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BLOOD

本編
外伝


登場人物

プレシア・サキエル ツンデレ娘。依存系のゼルの絶対論者。

メシア・シャムシエル ゼートラルの姫君。

リスト・サンダルフォン ゼルの妹。キモウトをめざしています(作者が)

リルス・レリエル メシアのおもり&護衛やく

簡単ですがこんな感じです

第1章 『青い華』

 華やかな道を二人が歩く
  国全体が祝福の中にある
  中心人物は二人の男女
  男性の方は長髪に銀髪で中性的な顔立ちで美形な少年だ
  もう一人の女性は少年より長く美しくなびく赤い髪
  顔立ちは非常に整った綺麗な顔立ちだ
  誰かが言う『彼女は世界一の美人』と・・・・・
  その言葉が似合う女性は他にいないだろう
  いや・・・・もう一人・・・・彼女に唯一対立できる女性がいる
  彼女が闇の中の光なら・・・・その対をなす彼女は光の中の闇

 華やかな結婚式で盛り上がる国の隣国・・・・
「ゼートラルの兵は皆殺しだ!」
  青い髪が舞った
  炎に浮かぶその青はまるでゼートラルで今結婚式を挙げている姫君
  メシア・シャムシエルの赤い髪の対象
  その瞳に宿るのは氷のような深い闇
「なんとしても・・・・結婚式をぶっ壊す・・・・あの人のために」
  美しいその顔を血に染めて少女は己の心を埋め尽くすメシアへの憎悪と一人の男への愛に
  その身を焦がしていた

 あなたの為なら私は修羅になる
  私は心にそう誓った
  私には恋人がいる・・・・名はゼル・・・・フルネームはゼルエル
  王族の血筋のかれはスラム街の最果てで出逢った
  物心付いた頃から私の道にあったのは死体と血のみ
  悲しいや辛い・・・・寂しい・・・・ましてや楽しいなんて知らなかった
  その血の雨の中で彼は私を救い出してくれた
  すさまじいまでの剣さばきに私はこの世のすべてを見た
「おいおい・・・・こんな場所にキミのような美少女がいるなんてな」
  このとき彼は私に世界をくれた

「ほれ、にっこり笑ってみ?」
「・・・・・・・」
  出逢ってすぐにゼルは私を自分の屋敷に置いてくれた
  けど・・・・いま思うとすっごく失礼だったと思う
  無言の私をゼルは笑ってみせてくれた
「こうだ!こう・・・・わかるかな?」
  よく見捨てなかったと思う
  私がゼルなら・・・・見捨てていた
「私・・・・わからない」
  これがはじめてゼルに私は掛けた言葉だった
「・・・・・・」
「なにか?」
「喋れるんだな・・・・キミ」
  ゴン・・・・!なぜか私は彼の頭を叩いていた
「よし、いいツッコミだ・・・・これでこそわが弟子じゃ・・・・大きくなったの」
  およよ・・・・口元に右手を当ててゼルは後ろに引いた
「お父さんはうれしいぞ・・・・・」
「あなたに産んでもらった記憶はないです」
「あれ?俺って・・・・カタツムリ?」
  よく意味がわからなかった
「んで、名前は?」
「名前なんてありません・・・・」
  私に名前なんてない・・・・親もいない・・・・友達も・・・・
  そんな私になんで名前なんて・・・・
「そうだな・・・・じゃあ、お父さん・・・・考えちゃうぞ」
  だからあなたは私と歳・・・・一緒でしょ
「そうだな・・・・プレシア・サキエル・・・・なんてどうかな?」
  この日からプレシア・・・・それが私に名前になった

「ほへ?・・・・あんた誰?」
  失敬ですね・・・・わからないんですか?
「プレシアです・・・・自分で付けた名前をもうお忘れですか?」
「・・・・・貴殿はどこかの姫君か?」
  なにを言っているのですか?
  あなたから言われたままに私はドレスなるものを着ただけです
「ベッピンさんになって・・・お父さんは嬉しいぞ、綺麗だぞ・・・・・プレシア」
  ・・・・綺麗?
「キレイ・・・・ってなんですか?」
「ごて・・・・一からかよ・・・・これはほんとにキミのお父さんになっちゃうかも」
  なんででしょうか?
  すごく暖かいです・・・・

 ・・・・なんだろう・・・・この気持ち・・・・
「へ〜キミ可愛いね〜・・・・・今夜どう?」
「お友達の勧誘なら間に合ってます・・・・・」
  男女が逆だと思いますよ・・・・それ
「ゼル・・・・そろそろ行きましょう」
  正体のわからないものが怖い・・・・私は自分が怖い
  だから・・・・早くこの場を
「お、デカパイ・・・・・・」
  な・・・・・・・ゼルの額を思い切り叩く
「げふ!」
  私の胸をなんで掴むんですか・・・・誰にも触らせたことなかったのに
「私もデカパイよ〜」
  さっきまでゼルに声を掛けていた人がゼルの手を掴む
「おお、デカパイ・・・・美味しそう・・・・」
「い、行きますよ・・・早く!」
「痛でで・・・・・初めてなんだから優しくしてよ・・・・♪」
  なにを言っているんですか・・・・バカ・・・・・

 ・・・・なんだろう・・・・この気持ち・・・・
「へ〜キミ可愛いね〜・・・・・今夜どう?」
「お友達の勧誘なら間に合ってます・・・・・」
  男女が逆だと思いますよ・・・・それ
「ゼル・・・・そろそろ行きましょう」
  正体のわからないものが怖い・・・・私は自分が怖い
  だから・・・・早くこの場を
「お、デカパイ・・・・・・」
  な・・・・・・・ゼルの額を思い切り叩く
「げふ!」
  私の胸をなんで掴むんですか・・・・誰にも触らせたことなかったのに
「私もデカパイよ〜」
  さっきまでゼルに声を掛けていた人がゼルの手を掴む
「おお、デカパイ・・・・美味しそう・・・・」
「い、行きますよ・・・早く!」
「痛でで・・・・・初めてなんだから優しくしてよ・・・・♪」
  なにを言っているんですか・・・・バカ・・・・・

 あれからの私なにかおかしい
  ゼルは私以外の女と一緒にいるだけで今まで感じたことない感情を覚えた
「シャン・・・・少し離れてあるかないか?」
  私の少し前でゼルが女と肩を寄り添って歩いている
「いいじゃない・・・・私たち恋人なんだし」
「違うから・・・・」
  すぐに否定したけど・・・・・なんだろう?
  この気持ち・・・・・
「もう、連れないな・・・・仕方ない、また今度だ・・・・待ってなさいよ」
  愛想笑いを浮かべて手を振ったあとゼルが私の顔色をうかがった
「・・・・・・お、鬼がいるよ?なに・・・・キミの後ろに鬼がいるよ?」
  びくびく・・・・膝を抱えてゼルがわざとらしく身体を震わせた
「もしかして・・・・嫉妬した?」
「そ、そんなんじゃありますん」
「どっちだよ!」
  わかりません・・・・
「嫉妬ってなんですか?」
「言葉もかよ・・・・まったく」
  その後ゼルはゆっくりと嫉妬の意味を教えてくれた
「違いますから・・・・地球がひっくり返っても違いますから!」
  言葉の意味を聞いて私は顔が赤くなるのを感じながら否定した
「全面否定ですか・・・・お父さんがっかり」
「・・・・私があなたのことが好きなんて絶対ありません」
  愛しています・・・・・
  誰よりもなによりも・・・・
  私を見てください
  私だけを見てください
  私に触れてください
  私だけに触れてください

第2章 『赤い華』

 少女の赤い瞳は見るものを深く吸い込んでしまいそうなほど澄んでいた
  その瞳のさきにある物を少女は苦々しい思いを込めて見つめていた
  もう少し・・・・・もう少しだ・・・・少女は自分に言い聞かせて今にも噴出しそうな心を鎮めた
  鳥たちが舞い飛び歓喜の声がここまで聞こえてくる
  少女にはその声は耳障りでしかない
  唇を噛み締めて先にそぼえる大国とその中心の真っ白な城を見つめた
  鐘の音がここまで響いてくる
  口にひろがる血の味を感じながら少女は小さくつぶやいた
「行きます・・・・・」
  手に構える剣を振って血を払うと少女は今の外見には似つかわしくない澄みきった声でそう言った
  少女の顔はまるで作ったかのように整っている
  この世の美をすべて独り占めしたかのようなその外見の少女の容姿は今は赤く染まっている
  誰にものかもはや確認できないほどの返り血に染まった少女は唯一色が赤ではない青い髪を
  掻き分けて微笑した
「・・・・・ゼル」
  悲しい旋律があたりに響いた

 華が舞い空の鳥も踊る
  国中が祝賀ムードの中の中心の男女は前が見えないほどに作られた道を進む
「浮かない顔ですね?」
  赤い髪をなびかせて少女は銀髪の少年にそう問う
  少年は少し悲しげに微笑むと空を見上げた
  自分はなにがしたかったのだろうか・・・・
  ダークグリーンの瞳から涙が零れ落ちた
「泣いて・・・・いるのですか?」
  少女がまた問うと少年はまた悲しげに笑んだ
  悲しげな少年の頬に少女の指が触れる
  二人はなにを語るでもなく歓喜に沸き喜びを直接的に表現する民衆に手を振った
  美しい旋律があたりに響いた

 退屈だ・・・・それが率直な感想だった
  周りは盛り上がっているけど私にとってはいつものと変わらぬ光景にしか見えない
  闘技場に目線を落ちして私は何度目かのため息を付いた
  円状の舞台の上で細身の女性といかつい男が剣を交えている
「・・・・・・」
  こんなのいかに彼女が強いかを国や他国にアピールするための行事に過ぎない
  勝つのは彼女だ・・・・リルス・レリエル
  私を保護する護衛部隊の隊長
  エイリアはしなやかな動きで男の鈍足な攻撃を回避しその首筋に磨ぎ覚まされた切っ先を向けた
  男が恐怖で身を下げるとエイリアはなんのためらいもなく腹を殴りつけた
  全身が痙攣したかのように男がビクビクしだす
  リルスが男に背を向けると男はまるで地響きをたてるかのよな勢いでその場に大きな身体を横たえた
  わかりきっていた結末に私はまたため息をついた
「おお、さすが巨乳怪力魔人プレシア!」
  大きな歓声に私は退屈な時間を一瞬で忘れ去った
「うるさい!」
「げふ!」
  歓喜の集中する先は若い男女の姿があった
  一人はすごく顔立ちの整った少年
  そして綺麗な青い髪が印象的な人形のような綺麗な顔立ちの少女だ
  少女はなんのためらいもく円状の舞台の淵にいる少年にとび蹴りをかました
  その後ろには巨漢が泡を吹いて倒れていた
  この少女がリルスの決勝の相手?
  私は自嘲気味になりながらも少し楽しみが増えたような気がした

「・・・・・・」
「・・・・・・」
  いつになくリルスが本気なのだと感じた
  今まで彼女が本気を出したところなんて私は見たことがない
  それが今は息を切らし肩を激しく上下させている
「弱ってるぞ〜、短髪のお嬢さん〜、早くその暴力魔人のプレシアを退治してやれ〜」
  左目を青くした少年がおどおどしながら淵から声を掛ける
「・・・・誰のために私が戦ってると思ってるんですか!」
「・・・・はて?」
「ゼルが優勝商品のキーオブザトワイライトが欲しいって言うから私は・・・・」
「にやり・・・・」
  下品な声を上げて少年が笑んだ
  すると少女は顔を真っ赤にして
「ち、違いますから!あなたのためじゃないですから!」
  緊張感のかけらもない・・・・呆れてしまいます
  現にリルスも呆気にとられて相手が隙だらけにも関らす呆然としている
「いまじゃ!叩けーーーーー!!!!」
  少年が大声を上げると少女はハッと息を飲んで攻撃を仕掛けた
  逆に隙を取られたリルスの剣が天空に舞いしばらくして円状の舞台に突き刺さった

 私は苦々しい思いを押しとどめることなく下に降り円状の舞台の淵に来た
「ずるいではないですか!不意打ちなんて!」
「うるさい!うるさい!勝てばいいんだよーーーーだ!」
  子供ですか?あなたは・・・・・
  少年が大声を上げて舌を出した
「ゼルが勝ったわけじゃないのに・・・・かっこ悪い」
「俺はお前が俺の為に戦う姿が見たかったんだ・・・・」
  また少女が首まで真っ赤に染めて地面をふんずけた
「あなたのためじゃありません!」
「愛を感じたぞプレシア・・・・・お父さんはうれしいぞ」
「だから、私は惚れてもいないし愛してもいませんから!」
「素直じゃないな・・・・プレシア」
  また関係ない話を・・・・
「こんな試合無効です!」
  私は苛立ちを隠すことなく少年を睨んでそう言った
「そんな〜いけず〜、姉ちゃん・・・・まけてくれよ」
「ダメです!」
「ならどうしたら納得してくれるんだ?」
  納得?そうですね・・・・
「あなたがリルスに勝利できたのなら・・・・いいでしょう」
  少年は少し不安げな顔をした・・・・当然ですね
  正面から戦ってリルスに勝てる分けないものね・・・・
  どうやらバカじゃないみたい
「いいよ・・・・なんてったって俺つお〜いし」
  しかし軽いのりで舞台に上がると少年はプレシア・・・・そう呼ばれた少女の手の剣を取った
「ゼル・・・・・」
「心配してくれてるのかい?」
「そ、そ、そ・・・・そんなことないじゃないですか!なんで私があなたの心配なんて・・・・
  しなくちゃいけないんですか!」
「はいはい・・・・心配せずに見ていてくださいませ」
  少年がそう言うと今度は少女が淵に下がった
「いいですか・・・・リルス・・・・あなたに敗北は許されません」
「わかっておりますメシアさま・・・・」
  リルスは鋭い眼光で少年を睨みつけた

「下がってください・・・・メシアさま」
「ええ・・・・」
  私が淵に下がると同時にリルスが剣を下段に構えて少年に向けって行く
  少年はどこ吹く風という感じでやる気なさげに剣を構えた
  そして目を閉じた
  数秒の間のあとに開かれた瞳を確認すると同時に私は自分の目を疑った
  気づいたときにはリルスは倒れ少年の剣には鮮血が付いていた
  私はまた怒りを抑えることなく舞台に上がり少年の頬を叩いた
「条約を読まなかったのですか?殺してはならぬと・・・・」
「よく見てものを言え・・・・俺が誰を殺したって」
  驚くほど冷たい声に私は全身を射抜かれたかのように動けなくなった
  な、なに?この感覚は・・・・・
  重い動きで私が背後で倒れているリルスのほうへ目をやった
  え・・・・血どころか怪我すらしていない
「ご、ごめんなさい・・・・私、あなたの剣に血が付いていたから」
「血・・・・?」
  少年は驚きで目を見開いた
  なんかなにごとにも動じないって感じだけど
  驚いた顔になぜか私は興味を引かれた
  ただのギャップだろうけど・・・・
「・・・・?あなたの目・・・・・不思議ですね左右で違う」
「な・・・・・!」
  近くで見てその瞳に違和感を感じた
  右目の色が赤
  左目の色が青
「あんた・・・・見えるのか?色が・・・・・」
「ええ、それがなにか?」
  少年はなにを思ったのか私の前に突然ひざまずいた
「あなたを探しておりました・・・・・もう一人の姫君」
  少年はすっと立ち上がると私の頬に口付けた
「え・・・・・」
  こんなことされたのは初めてだった・・・・・
  頬から全身にかけて熱が伝わる
「あなたは・・・・・・いったい」
  にっこりと少年が笑むと同時になにかが少年の頭にぶつかった
  それでもまたにっこりと笑む・・・・またなにかが少年の頭にぶつかった
「さすがに剣はやめてくれよ・・・・・プレシア」
  少年が顔を私から横にずらすとそう言った
  私も続くとプレシアと言われた少女の後ろにはどこから持ち出したのか樽と剣が山のように
  積まれていた
「嫉妬深いな・・・・プレシアは」
「・・・・・っ!」
  心なしか投げられる樽の数が増えたような気がする
「誰が嫉妬なんて!してません!してませんから!誰があなたのことで嫉妬なんて!!」
「取り乱すプレシアも可愛いな〜・・・・・ぐへ!」
  止めとばかりにモロに顔面に樽を食らい少年は倒れた
  これが・・・・私と少年・・・・いえ、ゼルとの出逢いでした

第3章 『ゼロ』

 銀髪の少年の母国にある大きな屋敷でまだ幼さの残る少女が口元を緩めた
  まだか?まだなの・・・・・報告は?
  同じ場所を行ったり来たりと世話しなく往復する
  なにをやっているのかあの役立たずが・・・・
  少女は苛立ちを隠すことなく近くにあったイスを蹴り飛ばすとテーブルに置いてあるグラスを取った
  グラスの中の真紅ワインが揺れて波紋をたてる
  まあいい・・・・少女は微笑した
  最後に笑うのは自分だ・・・・
  少女の手からグラスが落ていき地面で割れた
  白い純白の絨毯が真っ赤になるのを見て少女は大きな瞳を細めるとにっこりと笑んだ

 自分は彼女になにかしてあげることができたのだろうか?
  銀髪の少年は今日何度目かになる自問をした
  答えなど出ていたら自分はいまここにはいないか・・・・
  少年は自分のふがいなさと一人の少女への懺悔の気持ちで一杯になった
  こんなことなら・・・・真実を彼女に伝えておけば
  嫌われ役に徹していれば・・・・
  悔いても戻らぬ時間を思い少年は憂いを含んだ顔で天空を見上げた
  瞬間、少年の目が驚きで見開かれる
  同時に大きな爆発音がした
  この国の象徴でもおおきな門が炎上している
  穴の開いた部分から武装した兵士らしき人たちが侵入して来る
「ガイロスト!?」
  少年は見知った紋章と鎧にそう大声を上げ再び天空を見つめた
「プレシア!」
  天空から舞い降る少女の髪が左右に別れてまるで翼のように広がった
  天使かとも思えるその姿に少年は一瞬で魅せられてしまった
  少年に背を向けて地面に着地した少女は身をひるがえして腰の剣を抜いた
  青い髪の毛先が舞い上がり円状の軌道を描いた
  少女は少年を見つめ一瞬微笑んだ
  そして・・・・すべてがゼロになった

「兄様・・・・今日も遅かったですね!」
  またかよ・・・・帰るそうそう
  俺は不満げな態度をとって近くにあったイスに腰掛けた
「お前は俺の嫁さんかっての・・・・」
「兄様に一生面倒を見てもらいます」
  はぁ、こいつは・・・・
「リスト・・・・お前もそろそろ婚約なり結婚なりしてくれんのか?」
  うんざりと・・・・答えるとリストの瞳から一筋の涙が落ちた
  そして・・・・・
「兄様以外の男性に・・・・兄様が私以外の女と」
  そうだよ・・・・そうそれが自然な形なんだよ
  理解したかわが妹よ・・・・
「坊ちゃま・・・・お夜食をお持ちいたしました」
  巨乳のメイドさんが乳をボンボン揺らしながらうまそうな飯を持ってきた
  この場合乳と飯両方を指す
「いただっきま〜す」
  ブイン!
  俺の頬を何かがかすめて頬に線が入りそこから微量の血が流れた
  俺の後ろの壁にナイフが突き刺さる
  な・・・・・
「に、兄様は・・・・私が他の男に汚されても構わないと?」
  兄様ですから・・・・妹の幸せを願うのですよ
「兄様が私以外の女に汚されても構わないと・・・・?」
  それは俺の自由だと思うぞ・・・・うん
「させない!他の誰にも兄様を渡したりなんてしない!」
  ナイフをちらつかせてリストは俺に恋慕のそれともとれる視線を送った
「お嬢様?」
  巨乳メイドさんが心配げに声を掛けるとリストはすさまじい形相でメイドさんをにらみつけた
「クビ・・・・あんたクビよ」
  メイドさんの顔が青ざめていく・・・・・
「お前のどこにそんな権限がある・・・・安心しろ巨乳メイドよ、こんなぺちゃパイ妹の横暴は
  俺が許さん」
  メイドさんの顔に血の気が戻っていく
  良いことした後は気分がいいな・・・・うむ
「兄様は・・・・兄様は私よりもそのメイドがいいと・・・・そうおっしゃるのですか?」
  妙に低いぞ・・・・リストの声が
「だったら、あんた殺して私が一番になってやる!」

 ナイフを振り上げリストは巨乳メイドさんに襲い掛かった
  最初は冗談のたぐいだと思ったがリストの目は本気だ
「く・・・・!」
  俺の肩にナイフが食い込む
  しかしすぐにナイフが引いていく・・・・
「あ、兄様!・・・・・」
  リストがその身を投げ出して俺の方を舐め始めた
「ごめんなさい・・・・私・・・・・」
  申し訳なさげに・・・・リストは俺の肩を舐めている
  幸い深くは入っていないので俺にとってはかすり傷の中に入る・・・・
「なんでも、しますから・・・・私とずっと一緒にいてください・・・・兄様」
  もう少ししたらこいつもほんとの恋を知るだろう
  それまでなら・・・・・待ってやるよ・・・・それまでだぞ?

第4章 『旋律』

「はぁ〜」
  おかしい・・・・彼・・・・ゼルと出会ってから私はおかしい
  ゼルのことばかり考えている
  もう数日経っているのに・・・・頬にはまだ熱を感じる
「どうしましたか?メシアさま?」
  リルスが心配そうな顔で私にそう問う
  なにも答えない私にリルスは肩をすかすと窓を開いた
  朝日の清々しい光が私の身体を照らして小鳥のさえずりが私の心を満たしてくれた
  でも心の奥にある隙間のような物までは満たしてはくれなかった
「恋・・・・ですね」
  恋?私は長年頭を悩ましていた謎が解けた学士のような感覚を感じ迫るようにリルスに詰め寄った
「なぜ私が恋をしていると?」
「恋わずらいと言いますでしょ・・・・・ため息をついたり誰か一人のことばかり考えたり」
  私が・・・・恋を?
「一目惚れなんて・・・・私はそんな軽い女ではありませんよ?」
「なら、運命だと思えばいいじゃないですか・・・・恋などいままでしたことなかったのでしょ?」
  そうか・・・・運命か・・・・
  私は悩みが解消された爽快感で窓に広がる広大な景色に目を向けて
  思い切り息を吸い込んだ
  気持ちいい・・・・それに・・・・素敵
  こんな素敵な気持ち初めて・・・・・
「リルス!」
  待ってましたとばかりにリルスが私の前に衣装ダンスを持ってきて広げた

 ここが彼の国・・・・
  幸い私が親善の為に国に来たと言うと国王は手厚く出迎えてくれた
  私がゼルを気に入ったと言うと王は『ぶっきらぼうな甥ですが気に入っていたたでけて嬉しいですよ』
  と笑い飛ばした
  私が国の案内をとたのむと王は気を利かせてゼルをその役を任せてくれた
「・・・・・・・」
  どうかしたのかしら?最初に逢った時のあのおちゃらけた感じは陰を潜めてまるで従者のように
  私の命令を待っているよう
「あの?・・・・私、なにか気に触ることでもいたしましたか?」
「いえ・・・・そんなことは」
  その瞳に私はあることを思い出した
  変わったのではない・・・・彼が変わったのは私がその瞳の色が左右違うと言った時から
「あなた・・・・私を探していたと仰いましたね?」
「はい・・・・長年」
「どうしてかしら?」
  ゼルは歩みを止めると私をまっすぐに見つめた
  それだけのことなのに・・・・その瞳に私が映っていると感じるだけで私がまるで恍惚したかのように
  顔を染めた
  息遣いもまるで私のものではないみたい
「あなたに・・・・尽くす為です」
  なんでもしてくれるの?私に?・・・・なら
「キス・・・・してください」

 まったく、まったく!
  ゼルはいったい何をしているの!?
  気・・・・気になってなんていない!
  ただ・・・・・そう、ゼルがまた鼻の下を伸ばして女の子に迷惑を掛けているに違いない
  女の子がゼルの毒牙にかからないかどうかが心配なの!
  バカらしい・・・・誰に言い訳しているのかな?
  思えば思うほど・・・・私は・・・・もう少し素直になれたら
  ゼルは私にキスしてくれるかもしれない
  抱いてくれるかもしれない・・・・
  思い浮かべたその光景が現実と重なった
  え・・・・・
  向こうでゼルがひざまずき私以外の女にの手の甲に口付けていた
  女が不満そうな声を出すとゼルは立ち上がり女の頬に手を乗せた
  やめて・・・・やめて!

 ゼルが愛していいのは私だけなの!
  ゼルを愛していいのは私だけなの!
  触れていいのも・・・・・触れられるのも・・・・ゼルのすべては私のものなの!
  ゼルなにをしているの?ダメよ・・・・やめてお願いだから・・・・
  そんな女に・・・・私だけなんだよ?
  言ったじゃない・・・・愛してるって・・・・・囁いてくれたじゃない
  私だけを見てくれるって・・・・私を護るって・・・・・
  悪夢は続いた・・・・
  ゆっくりとゼルは女に口付けた
・・・・ゼル?

 ゼル!ゼル!ゼル!ゼル!ゼル!ゼル!ゼル!ゼル!ゼル!ゼル!ゼル!ゼル!ゼル!ゼル!ゼル!
  ゼル!ゼル!ゼル!ゼル!ゼル!ゼル!ゼル!ゼル!ゼル!ゼル!ゼル!
  ゼル!ゼル!ゼル!ゼル!ゼル!ゼル!ゼル!ゼル!ゼル!ゼル!ゼル!ゼル!ゼル!ゼル!ゼル!
  ゼル!ゼル!ゼル!ゼル!ゼル!ゼル!ゼル!ゼル!ゼル!ゼル!ゼル!

 嘘だと言って!悪夢だと言って!私以外にキスなんてしないって言って!
  あんな女嫌いだって言って!私だけを見て!私だけに触れて!私だけを愛して!
  私にとって世界はあなたなの!その私からそれを奪わないで!私に気づいて!
  今なら間に合うから!そんな薄汚れた女より私の方がいいでしょ
  もう過ぎてしまったことはなにも言わない!でもそれ以上はやめて!

 私を見て!私を見て!私を見て!私に気づいて!私に気づいて!私に気づいて!
  私を見て!私を見て!私を見て!私に気づいて!私に気づいて!私に気づいて!
  私を見て!私を見て!私を見て!私に気づいて!私に気づいて!私に気づいて!
  私を見て!私を見て!私を見て!私に気づいて!私に気づいて!私に気づいて!

 こんなにも愛しているんでよ?あなたの為なら私はなんだってやってみせます
  人を殺す事だっていとわない!今まであなたの言うことはなんでもきいてきたじゃないですか!
  それに気づかないゼルもゼルだけど!許せない!あの女!私のささやかな幸せを奪った!
  許せない!不満とばかりに舌を絡めるように催促している
  許せない!殺してやる・・・・・殺してやる!

 

 

 

 

 殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!
  殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!
  殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!
  殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!
  殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!

 その醜くキスの快感で喘ぐ声を発するノド元を裂いてやる!
  男を惑わすきらびやかな髪を根こそぎ引っこ抜いてやる!
  ゼルにそれ以上近づくならその両足も切り裂いてやる!
  それ以上ゼルに触れるならその両腕を切り落としてやる!
  これ見よがしにゼルに押し付けるその胸も判別できないほどずたずたにしてやる!
  ゼルを惑わすその綺麗な顔も皮を剥いで原型の分からないほどにしてやる!
  そうよ・・・・ゼルと私の間を邪魔する女はみんな私が壊してやる!

第5章 『聖の儀式』

 上流階級の人間が住む住宅街の一角で誰もいないのをいいことに私は無茶なお願いをしたけど
  彼は私の言葉に従って静かに口付けてくれた
  情熱的に舌が絡み合う
  気持ち良い・・・・誰かと接吻するのは初めてだったけど
  とても気持ちよかった、彼の中に溶けてしまう感覚
  これが・・・・女の喜び?
  違う・・・・もっともっと気持ち良いことがあるはず・・・・
  教えてくれますよね?私に・・・・
  ゼルの首に腕を絡めて私はもっと深くと催促した
  なんのためらいもなくゼルは受け入れるとより深くと舌を絡めてきた
  幸せに包まれながら時を忘れている私の胸が不意に苦しさに悲鳴を上げた
「あ・・・・・く!」
  膝を付きその場に崩れる
  な・・・・なに?この感覚は・・・・キスの余韻などではない
  血が凍り全身の神経を通じて頭に危険だと知らせている
  胸が・・・・・かきむしる胸の痛みが私の頭に見知らぬ光景を教えてくれた
  私の手を取るゼルによく似た青年・・・・そして・・・・
  それから先は見えなくなった・・・・
  光景が消えたわけじゃない・・・・私の意識が持たなかった
  霞む景色が二重三重になって揺らめいた
「プレシア・・・・・まさか!」
  驚きでその身を震わせるゼルが呆然とある一点を見つめている
  剣を抜こうか一瞬ためらってゼルはそれをやめた
  少しの笑顔の後にゼルの身体がゆっくりと倒れた
  な、なに・・・・?
  はっきりしないまま私はある光景を思い返していた
  ゼルと初めて逢った時だ・・・・あのときのリルスと同じだ
  同時に怒りがこみ上げてくる・・・・どこの誰だか知らないけど・・・・よくもゼル

 どこかで声がした・・・・
『見つけた・・・・・ふふ』
  まだ幼さの残る声が私の頭に響いた・・・・
  ・・・・?重かった身体が不意に動いた・・・・立てる?
  立ち上がると同時に全身の血が右手に集中しているかのように熱を持った
  な・・・・なに?これは・・・・見ると右手にはしっかりと血塗れた剣が握られていた
  頭の中にまた声がした
『殺しあうの・・・・・あのときのようにね』
  身体が勝手に動く・・・・いや・・・・怖い!
  まるで操り人形のように私は駆け出した
  霞む意識の中で私は近くの迫ってくる少女を確認した
  うつむきかげんで表情は伺えない・・・・少しよろめきながら私の剣とは少し違う血塗られた剣を
  引きずりながら近づいてくる
『あなたの敵を・・・・彼女を!』
  頭の声が強くなる
  痛い・・・・苦しい・・・・辛い・・・・悲しい・・・・寂しい
  負の感情が込み上げる
  思い出した・・・・あの子はゼルの近くに居たあの少女だ
  一度きりだが見た限り彼女もまたゼルに好意を持っている
  負の感情の中にまたある想いが芽生えた
『あの女さえいなければゼルは私の物に!』
  声の主が私だと気づき私は己の感情に恐怖した
  止められない・・・・

 殺せ・・・・殺せ・・・・・殺せ・・・・彼女は彼の愛を独り占めした
  なにを・・・・言っているの?
  消してしまえ・・・・そうすればゼルは私の物になる
  やめて!これ以上私の心に入ってこないで!
  無駄よ・・・・私は・・・・・
『あなた自身なんだから・・・・・』
  頭に方目を潰された少女が浮かんだ
  顔の半分を血に染めている、その手には小さな眼球が握られている
  私は必死に逃げた・・・・けれども少女はどこまでも追いかけてくる
『無駄よ・・・・メシア・・・・・』
  顔が冷たい・・・・恐る恐る触れてみるとやはり冷たい
  手を確認すると鮮血がべっとりと付着して地面に落ちて弾かれた
  目が・・・・目が!
『言ったでしょ!あなたは私なのよ!』
  痛い・・・・痛い・・・・・痛い・・・・痛い
  苦しいよ・・・・苦しい・・・・助けて・・・・ゼル・・・・
『捕まえた!』
  少女の手が私の肩を掴んだ

「あぁぁぁ!あぁぁぁ!あぁぁぁーーーーーー!!!!!!」
  剣を握る力を強めながら私は猛然と正面に迫った少女に突進していく
「あぁぁぁーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!」
  上段に構えた剣を思い切り振り下ろした
  あの女は微動にせずにそれを自らの剣で受け止めた
  私何度も剣をあの女に向かって叩き付けた
  殺せ・・・・殺してしまえ・・・・殺すんだ!
  あの女が一歩引き剣をゆっくりと後ろに引いた
  気づいた時には私の鼻先を血塗られた剣がかすめていた
  私が回避したのを見ると無機質な瞳が一瞬光を持った
  瞬間突かれた剣が止まり横に軌道を変えて私に向かってきた
「メシアさま!」
  リルスが剣を構えてあの女に向かっていく
  それを見たあの女が地面を蹴り上げて後ろに下がる
  私とあの女の間にリルスの剣が割り込んだ
  私の身体がまた動かなくなった・・・・
  そしてそれは始まった・・・・

 プレシアは覇気に満ちたリルスの顔を掴んだ
  その瞬間まるで電池の切れたオモチャのようにリルスの身体から力が抜けた
  力なく地面に膝を付き悲鳴を上げるリルス
「あ・・・・・あぁぁぁ!!!!!!」
  プレシアはまるで氷のように冷たさを感じさせるその赤い瞳を存分に輝かせた
「あんたも邪魔するの・・・・なら・・・・殺してあげる」
  驚くほどに澄み切った声でプレシアはそう言うと
「知っているのよ・・・・あなた、ゼルに敗れてから・・・・ゼルのことばかり考えていたでしょ?」
  だらしなく唾を垂らしながらリルスは頭上の蒼穹を見つめた
「隠しても無駄よ・・・・知ってるんだから・・・・あなたはゼルに色目を使ってた」
  思い当たるふしはあったがいまのリルスにそのことを肯定するほどの力がなかった
  初めて自分を打ち負かしたゼルにリルスは恋心を抱いていた
  メシアの手前そのことは心の奥に潜ましていたが・・・・・いまリルスの心がさらけだされてしまった
「許さない・・・・ゼルに近づこうとする女は・・・・すべて!」
  リルスの両手が左右に上がり十字架のような形をとるとその身体がゆっくりと天空に登っていく
「あ・・・・ぎゃぁぁーーーーーー!」
  全身を焼かれるような痛みがリルスの身体を駆け巡ると体中が裂かれたように全身の至る所から
  血が噴出す
  天空から血の雨が降ってくる
「プレシア・・・・・」
  ゼルは痛む身体をゆっくりと起き上げて天空を見つめた
  顔に付着した血を拭うとゼルは絶望に満ちた瞳でその場に膝を付いた
  そして祈る・・・・どうか止まってくれ・・・・頼む
  願いが届く訳もなく磔刑の儀式が始まった

 全身の血という血がリルスの身体から噴出し無垢な表情のプレシアの顔を赤く染めた
「苦しい・・・・ふふ、これがあなたの罪よ」
  ゼルに近づいたことが罪
「断罪の時を静かに感じなさい・・・・・」
  プレシアの背中から純白を表すかのような真っ白な翼が一枚現れた
  羽根が舞い上がり振ってくる血と重なり地面にひらひらと無数に白と赤に塗れた羽根が落ちていく
  悲鳴を聞きながらプレシアは無邪気に笑ってくるくると回転し水浴びを楽しむかのように
  全身を赤に染めていく
「第一の断罪・・・・・」
  プレシアが宙に舞い上がると十字に天空に吊るされたリルスの腕が強張った
「あ・・・・・ぁ!!!!!」
  リルスの華奢なその腕が身体から引き裂かれるのにそう時間は要らなかった
  両手が身体から抜けて血がさらに噴出した
「痛い・・・・苦しい?これがあなたの罪の重さよ・・・味わいなさい」
  地獄のような痛みと胸の苦しみ・・・・そして血が溶岩のように沸き立つ
  リルスはまぜ自分がまだ生きているのか・・・はやく死にたい
  そう思った・・・・
「うぐ・・・・がは!」
  口から血が吹き出した
  抑えようと腕に力を込めようとしたが・・・・動かそうにももうその腕はない
「終わりよ!」
  血塗られた剣がリルスの胸を貫いた・・・・
  その瞬間さっきまで噴出した血が嘘のように止まり辺りに飛び散った血がプレシアの剣に集まっていく
「あ・・・・・あ・・・・・あ・・・・・・あぁぁぁぁ!!!!!!」
  死んでいてもおかしくないその身体でリルスが最後の叫ぶを発した
  城のベルがゆっくりとゆらめき綺麗な音を響かせた
  一人の少女の処刑を知らせるかのように・・・・・

第6章 『幻と現実』

 深い闇のその身を沈めて私は目を閉じた
  まるで海の中かのような感覚
  全てを包めれて私を溶かしていく
  怖い・・・・?そんな気持ちなんて知らない
  辛い・・・・?感じたことの負かった
  片目を失った少女が私の背後に立っている
  少女が呟く・・・・
『あなたは何も知らない・・・・』
  そう、知ろうとも思わないし知りたくもない
『何を?』
  ・・・・・私は知りたくないの!あっちに行って
『そう、そうやってまた殻に閉じこもるの?』
  私は私・・・・今のままでいい
『また逃げるの?・・・・逃げた先になにがあったの?』
  やめて!やめて・・・・・!!!!
「愛してるよ・・・・プレシア・・・・キミを・・・・・護れなくてごめん」
  いやぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!
「彼は私のモノよ・・・・プレシアなんかに渡さない」
  殺してやる・・・・ゼルに近づく女は許さない!
『何も知らないんじゃなかったの?』
  少女は不敵な微笑を浮かべて私に一歩一歩と近づいてくる
  黒く変色している瞳があった部分から黒い血が滴った
『また失うの?奪われていいの?メシアに・・・・』
  うるさい!うるさい!ゼルは私だけを見てくれる!私だけを愛してくる!
  そう言ったもの!そうだって・・・・・私に言ってくれたもの!
  私は剣を引き抜くと暗闇の中でそこだけ輝いてるかのようなところに居る少女に向かっていく
  消えてしまえ・・・・私の忌まわしい過去と共に!
  少女の胸に剣を突き立てる
  心臓部を射抜く確かな感覚がして私は安堵した
『ふふ・・・・・逃げられない、あなたは逃げられない』
  少女は痛みを感じてる風な素振りもなくまた口元を緩めた
『ゼルはあなたは愛してくれる・・・・でも、結ばれない・・・・』
  気づくと私の胸から大量の血が噴出していた
  痛いよ・・・・苦しいよ・・・・
  寂しいよ・・・・辛いよ・・・・
  悲しい・・・・よ・・・・・ゼル

「ゼル!」
  私は物凄い勢いで起き上がった
「おい、大丈夫か?」
  ゼルの微笑みに私の不安な気持ちが一瞬で消え去り
  無意識のうちに抱きついていた
「怖い夢でも・・・・・見てたのか?」
  私は何を答えるでもなくゼルの胸にすがり付いた
  少し落ち着いてきた
「驚いたぞ、メシア様に屋敷の周りを案内してたらお前とリルスさんが倒れててさ」
  そっか・・・夢か・・・・
「リルスさんは隣の部屋で寝てる・・・・なにかあったのか?
  私は先ほどまでの出来事が全て夢なんだと理解した
  ゼルのぬくもりがここに確かにある
  これは夢じゃない・・・・
  ゼルは私の物・・・・全部・・・全部・・・・
「私・・・・大嫌い・・・・」
  嘘・・・・ほんとは大好き・・・・愛してる
  ゼル・・・・私・・・・
・・・・・・・怖いよ

 今にも壊れそうなほどその小さな身を恐怖でいっぱいにして俺にすがりついていたプレシアも
  少し落ち着きまた眠りに付いた
  俺は長い髪を撫でると気持ちよさそうに寝息を少し立ててプレシアが寝返りをうった
  しばらくして俺はその部屋を出た・・・・
「兄様・・・またプレシアですか」
  顔を俯けたリストが俺を出迎えてくれた
  嬉しくもなんともない・・・・
「いい加減兄離れしてくれないか?」
「なんでですか・・・・・」
  そんな・・・・なんだ・・・・えっと
「兄妹だからな・・・・」
「嘘・・・・嘘つき!」
  リストが急に顔を上げてすごい勢いで迫ってくる
  俺はいつものようにそれを軽くかわしてリストの肩を掴んだ
「私・・・・知ってるんですよ・・・・」
  俺はリストの勝ち誇ったような顔で言われた言葉に愕然とした
  なんて言った・・・・知っている?なにを・・・・はったりだ
  でも、そんなこというってことは・・・・
  俺は冷汗を見つからないように拭うとリストの横をそのまま通ろうとした
「どこに行くんですか!?」
  すぐに俺の腕が掴まれてリストが俺の進行を止めた
「プレシアに飲み物を・・・・」
「プレシア!プレシア!プレシア!プレシア!プレシア!プレシア!プレシア!プレアア!
  プレシア!・・・・・うんざりです」
  すごく冷酷な声だった
  思わずゾッとしていまいそうな威圧感を放ちながらリストは俺の腕に込める力を強めた
  俺の腕にリストの爪が食い込み血がにじむ
「言ったでしょ・・・・知っているって、言ってもいいんですか?あなたの大好きなプレシアに・・・・」
  一瞬見せてしまった俺の動揺を見逃す訳もなくリストはおもちゃをもらった子供のようにはしゃぎだした
「ふふ!ふふふ・・・・・これで兄様は私のものです・・・・」
  いきなり口付けを食らい俺は後ろに仰け反った
  逃がすものかと背中に手を回してリストは俺をその場に倒した
「さぁ、愛し合いましょう・・・・兄様」
「おい、プレシアが・・・・」
「私の前であの女の名前を呼ぶな!」
  もう逃げられそうのなかった
「ふふ、兄様・・・・兄様には私がいるじゃないですか・・・・ずっと傍にいますよ」

第7章 『増殖』

 積極的に舌を絡ませ舐る小さな唇
  ゼルが息苦しさに顔を離そうとしたがリストはそれを許さずにもっともっとと深く口付ける
  心なしか辺りが暗くなるのを感じゼルの目が一点に集中した
  プレシアの居る部屋にゼルの視線が行ったのを感じリストは目を大きく見開いた
  その瞬間ドアが蹴破られて黒い影がリストに飛び掛った
「殺してやる・・・・ゼルに近づくな!!!!」
  リストはその影の正体がプレシアだと解ると口元を歪め勝ち誇った
「く、ふふふ・・・・悔しい?兄様が自分の目の前で他の女と愛し合おうとしているのが?」
  憎悪の念を隠すことなくぶつけるプレシアにリストは軽い優越感を感じながら肩を掴んだ
  プレシアの腕を自らの手で掴んだ
「ふふふ・・・・・く・・・・・ふ、はははは!」
  歓喜の声と共にプレシアの腕が吹き飛んだ
「が・・・・うぐ!」
  危険を察しこれ以上は深追いできないと判断しプレシアは手を離した
「痛い?痛い?・・・・・痛いよね・・・・でもね、私も痛いのよ・・・・だって・・・・
  兄様が一番に大事に想っているのはいつもあなただから!」
  嫉妬と憎悪の感情を爆発させたリスト
「どれだけ想っても兄様が見ているのはいつもあんた・・・・憎んだわ」
  顔をうつむけ顔に影を落とす
  静寂の間を作りリストはゆっくりと顔を上げた
「殺してやりたいほどね・・・・・」
  冷たさの中に底知れない嫉妬を感じさせる声
「さぁ、始めましょう・・・・私とあなたの・・・・宴を」
  リストが床に手を付くと床から無数のリストが現れた
  分身したかのような無数に出現するリストを捉えプレシアは深く深呼吸した
「許さない・・・・ゼルに手を出す女は・・・・誰であろうと!!!」
  先ほどまで腕があったプレシアの腕と身体の結合部から血が噴出しそれが手の形を作り出す
  それだけではないプレシアの手には身の丈よりも大きい大剣が握られている
  肌の色を取り戻した自らの手がちゃんと動くか確認し微笑むプレシア
  両手で銀色に輝く血の大剣を握りプレシアは無数に襲い掛かってくるリストを切り裂いていく
「やめろ!プレシア!リスト!!!!!」
  止めに入ろうとするゼルをリストの分身たちが押さえ込みそれを阻止する
「兄様・・・・兄様はそこで見ていてください・・・・あの女が八つ裂きにされる姿を!」
  大勢のリストの中から一人だけそれだとわかるような声がした
  大きなホールのような大広間の純白の絨毯が次第に血に染まってく

 後ろかから掴みかかるリストの腕を切り落とし
  前から飛び掛ってくるリストの心臓を貫く
  血が噴出し白いプレシアの肌が赤に染まる
「が・・・あぐ!」
  先ほど真っ二つに切り裂いたリストがプレシアの脚に噛み付いた
  片方だけになった身体でリストはプレシアの肌を噛み裂いた
  肉片をくちゃくちゃさせながら半分だけのリストがにやにや笑んだ
  プレシアは脚の激痛に構う事無く地面で今まで自分の一部だったものを音を立てて噛み砕き
  半分だけになったリストの首をはねた
  すぐに頭上から降りてきたリストの頭を左手で掴み近くにいるリストに投げつける
  そのまま駆けてぶつかり倒れこむ寸前のリスト二人の胸を突き刺す
「死ね!!!!」
  後ろからダガーを持ったリストが襲い掛かる
  貫いたリスト二人をそのままにして大剣を横に振るい襲い掛かってきたリストにぶつける
  へばりつくように大剣にくっ付いていた二人のリストが反動で吹き飛び華奢な体が地面に叩きつけられた
  このままじゃキリがない・・・・プレシアは目を閉じると大剣を後ろに引いた
  目が開かれた瞬間プレシアは猛然と直線に進み飛び掛ってくるリストを真っ二つに切り裂き
  上半身と下半身だけにしてく
  プレシアの通る道はリストの分身の上半身と下半身が横たわり彼女の通った道を血に染めていた
  プレシアがようやく本物のリストをその視界の先に捉え大剣を振り上げた
  リストは口に剣を咥えてそれを待ち構える
  間合いに入るやすぐにプレシアは大剣を振り下ろす
「無駄よ・・・・無駄!無駄!無駄!無駄!無駄!」
  剣を咥えながら「きゃはは」と笑い声と共に器用に叫ぶリスト
「死ね・・・・死ね・・・・・・・・死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ねぇぇぇ!!!!」
  リストは懐に飛び込むとプレシアの腕を掴んだ
  悔しそうにプレシアは叫びリストは「きゃはは」と笑んだ
  対照的な二人を表すかのようにリストは首を横に振りプレシアの首元を切り裂いた
「きゃはは・・・・噴いた・・・・血がた〜っくさん」

 返り血を浴びながら高ぶる気持ちを隠す事無くリストは無邪気に笑った
  白目を剥いたプレシアの胸に口から落とした剣を突き刺す
  血が集約されリストの剣に血が集まっていく
  勝利を確信したリストの腕をプレシアの小さな手が掴んだ
  そのまま力でリストの剣を引き抜くとプレシアは床に大剣をぶつけ引きずり火花を立てながら
  後ろに下がり体制を直すリストに向かう
  リストは慌てて口に剣を咥ると下から物凄い勢いで引き上げられる大剣を顔を下に向けて受け止めた
  クルッと回転し裏拳をプレシアの顔面に叩きつけるリスト
  プレシアはニタっと笑んでリストの口に手を突っ込んで剣を奪い取り裏拳を放った腕とは
  反対の腕を掴んだ
  大剣を床に落とし掴んだ手に剣を突き刺した
  手から腕に侵入した刀身が曲がった肘から突き出た
「ぐ・・・くは!」
  痛みに顔を歪めるリスト
  腕に剣を突き刺したまま手から離し床に落とした大剣を掴むプレシア
「無駄!無駄!無駄!無駄!無駄!無駄!無駄!無駄!無駄―――――っ!!!」
  自らに食い込む剣を引き抜くとそのまま無事な右手に構える
「死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね―――――っ!!!」
  ひるむ事無くプレシアはリストに向かいお互いの剣が交差した

第8章 『差す光』

 やめろ―――――――――!
  何も見えない暗闇の中でゼルの声が聞こえた
  自分を見失うな・・・・
  その声にハッとし自らの手が血に染まっているのに初めて気づいた
  ゼル――――――――――
  辺りを見渡し、ゼルの姿を探す・・・・
  ゼルの声も完全に途絶え、姿も無く
  ただ虚無と暗闇・・・・それだけだった
『逃げられないよ・・・・プレシア』
  その声に私は思わずゾッとし声の方へ視線を向けた
  先に見えたのはお姫様のような綺麗なドレスを真っ赤に染めたワタシが立っていた
  左目を失い黒く変色させ、そこからの血が全身に滴り身体を紅にしていく
  頭が・・・・痛い
  頭を抱えうずくまった時だった
  断続しなにかが頭に入ってくる
  痛みも忘れ、私は目を見開きワタシを見た
  悲しげな瞳・・・・乱れた髪・・・・その手の剣
  私は知っている、ワタシを知っている
『シェルを・・・・殺すのよ・・・・プレシア』
  プレシア――――――――!!!!!
  再び聞こえたゼルの声と共に暗闇に光が差した

 

 温もりを感じた、優しさを感じた
  でもそれはすぐにでも壊れてしまいそうなほど・・・・弱々しかった
  逃げられない楔が私と何かを繋ぎ、縛り付けている
  私は悟った、逃げられないのだと・・・・

「あ、兄様・・・・なぜ邪魔をするのですか!!!」
  完全に瞳孔の開いた白い瞳が俺に向けられた
  俺は怒りを露にしリストを睨みつけた
「う・・・・く」
  ようやく自らの腹に突き刺さり血に染まる剣に気づきリストはその場に崩れた
「プレシア・・・・」
  頬に浮かぶ黒の紋様を見て俺の胸の中に罪悪感がこみ上げてきた
「ごめん・・・・ごめんな・・・・プレシア」

「それで?飲んでくれるの?」
  引き締まった身体、鋭い眼光で彼女・・・・リルスが俺を見つめた
  薄暗い城の一角で俺は彼女にある条件を突きつけられていた
  それは・・・・メシア様との婚約だ
「身分違いじゃないのか?」
「貴方も王族・・・・誰も文句をいうわけないでしょ?」
  当然か・・・・
「もし、断ったら・・・・姫様とあの・・・・プレシアに」
  プレシア・・・・その言葉だけ彼女は苦々しそうに言った
  そうか・・・・気づいてしまったのか・・・・
  俺の罪と・・・・彼女たちの因果に
  当然かだって彼女は・・・・・
「解った・・・・それで・・・・いいよ」
  俺はこのときもっと考えるべきだったのかもしれない・・・・
  俺の軽はずみな行動が・・・・何を意味するのかを

「それで?飲んでくれるの?」
  引き締まった身体、鋭い眼光で彼女・・・・リルスが俺を見つめた
  薄暗い城の一角で俺は彼女にある条件を突きつけられていた
  それは・・・・メシア様との婚約だ
「身分違いじゃないのか?」
「貴方も王族・・・・誰も文句をいうわけないでしょ?」
  当然か・・・・
「もし、断ったら・・・・姫様とあの・・・・プレシアに」
  プレシア・・・・その言葉だけ彼女は苦々しそうに言った
  そうか・・・・気づいてしまったのか・・・・
  俺の罪と・・・・彼女たちの因果に
  当然かだって彼女は・・・・・
「解った・・・・それで・・・・いいよ」
  俺はこのときもっと考えるべきだったのかもしれない・・・・
  俺の軽はずみな行動が・・・・何を意味するのかを
 
「嘘だ・・・・」
  目を覚ますとゼルの姿はなかった
  そして・・・・同じく最近目覚めたばかりのリストに事を聞いて私は愕然とした
  ゼルが婚約し、ゼートラルに行ってしまった
  短いその言葉に私は地獄の底に叩きつけられた
「一時休戦ね・・・・プレシア」
  悔しそうにそう言うとリストは苦笑した
 
  まさか・・・・ゼルが結婚する・・・・私以外の女とだなんて
  嘘だ、ずっと一緒に居ると言ってたじゃない
  愛していると、言ってくれたじゃない・・・・
  ――――――そうか
  ゼルは騙されてしまったんだ、もしくは政略結婚で無理やりに・・・・
  可愛そうなゼル、私は助けてあげなくちゃ・・・・
  ゼルの残した剣を握り私は刀身をあらわにした
  銀色に輝く剣が反射し頬に線を入れる
  彼のためなら・・・・私は修羅になる・・・・
  待っていてください、ゼル・・・・・

 炎に焼かれる町を見つめ、私はリストの言葉を思い返した
『ゼートラルが反乱を目論んでいるという証拠を持ってくるの、でっちあげてもいいわ』
  ガイロスト・・・・ゼルの率いた部隊を引き連れ私はあの女・・・・
  メシアの討伐へと繰り出した
  襲い掛かる矢と槍をすり抜け敵を八つ裂きにする
「殺してやる、ゼルと私の愛を邪魔するものは・・・・みんな!!!」
  自然と笑みが浮かび、私は炎と血だけのこの空間で笑い声を上げた
  その瞳に浮かぶ涙に気づかずに
 
  殺してやる、消してやる・・・・・今度こそよ・・・・シェル

2006/08/07 To be continued...

 

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