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いつか見た夢



1

「朝だよ、起きて?幸治くん」
  静かな動作でゆっくりと俺を揺する
「おはよう」
  無気力に答えると少女は穏やかに笑んだ
  この子は幼馴染の響子だ
  小さい頃から一緒だという理由なのかこいつの面倒見はすさまじい 
  洗濯・・・・しかも下着もだ
  なにかと不在がちな両親に変わって飯の面倒も見てくれている
  好意・・・・違うな、ひとつ上の年の俺に憧れの念を抱いている
  いまのこの状況がいつまで続くかわからないが・・・・
  終わらないのかもしれない・・・・前に一度同じ大学の女子とデートに出かけた時だ
  帰ってきた俺を出迎えたのは暗がりに一人座り俺の名を呼ぶ少女だった
  そして翌日・・・・また同じ大学の女子とデートしている時だった
  突然メールが来た・・・・〈コロナが大変なの・・・・助けて!〉
  コロナは昔俺が見つけた野良犬でその後響子の家族が引き取ってくれた
  悲痛な文章に俺は慌てて響子の家に向かうと・・・・
  泡を吹きその場に横たわるコロナとその傍らで泣きじゃくる響子だった
  急いで獣医に見せるとなんとか大丈夫・・・・だと言われた
  散歩中になにか食べてしまいそれが元でこうなってしまったのだろうと
  一安心する俺の横で同じように笑む響子に俺はなぜか恐怖を覚えた
  一週間・・・・また俺は同じ大学の女子と一緒にデートをしていた
  この間の埋め合わせにと・・・・さんざん付き合わされる予定だったが
  またメールが来た・・・・・〈また・・・・・コロナが・・・・・助けて〉
  俺はまた必死で響子の家に向かった
  そこのはまた同じ光景が・・・・
  おかしい、このとき俺はそう思った
  それから同じ大学の女子と出かける度にメールが来た
〈またコロナが・・・・・〉
〈幸治くん・・・・早く戻ってきて!〉
〈幸治くん・・・・・幸治くん・・・・私どうしていいかわからないよ〉
  それから俺はクラスの女子と出かけなくなった
  正確には出来なくなったが正しい
「はやくしないと遅刻だよ?」
  俺ははいつものように解釈すると立ち上がった
  ぶっちゃけた俺は朝には強い方だ
  すぐに起きれるし男だから準備も早い
  ではなぜそうしないのか・・・・・理由はもちろん響子だ
  大学に入ってからというもの響子の独占欲が強くなっていくような気がする
  去年の今頃だったか・・・・帰りが遅い俺をずっと待っていた響子は笑顔で俺を出迎えてくれた
  しかし、俺は見てしまった・・・・彼女が俺のケータイを隠れて見ている所を
  女じゃないとわかったのか一安心という感じで響子は笑んだ
  そして日記のようなものを取り出した
  一瞬見えたその日記の中身に俺は自分の目を疑った
  なかには写真が何枚かあってそれはすべて俺の写真だった
  それもページをめくるたびに違った服装の俺が・・・・
  毎日こんなことを・・・・・?
  俺は幼馴染に恐怖した
  朝勝手に出かけようものならどうなることか・・・・

「幸治さん・・・大事なお話があるのですが・・・・よろしいですか?」
  彼女は以前デートをした菜穂さんだ
  この大学のプリンセスで絶大な人気を誇っている
  難点なのが少し内気なところだ
  俺がうなずくのを確認すると彼女は俺の手を引いて人気のないところまでやって来た
「突然ですいませんけど・・・・・言います!」
  俺と彼女の間を風が吹きぬけた
「好きです・・・・・私と結婚を前提にお付き合いしていただけないでしょうか」
  時間が一気に止まる
  俺も・・・・彼女と同じ気持ちだ
  初めて人を愛した・・・・・
「ご、ごめんなさい・・・・私ったら・・・・・あの、初めてお逢いしたときやさしそう  
  人だなと思って・・・・それから自然とあなたを目で追うようになっていました、
  それから日に日に想いが募って・・・・・だから!」
  拒絶の言葉がでると思ったのか彼女の言葉は途切れない
「好きです・・・・・いえ、愛しています・・・・私は恋愛経験ゼロがから・・・・大人の駆け引き
  みたいなことは出来ませんが・・・・私はあなたにすべてを捧げる覚悟で す・・・・操も・・・・
  心も・・・・」
  言葉でよりも俺は行動で自分の気持ちを伝えることにした
  顔を真っ赤にして言葉を紡ぐ彼女をゆっくりと抱きしめる 
  耳まで赤く染まっている
「ありがとう、俺も同じ気持ちだよ・・・・・それと、ごめんね?キミにここまで言わせてしまって」
  内気な彼女がここまでしてくれるなんて
  それだけこわかっただろうか?
  思うだけで胸が締め付けられた
「本当にいいのですか?・・・・私・・・・子供っぽいし・・・・美人じゃないし」
  彼女は・・・・どうやら自分の魅力に気づいていないらしい
  プリンセス・・・・その言葉が似合う女性は彼女だけだ
  よく言う大学のアイドルやマドンナなどという次元ではない
  彼女の美は完成系・・・・
  俺の今まで出逢った女性は友達とギャーギャー騒いでいるだけのうるさい存在でしかなかった
  けど・・・・彼女は違う
  まさに大和撫子・・・・夫を立てるタイプだ
「そんなことない・・・・綺麗だよ・・・・菜穂」
  その言葉に安心したのか彼女は俺に身を預けた

「ただいま・・・・・」
  電気が付いているということは・・・・響子はいるのか?
「おかえり・・・・」
  穏やかな笑みが俺を出迎えてくれた
  響子は俺の持っているカバンを受け取るとニコっと笑んだ
  ・・・・彼女は知っているのか?
  同じ大学に通っているのでもう俺と彼女が・・・・・
「ご飯、もうすぐだから・・・・着替えて来て」
  階段を登りながら俺は安心の息をもらした
  どうやら彼女も俺への感情をただの憧れだけなのだと気づき始めたようだ
  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
  ドアが開かれた瞬間俺は息を飲んだ・・・・
  赤・・・・赤・・・・・赤・・・・赤・・・・・赤
  周囲を包みこみかのような赤に血の匂い
  部屋の中心にはずたずたに裂かれた俺と菜穂の写真・・・・
  その横には近所の野良猫の頭だけと前足だけが置いてあった
「・・・・・・ぅ」
  強烈な恐怖とその色に俺はむせてしまった
「どうしたの?」
  響子がなにごともなかったかのようにニコニコしながら俺の背中をさする
「気分が治ったら、ご飯にしましょうね?」
  彼女の笑みに俺は恐怖と逃げられない・・・・という言葉が頭を覆い尽くした

2

 いつもは身体が重いだけの朝も今日はすがすがしく感じる
  幸せ・・・・初恋は実らないと誰かが言った
  あのときの私はなにも答えられなかったけど・・・・
  今なら言える・・・・そんなことない!
  私は手に入れた・・・・彼の心を
  軽い気持ちで大学まで向かう途中ケータイが鳴った
  メール?・・・・・
〈幸治くんに手をだす女はみんな私の敵
  これ以上幸治くんに近づいたら・・・・殺してやるから〉
  私は恐怖よりも呆れを感じた
  彼は大学内でも女子の人気トップ5には確実に名があがるであろう有名人
  空気を読むのがうまいのかな?
  最初は彼のそんなところに憧れたのかも
  私はその正反対だから
  憧れはすぐに好意に変わった
  なぜかって?ないものを持っているからお互いに補い合えばいい
  そう思えたの彼は私にないものを持っている
  でも私も彼が持っていない物を持っているはず
  私は分けてあげたい・・・・彼に私のなにかを
  だからこのような嫌がらせなど安易に想像できた
  ようやく大学内に着いた
  彼は・・・・居た・・・・でも、私の指定席の彼の隣に知らない女性が居た
  何かを話している・・・・なんだろう?この気持ち・・・・
  怖い?彼が私から離れるのが?
  答えは否・・・・もっと違う気持ちだと思う
「どう?付き合ってみない?」
「・・・・・・」
  なんの話をしてるのかな?
  当の幸治さんは上の空・・・・
「聞いてるの?」
「あ、ごめん・・・・」
  女の人の声に幸治さんはようやく意識を戻したみたい
「もしかして、好きな人とかいるの?」
  いかにも遊び人という風貌の彼女は幸治さんに胸元を強調するかのように近づいた
「キミは魅力的だけど・・・・・ごめんね」
  幸治さんは申し訳なさそうに断った
  当然よね・・・・あなたには私・・・・私にはあなた
  昨日そう誓ったものね・・・・
「そっか、ごめんね・・・・邪魔して」
「そんなことないよ」
  彼女に気を使う必要なんてないと思いますよ?幸治さん・・・・
  どうしたんだろう?私・・・・さっきから
  人を愛するって・・・・難しいのかもしれませんね
  わからないことだらけ・・・・
  けど、幸せが先立つ・・・・
「おはようございます・・・・幸治さん」
  彼女が退いてすぐに私はいつもの指定席の幸治さんの隣に腰掛ける
「お、おはよう・・・・」
  少しぎこちないかな?
  気にする必要なんてないですね
  少し不安そうな目が私に向けられる
「どうかなされましたか?」
「ん・・・・なんでもないよ」
  すぐにいつものような笑みを私に向けてくれた

「じゃあ・・・・また明日ね」
  つながれた手が次第に離れていく
  少し切なかった・・・・
「また明日会えるから」
  私の気持ちを察してか幸治さんはやさしくそう言ってくれた 
  あなたは本当に人の気持ちを読むのが得意ですね
「はい・・・・明日逢えるのを一日千秋の思いで待っています」
「おおげさですよ・・・・お嬢さん」
  くすくすと笑みあって手を振ってその場を後にする
  家について私はまずポストの中身を確認した
  新聞と・・・・あれ?
  はがきを手にしたとき私は違和感を感じた
  濡れている・・・・雨なんて降ったかな?
  はがきを取り出すと私の視界に紅が広がった
  なに・・・・これ
  新聞のほうを見てみると新聞自体が黒くて気づかなかったけど・・・・真っ赤に染まっている
  恐怖を感じた私は急いで鍵を取り出して家の中に入る・・・・
「・・・・・・」
  無言の間・・・・私はなにも考えられなくなった
     ぽつぽつ・・・・・ぽつぽつ
  天井まに染み付いたその血が小さな粒を作って床に落ちる
  床には天井から落ちた血の雫が作った粒があたりをまるで絵の具で塗りつぶしたように赤に染めていた
「シャオ?」
  いつもなら帰って来てすぐに擦り寄ってくる飼い猫のシャオの姿がない・・・・
  私は震える脚を引きずるようにして自分の部屋に向かった
  なにも・・・・ない・・・・・シャオは?
  振り向いた瞬間私は一瞬で我を忘れた
「お父様・・・・?」
  ドアのすぐ横に血まみれのお父様が胸にナイフを刺されて横たわっていた
  壁にはこう書いてある・・・・・

『死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
  壊してやる!壊してやる!壊してやる!壊してやる!
  殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!』

 私はもうなにも考えられなくなってその場にしゃがみ込んだ
  しばらくしてシャオが私のベットの下から恐る恐るといった感じの足取りで出てきた
「にゃ〜ん」
  擦り寄ってくるシャオを撫でて私はようやく我を取り戻した
「お母様?」
  お母様は?冷静さを取り戻し私はそう呼びかけるが当然ながら答えはない
 

 お風呂場にはいない・・・・・台所にも・・・・・庭にも・・・・
  振り返り戻ろうとしたときだった
  ケータイが鳴った・・・・
「は、はい・・・・」
  震える手で私が電話に出ると
〈菜穂ちゃん?帰ったの?今日は早いのね・・・・〉
  お母様だ・・・・よかった、買い物にでも出てて助かったのね
  安堵の息が自然に漏れた
「お母様・・・・大変なの・・・・お父様が!」
  事を伝えようとしたときだった母さんの声色が変わった
〈どうしたの?・・・・・・え!?〉
  ガタンと何かが倒れる音がした
  ガラスの割れる音・・・・
  私は窓の向こうの暗闇の中で電気に照らされて唯一見える部屋に目をやった
  雨がぽつぽつと降り出してきた
  聞いたことがある・・・・この音
  私は倒れた食器棚に目をやった・・・・・食器が割れて散乱して赤に染まっている
〈だ、誰なの!〉
  あ、はははは・・・・・・小さな笑い声がした
  すぐになにかを投げつたような音と共にお母様が叫んだ
〈きゃ、きゃーーーー!!!!〉
  な、なに・・・・・・
  食器の散乱する場所に不自然に人が通ったような後がある
  ところどころにあたりを飾っていた物が壊れて落ちている
  それは投げたことが予想できるほどにバラバラに落ちていた
〈がふ!・・・・・ぐふ!・・・・・あ・・・・・ぐ〉
  聞いたことのない音と共に母の悲痛の叫びが聞こえだんだんと弱くなっていく
  あ、はははは・・・・・さっきよりも大きな笑い声がした
  次第に母の声が消えていく
  がちゃん・・・・電話の落ちる音が聞こえた
  電話の置いてあったところに目線を移すと・・・・
  電話が台から落ちてピーという音を立てている
  その下にはおびただしい血が・・・・・
  ご・・・・ご・・・・ご・・・・・なにかを引きずる音がした
  階段を降りる足音がするとその音はぴたりと止んだ
〈どうした?大声出して・・・・〉
  私の顔から血の気が引いた・・・・父の声だ

〈な・・・・・・がふ!〉
           だっだっだっだ!
  なんの音?・・・・・水の滴る音・・・・がすぐに聞こえてきた
  がたん・・・・膝を折って地面に付いたときのような音がして
  また今度はなにかが倒れる音・・・・
         ご・・・・・ご・・・・・ご・・・・・
  あの音がまた聞こえてきた・・・・
  今度は・・・階段を登っているの・・・・・?
  ぐさ!なにかを裂く音がした
  違う・・・・刺す・・・・音?
  浮かんだのは私の部屋の光景・・・・
  また水のようなものが滴る音がした
  そして今度は階段を降りる音・・・・
       ご・・・・ご・・・・ご・・・・ぎし
  またあの音だ・・・・それと・・・芝生にないかが落ちた音?
       ま・・・・・さか・・・・・
  雷鳴が響いた・・・・電気の光だけだった暗闇をその光が一瞬だけど照らした
「お母・・・・・さま?」
  家の外装の壁を赤く染め母はまるでキリストのように両手を壁に押し付けられて
  その胸にナイフを刺された格好で姿を見せた・・・・
     〈く、ふははは・・・・あ、ははははは!〉
  ケータイの向こうでこの世のものとは思えない声が響いた
     〈壊してやる・・・・あなたのことも・・・・・〉
  冷え切ったその声はいまその瞬間に人を殺したものの声には聞こえなかった
  通話が切れる・・・・・
  私は震える指でケータイのボタンを押す
〈・・・・菜穂?どうしたの?〉
「た・・・・すけ・・・・・て」
  最後の力で私はそう言うと意識を失った

3

 俺は目の前の光景に息を飲んだ
  なんだこれは・・・・・
  猫の鳴き声・・・・俺は鳴き声のほうへ向かうと
「菜穂!」
  抱きかかえて菜穂の息を確認する・・・・
  大丈夫だ・・・・気を失っているだけだと思う
  急いでケータイで警察と救急車を呼ぶ
「な・・・・・」
  なんだこれ・・・・人が・・・・死んでる?

「大丈夫かな?・・・・」
  心配げに菜穂を見つめているのは俺の双子の姉の綾だ
「大丈夫さ・・・・」
  そうでも思わないとやっていられない
「少し休んだら?」
  綾は不安げな顔で俺を見つめた
「そうするよ・・・・・」
  俺は空いている休憩室に腰を降ろして頭を抱えた
  どうしてこんなことに・・・・?
  違う・・・・悩んでる場合ではない
  今は菜穂を支えることだけを考えよう
「幸治・・・・くん?」
  光の中に人の影が出来た・・・・
  響子だ・・・・
「どうした?」
  響子はうつろな目でドアを閉じて鍵を閉めた
「なにを?」
  すぐに響子は服を脱ぎだした
「ま、待て!」
  俺が顔を背けるとすぐにその手を掴まれた
  縄が俺の手を縛っていく・・・・・
「響子!?」
  わけがわからずに俺がもがくと今度は脚を縛られてしまった
「・・・・・」
  響子は無言で俺の服を脱がした・・・・
  そしてなんの前戯もなしに・・・・・
「うく・・・・・」
  痛みの声と共に彼女の恥部から血が流れた
  それでも彼女は動きを止めない・・・・どうして?
  俺はわけがわからずに彼女の行為に必死に耐えた

 結局朝まで彼女の行為は止まらなかった
  今もそうだ・・・・・止まらない
  もう何度目かな?数えられない
  がちゃ・・・・ついにドアが開かれる
「な・・・・・・」
  ドアの向こうにはなぜか菜穂が立っていた
「幸治・・・・・さん?誰・・・・その女!」
  悲しげな瞳が俺に向けられる
「私は・・・・私は!」
  綺麗な顔立ちが今は嫉妬で歪んでいる
  ごめん・・・・俺はキミを裏切ってしまった
「・・・・・」
  響子は無言で立ち上がり服を着ると彼女を睨んだ
「許さない!」
  パチン!響子の頬を菜穂が叩く
「彼は私のものなの・・・・・」
  冷え切った声で菜穂はそう言った
「私には・・・・もう、彼しかいないの・・・・だから・・・・!」
  無気力な目を向ける響子・・・・響子なのか?
  彼女はそのままの表情で菜穂にナイフをむけた
「や、やめろ!」
  声は届かずに響子は菜穂をベットに押し倒して両手でナイフを上げてそのまま振り下ろした
  菜穂は間一髪でそれを回避すると近くにあった花瓶を持って響子を殴りつけた
「あ・・・が」
  小さく声を上げて響子がその場に倒れた・・・・・
「大丈夫ですか?」
  縄を解きながら菜穂が俺に服を着せてくれる
「は、はやく・・・・逃げよう」
  あのうつろな目・・・・もう彼女は壊れてしまっている
  俺は菜穂の手を引くと急いでその場を後にする

 いったん家まで戻ってきた・・・・準備を整えて俺は最後の財布を取って家を出る
「・・・・・っ!」
  扉の向こうにはおぼろげな瞳の響子が立っていた
  そして外で待たせていた菜穂も・・・・
  二人は崩れ落ちるかのように倒れ込んだ
「・・・・・・・」
  そして二人の間からおびただしい血が流れてくる
  見るとお互いの腹にナイフが刺さっていた
  どうなってるんだ?
  いつの間に菜穂は・・・・・?
  俺は・・・・・

4

 今日は少し寂しい
  幸治くんが・・・・恋人・・・・らしい人とデートらしい
  正直な話おもしろくない!
  嫉妬の炎がメラメラと燃え滾るのを感じた
  でも今の私じゃ子ども扱いか妹のようにしか見てもらえないのはわかっている
  今に見てなさいよ・・・・必ず私の魅力で幸治くんをメロメロにしてやるんだから
  ワンワン!ワンワン!ワンワン!
  コロナが外で吠えている
  なんだろう?庭に出てみるとそこには綾さんがコロナに食べ物をあげていた
「あ、ごめんね・・・・勝手には」
  綾さんは申し訳なさそうに両手を合わせた
「いいよ、別に・・・・・」
  数時間後コロナが倒れた
  どうしようか迷ったけど私は幸治くんにメールした
  すぐに駆けつけてくれた幸治くんがなにもできないでいる私に変わってコロナを病院まで連れてくれた
  獣医さんが大丈夫だと言ったときすごく安心した
  でも、おかしいなと思った・・・・だって今日は散歩に連れて行ってない
  ふとある疑問が私の頭をよぎった
  小さな疑問が次第に大きくなっていくのを感じる

 また幸治くんがデートに出かけた日・・・・またコロナが倒れた
  その次も・・・・また次も・・・・
  そして私はあるひとつの恐ろしい答えを導き出した・・・・
  コロナが倒れた日は必ず綾さんが来ていて
  コロナにご飯をあげている
  わからなくなった・・・・こわかった
  私の弱気が無意識に幸治くんへのメールに出ていた
〈幸治くん・・・・早く戻ってきて!〉
  しばらくしても連絡はない・・・・どうしよう
〈幸治くん・・・・・幸治くん・・・・私どうしていいかわからないよ〉
  また不安がメールに出ていた
  10分後幸治くんが来てくれるで私はなにも考えられないほどに混乱していた
  けど、疑問はすぐに解消された・・・・
  ある日幸治くんがお風呂に入ってるときだった
  綾さんが幸治くんのケータイをいじっているそして日記帳のようなものを取り出してなにか書きこんだ
  そのあとすぐに日記を懐に忍ばせてその場を去って行く
  そのとき彼女から日記が落ちた
  私はそれを拾うと・・・・テーブルにある幸治くんのケータイを取って彼女が何を見たのか確認した
  履歴を確認していたみたい・・・・当たり前か
  そのあとすぐに私はケータイの電源を切って元のようにテーブルに置いた
  そして日記帳を取り出し中身を確認する
  な、なにこれ?日付ごとに幸治くんの写真が載っていてそのあとには幸治くんの行動が
  事細かに書かれていた
  最後にケータイの履歴が日付ごとの欄に書いてある
  そしてあの日・・・・幸治くんと菜穂さんが付き合い始めた日
  私は幸治くんの呆然とした顔を見てしまった
  部屋に目をやるとそこには赤しかなかった
  私は気づかないふりをして幸治くんを下に誘導した
  その次の日・・・・
  私は血に染まった彼女を見つけた
  怖くて逃げ出す私を捕まえて彼女は薬を私に無理やり飲ませた
  綾さんの声が頭に響く
「幸治を物にしたくない?いまなら大丈夫よ・・・・」
  光が差すと向こうに幸治くんが見えた

 まるで私の身体じゃないみたいに私は幸治君と無理やりに性行為をした
  朝まで性行為を続けていると菜穂さんが部屋に入って来た
  また綾さんの言葉が頭に響く
「邪魔な奴は消してやればいいのよ・・・・」
  また身体が勝手に動く・・・・どこからかナイフを取り出し彼女に突き立てていた
  しばらくの間のあと私は意識を失った
  かつかつ・・・・足音が聞こえてくる・・・・
「まだよ・・・・・まだあなたは役目を果たしていないわ」
  気づいたとき私は菜穂さんにナイフを突きたてていた

5

 ふふ、みんなバカみたい
  最後に勝つのは私なのに
  特に響子の奴・・・・ほんとバカ
  だってそうでしょ?コロナに殺虫剤入りのエサをやったのは私なのに
  気づかないで・・・・私の思惑通りに動いてくれた
  他の女とデート?ふざけるな!
  あなたには私がいるじゃない・・・・
  しばらくして幸治と菜穂とかいう女が付き合い始めたと聞いた
  私は嫉妬に任せて彼の部屋に野良猫の死体と血を残し写真をずたずたに裂いたのを置いた
  翌日になっても仲よさそうな二人を見て私は我を忘れた
  こうなったらあの女のすべてを壊してやる
  外側からじっくりと・・・・
  まずあの女の両親を殺した・・・・・
  そのあと不本意だけど響子に催眠薬を飲ませてあの女をけしかけた
  思ったとおりの内容だったけど・・・・だめじゃない
  どっちか死ななきゃ・・・・まぁ、いいわ・・・・
  彼らの行動なんてすぐに予想が付いた
  自宅には案の定あの女が居た
  私は気づかれないようにあの女の横にナイフを置いた
  予想道理に彼女は嫉妬に綺麗な顔を歪めて響子と口論していつのまにか刺しあっていた
  ふふふ・・・・あ、はははは!
  これでようやくこの嫉妬からも開放されるわ
  私がどんな気持ちだったかわかる?
  最愛の人を奪われ・・・・その人に私以外の女を抱かせた私の気持ちが!
  でも、これでおしまい・・・・・残ったのは私だけ
「な・・・・どうなってるんだ?」
  絶望の瞳が無気力にその場に向けられた
「幸治・・・・・」
「あ・・・・や?」
「みんな殺してやったわ・・・・私たちの邪魔をするメス豚たちを」
  驚きの瞳が私に向けられそのあとすぐに怒りのそれが変わっていく
「お前がこんなことを!」
  胸元をつかまれ私は押し倒された
  なにを怒ってるの?私は・・・・
「許さないぞ!綾!」
  そう、そうなのね・・・・あなたは私を拒絶するのね?
  ならあなたを私だけの物にしてやる!
  私は忍ばせておいたもう一本のナイフを取り出すとその胸に・・・・
「く・・・・・」
  その前に響子が私の腕を掴んだ
「・・・・・っ!」
  そのまま二人で道路の方へ投げ出される・・・・
  え・・・・なに?・・・・・トラックが迫ってくる
  そして意識が光に消えた・・・・

「きょ・・・・・響子?」
  響子の口が動いた
  ご      め       ん     な      さ     い
「響子!」
  綾と共に響子がトラックに轢かれてしまった
  あ・・・・・・あ・・・・・俺は!
「あーーーーーーーー!!!!!!!!!!」

 数年後・・・・・
「今日は天気がいいですね」
  幸治さんは微笑んでうなずいた
「そう・・・・だね」
  あのあと私はなんとか助かることが出来た
  急所は外れていたらしい・・・・これが最後まで彼女が自分と戦っていた証拠だと思う
  幸治さんはいまだあのショックが癒えていないらしい
  いつか・・・・必ず・・・・私が癒してさしあげます
  もう少しだけ・・・・待っていてください
「ありがとう・・・・・菜穂」
  愛しています
  これからもずっと一緒です

 

 

 

FIN

2006/06/05 完結

 

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