き抜くと思い切り蹴り上げる
  もろい窓は崩壊し、身体の半分を焼かれその手には見覚えの確かにある刀が握られていた
  もしかして・・・・彼女が?
  再び俺の記憶がフラッシュバックした
  覚えている・・・・少し髪が伸びているが・・・・確かに俺はこの人を知っている
  怖い・・・・逃げたい・・・・・そんな考えしか浮かばない
  なにをやっているんだ!俺が二人を護らなきゃいけにんだぞ?
  自分をしっかり持て!逃げるな!逃げるな!逃げるな!逃げるな!
  二人は最低二股やろうの俺を純粋に愛してくれてるんだ・・・・
  護るんだ・・・・俺が!
「久しぶりね・・・・仁さん」
  口元を緩めて彼女はにっこりと笑んだ
  月の光が彼女の背後から差し込み影を作っている
「でも、雌犬二匹はあなたの子供を身篭ってしまったようね・・・・」
  刀を握っていない左手の指が火傷の線を伝っていく
  驚くほど細く美しいその指が不意に止まった
「仁さん・・・・・あなたは許してあげる、でも・・・・あんたら二人は許さない!」
  射抜くような眼光だったその威圧感が明らかに殺意に変わった

 刀が振り上げられた・・・・俺は迷わず彼女の懐に飛び込んでいた
  な・・・・なんだ?身体が勝手に・・・・
  自分がボクシングをしていたという話を考えていたが0秒と1秒の間に消えた
  俺が彼女の腹を殴りつけようとした時だった
  頭上から刀の柄が俺に向かって降りてきた
  後頭部に激しい痛みが走り俺は頭を抑えてその場を倒れた
「ふふ・・・・仁さん・・・・・」
  俺の顎を掴んで少し引き上げると彼女は・・・・香葉さんは自分の唇を舐めて俺に近づけてきた
  俺の唇と香葉さんの唇が重なり彼女の舌が俺の口の中に侵入してきた
  抗おうとしてもがくが頭をモロに打たれ脳が反応してくれない
  香葉さんのしなやかな指が俺の胸を通り抜け全身を愛撫する
「これ以上仁くんを汚すな!」
  がちゃん!ガラスの割れる音がした
  視界が開くとそこには割れたガラス瓶を持った詩織さん
  そして頭から血を流して必死でもがく香葉さんを奈々さんが抑えている
「く・・・・・」
  ふらふらとした足つきで俺が立ち上がると詩織さんが駆け寄って俺を支えてくれた
「大丈夫?」
  上目使いで俺を見つめて詩織さんは頭をさすってくれた
「大丈夫・・・・それよろ速く・・・・」
  逃げろ・・・・その言葉が出る前に香葉さんを抑えていた奈々さんが振り下ろされた
「きゃ!」
「死ね!」

 刀を掴んで奈々さんに向ける
「やめろ・・・・やめろ!!!!!!」
  俺がタックルすると華奢な香葉さんの身体はよろめきその場に倒れた
「仁さま!詩織さま!奈々さま!!!!」
  高田さんが騒ぎに気づきようやく来てくれた
  俺は香葉さんを必死で抑えて高田さんの方を見て叫んだ
「はやく二人を!」
  高田さんはしばし唖然としたあとすぐに状況を理解して二人の手を取った
「仁さん!仁さん!どうして邪魔するの!私はあの雌犬二匹の腹にいる汚物を引き出して!」
「やめて・・・・ください・・・・香葉さん・・・・・」
  俺の涙が彼女の頬を濡らした
  香葉さんはしばし俺を見つめた後にすごく悲しそうな顔をした
「そんなに・・・・大事なの?」
「はい・・・・・」
  それを聞くと彼女は微笑んだ・・・・もう大丈夫なのかな?
  俺が戒めを解くと彼女はゆっくり立ち上がった
「愛しているのね・・・・・二人を」
「はい・・・・・」
「なら、こんな世界に生きていても・・・・仕方ないか」
  彼女は刀を再び握ると自分のノド元に向けた
「香葉さん!」
「来るな!」
  爆発しそうな彼女の感情から来る声が聞こえ俺は思わず身体の動きを止めてしまった
「忘れさせない・・・・私を・・・・私を!」
  不意に彼女から力が抜けて膝が折れた
  首から血が噴出し反対側からは刀の先が突き出されて隙間から血が滴っている
  事切れる前に香葉さんはにっこりと笑んだ
  俺は・・・・俺は!
  なにも出来ない・・・ただのアホだ・・・・最低だ・・・・最悪だ
  この人は本気で俺を・・・・思い悩んでそれで・・・・
  自分に惚れてくれた女の人一人や二人護りたい?
  俺はボクシングを始めたきっかけを思い出しながら自負の念でいっぱいになった
  俺は・・・・護りたかったんだよ
  自分のせいで狂ってしまった少女の前で俺は何度も謝り続けた

 あれから一ヶ月・・・・俺は無気力に過ごしていた
  詩織さんと奈々さんの出産も近い
  二人の世話以外のときは俺はこうやって空を見上げてまた自負の念を抱く
  忘れられない、俺のせいで狂わせてしまった少女の最後の笑みを思い浮かべて
「少しは気晴らししてみてはいかがですか?」
  少しやつれた俺を心配して高田さんがそう言ってくれた
  詩織さんと奈々さんも俺を心配げに見つめ少し微笑んでくれた
  その言葉に甘えて俺は久しぶりに屋敷から出てみた
  そういえば一人で屋敷の外に出たの何ヶ月ぶりかな?
  することもなく小さい頃よく詩織さんと遊んだ公園のブランコに腰掛けた
  ブランコに揺られてまた彼女の最後の笑みを思い返した
  他に道はなかったのか?あれは仕方ないことだ・・・・
  カッコ悪いな・・・・俺、なに言い訳してるんだよ・・・・はは
  このまま消えてなくなってしまえるならどれだけ楽だろう
  また逃げた・・・・最悪だ・・・・詩織さんと奈々さん・・・・それにお腹の子がいるのに・・・・
  最低・・・・最悪・・・・クソやろう・・・・
「泣いているんですか?」
  か細い少女の声に俺はいつの間にか泣いていたのに気づいた
「す、すいません・・・・」
  恥ずかしくなって俺が目元を拭うとそこには綺麗な少女が立っていた
  金髪の髪をかき上げて少女は両手を合わせてにっこりと笑んだ
「お久しぶりで・・・・仁さま」

2006/06/18 To be continued....

 

inserted by FC2 system