INDEX > SS > BLOOD

BLOOD

本編
外伝


外伝 『一輪の華』

「ゼル、私だけを見なさい・・・・」
「それは・・・・できない」
「どうして!そんなにあんな女がいいの!!!!」
  片手にナイフを構えて彼女は少年に突きつけた
「脅したって無駄さ・・・・俺が愛し・・・・・て」
  背中から血が噴出して少女の純白の肌を濡らした
「ふふ、おばかさん・・・・後ろはちゃんと見ましょうね」
  血に染まった背中を押さえ少女は後ろでほくそ笑む恋敵を少女は憎悪に満ちた顔で睨み付けた
「殺してやるーーーー!!!!」

「きゃあーーーー逃げて!逃げるのよ、プレシア!ゼル!!!!」
  ・・・・・・・・・・・・・・いやみのひとつでも言っていいのか?
「なにをしているんだ?」
  プレセアの熱読している本を上から覗きながら俺は少し不機嫌にそう聞いた
「あ・・・・・あ、わわ」
  ようやく俺の存在に気づいたのかよ・・・・まったく
  慌てて本を背中に隠してプレセアは身体をもじもじとさせた
「あの世の果てまで・・・・」
  遅いぞプレセア・・・・本のタイトルを俺は確認した!
  確か小さい頃に流行したな・・・・
  二人の女性と一人の男の物語でなんか真っ赤っかな結末だったような
「ど、どうしてゼルが!」
  ここは俺様の家だ・・・・俺様が主だ・・・・俺様が神だ(この屋敷限定)
  居て悪いのかよ
  プレセアとチェアとの間で本がこすれる音がした
  あんな本買ってやったっけな?
  けど、少し薄汚れていたな・・・・あ、そういえば小さい頃に買ったな
  刺激が強すぎて最後まで読めなかったな・・・・ん?待てよ
「なぜに主人公がゼルでヒロインがプレシアなんだ?」
「あへ?な・な・な・な・・・・・なぜにそれを?」
  どこの国の言葉ですか?
  まったくプレシアは普段はしゃきっとしているのに・・・・まぁ、ギャップで可愛さ倍増だな
  お父さん困っちゃうな〜
「大声で熱唱しておったぞ・・・・プレシア」
  確か主人公はアイズでヒロインがロムとアイだったような
「こ・・・・これは・・・・その」
「自分をヒロインに見立てて・・・・そして、俺と結ばれる妄想を繰り返す・・・・ああ、切ないね〜」
  ・・・・・・・やっぱり、運命なのかもな・・・・・俺とお前は・・・・こうなる
  俺は苦笑しながらプレシアとの出会いを思いだしていた

 もう何年経ったのだろう異臭の漂う地獄のようなスラム街でそう思っていた
  辺りにあるのは二つ・・・・死体と腐敗したなにか・・・・
  時々あるのは争う人と人・・・・
  昼なのにここだけ暗くまるで夜のようだ
  その闇の中で俺は最後の希望を胸にある少女を探していた
「あんた、金持ってない?」
  一人の麗しき美女(野郎付き)が俺に声を掛けてきた
「・・・・・・」
  無言で通り過ぎると美女が俺の肩を掴んだ
「待ちなよ・・・・あんた、よそ者だね?」
  ・・・・・・・・・・・・・・
  次の瞬間美女の後ろにいた大男が俺の頭を掴んだ
「ママに教わらなかったかい?ちゃんと挨拶しましょうね〜」
  アホ共が・・・・
  俺が剣を抜く前に大男の腕が落ちた
  地面に着地すると力を失った腕が俺の頭から落ちた
「・・・・・・っ」
  大男の腕を切り下ろした人物を確認して俺は愕然とした
  プレシア・・・・・プレシア!・・・・・プレシア!!!
  必死で涙を堪えて俺が手を伸ばそうとしたときだった
「・・・・・・・」
  無表情で俺の手を払うとプレシアはすたすたと美女のほうへと向かった
「なんだい?私を殺るき?」
  プレシアの後ろで切り下ろされた箇所を押さえ悲鳴を上げる男を見て美女は口元を緩めた

 プレシアは何も言わずに剣先をレアに向けた
  レアが剣を抜く前にプレシアはレアに斬りかかった
  レアは地面を蹴り上げて後ろにさがると身をかがめ姿勢を低くして短剣を腰から抜いた
  地面を這っているのではないかと思えるほど地面をスレスレで動きながらレアはプレシアに向かって行く
  プレシアは剣を逆手に構えると腕を振り上げて地面スレスレを移動するレアに向かって振り下ろした
  レアは身をくねらせそれを回避するとプレシアの剣の柄を掴んでそのまま乗り上げた
  そして短剣を引いてそのまま突いた
  プレシアは涼しい顔で両手で剣を持つと思い切り振り上げた
  天空に向かって飛んだレアが上からプレシアに向かって短剣を振り下ろした
  間合いが詰まり短剣を剣が交差した
「が・・・・・あが!」
  レアが地面に着地すると同時に全身が真っ二つに裂けて別れ左右に倒れた
「レアーーーーーーー!!!!」
  レアの取り巻きだったもう一人の男ゼビスが抜刀してプレシアに迫っていく
  身の程の大きな剣を軽々と持ち上げると自分の半分も身長もないプレシアに向かって大剣を突き出した
  プレシアは回転し遠心力を付けて叩きつけるかのようにゼビスの大剣を弾いた
  ゼビスは大剣を背中付くのではないかというほど寄せた
  地面に刃先を食い込ませながらゼビスは背中から抜刀したかのように大剣を上げた
  半月の形を描き風を斬りながら大剣が華麗な少女に向けって行く
  プレシアの小さな身体が宙に舞い上がり空中で横向きで回転しながら大剣に何度も自らの剣で
  斬りかかった
  すさまじい回転速度で何度も斬りつけてプレシアが着地の姿勢はいることには大剣全体に
  ヒビが入り崩壊寸前になんていた
  信じられない・・・・そういった目で華奢なプレシアを見つるゼビス
「あぁーーーーーー!!!!」
  最後の悪あがきとばかりに大検を振り上げたがその間に刀身は崩れ破片が地面に次々と落ちていく
  プレシアは冷酷なまなざしをゼビスに向けたあととどめを刺すべく剣を向けた
「負けるか―――――!!!!!!!」
  ゼビスは拳を血がにじむほど握り締めてプレシアに向けた放った
  判断が遅れてプレシアの純白の頬に彼女の顔ほどの大きさがある拳が食い込むプレシアは
  何メートルも飛ばされてしまった
「・・・・・・」
  逆転の兆しを見出しゼビスが最後の一撃を放とうとプレシアに近づいていく

 ゼルはゆっくりと抜刀するとゼビスに向かって駆け出した
  いち早くゼビスはそれに気づくと拳を再び握り締めてゼルに向かい飛ばす
  ゼルの羽織ったマントがひらりと舞った
  ゼビスが腕が地面に食い込むの感じたときにはもう遅くゼルの剣が腕に食い込みながら
  上に登り筋肉質なゼビスの腕に線を刻んでいく
  痛みにゼビスはその場に地響きを立てるのではないのかという勢いで倒れこんだ
「ふぅ・・・・・安心しろ・・・・死にはしない」

「貴様、殺してやる――――――!!!!!」
  さっきまで身悶えていた片手を失った大男が激怒し倒れているプレシアの頭を掴んだ
「あ・・・・・ぁ!」
  油断しすぎだ、プレシア・・・・待ってろ今助けてやる
  俺は剣を抜くと一気に大男の懐に飛び込んで腕の神経のみを切り裂いた
  こんどは切り落とされることなく力を失いプレシアが俺の上から落ちてきた
  俗に言うお姫様抱っこでプレシアを抱えると俺は大男に背を向けた

「ま、まて!」
  振りあけることはしない・・・・・
「神経を斬った・・・・出血多量で死にたくなかったら・・・・はやく医者に見せろ」
  そう言うと大男はやっと己の状況を思い出したのか血の気の引いた顔でその場を去って行く
  なんてタフな奴だ・・・・腕を切り落とされて・・・・それでもプレシアに向かっていった
  大事な人だったんだろうな・・・・殺されたあの美女は
  俺は改めて辺りを見渡した
  遺跡のようなになっているかつて人が住んでいたであろう家の跡
  墓・・・・教会・・・・・店・・・・・
  死臭と異臭の中でプレシアは一人で戦っていたんだな
  ごめんな・・・・待たせて
  俺の腕の中で気を失っているプレシアに俺はそっと口付けた

「・・・・・っ!」
  当然瞳が開かれてプレシアは機敏な動きで身を低くし俺を威嚇した
「おいおい・・・・こんな場所にキミのような美少女がいるなんてな」
  俺は彼女に手を差し伸べた
  焚き木の炎の音と風の音だけの静かな空間
  再会はやっぱりこういう雰囲気じゃないとな
「驚きだ・・・・まったく」
  少し離れれば死臭も異臭も死体もない・・・・
  でも、彼女はそこから出れなかったんだ
  それしか知らないから
「が・・・・あぐ!」
  差し伸べた手を握ることも知らない
  ただ恐怖して噛み付く
  痛みなどどうということはない
  プレシアの孤独に比べれば・・・・
「大丈夫・・・・俺はきみの味方だよ・・・・」
  頭をゆっくりと撫でてやるとプレシアは驚き後ろに引いた
  そして擬視される・・・・当たり前か
「一緒に来ないかい?」
「いっ・・・・しょ?」
  プレシアは首をかしげて俺の言葉を復唱した
  ・・・・・俺は一瞬で魅せられていた
  何百年・・・・このときを待ったか
「愛してるよ・・・・」
「あい・・・・・してる?」
  俺に興味を持ったのか少しずつ近づいてきた
「俺が・・・・キミを護るよ」
  必ず・・・・俺はキミを護る

 名前がない・・・・プレシアは無機質な声でそう言った
  悲しくなった、そうなんだな・・・・名前なんて必要なかったんだな
  そのあと俺はプレシアにプレシアという名前を贈った
「この服・・・・なんか着心地悪いです」
  そう言うものなの・・・・
「いつまでもあんな服じゃいられないだろう?」
  以前プレシアが着ていたのは血の染まった白いワンピースのような物だった
  プレシアは窮屈そうに身を揺さぶると思い切り背伸びをした
「・・・・・・」
  黙って俺を見つめる無垢な瞳
  懐かしいな・・・・俺はそのキミの瞳が大好きだった
「まずは・・・・生活していくうえでの最低限のことだな・・・・・」
「・・・・・?」
  不思議そうに俺の後を付いてくるプレシア
「まずはテーブルマナーだ・・・・・な」
  食事を見るや否やプレシアは飛び掛るようにしてそれを口に運んだ
  やれやれ・・・・これから忙しくなりそうだ
「ところで・・・・どうしてあの時助けてくれたんだ?」
  プレシアは初めて逢った時のことだと理解するのに少し時間がかかった
  はしたなくスープをすすったあとプレシアは首をかしげた
「わから・・・・ない」
  なんだよ・・・・それ
「もしかして・・・・俺に一目惚れか?」
「惚れていません・・・・・」
  違うな・・・・知ってたんだよ・・・・俺はお前を
  お前は俺を・・・・運命ってやつだ

「わ、私は別に・・・・ゼルに・・・・こ・・・ここ・・・・恋焦がれてなんか」
  恥ずかしげに頬を染めるプレシアに俺は一気に現実に引き戻された
  おいおい、恋焦がれてなんて俺は言ったか?
  あれ?上を見つめてプレシアは真っ赤な顔でなにぶつぶつ言っている
「ゼルと・・・・・デート・・・・・ゼルと・・・・手を繋いで・・・・・」
  どんどん顔が赤くなっていき今や湯気まで出る勢いだ
「束縛・・・・・SM・・・・・鞭・・・・・いや〜ん、あは〜んな情事・・・・いけない二人・・・・・」
  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
  誰がお前にそんな知識を授けた・・・・
  俺は本と本との間に隠してあるリストの官能小説ををうらみつつプレシアを見つめた
「まさか、こんな妄想っ子だったとはな・・・・ふふ」
「ち、違います!私は・・・・・ゼルのことなんて・・・・大嫌い!」
  必死に否定して・・・・
  可愛い奴だな・・・・・
「プレシア・・・・これからも、ずっと一緒に居てくれな」
「ゼ、ゼルがどうしても・・・・と言うのなら」
  今度こそ・・・・今度こそだ・・・・・
  俺はキミを護ってみせるよ・・・・プレシア

2006/06/19 完結

 

inserted by FC2 system