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姉妹日記



外伝 『秋乃の章』

「いや・・・・やめて!」
  必死で訴えても彼女はそれをやめてくれなかった
  私の髪を掴んでハサミで切っていく
  ああ・・・・・私の髪が・・・・・
  ひらひらと舞っていく私の髪だったものを見つめ私は絶望の底で涙した
  自慢だった・・・・綺麗だね・・・・両親も親戚の人も私の長い髪を綺麗だと褒めてくれた
  その自慢だった唯一の物がいま音を立てるかのように私の元を去っていった
「う・・・ぅぅ」
  涙する私を見下したように見つめて彼女は笑んだ
「どうして、こんな酷いことするの?」
「理由なんてないわ・・・・ただ」
  すごく意地悪な顔して彼女は私に顔を近づけた
「あんた見てると・・・・イライラすんのよ!」
  それだけ・・・・たったそれだけの理由で・・・・酷い
  酷いよ・・・・
  私と彼女と取り巻き以外誰もいない教室
  夕暮れでの中で私は孤独感に押しつぶされそうになった
「・・・・・なにやってるの」
  たった一人の孤独の中に光が見えた
  神坂・・・・くん?
  中性的な顔の少年が私と彼女の間に割って入った
「酷い・・・・どうしてこんなこと!」
  悪ぶれる様子もなく彼女はニタニタしながらこう言った
「神坂君こんなバァ〜カなんかに構ってないで私たちとカラオケにでもいかない?」
  ゆっくりと神坂君に近づいて身体を寄せる
「実はね・・・私・・・・神坂君のこといいな・・・・って思ってたの♪」
  涙がこみ上げてきた・・・・私は・・・・一体
  なんなの・・・・もう、いや・・・・私・・・・どこにも私がないよ
「ふざけるな!」
  神坂くんの怒りの声と共に彼女が地面にお尻を付いた
  いきなり突き飛ばされて彼女は訳もわからずに呆然としている

「な、なに怒ってるの?イジメなんてみんなやってることじゃん」
  ようやく事を理解した彼女が神坂くんにそう言った
  神坂くんはいつのもの穏やかで温和な感じを影に潜めて激怒していた
「どんな理由があろうと・・・・人を悲しませる行為を僕は許さない!」
「神坂・・・・くん、私・・・・この子があなたといつの仲良く話してるから・・・・だから!」
  ようやく彼女が私をいじめる理由が解った
  私にとってただ一人の友人の神坂君
  私と神坂君が話しているところを見て・・・・だから
「そんなことで・・・・・僕は、大嫌いなんだ・・・・弱い者イジメが!」
  今にも飛び掛りそうな勢いで神坂くんは彼女を詰った
  驚いた・・・・神坂君がこんな大声を上げて今にも枯れそうになっている
  顔も真っ赤になっている
  あれだけ温厚で有名な彼が・・・・
「今度こんなことしたら・・・・絶対に許さないからな」
  威圧感に負けて彼女は取り巻きと共にその場を去って行った

 神坂くんは憤怒した気持ちを抑えるかのように深呼吸をして息を整えると私に手を差し伸べた
  私は恐る恐るその手を取るとゆっくりと引いて起き上げさせてくれた
「・・・・・・」
  床に散らばる私の髪を見て神坂くんは眉をひそめて悲しげに俯いた
  拳を握り締めてわずかに震わせている
  少し話す程度の私の為にこんなにも怒ってくれるなんて・・・・
  曲がったことが嫌いなんだね・・・・
「その髪型・・・・良いと思うよ・・・・」
  しまった、とばかりに神坂くんは口を押さえた
「ご、ごめんね・・・・不謹慎だった」
  気を使っての言葉なのに神坂くんは申し訳なさげに頭を下げる
  すごくまっすぐな人なんだ・・・・
「き、気にしないでください・・・・」
  神坂くんはそのあと何度か謝ると散らばった髪を掃除した
「ほんとに、送っていかなくていいの?」
「はい、大丈夫です・・・・」
「そう・・・・・ねぇ」
  神坂君が帰ろうとして背を向けたあと振り返った
「僕もね・・・・昔、イジメられてたんだ・・・・」
  神坂君も・・・・?私はその事実に驚愕しながら次の言葉を待った
「でもね、勇気を持って・・・・イジメの主犯格を一発殴ってやったんだ」
  回想にふけると神坂君は私をまっすぐに見て微笑んだ
「僕が変わったら・・・・自然と周りの変わったよ」
  窓から差し込む風がゆっくりと私の短くなった髪を揺らした
  いつの間にか夕暮れは闇に変わり月の光だけが私たちの姿を鮮明に照らす
「じゃあね・・・・また明日」
  神坂くんはそう言って再び背を向けるとその場を去った

 その日から私は少しだけでいい自分から変わるようにした
  不思議な事に神坂くんが言うように私が変わると周りの変わった
  イジメもなくなって自然と友達の出来た
  変わったのはそれだけじゃないの・・・・
  恋心・・・・初めて感じる人を想う気持ち
  神坂くん・・・・私
  でも、いまのままの私じゃ女として神坂くんは見てくれない
  私はもっと自分を変えようと決心した
  まずメガネをコンタクトに変えて髪型も女の子らしいのにした
  毎日運動して10キロもダイエットに成功した
  もともと痩せてはいたけど・・・・
  少し体調不良になった・・・・
  この中学は高校もエスカレーター式で行く・・・・
  だから、私はそのときまでにと自分を出来る限り磨いてきた
  そして・・・・
「あの・・・・神坂くん・・・・」
  私は自分が変われたこと・・・・それと自分の気持ちを伝えるため彼に声を掛けた
 
「隙です!じゃなくて・・・・その・・・・・す、好きです!」
  どうか私の気持ちを受け入れてください
「私と・・・・付き合ってください!」
  好きです・・・・好きです・・・・・好きです
         愛しています

2006/06/18 完結

 

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