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とらとらシスター



Side青海

 初めて虎徹君を見たときの感想は、普通、の一言だった。問題児だという表現が正しいのかは
  分からないが、彼の周囲では問題が多いというのは聞いていたし彼の『詞食い』という
  何やら物騒なあだ名も聞いていた。しかし実際に目の当たりにしてみると、
  ごく平凡としか言いようのない人間だった。問題を起こすのは専ら彼の姉や妹だし、
  普段の素行や成績などを調べてみても問題はない。勉強も運動も中の上、
  身長は平均よりかなり高めだがそれだけ。個性と言えばそのくらいの男だと思った。
  だが調査を終えようとしたその日に、彼への印象は大きく変わった。呑助と彼が名付けたらしい
  仔猫を拾っているときの、優しい目。それが印象的だった。
  その日からすっかり惚れ込んでしまったわたしは、彼しか見えなくなってしまった。
  そして今、その彼と一緒に居るという事実は私を舞い上がらせた。朝に告白に答えて
  くれただけでも充分嬉しかったのに、こうしてでーとをしているということを確認するだけで
  股間が熱くなってくる。昨夜に充分慰めたのに、やはり想い人が隣に居るというのはそれだけで
  大分違うものらしい。歯止めが効かなくなりそうなのを必死で堪えているものの、
  それでも自制心が効かなくなりそうになって虎徹君の横顔を見た。
  さっきからしきりに後ろを向いているようだが、どうしたんだろう。

 少し気になり視線の先を辿ってみると、そこには誰も居ない。いや、違う。
  その視線の先にあるのは、ホテルだ。夜になると明るくネオンが灯もるであろうその看板には、
  通常のホテルの表記にある宿泊の文字の他に、休息の単語が書かれていた。
  成程、彼もやはり人間、健康な男子高校生ということか。
  失望、という気持はない。寧ろ嬉しいという気持ちがある。だが奥手な彼のことだ、
  更には優しい性格も手伝って言い出せないのだろう。それなら、なるべくわたしに
  気付かれないようにしていることにも納得がいく。
  わたしは、いつでも大丈夫なのに。
  だが、彼が言い出してくれるまでは敢えて言わないのが、恋人としての務めというものだろう。
  はしたない女だと思われるのは構わないが、彼の気持ちを無下にすることだけは絶対に
  したくないから。
  また向いた。
  いつ言い出してくれるのだろうか。ご飯をわたしが食べさせるどころか、手を繋ぐのも
  恥ずかしがっている彼だから、言い出すのは少し遅くなるだろう。しかし、それでも構わない。
  待つ楽しみも、知っているから。
  しばらく歩いていると、喫茶店に入った。彼が言うには馴染みの店らしく、慣れた様子で
  店主と鳥に挨拶をして奥へと向かった。座ったのは、外からは覗かれない窓のない席。
  そのさりげない優しさに、再び股間が熱くなる。

 虎徹君に渡されたメニューを見てみると、意外に数が多かった。虎徹君は既に注文が
  決まっているらしく、何を頼むか悩むわたしに一々言葉を返してくれる。さんざん考えた末、
  決まると手早く店主を呼んで注文。
  そのあとの軽い話で、幸せなことと辛いことが一つずつ出来た。
  幸せなことは、わたしが虎徹君の初めての彼女であること。
  辛いことは、馴染みの店と言うからには、虎徹君はしょっちゅうあの姉妹とここに
  来ているということだ。
  そして、今になって分かったことも一つ。
  わたしは、意外に独占欲が強いらしい。それとも、嫉妬深いと言うのだろうか。
  兄弟でどこかに遊びに行き、仲良く珈琲でも飲みながら楽しく話す。そんな当たり前の光景を
  想像してみると、彼の姉や妹に対して敵意が湧いてきた。これは今に始まったことではなく、
  昨日虎徹君に告白した前後から度々こうなった。彼が仲良くしている対象が例え身内でも、
  そう思ってしまう。それどころか、男のユキに対してもだ。極力表に出さないようにしていたし、
  自分で気付かないようにしていたけれど、改めて自覚した。
  いけない、思考に没頭していた。
  慌てて虎徹君を見てみると、彼もぼんやりとしていた。二人ともこうしているなんて、
  傍目から見たらさぞ滑稽だろう。デートの筈なのに、心も体も離れたままだ。

 個人的にはこんな表情の虎徹君も堪らなく良いと思うので眺めていたいが、
  彼に恥をかかせる訳にはいかない。それに、もしかしたらわたしに非があるのかもしれないし、
  そうだとしたら彼に対して失礼だ。股間を濡らしているべきではない。
  いけない、いけない。
  再び虎徹君に目を向けてみると、何故か壁に頭突きをしようとしていた。それ程までに
  彼は追い詰められていたらしい、心配になって彼に尋ねてみると、返ってきたのは
  予想を遥かに上回る答え。はにかんだ表情で発せられた『美人』という単語に、
  意識が一瞬刈り取られた。
  美人。
  ビジン、びじん。
  意識を取り戻してみると、グラスが倒れていた。テーブルの端から垂れた水が股の部分にかかり、
  幸か不幸か割れ目が濡れていたのを隠してくれた。これが神のおぼしめしであるのなら
  従うべきなのだが、それはないだろう。間抜け過ぎるにも程があるし、第一虎徹君に
  みっともないこところを見せてしまった。
  嫌われただろうか、と思って虎徹君を見てみると、顔が綻んでいた。悪い意味ではなく、
  ごく自然な表情でこちらを見つめている。その上、緊張も緩んだらしくゆっくりとでは
  あるけれど話も走り出した。
 

 始めに持たされた感想は辛いものだったが、しかし一区切りの部分で流れが変わった。
  好きではなかった、という言葉は辛いものだけれど、これからの道を示す言葉が
  脳髄に染み込んでくる。
  快い。
  その口から流れ出てくる言葉はわたしの心を揺さぶるもので、改めて虎徹君のことを
  好きにさせてくれる。永久に続けばいいと思っていた時間は、しかしわたしに答えを求めた所で
  途切れた。
  今が駄目でも、これから供に歩いていこう。
  そんな意味合いを持つ甘美な言葉、それの答えは当然決まっている。
  そう、これから虎徹君と歩いていくのは二人の、二人だけの道。それには、
  他の不純物は要らない。あの忌まわしい『姉虎』や『妹虎』も、必要ない。虎徹君は優しいから
  家族を大事に思っているようだから少し反対をするかもしれないけれど、
  すぐに必要ないと分かってくれるようになる。
  何だ、簡単。
  一度自覚が出てしまえば、次々と沸き上がる気持ちを理解するのも難しくなかった。
  あのうざったい二匹の虎は、はっきり言って邪魔者だ。ことあるごとに突っかかってくるし、
  毎回毎回わたしと虎徹君の邪魔ばかりする。大体、二人とも何なのだろう。虎徹君の妻だという
  言葉を言ったり、過剰に触れ合ったり、虎徹君の迷惑になっていることが分からないのだろうか。
  それなのに、わたしが少しでも動こうとするとすぐに気配を察して動こうとする。
  まるで恋人気取りで、誰にも取られたがらないように。
  始末におえない、まさに噂通りの虎だ。
  しかし、決めた。
  人を泥棒猫呼ばわりしてくれたが、そんなつまらないものには成らずに叩き潰してやる。
  猫なんて可愛らしいものじゃない、獰猛で、気高く、美しく、強い虎だ。相手が虎ならば
  こっちも虎になるべきだ、敵は引き裂き食い千切る。泥棒呼ばわりでも構わない。
『泥棒虎』
  その言葉を心に刻み、しかし表面では笑みを浮かべて虎徹君と目を合わせ、答えた。
「供に、歩もう」
  二人、だけで。

12

 玄関の扉を開き、私は一息吐いた。我慢が既に限界に達している体は熱り、呼吸が酷く
  乱れているのを感じる。友達と歩いていたときに我慢できていたのは、殆んど奇跡に近い。
  若しくは、普段から培っている精神訓練の賜だろうか。
  いや、今はそんなことはどうでも良い。
  靴を脱ごうとして、あまり力が入らずに膝から崩れ落ちた。その衝撃のせいか、
  熱くぬめった液が太股の内側を伝っていく。もったいない、と思いながら指先で掬うと
  口に含んだ。指の腹がなぞった部分が快感を呼び、更に蜜が溢れ出てきて廊下に垂れた。
  規則的に続く軽い音を聞いて、このままではすぐに限界を突破してしまうと思い立ち上がった。
  部屋まで、戻らないと。
  力の入らない足で歩きながら考えるのは、世界で一番愛しい兄さんのこと。一定の拍子で聞こえる
  液体が床を打つ音や、一歩踏み出す度に体に響く粘着質な液体が下着と擦れる音、
  そしてそれらの度に股間から伝わってくる快感でより一層心地良くなってきた。
  いつもよりも刺激が強いのは、やはりあの泥棒猫のせいだろう。あの姉さんと同じく、
  無駄に大きくてだらしなくてはしたないその乳で、悪しくも兄さんを誘惑した雌豚。
  その悪魔の手から兄さんを救い出せるのは、もう私しか居ない。今だってどんな破廉痴なことを
  しているか分からないし、創造したくもない。高潔な精神を持つ兄さんのことは
  信用しているけれど、それ以上の手法を使ってくるのが泥棒猫というものだ。

 憎い。
  兄さんも、早く帰ってくれば良いのに。
  つい玄関を振り向くと、私の軌跡を示す浅い水溜まりが点々と続いていた。
  後できちんと処理をしなければ、と思うけれども、まず先にすることがあるので
  自分の部屋に向かった。掃除は、その後でも十分だ。
  熱い。
  暑い。
  漸く自分の部屋に辿り着くと、重箱を抱えたままベッドに倒れ込んだ。皺になるのも気にせずに
  体を横たえ、重箱の包みをほどく。一分一秒寸暇を惜しみ、兄さんが使っていた箸を取り出すと
  迷わず股間に当てた。水気を含んだ布がたてる音と、兄さんの唇や舌が触れた箸の感触が
  脳髄の中に侵入してくる。更に快感を得るように割れ目に沿って動かすと、
  我慢していた声がとうとう漏れた。はしたないと思いながらも、しかし割れ目を擦る動きは
  止まらない。
  一度達した後、空の水筒の蓋を開いた。目的は一つ、兄さんの為のお弁当に入れる、
  最高の調味料の獲得。とめどなく溢れ出てくる蜜を指先で丁寧に拭うと、栓を抜いた水筒の中へと
  垂らしていく。何度も達しながらも暫くその行為を続け、念を押して普段の倍近い量を
  入れたところで止めた。本音で言うならば全て使ってしまいたいけれど、この後の本番では
  充分な量の液がないと辛いので苦渋の決断だ。唾液で水増ししているのが、心の底から口惜しい。
  本当ならば母乳も入れたいところだけれども、残念なことにそれは当分先になりそうだ。
  それにあまり直視したくない現実だけれども、私は胸がとても小さいから。

 夫を思いやる妻というものは、大変なものですね。
  兄さんに心で話し掛けると、誉めるように微笑んで返してくれた。今はあの雌豚の策略のせいで
  隣には居ないけれど、繋がっている心はいつもきちんと答えを返してくれる。
  私と兄さんの昔からの絆、勉強も運動も苦手で体の発育もあまり良くない私を、
  それでも愛でてくれた微笑みは、いつも私を潤してくれる。
  愛しています。
  兄さんに告げるように念じてから、やっと制服を脱ぎ始めた。靴下以外身に付けていない
  自分の裸体を見下ろすと、悲しい程に起伏がない。姉さんや雌豚のような下品な大きさは
  要らないけれど、それでももう少し大きくなってほしいと思う。兄さんも男性だから、
  大きい方が良いだろう。出来れば身長ももう少し高い方が良いのかもしれない。
  同じ殺虎の血筋を引いているのに、この差は何なのだろうか。
  溜息を吐いた後、丁寧に乳を揉み始める。今のところ効果は薄いけれど、
  いつか大きくなっていくために。
  数分。
  そろそろですか。
  私は箸を手に取ると、片方を股間の割れ目の中へとゆっくりと滑り込ませていった。
  中の粘膜を傷付けないようにゆるゆると掻き混ぜながら、奥へ奥へと侵入させていく。
  膜を破ってもらう人は兄さんと決めてあるから、僅かでも内部を傷付けないように、繊細に。
  兄さんの舌や唇、唾液が触れたものが私の中で擦れあい、体を侵食していく。それと同時に
  私の液が箸に染み込み、今度は兄さんの口の中へと入り込む。

 それを想像するだけで、更に体温が上がっていった。何て素敵な円環なのだろう、
  無駄がなくそこで完結している。誰にも壊されることのない、究極無比の不文律。
  奥まで辿り着いて一本目を差し込み終え、続いて二本目を手に取った。
  その細い先端を当てがうのは後ろの穴、軽く揉みほぐすように入口を数回掻き混ぜた後に
  ゆっくりと侵入させていく。前の穴もそうだったけれど、始めたばかりの頃は痛みしか
  なかったのに、今では動かすどころか差し込んでいるだけで快感が溢れてくる。
  足りない、まだ足りない。
  差し込んだままゆっくりと回転させ、中の壁にまんべんなく擦り付ける。余すところなく、
  全体に、まぶすように、少しも残さないように念入りに。粘液と箸が混ざりあい、
  お互いに染み込んでいく度に快感は比例するように増していき、幾らも経たない内に
  達してしまった。前から後ろから伝わる余韻が快い。箸が細長く二本一組であるのは、
  まさに神様の慈悲なのだろう。愛する人の体に比べると少々物足りないのも、きっとそうなのだ。
  それでも、達してしまうことも。
  ふと、考える。今回も気持ちが良かったけれど、いつもよりも時間が短かった。それはやはり、
  兄さんがこの家に居ないからだろうか。
  寂しさからか、溜息が出てきた。
  あまり遅くはならないと言っていたから、夕飯の前には戻ってくるだろう。
  腕時計で時間を確認してみると、夕食を作るまでには若干の余裕があった。

 まだ後一回は出来そうだ。

 そういうことですか、神様も粋ですね。
  つまりは、兄さんが居ないことの埋め合わせをするように時間を空けてくれた。その分、
  愛を育てなさいということだろう。昔の歌にもあった、会えない時間が愛を育てるという言葉も
  今なら少し意味が分かる。兄さんの顔を思い浮かべると、やはり私と同じことを
  考えていたらしく、微笑んで頷いていた。
  今兄さんも、私との愛を育てている。
  きっと、そうだ。
  そうに決まっている。
  考えている間にも、指は自然と動いていたらしい。粘着質な水気のある音が鼓膜を震わせ、
  割れ目から溢れた愛液のせいでシーツには水溜まりが広がっていた。
  もったいないですね。
  兄さんが少し怒ったような表情をする光景が見えて、申し訳のない気持ちになった。
  こうなるのならば、もう少し多目にとっておいても良かったかもしれない。次からは、
  気を付けないと。大切な人のためとはいえ、結構大変なものだ。
  でも、苦にはならないですよ。兄さんのためですから。
  そう語りかけると、兄さんは再び微笑んだ。その表情を見て今日何度目かも分からない
  絶頂を向かえ、ぐったりと横になる。
  ゆるゆると視界をずらして時計を見ると、もう良い時間になっていた。
  愛する兄さんに料理を作る、先程の自慰行為と並ぶ至福の時間の一つ。
  気だるい体に鞭を打ち、みだしなみを整え、重箱や水筒、何より大切な兄さんの箸を持って
  立ち上がる。
「愛して、います」
  今までのそう長くない人生の内に、内外で何度呟いたか分からない言葉を吐いて、
  私は歩き出した。

8虎

「ん?」
「どうしたんですか?」
「何でもない」
  気のせいかもしれないと思って、里芋の煮付けをもう一つ口の中へと放り込んだ。
  気のせいではなく、本当に少しだが味付けが変わっている。
  いつも通りに美味いことは美味いけれど、どうしたんだろうか。
  どこか体調でも悪いのかと思ってサクラの顔を見てみると、
  特にこれといった変化はない。いつも通りの表情で、体も健康そうだ。
「サクラ、何かあった?」
「いえ、何も」
  姉さんが何か知ってしるかもしれないと思い、そっちの方に視線を向けてみると
  こっちも普段通り。口の周りに大量のご飯粒をくっつけながら、丼飯を勢い良く掻き込んでいた。
  高校三年生にもなってこれなのは問題だけれど、今の問題はこれではない。
「姉さん」
「なぁに?」
  ご飯粒にまみれたまま、笑顔で振り向いてくる。昔からそうだったけれど、
  最近は特に精神年齢が下がってきている気がした。
「サクラに何かあった?」
「んー、分かんない」
  再び物凄い勢いで食事を始める姉さんは、本当に何も知らなさそうだ。
  幸せそうな表情のまま元気におかわりを頼んでいるその姿からは、
  中に何か隠しているようには見えないし、性格からしてそんなタイプでもない。
  それに本当に何かがあったのならきっと僕に言い出すだろうし、
  男には言えないことでも母さんには言うだろう。普段は喧嘩が多いけれど、
  それでも家族仲はそこらへんの家庭よりはずっと良いから。

「さっきからどうしたんですか? 何か問題でもありましたか?」
  少し怯えた表情になって訊いてくるサクラ。
「味付け変えた?」
  普段より、少しだけ塩味が濃い気がした。
  サクラは姉さんのご飯を丼に盛りながら微笑を浮かべ、
「分かりました? 今は春なのに少し暖かみが強いし、少し濃い目にしたんですよ。
  特製の調味料を少し増やしてみたんですけど、どうですか?」
  頑張っているんだな、サクラは。特製の調味料を作ったり皆のことを考えたり。
  朝食の他に弁当も作らないといけないから、今は朝だけは母さんが手伝っているけれど、
  このままいくと母さんが台所を完全に追い出される日も近そうだ。
「美味しいね。少し味が濃い方がご飯が進むねぇ、さすがはサクラちゃん」
  サクラは姉さんに丼を渡しながら睨みつけると、
「姉さんのためにしたんじゃありません、兄さんのためですから。
  大体、ご飯が進むってそりゃこれだけご飯粒をくっつけながら食べていたら
  丼の中に入れる量も増えるでしょうねそれはもう体重も乳も尻もそれに昔から姉さんは
  食べ過ぎなんですそれは嬉しいとは思いますし構いませんけれど人のおかずまで取るし
  感謝しているのならもう少し丁寧に食べて下さい口の周りにご飯粒を付けてみっともないし
  炊いた分のご飯が少し無駄になっていると悲しいんです分かってますか聞いていますか姉さん!!」
「えっと、早口だし長かったからよく分かんないけど、ごめんねサクラちゃん」

 サクラの長口舌を久し振りに聞いた気がする。これだけ喋るのは機嫌が極端に良いときか
  悪いときで、今は良いときだというのは表情で分かる。何かしょんぼりしている姉さんの丼に
  ご飯を多目に盛っているのもその証拠だ。大量のご飯を受け取って笑顔でお礼を言っている
  姉さんから視線を反らしてはいるが、口元の微笑は隠しきれていない。
  微笑ましい。
  青海にも、このくらいの態度で接してくれたら良いのに。今日の放課後に色々話をしてみて
  意外に普通なところも知ったし、姉さんともサクラとも相性は悪くないと思ったんだけれど。
  やはり僕を取られたような気持ちもあるんだろうけれど、女の子には、
  男には分からない論理が働いているんだろうか。
  僕の膝の上で気持ち良さそうに丸まっている呑助に視線で問掛けてみても、
  目を細めて欠伸を返してくるだけだった。
「二人とも、仲が良いのは僕も嬉しい。その調子で、青海とも」
  言い切る前に、僕の言葉は二人の表情で遮られた。先程の笑顔が一転、
  猫のように笑っていた表情が怒れる虎のような目つきになって僕の顔を睨みつけてくる。
  姉さんに至っては、気に入っているからと長年使っていたマイ箸までもを手の中で
  へし折っていた。口の周りにご飯粒を付けているのが多少間抜けな感じではあるものの、
  それを補って余りある迫力の表情をしている。
  これが先程の和やかな人と同一人物かと疑いたくなる程だ。

 助け舟を求めて母さんに視線を向けてみると、
「虎徹も大変ね、モテモテで。青海さんって、今朝のリムジンの人? どんな関係なの?」
  笑顔で火にガソリンをぶちまけてきた。
  今なら昔は理解できなかった、母親をクソババァと呼ぶ人の気持ちが少しは分かるかもしれない。
  この気持ちはきっとそれだ。
「今時、モテモテって表現は無いよ。それと、青海は僕の」
「ストーカーです」
  怒りを抑えて話を切り出してみれば、見事にサクラが打ち崩してくれた。
「兄さんが迷惑しているのに、それも分からずくっつき回っている害悪の権化。最悪の…」
「サクラ」
  嫌っているのは分かっていたけれど、ここまでとは思わなかった。少しの文句は許せるけれども、
  これはそれを通り越して只の罵倒。こんな悪意の塊は、少し許せないものがある。
  フォローをしながら付き合うと決めたのは僕だから、そこはきちんとしなければ。
  少し冷たい声を意識しつつ、サクラを見る。
「青海を、あまり悪く言うな。仮にも、僕の彼女なんだ」
  僕が思っていたよりもきつい表情だったのか、サクラは怯えたような表情で
  こちらの顔を見てきた。その目は少し潤んでいて、肩は小さく震えている。
  しまった、少し強く言い過ぎたか。
  僕はうつむき始めたサクラの頭を抱えると、軽く背中を撫で始めた。
  腕の中に完全に入り込む妹の体は酷く華奢で、少し力を込めただけで簡単に折れそうだ。
  なのに、ぐいぐいと全力で、その体を僕の胴体に押し付けてくる。

 それでもその力は、とても弱い。
  見過ごしていた。
  口が悪かったり、気が強かったり、平気そうだったり、そう見えていたなんていうのは言い訳だ。
  サクラはこんなに細い体で、弱い心で、いつも震えていたのに我慢していただけだったのだ。
  台所を仕切り、強く歩いていたのも僕の幻想に過ぎなかった。
「ごめん、言い過ぎた」
  数分。
  漸く視線を上げたサクラの目からは、大粒の涙が流れていた。
  心が、痛い。
  何が周りをフォローしながら付き合うだ、ちっとも出来てやしない。
  昔にあの娘とあった出来事を忘れたのか、皆を傷付けて、あの娘に至っては
  病院送りにまでさせて。それなのに、その経験を全く生かせていない。
  痛め痛め、その痛みが罪悪の印だ。
  もう一人の僕が責めたててくる。
「ごめん」
  もう一度呟くように言うと、サクラはゆっくりと体を離した。
「こっちこそ、すいませんでした。つい、取り乱して」
  申し訳なさそうに目を伏せ、
「もう、大丈夫です」
  姉さん、おかわりしますか、と言いながらぎこちなく笑みを浮かべる。
  同じく目を伏せていた姉さんから丼を受け取ってご飯を盛り、そこで箸が無いことに
  気が付いたのか台所へと向かった。
  人一人分だけ少なくなったこの場所は、空気が重い。
  サクラが戻ってきた後で食事が再会されてもそれは変わらず、無言の辛さが辺りを包む。
  サクラが作ってくれた、少し味付けが濃くなった筈の料理も、何故か味がしなかった。

9虎

 水っぽい音が聞こえる。
「何だ?」
  この感触は、何なのだろう。柔らかいものが口に押し付けられ、
  そこから延びるぬめった物体が唇の間から口内へと侵入して動いている。
  触手のようなそれは、僕の舌を絡めとり、暴れて奥へ奥へと進んでいく。
  これは、夢か。
  違う。
  温かいそれの感触や、何か鋭いものが肩に食い込む痛みが、これは夢ではなく
  現実だと伝えてくる。だったら何が起こっているのだろうか。
  手元の携帯をいじって時間を表示させると時刻は12時丁度、シンデレラの魔法が解ける時間。
  彼女は元の姿に戻ったけれど、僕はどうなったのだろう。
  ぼんやりとした頭で視線を回してみれば、視界に入ってくるのは
  緩やかにウェーブのかかった虎毛色の長い髪の毛。あんなことがあった後でも、
  姉さんはやっぱり僕の隣で寝ているらしい。やっぱり、姉さんは姉さんだ。
  いや、もしかしたらあんなことがあった後だからこそ、僕の隣で寝ているのかもしれない。
  辛いときには家族の温もりが一番の薬になることを、僕はよく知っている。
  それにしても、さっきから続いているこの音は何だろう。
  寝ているところを起こすのは悪いと思うけれど、姉さんは基本は夜型だ。
  起きているかもしれないという可能性の方が高いし、
  この音や感触を何とかしてくれるかもしれないと声をかけようと思い、口を開く。
  だが、声が、出ない。
  それはそうかもしれない、口の中に物が詰まっているんだから。

 それをまずどかそうと思って唇を動かしながら舌で押し返そうとすると、
  それはより積極的に動いてきた。先程よりも激しい動きで僕の舌に絡み、跳ね回る。
  更にはくぐもったような声も付いてきた。
  声が表すのは、
「…………ほれ、ふ、ひゃん」
 
  多分虎徹ちゃんと言っているんだろう、それは僕の名前。
  何故、僕の名前を呼ぶんだ。僕をそう呼ぶのは、姉さんだけの筈だ。
  待てよ。以前にも、と言うか昨日も同じようなことがあった気がする。昨日は夜中に姉さんが、
  僕の隣で自分を慰めていて、破廉痴具合いを確認した筈だ。
  何度も同じようなことがあるとは思いたくないけれど、そのパターンで行くと、
「姉さん?」
「なぁに?」
  違っていてほしいという願いを込めて目を開いてみれば、
  僕と顔を重ねた姉さんの笑みが広がっていた。無理矢理に顔を引き剥がすと、
  僕と姉さんの唇の間に透明な糸の橋が携帯の光に照らしだされた。
  その光景で、嫌な予感が的中したことが分かる。
  それと同時に湧き上がってくるのは、激しい後悔と、青海への申し訳の無さ。
「キス、を、した?」
  喉が酷く渇く。
  現実を受け入れるために一言ずつを絞り出すように言うと、一層増してきた。
「美味しかったぁ、もう一回」
  唇の端から唾液を垂らしながら淫らに微笑んで、姉さんが柔らかい両手で僕の頭を包んだ。
  そして、再び唇を重ねてくる。

 何が起こっているんだ、僕と姉さんは姉弟同士で、こんなことはしないし許されない筈。
  いくら姉さんが破廉痴でも、こんなことは異常すぎる。普通は考えもしないようなことなのに、
  どうして現実に起きているんだ。姉さんが僕に依存をしたり好きだと言っているのは
  分かるけれども、それは家族としてのものじゃなかったのか。
「好きだよ、虎徹ちゃん」
  僕から唇を離すと、いやらしく微笑む。
  これは、そういうことなのか?
「触って、虎徹ちゃん」
  姉さんが体を起こしたことで、どんな状態なのかが一瞬で伝わってきた。
  裸。
  白い肌が月の灯りを反射して、夜の闇の中にぼんやりと浮かんでいる。
  視る者を吸い込んでしまいそうなほどに妖しく光るその肌はただひたすらに淫猥で、
  恐怖すら湧き上がってくる。半裸は昨日も見たけれど、それとは比較にならない程の魅力が、
  そこにあった。
  濡れた秘所も口元も、昨日と殆んど同じような筈なのに全く違って見える。
「早くぅ、ね。虎徹ちゃん」
  甘い声が脳髄の中にまで染み込んで、思考の奥底までもを侵蝕してくる。
  姉さんは僕の腹の上にただ座っているだけなのに、肌が重なる感触が快くて、
  声と共に体の自由を削っていく。普段なら軽く身を捻れば脱出出来る状態なのに、
  拒否しようとしても、声も力も出ない。それどころか、逃げようという気力も、殆んど無い。

「虎徹ちゃん」
  気が付いたら、両手は自然と姉さんの乳へと伸びていた。
  僅かな力でも簡単に形を変えるけれども、弾力で掌を押し返してくる。
  指の間から溢れる乳房が、何ともいやらしい光景を作り出していた。
  僕の掌の中心に当たっている固くなった部分と、口の端から糸を引いて垂れている唾液、
  それと一緒に僅かに漏れるかすれたような声で姉さんが酷く興奮しているのが分かる。
  目が会うと、姉さんは三日月型に口の端を歪ませた。
「虎、徹ちゃ、んに、触っても、らえて、お姉ちゃ、ん、とって、も、気持ち良、い」
  姉弟。
  途切れ途切れではあるけれども、発せられた『お姉ちゃん』という単語に、意識が引き戻される。
  更に、冷静になって頭に浮かんでくるのは、多分僕以外は皆知らない、青海のはにかんだような、
  だけれども彼女らしい笑顔。
  僕と好き合っているではないけれど、
  僕を好いてくれている、
  付き合っているという証の表情。
  姉妹を僕離れさせるために付き合い始めたのがきっかけだけど、それでも、
  それなのに好きになり始めている女の子を裏切ることになる。
  これでは、けじめがつかない。
「姉さ…」
  三度目の、キス。
  駄目だ。
  頭の中に強く思い浮かべていた青海の笑顔が、もやがかかったかのように霞んで、薄れていく。
  代わりに密度を高めていくのは、唇や掌、姉さんの肌から伝わってくる温い感触。
  甘く妖しく艶めいた姉さんの声が、更に思考の器を溶かしていく。

「虎徹ちゃん」
  何だろう。
「手、止まってる」
  動かすべきじゃない、今が止め時だ。
  僅かに残る理性で歯止めをかけようとしても、手の動きは止まらない。それどころか、
  どんどん激しくなってきている。限界が大分近いのか、姉さんの舌の動きや呼吸、
  声も荒さを増してくる。激しく聞こえる水音は、股間をいじっているからだろうか。
  やがて姉さんは乳に僕の頭を埋めるようにして抱き込み、
「も、だめ」
  体を一瞬だけ硬直させて、ゆっくりと力を抜いた。
  肩で息をしていながらも、恐ろしく強い力で僕の頭を抱えている。
  いや、もしかしたらそうではなくて僕の力が足りないせいかもしれない。
  顔を柔らかな感触で包まれ、
  僅かな汗の匂いと女性特有の甘い匂いを吸っていると力が入らなくなる。
  数分。
  小さく姉さんが体を動かすと、密着していた肌が少し離れた。
  体温が消えるのを、もったいないと思うのと同時、
「もう良いよね」
  という声が聞こえてくる。
  何が良いのだろうか。
  もう今日はお開きなのだろうか。
「姉さん、それは」
  どんな意味で、と言おうとする前に言葉が途切れる。
  股間から今までに感じたことがない程の快感が伝わってきた。視線をそちらに向けてみれば、
  姉さんが白く細い指で擦りあげていた。
「虎徹ちゃんも、こんなになってるし」
  優しい声が鼓膜を震わせるのと同時、姉さんは体を起こすと僕の先端を股間に当てがい、
  ゆっくりと腰を沈めてきた。少し奥へと進むと、僅かな抵抗がある。

「んっ、痛っ」
  だが一瞬。
  一気に姉さんが腰を落とすと、根本まで飲み込まれた。
「姉さ…」
「大丈夫だから」
  月の光を反射するのは、一雫の涙。
「やっと、一つになれたね」
  待て待て待て待て待て待て待て待て。
  青海のことを思い出したときの比ではないくらいに意識が引き戻されたが、それも短い間だった。
  姉さんが腰を動かし始め、その度に思考がえぐられていく。
  目が覚めてから何度こんなやりとりをしたのだろう、ブレーキをかけるチャンスなどは
  幾らでもあった。それなのに引き擦られていくのは、何故なんだろうか。
  いや、そんなことはどうでも良い。
  そんな考えすら薄れていった。
「気持ち、良い? 虎徹ちゃ、ん」
  答えようにも、快感が強すぎて言葉が出ない。姉さんが腰を浮かせ、
  沈める度に言いようのない感触が伝わってくる。姉さんの膣内は熱くぬめり、
  全体を包んで絞りあげ、摩擦の度にヒダが絡みついてくる。気持ち良いと聞いていたけれど、
  これはそんな生易しいものじゃない。頭がおかしくなりそうな、それこそ甘い毒薬のようなものだ。
「お姉ちゃんね、辛かったの」
  鈍痛。
  胸に置いた手の爪を立てながら、姉さんは微笑む。
「虎徹ちゃんがよそ見ばっかりして、青海ちゃんやサクラちゃんばっかり見て。特に、青海ちゃん。
  昨日会ったばっかりの女の子に、あんなにデレデレして」
  聞こえている筈なのに、意味が分からない。
  快感以外の感覚が、無い。

「だから、もう我慢出来なくなっちゃった」
  言い終えると僕にキスをして、姉さんの腰の動きが激しくなった。強いうねりと締め付けに、
  我慢が出来なくなってきた。絶頂が近いのが、感覚で分かる。
「も、出る」
  抜こうとして腰を引くが、それをさせまいと余計に押し付けてきた。
  不味い、このままでは本当に中に出してしまう。
「姉さ、ん、駄、目だって」
「今日は、大丈夫な日だから」
  限界が近い。
「それに、虎徹ちゃんの子供だったら産みたいし」
  もう、無理だ。
「我慢、しなくて良いよ。虎徹ちゃんの尊敬する殺虎さんの、
  パパやママも兄妹だったみたいだし、大丈夫」
  舌を絡める激しいキスと、押し付けられる乳の感触、熱い膣内。のせいで思考力が
  一気に削られていく。
「あはッ、出てる出てるッ」
  出して、しまった。
「ね、もう一回」
  呟きながら、もう何度目か分からないが唇を重ねてくる。
「大好きだよ、虎徹ちゃん」

10虎

「眠い」
  声に出してみると少しは眠気も覚めるかと思ったけれど、
  やはりどうにもならずに眠いままだった。眠くない、と言った方が良いのかと思って
  発音してみても結果は同じ。眠気が覚めないまま、僕は居間へと向かった。
  一人で。
  目が覚めたら、珍しく隣に姉さんは居なかった。ここ数年続いていたことだけに、
  僕を起こしにきたサクラは驚いていた。しかし何よりも、朝になって姉さんの体温が
  無かったことに僕自信が一番驚いていた。
  だから、もしかしたら昨日の夜のことは夢かもしれないと、そう思っていたのに。
  シーツに付いた血の跡と、情事があった証のむせかえるような男女の匂い。
  そして何より、体に染み付いた焼ける程の姉さんの匂いが狂わせる程に意識を吹き飛ばした。
  決して許されない行為が、僕に起きたという事実だけで自殺をしたくなる。
「兄さん、どうしたんですか?」
  どうやら、もう着いていたらしい。
「虎徹ちゃん、おはよ」
  視線を向けると、姉さんが笑顔で僕を見ていた。
「お、はよう。サクラも……姉さんも」
  昨日のことが無かったかのように、いつもと変わりない笑顔。何もなかったのなら、
  普段と同じ朝だったのならどれだけ安心を出来たのだろう。
  それなのに、今はその表情が堪らなく辛い。見ているだけで、心が痛くて張り裂けそうになる。
  つい目を反らしてしまったけれど、寧ろ不自然な気がして見返した。

 こんなところで、負けてはいけない。昨日のことは反省すべきことだけど、だからと言って
  後悔ばかりしては前には進むことなんか出来ない。諦めるのは僕の専売特許だけど、
  責任は必ず果たしてみせる。
  殺虎さんの格言もある。
  曰く、『大切なのは諦めることではない、何を諦めるのか選ぶことだ』
  無理に笑みを作る。
「珍しいね、姉さんが一人で起きるなんて」
「私も、最初は自分の正気を疑いました」
「そうね、虎百合が自分で起きるなんて」
  言い出しッぺは僕だとしても、家族皆で起きれない人扱いはあんまりだと思った。
  事実だけれども、少しかわいそうな気がする。
「ん?」
  いけない、このままいつものペースで進んでいるとまた目的を忘れてしまう。
「どうしたの、虎徹ちゃん? そんな難しい顔して」
「どうもしないよ、少し寝不足なだけ」
  言いながら座ると、横からサクラが茶碗を差し出してきた。盛ってあるのは、
  好物の炊き込み御飯。一足先に座っていた姉さんは、丼で山盛りだというのに
  既に半分程を掻き込んでいた。いつも以上のペースのせいか喉に詰まったらしく、
  慌ててサクラから受け取ったお茶を流し込んでいる。
「あれ?」
  今気が付いたけれど、いつもの朝の様子に戻っている。姉さんは今は考えの外に出すとしても、
  サクラも普段の強い娘に戻っている。いや、強く見える娘に戻っていると言った方が
  正しいけれど、そんなことを相手に考えさせないような表情だ。

「元気になったね」
  言うと、サクラははにかんだように笑った。
「妻の、務めですから」
  心臓が、高く跳ねる。
  今、サクラは何て言った?
  今まで何度も聞いていた言葉だけれども、昨日の後だと嫌な現実感が帯びてくる。
  脳裏に浮かぶのは、僕の上で裸体を晒していた姉さんの姿と青海の笑顔。
  限界まで絞り取られ枯れきった後でも尚も僕を求め続ける姉さんの相手をしている内に
  完全に消え去っていた筈なのに、再び蘇ってくる。後悔と裏切った気持ちが一緒に浮かび、
  激しい痛みが心臓を襲った。止めようと思っても止まらずに、ひたすら恐怖が沸き上がってくる。
  こいつも、そうなのか?
  距離を取るように一歩下がると、背中に当たるのは軽い感触。
「どうしたの?」
  振り向くと、近さのせいで大きく見える姉さんの顔があった。
  僕がよっぽど酷い表情をしていたのか、除き込んでくる瞳に浮かんでいるのは純粋な心配の色。
  だが近く過ぎたのか恐怖のせいか、両方だろう。こんな時に、こんな場所で、
  こんな表情をしていてキスなんかしてくる筈はないのに、それでも反射的に顔を遠避けてしまう。
  しかし、今度見えるのは、サクラの顔。
  怖い。
  今更になって、二人を僕の隣に座らせて食事をしていることを後悔した。
  体をずらして避けることも出来なければ、逃げることも出来ない。喩えるのなら、まるで檻。
  飢えて餌を欲している肉食動物と檻の中に放り込まれているような気分だ。

 何で、こうなる。
  ついさっきに、それどころか青海と付き合うと決めたときから何度も前に進むと決めたのに、
  踏み出そうとした瞬間に足を掴まれ引き戻される。何度も何度もそうなって、
  未だに一歩も前に進んでいない。それどころか、どんどん泥沼に嵌って今は歩くのさえ
  不可能な状況だ。動くのさえも、ままならない。
  進むしか、ないのに。
「美味しいですか? これからも暑くなってくるので、濃い目で行こうと思うんですが」
「あ、うん。さすがはサクラだね」
  よく分からないことを言いながら、ご飯を口に運ぶ。大好物の筈なのに、
  濃い目に作ってあるらしいのに、味がしない。口の中の異物は昨日のキスを想像させるだけで、
  ひたすら気分が悪くなってくる。吐気を堪えながら飲み込んでも不快な感触は消えず、
  まとわりつくように口内全体に絡み付いてくる。
「虎徹ちゃん、あたしも誉めて。お洗濯とか頑張ってるの」
「姉さん、洗濯はボタン一つでしょう?」
「違うもん、手揉み洗いだもん。手荒れとかも気にしながら頑張ってるもん」
「まさか、ボタンの順番がよく分からないとか?」
「絶対に違うもん、こだわりなの」
「はいはい、どっちも良い娘。偉い偉い」
  二人の頭を撫でる、それだけなのに腫れ物を触る気分だ。
  今の会話だって、我が家の中でよく交される愛すべき日常の一コマの筈なのに
  逃げ出したくなるのは何故だろう。昨日の朝までは普通に聞いていた言葉も、
  違う意味で聞こえてくる。

 いつからこんなに歪んでしまったのかは明白だ、夜中に目が覚めてしまったときからに
  決まっている。心が悲鳴をあげながら震えているのは僕の弱さだけれど、異常の原因は、
  きっとそれだけではない。
「虎徹、本当に顔色悪いわよ? 学校休む?」
「なら、あたしが看病するぅ」
「姉さんは受験生でしょう、黙って学校に行きなさい。私が看ます」
「サクラちゃんこそ赤点大王じゃん」
  家に誰も居ない状態で、姉さんやサクラと一緒に居る。
  その光景が浮かび上がった瞬間に、僕は立ち上がっていた。
  昨日の今日で、もしそうなってしまったら、多分歯止めが効かずに壊れてしまう。
  今は少しでも安全な場所、なるべく人目の多い場所へと向かいたい。
  さすがに姉さんでも、他人が居る場所では暴走はしないと信じているから。
「そろそろ時間だから、学校に行こう」
「あ、待ってよ虎徹ちゃん」
「待って下さい、兄さん。お母さん、すみません。かたすのお願いします」
「はいはい、行ってらっしゃい。虎徹、倒れそうになったら無理せず体を休めるのよ」
  温かい言葉を耳に、歩き出す。本当は今にも倒れそうだけど、無理をして、
  逃げ出すように少しだけ早足で。
「おはよう、最愛の恋人の虎徹君。と、その姉妹」
  玄関を出ると昨日と同じようにリムジンが停まっていた。昨日と少し違うのは、
  満面の笑みで両手を広げた青海が立っているところだけだ。
  それを見て浮かんでくるのは、嬉しさと辛さが半々で混じった複雑な感情。
  最愛の恋人という言葉は嬉しいのに、僕の姉妹という単語はそれを打ち消してしまう。
  青海の顔を見てしまって浮かんでくる感情は、さっきまでの比にならない。
  家族を抱いたという意味と、青海とその笑顔を裏切ったという事実は際限無く心を切り刻み、
  崩し、溶かし、跡形もなく壊していく。
「……大丈夫か、虎徹君?」
  今にも、ブッ倒れそうだ。

Side青海

 体の具合いが悪いのか、寝不足なのか、車に乗り込んだ途端に虎徹君は倒れるように座って
  眠り始めてしまった。結構無理をしていたらしく寝顔は少し辛そうで、何か酷いことがあったのが
  簡単に想像できる。原因は分からないけれど、側に居てあげられなかったことが悔やまれた。
  昨日のデートの後、お互いに帰る家があるから仕方ないけれど、普通に分かれて帰宅したのが
  いけなかったんだろうか。ずっと、と言っても短い期間だけれどもその間中、
  虎徹君には気遣いばかりしてもらっているのに、わたしからは何もしてあげられない。
  それが一番辛い。何をしてあげれるのだろうか、と虎徹君を見る。
  あぁ、口の端からおつゆが。
  起こしてしまわないように、なるべく軽く、しかし丁寧に拭う。よし、綺麗になった。
  この程度のことしかしてあげられないのが惜しいけれども、少しでも気を使ってあげよう。
  そして、このハンカチは洗濯をせずにわたしの虎徹君コレクションに加えよう。
  直で採取したものだから特別に大事にしないといけない、今すぐにむしゃぶりつくのは愚の骨頂。
  その上のことなんて、もっての他だ。
  でも、少しくらいは良いだろうか。
  と小さな葛藤をしている内に、再びおつゆが垂れていた。少しだらしないのかもしれないと
  思ったけれども、注意をして見てみれば違う。余程の悪夢を見ているのか、
  苦痛にあえいで口元が半開きになっているせいだ。
  何てエロい光景だ。こう、中で生々しく動く舌や、溢れる唾液が何とも。

 もう少し眺めていたかったけれども、今はそんな場合ではないと軽く頭を振って冷静になる。
  あと少しで完全に落ちそうなおつゆを軽く手を伸ばして拭っていると、
  一つ幸せなことに気が付いた。
  今、わたしと虎徹君は隣り合って座っている。
  何故、そのことにずっと気が付かなかったのだろうか。少し考えてみれば、
  簡単に理由に辿り着くことが出来た。今までは邪魔虎が二匹、ずっとくっついていたからだ。
  無意識の方にまで擦り込まれるくらいに、一緒に居た光景ばかりだった。
  そう考えてみると次に出てくるのは、今までそんな幸せを独占してきた
  彼女らに対する羨みや嫉妬。今の虎徹君はわたしの隣に居るという愉悦や優越感。
  様々なものがあるけれど、一番大きいのは怒り。何故こんなになるまで、
  こんなになっているのに彼女達は助けてあげないのか、助けてあげられないのか。
  わたしの兄弟はずっと年上の、年に一度会うか会わないかの姉が一人いるだけだから
  一般の兄弟のことは分からない。けれども、姉も含めて家族を愛しているし、
  どこの家庭でもそうなんだろうと思う。長く一緒に居たのならば、その思いも強い筈なのに。
  それに、あまり認めたくないけれども彼女達の方が虎徹君の助け方を知っている筈なのに。
  いや、もしかして逆に彼女達が原因なのかもしれない。だから、助けようがなかった、
  助けを求めなかったのかもしれない。そう考えると、余計に怒りが湧いてきた。

 飽くまでも笑顔を崩さないようにしながら、姉妹を睨む。偶然に虎徹君が起きたときに
  怒りの表情を見られるのは嫌だし、何より嫌われたくないから。
  二人の表情を簡単に言ってしまえば、怒りと嫉妬。逃げ出したくなるくらいに恐ろしい迫力で
  睨んできている。昨日デート中に聞いた話だと虎徹君の先祖は虎をも殺したらしいが、
  成程、そんなことをするような人間の子孫だというのも頷ける。
  今にも殴りかかってきそうな雰囲気だけれど、それでも虎徹君を起こさないように気遣ってか
  座っているだけ。姉の方は睨みつけてきているだけだが、妹は何かを呟いている。
  どちらにせようっとおしくて、もしそれが原因で虎徹君が起きたのならわたしは
  彼女達をきっと許せないだろう。今でさえ腹腸が煮えくりかえっているのに、
  これ以上のことが起きたのならば理性を保っていられる自信がない。
  いかんいかん。
  今はそんなことよりも虎徹君に気持ち良く眠ってもらうのが先だ。わたしとしたことが
  何たる失態、他人に構って大事な時間を無駄に浪費してしまうなんて。
  学校に着くまではあと三十分強、その間に出来る虎徹君への償いといえば何があるだろうか。
  そうだ、辛いときといえば。
  幼い頃にとても悲しかった出来事があり、そのときに姉さんに頭を撫でてもらって
  楽になったことを思い出した。姉さん程の優しさがあるかは自信が無いけれど、
  それでも精一杯の愛情を込めて虎徹君の髪を撫でてみる。

 柔らかいな。
  染めてはいないらしいが綺麗な虎毛色の髪は、繊細で触り心地が良い。
  少し長めの髪の毛がふわりと手指に絡まるのをくすぐったいと思いつつ顔を見てみると、
  険しかった表情が少し和らいだような気がする。迷惑ではない、
  と言うより少しは安心をしてくれているらしい様子に安堵の吐息をし、撫でるのを続けた。
  僅かでも、気遣いが出来ているんだろうか。
  落ち着いてきた表情に、嬉しさが湧く。昨日はまだ好きになりかけだと言っていたけれども、
  それでも姉妹ではなくわたしの隣に来てこうした表情を浮かべているのを見ると、
  少しは彼の心の中に存在しているのだなという実感が湧く。
  このまま流れに乗って、膝枕でもしてしまおうか。
  口には出さずに、彼に心の中で問掛けてみる。返事は当然来ないけれど、
  そのまましてしまおうか。いや、それとも止めておいた方が良いだろうか。
  手を繋ぐのも遠慮する彼だ、性急にことを運ぶのは悪いかもしれない。
  ここで虎徹君の意思を無視してがっついて、嫌われたら元も子もない。
  こんなときにまで冷静に考える自分が少し嫌いだけれど、今だけはそのことに感謝もした。
  寝顔を眺めていると、不意に体が揺れた。カーブの勢いをそのままにわたしに
  もたれかかってきて、肩の上に彼の頭が乗る。驚いて見てみると、
  異常に近い位置に寝顔があった。
  吐息が首筋にかかり、ぞくりとした快感が広がっていく。

 不味い。
  今まで予想もしていなかった刺激に、下着が湿っていくのが分かる。
  人形を相手にしていたときには存在しなかったものだから耐性もある筈がなく、
  その軽い、しかし生々しい寝息は絶妙に体を高ぶらせてくる。
  膝枕は、止めておいて良かった。
  想像するだけでも、蜜が溢れてくる。もし本当に膝枕をして、
  彼の吐息が足や股間にかかったらもう駄目になってしまうかもしれない。
  いや、きっと駄目になってしまったに違いない。
  そんな痴態を彼に見られたら、きっと嫌われてしまうだろう。本当に危ないところだった、
  理性に感謝。
  ん、何だろう。
  突然、苦しそうな表情になった。どうやら撫でるのを止めていたのが悪かったらしい。
  重箱を必要以上に強く持ったり奥歯を噛み締めたりしているのか、妹さんの方から
  聞こえる音も悪いのかもしれない。その意外な弱さと可愛らしさに
  壊れてしまいそうな意識を無理に保ちながら、再び髪を撫で始める。
  そうすると表情は、元の穏やかなものに戻った。
  ずっと、こうしていたい。
  昨日も喫茶店で同じ願いを持ったけれども、今のものは強さや密度が全然違う。
  昨日は普通にさよならをしたけれども、今日は二人でずっと居るのも良いかもしれない。
  無理をして登校するよりも、ゆっくりと体を休める方が良いのかもしれない。
  もう学校も近い。どちらにせよ、まずは起こさないと。
  体を軽く揺すると、薄い笑みと共に目を開く。
「何か、良い夢を見た気がする」
  少しでも彼を幸せに出来たことに、心が震えた。
  わたしの幸せはここにある。

11虎

 結局学校を休んでしまった。皆勤賞を目指していた訳でも無いけれどそれなりに頑張っていたし、
  何より家に帰るのが辛かったから必死で拒否をした。だが僕の顔色が相当悪かったのだろう、
  青海は少し辛そうな表情をして僕を説得してくれた。一度休むと決めてしまえば
  そこからの展開はお決まりのもので、既に仕事に出ていた母さんの代わりに
  僕を家まで送り届けてくれたり、ユキさんが昼食用にとレンジで温めるだけの
  簡単な雑炊を作ってくれたりした。そして青海は僕が寝るまで、頭を撫でてくれた。
  やや恥ずかしいという気持ちはあったものの、何故かとても安心ができた。
  聞けば登校中に寝ているときもそうしていたらしく、目が覚めたときに
  気分が少し良くなっていたのも、もしかしたらそのお陰なのかもしれない。
  本当に頭が下がる。
  僕なんかのために、根気良く休むことを勧めてきたり、寝るまで付き添ってくれたり。
  もったいないくらいだ、もったいないお化けでも出てきて罰を与えてくれたら
  少しは楽になるんだろうか。その質問に答えを出してくれる人は居ない、
  目が覚めたら一人だったというのはこんなに辛いものなのかと思う。
  時計を見た。
  針はもう午後の五時を指していて、かなり長い時間眠っていたことを教えてくれた。
  今くらいになれば授業も委員会も終わっている筈で、もしかしたら
  青海が来てくれるのかもしれない時間帯だ。そんな淡い期待を持ちながら部屋の入口を見て、
  自分の変わった部分に気が付いた。

 青海を、待っている。
  弱っているところに優しくされたから勘違いしたのかもしれないし、更に質が悪いことを
  考えれば、ただ青海の元へと逃げているだけなのかもしれない。
  そうだとすれば青海に失礼だけど、それでも僕は青海を求めていた。多分、好きになっている。
  会いたい。
  暫く見た後で、そう上手い話は無いかと諦め布団に潜る。寝過ぎたせいなのか
  心も体もかなり楽になったけれども、眠気は全く無いが目を閉じた。
  軽音。
  足音がして、誰かが部屋に近付いてくるのが分かる。
「青海?」
  祈りが届いたのかもしれないと、体を起こして再び入口を見た。鍵は僕が持っているから
  玄関の錠は青海がかけている筈がないので、会おうと思って来てくれれば
  簡単に入ることが出来る筈だ。だから青海が会いに来ている可能性は否定できないし、
  また来るということも言っていたから期待をして良いのかもしれない。
  青海にしてみれば僕がまだ寝ている可能性もあるから、そのことを気遣ってか、
  ゆっくりとした速度で歩いてきている。その優しさに、ますます青海を好きになりそうだ。
  電子音。
  こんなときに誰だろう、無粋な奴め。
  携帯を開いてメールの確認してみると、送り主は青海だった。嫌な予感がして内容を見る。
  そこに書かれているのは、委員会が長引いて今日は来れないということとそのことを詫びる旨。
  そして、僕への愛の言葉。絵文字も顔文字も無い彼女らしい文章や、ストレートな表現に
  青海という存在を感じる。

 軽音。
  余韻に浸っていた僕を現実に引き戻したのは、少しづつ大きくなってくる誰かの足音。
  青海でなければ、誰だろう。ユキさんに何か頼んで来てもらったのだろうか、
  それとも母さんが仕事を早退して帰ってきたのだろうか、それとも父さんか。
  違う。
  必死に否定材料を探していたけれど、メールを見てからずっと頭に浮かんでいる答えが
  多分正解だ。時間はもう午後の五時、部活や委員会に入っている生徒でももう帰宅をしていても
  おかしくない、そんな時間。ついさっきにそう思ったのは僕自身だ。
  戸が、開く。
  見えたのは、一番会いたくなかった相手。
「虎徹ちゃん、ただいまぁ」
  姉さんが笑顔で、ゆっくりと部屋に入ってくる。帰宅してすぐに着替えたらしく、
  私服姿だがそれ自体は問題じゃない。いつものことだ、何も変わりない。
  問題なのは、
「姉さん、何を、着てるんだ」
  僕のシャツと半パンを着ていることだ。
「あ、ごめんねぇ。ちょっと借りてるよぉ」
  珍しいことじゃない、どこの家庭でもあることだ。
  必死に自分に言い聞かせるが、湧き上がってきた恐怖は簡単に治まってくれない。
  普通の男なら例え身内でも色っぽいと思ってしまうような格好も、
  今では恐怖の対象にしか見えず、思わず後退した。肉感的な脚も細くて綺麗な腕も、
  下着を着けていないのか僅かに浮き出た胸の先端も、ただの凶器だ。
「大丈夫? 虎徹ちゃん、まだ顔色が悪いよ」

「気にしないで、だいじょ」
  大丈夫、と言いかけて布団に倒れこんだ。もちろん自分の意思なんかではなく、
「まだ、寝てなきゃ」
  濃い笑みを浮かべた姉さんが、押し倒すようにしたからだ。体を重ねて肌や乳を
  擦りつけるようにして顔を近付け、耳元で囁くように言ってくる。
  甘い匂いの息が首筋を通り、耳の側をかすめて口や鼻孔へと侵入し、心を溶かしていく。
「本当に、大丈夫だか…」
  それに抵抗し、朦朧としてくる思考の中からやっと絞りだした言葉も、
  唇を重ねたことで強制的に途切れさせられた。次の言葉を発しようにも
  舌が絡めとられて喋ることが出来ない。呼吸をするのも、辛い。
「辛いときには、体を重ねるのが一番だよ」
  言葉の意味を理解する前に、直接視界に答えが来た。昨日のように騎乗位姿勢で上体を起こすと、
  半パンのジッパーを下げていく。見えてくるのは下着を履いていない局部で、
  そこはいつから濡れていたのか洪水と言って良い程に濡れていた。
「な、に、を」
「あはっ」
  腰を上げると割れ目を開くように指で拡げ、見せつけるように掻き回した。
  粘着質な水の音が響き、姉さんの指を濡らしていく。
「見て、虎徹ちゃんが居るだけでこんなになるんだよ。それに」
  姉さんの手が寝間着代わりのジャージとパンツを下ろし、
「虎徹ちゃんもこんなに苦しそう」
  伝わってくるのは、激しい快感。どこで覚えたのか繊細な手付きで竿をしごかれ、
  口の端から唾液が出るのも気にせずに荒い呼吸を吐いた。

「だから、ね?」
  微笑むとしごくのを止めて腰を上げ、
「姉さん、待っ…」
「だぁめ、あはっ」
  笑い声と一緒に腰を下ろしてくる。
「どう、気持ち良いでしょ? 楽になるでしょ?」
  擦るように激しく腰を動かし、攻めたててくる。初めてではないとはいえ
  昨日に初体験をしたばかり、獰猛な刺激に耐えられずに射精感は簡単に昇り上がってくる。
  寧ろ姉さんも同じ筈なのに、何故こんなにも順応しているのかが不思議なくらいだ。
  限界が近い。
「も、出そう」
「う、ん。中、に出し、て。今日、も大丈、夫、だ、から」
  出したくない、それどころか逃げだしたい。なのに体はいうことを聞かずに
  どんどん快楽を与えてきて、姉さんも腰の動きの勢いを増す。
  軽音。
  何だろうか、今の音は。
  老化の方から聞こえてきた音に、心臓が高く跳ね上がる。
  まさか、誰か居る?
「姉さん、今」
「よ、そ見し、ちゃ、駄目」
  腰を大きく引き、締め付けを強くして一気に下ろしてきた。今まで以上に強い締め付けと
  長いストロークに、これまでで一番の快感が襲ってきた。心配が霞み、思考が白くなって
  姉さんとの繋がりに埋めつくされる。
「あた、しが見、張る、から、虎徹ちゃ、んはお、姉ちゃんだ、け、見てて」
「う、ん」
  姉さんが繋がったまま体を半回転させ、背中を向けた。そのせいで僕を包んでいた膣壁が
  大きくうねり、元に戻る勢いで強く擦りあげられる。
  僕に背を向けたまま姉さんは、今まで以上に激しく腰を動かしてきた。絶頂が近いのか
  中の壁が小さく痙攣をしていて、それのせいでヒダがより複雑にうごめいている。
  我慢をしていなければ、すぐにでも射精をしてしまいそいになる。
  姉さんは僕が必死に耐えているのが面白いのか、快感のせいでハイになっているのか、
  小さな笑い声を出して腰を振っている。
  我慢をすればする程により淫靡に動き、悪循環に陥った。
  もう、限界だ。
「出、る」
「あはっ、中に、出、して」
  姉さんが一際大きく腰を動かし、
  中に、出してしまった。

Side妹虎

 兄さんが姉さんと絡み合っている。
  この光景を見たときに、最初は自分の正気を疑った。現実であってほしくない、
  そんな私の意思を完全に無視して行為は続けられていく。
  目撃してしまったのは只の偶然。理由は分からないけれど兄さんは体調が悪そうで、
  今日は学校を休んでしまった。口では大丈夫だの心配するなだの言っていたけれども、
  明らかにフラフラだった兄さんがとても心配だったから、寄り道もせずに早めに帰宅した。
  泥棒猫ごときにあまり感謝はしたくないけれど、変な部分で頑固者の兄さんを説得して
  家に返してくれたことだけは評価してやらないこともない。
  だけれどもやはり昼に兄さん成分コテツミンの補給が出来なかったことは事実で、
  帰宅して早々に兄さんの顔が見たくてたまらなくなった。ついでにもし食欲があるのなら
  夕食に何が食べたいのかを訊きに部屋に向かうと僅かに開いた戸の隙間から
  兄さんと姉さんの声が聞こえてきて、ついつい覗いてしまった。
  そうしたら眼前にあの光景が広がっていた。
  もし、普通に夕食の支度をしに台所へ向かっていたのなら。
  もし、放課後の掃除がなくてバスが一本早かったのなら。
  逆に、姉さんの帰宅がもう少し遅かったのなら。
  もし、兄さんが寝ていたままだったら。
  もし、戸が閉まったままで声も只の寝言だと部屋の前を通り過ぎていたら。

 様々な可能性があるけれども現実は残酷に他の道を切り捨てて、
  辛い景色を私の脳髄に何度も何度も刻みつける。視覚だけじゃない、
  鼓膜を震わせる声や水っぽい音、僅かに漂ってくる男と女の匂い。
  全てが私を絡めとるようにまとわりつき、思考を埋めつくす。
  何故ですか。
  心の中の兄さんに問掛けても、答えが返ってこない。それどころか、
  いつもなら簡単に浮かんでくる筈の微笑すら靄がかかったようにぼやけている。
  昼に兄さんとお弁当を食べることが出来なかったからだろうか、
  それとも朝に泥棒猫が兄さんを独占していたからか。
  考えても、結局答えは出てこない。
  早く、立ち去らないと。
  これ以上見ていたくなくて、部屋から離れようとした。
  何で、ですか。
  足が全く動かない。膝が震えて力が入らないのに、姿勢だけは直立不動という
  不思議な状態になっている。せめて視線だけは反らそうと思ってみても、
  視界は二人の行為に釘付けになっていて反らせない。瞬きすら忘れたように目が開き、
  擦り合わせる肌を見ることに夢中になってしまっている。
  水音。
  足元から聞こえた音が気になったが、何なのだろうか。
  濡れて、きたんですね。
  顎や喉を伝う唾液の感触や、下着から溢れて太股を伝う愛液の感触はくすぐったいと言うよりも、
  ただひたすらに気持ちが良い。普段なら不快だとさえ思ってしまう雫が滑り落ちる感覚が、
  体を熱くさせていく。

 気が付いたら、指が下着の上をなぞっていた。私のこんな光景を見られたくなくて
  必死に声を出すのを堪えているのに、指はそれを邪魔するかのように動きに激しさを増して、
  淫らな音をかきたてる。ただでさえ多い蜜の量は加速度的に増してきて、
  もはや指先だけでなく掌をも濡らして手首にまで到達していた。
  浮遊感。
  一度限界に達し、膝から崩れて床に座り込む。冷たい感触を快いと思いながら、
  もたれるように壁に頭を乗せた。しかし体勢が変わっても視線は兄さんの部屋の中から
  外れてくれない、まるで天命のように釘付けのままだ。
  駄目です、ここから離れないと。
  立ち上がろうとしても足は言うことを聞かないままで、僅かに体をよじらせるだけの状態に
  なってしまう。それだけのことならまだましだったかもしれないけれど、
  唾液と愛液の水溜まりにまだ熱い股間を擦りつけることになってしまった。
  ぬめる感触が気持ち良く、指は再び股間へと伸びていく。もう、止まらない。
  瓶に入れずに床に広がる蜜をもったいないと思ったけれども、
  容器を取りに行くとそこで終わってしまう気がして続けてしまう。
  少し続けて布越しに触るのももどかしくなり、下着の中に指を入れ直で割れ目をなぞり始めた。
  途端にそれまでとは比べものにならない程の刺激が来て、
  それだけで絶頂を向かえてしまいそうになる。押し殺しているけれども、
  声も少し出てしまったかもしれない。

 吐息と膣を掻き混ぜる音が脳の中で響いて、それが私と兄さん達のどちらのものかも
  分からなくなってくる。いや、どちらのものでも良いのかもしれない。
  大きく息を吐いたとき、視界の中に変化が起きた。
  バレて、しまいましたか。
  対面から背面へ姉さんが向きを変え、こちらを見てきた。いや、多分思い過ごしだろう。
  正確にはこちらを向いているのではなく、部屋の入口に目を向けているだけだ。
  気付かれていない筈だし、気配も消しているからここに居ることにも気が付いていない筈だ。
  普段はもう台所で夕食の準備をしている時間だし、向こうもそう思っているに違いない。
  だから、大丈夫な筈です。サクラ、逃げてはいけません。
  無理に言い聞かせるようにしながら、思考の途中も動かし続けていた指を加速させる。
  秘所の周辺をなぞり、撫であげ、膣の中を擦って掻き混ぜて、豆を摘み捻りあげる。
  尻の穴の周りを撫でて、軽く爪を立てるようにひっかいた。
  前と後ろの穴に指を差し込んで同時に責めると、思わず声が漏れそうになった。
  空いている指を喰え、必死に声を出すのを我慢する。指先に軽い痛みが走り、
  見てみると薄く血がにじんでいた。
  そんなこちらのことを知りもせず、兄さん達の行為はどんどん激しくなっていく。
  姉さんが腰を突き出すように後ろに上体を傾け、割れ目に兄さんが
  出たり入ったりしているのがはっきりと見える。

 結合部から潤沢に蜜が溢れ出してきていて、小さな滝のようになっている部分の下には
  いやらしい液で出来た水溜まりがあった。それを作る音が大きくなり、
  二人とも限界が近いことをはっきりと表している。
  不意に、目が合った気がした。
  それも一瞬のことで、すぐに私と姉さんとの視線がずれる。最初にこちらを向いたときと同じで、
  もしかしたらただの勘違いかもしれない。行為を止める訳でもなければ、
  特に何をしてくる訳でもないし、そもそも顔を動かしたときに偶然こちらを通過したと
  考えるのが普通だろう。
  本当にそうでしょうか。
  僅かに残っている理性の部分が、何度も問掛けてくる。
  大丈夫ですよ。
  そう、大丈夫。ストロークが更に短くなり、それに反比例するように激しさを増したのも
  絶頂が近いからだ。同じ女だから、小さく割れ目が痙攣しているのを見れば分かる。
  目が合ったと思ったたときから何度もこちらを見ているような気がするのもきっと偶然、
  体を大きく動かしているから視線の揺れが激しくて、その途中でこちらを通過しているだけだ。
  全てが偶然、それだけ。
  だから、ここで見ていても構わない。
  自分を慰めていても、問題無い。
  狂っように股間をいじっていると、やがて向こうに終わりが見えた。姉さんの体が大きく痙攣し、
  それに僅かに遅れるようにして兄さんの体が小さく震えた。それに呼応するように、
  私にも絶頂が訪れる。
  股間の割れ目から指を抜いて、脱力した体を支えるように壁に手を着いた。
  目が、合った。
  今回ばかりは勘違いじゃない、しっかりと戸の隙間を見つめている。
  姉さんは膝立ちになると、私に見せつけるように腰を前に押し出して割れ目を指で開き、
  妖しい笑みを浮かべた。やけに紅く見える唇から囁くような笑い声が漏れるのと同時に、
  割れ目から兄さんの精液がごぽりと溢れてくる。
「羨ましい?」
  小さな声で呟いた筈の姉さんの声が、やけに大きく聞こえた。

Side妹虎

 部屋で篭って思うのは、一昨日兄さんと姉さんが行っていた情事のこと。
  それについて沢山の疑問が浮かんできては私を苦しめ、それなのに答えを出そうとすると
  足早に逃げていく。まるで答えを出してはいけないとでも言うように。
  どうして、姉さんとなんでしょう。
  今まで私が兄さんを慕っていながらもそういうことを持ち出さなかった理由は至極簡単、
  あの人はふざけているときが多いから普通の人はあまり気が付かないけれども、
  驚く程のモラリストであるからだ。身内には多少甘くするけれども、それが他人、
  更には自分自身のことになると途端に厳しくなる。原因も憶測だけれど分かっている、
  私と姉さんが昔、兄さんと付き合う一歩手前だった女の子を病院送りにしたことがあった。
  そのときの事件から兄さんはその手のことに対して厳しくなり、
  狂信とも言えるくらいにモラルを重んじるようになった。
  二年経った今でもそれは変わっていないし、自分を責め続けているのはたまに寝言で
  あの人の名前を苦しそうに呟くから知っている。
  だからこそ、分からない。
  何故そんな兄さんが人と肌を重ねるようになって、しかもその相手が
  身内である姉さんだったのかが。今までの兄さんの行動からすれば、異常。その一言に尽きる。
  でも。
  絶望だけじゃない。 姉さんから仕掛けてきた可能性もある、
  と言うかその可能性の方がずっと高い。薄汚い
  あの淫売ならば、充分に考えられる。無理に襲ったのか、それとも別の方法を使ったのか。

 どちらにせよ許すことは出来ない、兄さんの純潔を奪った罪は三度死んでも尚足りない。
  私の使命だったそれを横から取ることは、それだけ重い。
  だからこそ私が助けたときには、これまで以上に私を愛してくれるだろう。
  その瞬間のことを考えるだけで、股間が熱くなってくる。
  今すぐにでも自分を慰めたいと思ったけれども、
  これからのことを考えると少しもったいないような気がして指が止まる。
  でも、熱いです。
  まだ兄さんは起きてないようだから今から少しだけしても構わないだろうか、
  それでもやはり濡らす役目は是非とも兄さんにしてほしい。私の小さな葛藤が
  心の天秤を大きく揺らし、不規則なリズムで思考を揺らしていく。
  日曜日は昼まで起きることのない兄さんの性格がこれ程までに恨めしいと思ったことはない。
  あの淫売のせいで疲れているみたいだから、もしかしたらもう少し遅くなるのだろうか。
  全く、姉さんは最悪だ。
  呼吸が乱れてくる。
  不意に、物音。
  姉さんは今進路のことで学校に居る筈だから、兄さんの部屋から聞こえてきたこの音は
  間違いなく兄さん自身が起こしたもの。それは兄さんが一日の行動を開始したことを
  示すものであり、私にとっては夢への第一歩を祝福する幸せな幻想曲の一節だ。

 胸が高鳴り、下着へと伸びていた指が止まる。危なかった、
  危うく自分でするところだったけれど何たるタイミング。
  これは神様からの掲示か、それとも私と兄さんの絆が起こした奇跡なのか。
  どちらでも良い、これはつまり私と兄さんに愛を育めということを示しているのだから
  結果的には何の変わりもない。
  体が尋常じゃない程に熱い、指先が震えて思考が朦朧とし、何も考えることが出来ない。
  これでこれからの交渉が上手くいくのだろうか、いや多分無理だろう。
  こんな状態で話を出来る程に私は強くない。大きく深呼吸をしても動悸息切れ不整脈、
  どれも巧い具合いに収まってはくれない。それどころか秒単位で強く激しくなっていき、
  とうとう目眛さえもしてくる。兄さんとの繋がりが現実味を帯びるというのは
  こんなに甘美なものだったのか、今なら納得はいかないけれど少し理解は出来る。
  あの頭の足りない雌豚は、この誘惑に耐えることが出来なかったのだろう。
  だから兄さんが犠牲になってしまった。
  理不尽ですね。
  姉さんの勝手なことのせいで清らかだった兄さんは汚れてしまい、
  そして少しおかしくなってしまったんだろう。本当の兄さんは、
  あんな馬鹿を相手に腰を振ったりなんかしない、もっと高潔な人間の筈だ。
  妹として毎日毎日飽きることなく見続けてきたのだから、間違いは絶対に無い。
  そうですよね、兄さん。

 何故か心の中に兄さんの笑顔が浮かんでこない。どうも最近コテツミンが不足している、
  いつからだろうと思い返してみれば答えは簡単で単純なものだ。
  あの泥棒猫が兄さんを横からかっ拐ってからだ。全く忌々しい、
  あんなクズはさっさと死んでしまえば良いのに。
  兄さんは青海さんを悪く言うと怒るけれども、きっと何か洗脳をされているに違いない。
  だから、私が兄さんを助けてあげないと。
  大丈夫です、もうすぐですから。
  目を瞑っても、やはり兄さんの顔は浮かんでこない。
  会いたい、今すぐ会いたい。
  指は、自然と下着に伸びていく。さっき兄さんに触ってもらうまでは自分で触らないと
  決めた筈なのに、自然に動いてしまう。でもこれで良いのかもしれない、
  どうせこのままだと上手く話も出来ないかもしれないし、そうなったら全てがおじゃんだ。
  ガス抜きをしてから行った方が冷静に交渉が出来る。
  言い訳を少しみっともないと思いながらも、指の動きは止まらない。
  兄さん、サクラは悪い娘です。
  誓いを破ったことよりも、兄さんの元へ行くことが遅くなることに申し訳がない。
  救いが今すぐにでも必要なのに、すぐに駆け付けてあげることが出来ないのは心苦しいけれど
  これもきっと必要なことだと諦めた。
  だって、兄さんの為ですから。

 目を閉じて、三度目になってようやく兄さんの顔が浮かんできた。
  それで、やっと調子が戻ってきたことを確認する。顔が浮かんでくればもうすぐだ、
  指の動きは自然と早く激しくなり、快感もより強くなっていく。
  もう一度兄さんの部屋から物音がしたことで隣に居ることが伝わり、一気に絶頂が来た。
  今まで何度も一人でしていたけれど、それらとは比較にならない程の、
  これまでで一番の波がやってきた。
  意識が真っ白になり、強い脱力感が体を襲う。
  数秒。
  幾分冷静になった思考の中に浮かんでくるのは、強い使命感。
  今の兄さんを救うことが出来るのは、私だけだという強い気持ちだ。
  姉さんなんかは、あてにならない。寧ろ、私の邪魔にしかならない。
  泥棒猫と同様に兄さんをたぶらかす端女は居なくても良いと言うより、居ない方が良い。
  兄さんの肌に触れて良いのは私だけだから例え家族でも許さない。
  姉さんは兄さんに触れすぎた。
  でも、それも今日まで。
  少し荒療治になるかもしれないけれど、それも兄さんの為を思えばこそ。
  最初こそ辛い思いをするかもしれないけれど、それも仕方のないこと。
  泥棒猫の毒牙にかかったり、乳ばかりの雌豚に抱かれているよりはずっと良いと思う。
  良い薬は口に苦いと言うけれど、ちゃんと体も心も治してくれる。
  その後に待っているのは甘く楽しい生活だ。未来の妻として、そのために頑張ろう。
  気合いは十分。
  深く、深呼吸。
  よし、大丈夫です。
  まだ幾分荒い気もするけれど、それでも呼吸などは大分落ち着いてきた。ギリギリだが
  話をする分には殆んど支障はないだろう。
「待ってて、下さい」
  私は立ち上がると、兄さんの部屋に向かうべく歩き出した。

12虎

 メールの着信音で目が覚めて、ゆっくりと体を起こす。内容の確認をしてみると
  青海からのもので、今日は遊びに来れないという旨が書かれていた。
  昨日遊びに来たときの帰りに来れないかもしれないと言っていたから予想はしていたものの、
  やはりそうなってしまうと寂しさが込み上げてくる。今日は日曜日だから
  明日の朝になれば会えるけれども、僕の存在を日常に留めてくれる青海が居ないと不安になそうだ。
  でも居ないものは仕方がない、青海のことは諦めて今日はどう過ごそうかと考える。
  ノック音。
  誰だろうかと思ってみたが、消去法ですぐに答えは出る。
  母さんと姉さんは進路相談で学校に行くということを昨日の夕飯のときに言っていたし、
  父さんは急な出張で隣の県で僕らのご飯を食べさせるために頑張ってくれている。
  青海はついさっきメールで来れないことを伝えてきたばかりだから、残っているのは、
「サクラ?」
「はい」
  体調でも悪いのか、少し上擦ったような声で返事が来た。
「失礼します」
  紅潮したような顔でゆっくりと戸を開き、ふらふらとしながら入ってきた。
  顔を伏せているので長めの前髪が表情を隠していて詳しいことは分からないけれど、
  いつもとは明らかに様子が違う。
  もしかして本当に体調が悪いのだろうか。

 最初は姉さんに対するような恐怖の気持ちがあったが、純粋に心配になってきた。
  僕の部屋にわざわざ来たということは、何かあったんだろうか。
  家族が今は僕しか居ないから来たのかもしれないけれど、それにしてはどうも様子がおかしい。
「大丈夫か?」
「だ、い、じょう、ぶで、す」
  呼吸も荒く、途切れ途切れに言葉を繋ぐ。誰が見ても大丈夫だとは思えない。
  この調子では何をするのも大変だろう、
  僕も去年酷い風邪を引いたときに体験したからよく分かる。
  成程。
  言いに来たのは、
「あ、昼御飯か。心配するな、代わりに僕が作るから」
  家事が出来ないことを言いに来たのか。
「それは大丈夫です、素麺を茹でておきましたから。病み上がりの兄さんでも食べやすいでしょう。
  足りないなら後でおにぎりでも作ります」
  こんな状態でもしっかりと家事をするのは、僕には真似が出来ない。
  サクラは、確かに勉強も苦手だし運動もあまり得意ではないけれど、
  料理も美味いしいし性格も素直だし、とても良い娘だと思う。
  身内の贔屓目を抜いても、きっとそうだ。
「それよりも」
「ん?」
「お話があります」
  何だろう。
「一昨日、見て、しまったんですよ」
  まさか。
「兄さんと、姉さんが」
  その先を言うな。
「セックス、してるのを」
  思考が一瞬で白く染めあげられていく。
  ついに来たか、と思った。

 それはあんな時間からしてしまっていたから、誰かに見られるかもしれないとも思った。
  心辺りもある、きっと廊下から物音がしたときだ。
  それは多分、サクラが僕と姉さんが絡むのを覗いていたときにたててしまった音なのだろう。
「それは」
「兄さんは、姉妹でも、抱けるんですね」
  反論しようとしても、口の中がからからになって声が出ない。
「姉妹でも、抱くんですね」
  怖い。
  ついさっきまでは普通の兄妹だった筈なのに、今はどこかがずれている。
  何年も使って馴染んだ僕の部屋もまるで初めて来た場所のように思えるし、
  目の前に立っているサクラも別人のように思えてくる。部屋に入ってきたときの姿勢のまま、
  棒立ちで下を向いて、肩だけを震わせながら小さな笑い声を漏らしているその姿は
  人間かどうかも怪しく見える。
  こいつは、本当にサクラなのだろうか。
「そんなに怯えないで下さい、誰にも言いませんから」
  サクラはゆっくりと顔を上げ。
「その代わりと言ってはアレですが」
  表情が見えてくる。
「私を」
  赤く染まったその表情は。
「抱いて下さい」
  にやり、と笑っていた。
「兄さん」
  スカートの中から粘度の高い蜜が糸を引き、軽い音をたててフローリングの床にぽたりと落ちる。
  それが引き金となって、ここは完全に異世界になった。
「さあ、早く」
「サクラ、お前は言っていることの意味が分かってるのか」

 今更だと思うけれども、きっとまだ引き返すことが出来る。
  まだ相手をしているのは、姉さんだけだ。
  だからサクラの相手をしなければ日常の世界に止まり続けることが出来る。
  それに姉さんの場合は逆レイプのようなものだったけれど、
  この瞬間に手を出したら完全に青海を裏切ることになる。
  言い訳がましく脳内で呟く間にも、サクラはにじり寄ってくる。
「愛して、います」
  そう言うサクラの目は、完全に獲物を狙う虎の目だ。
「お前は、抱けない」
  更に一歩。
  距離を取り続けるように僕もベッドの上で後退するが、すぐに限界はやってきた。
  壁が背中に当たる感触で、もう後ろに下がれないことを知る。
  尚もサクラは寄ってきて、もうお互いの顔の距離は5cmもない。
「絶対に、抱けない」
  残っているのは、言葉だけ。
「仕方ないですね」
  諦めてくれたのか。
  だけど何だろう、この胸に残っている不安は。
「兄さんが姉さんとセックスをしていると知ったら、青海さんはどう思うでしょうか」
「それは、ちが」
「兄さんも、腰を振っていたのにですか?」
  浮かんでくるのは青海の笑顔、僕の好きな恋人の僕の好きな表情だ。
  サクラに姉さんと僕のことを告げられたら、彼女はどんな表情をするのだろうか。
  侮蔑、嘲り、嫌悪、害悪、きっと嫌われるに違いない。それだけは間違いないだろう。
「更に」
  僕が一瞬動きを止めたのを見計らって、サクラが唇を重ねてくる。
「これも、ですね」
  言い終わって、再びキス。

 今度は先程のものとは違い舌を絡める激しいもの、まるで口の中を味わい尽くすように
  縦横無人にむさぼってくる。いつの間にか、サクラに応えるように僕も舌を動かしていた。
「ふはぁ…兄さんも満更じゃないみたいですね」
  透明な糸が引き、唇の間に橋を作った。
「どうします?」
  僕はサクラの肩を掴むと、強引に押し倒した。唇を重ねて強引に舌を割り込ませ、
  手はシャツのボタンを外していく。ブラは着けていなかったらしく、
  前面を開くと肌が表れてくる。きめの細かい表面は、なぞるだけでも指先に心地良い。
  サクラはそれだけで快感なのか、緩急をつけて下へと向かっていくと長い声を漏らした。
  十分な時間をかけて、下着へと辿り着く。クロッチ部分は布越しでも分かる程に濡れ、
  洪水のようになっていた。割れ目の辺りを指で擦り、下着を降ろして密壺を軽くなぞる。
  浅く指を入れて指を動かすと、水っぽい音が部屋に響いた。
「に、いさ、ん。むね、と、おし、り、も」
  サクラは顔を赤くしたまま、両手で表情を隠すように覆った状態で懇願してくる。
  唇の端から垂れている唾液が、年不相応に妖しく飾りたてていた。
  注文に応えるように桜色の胸の先端の突起を吸い、舌で転がし、時には歯を軽く立てて噛んだり、
  逆に唇を使って柔らかく甘噛みをしたりもする。股間に這わせているのとは逆の手で
  もう片方の突起を軽く摘み、押し潰し、指の腹で転がすように擦りあげると甘えた声を出し始めた。

「は、やく、し、たを」
  急かすように言ってくるサクラは余裕が無いのか、体を小さく震わせている。
  割れ目の上の方にある突起を親指の腹で擦りながら前と後ろの穴の周辺を同時になぞり、
  ゆっくりと指を侵入させると処女特有の締め付けが襲ってきた。軽く掻き混ぜると、
  それだけで達してしまったのかサクラの体が大きく痙攣し、指にかかる圧力が強くなった。
  そろそろだろうか。
「入れるぞ」
「は、やく、くださ、い」
  一度達して脱力したサクラの太股を掴み、軽く上げる。
  まだ痙攣している割れ目に先端を当てると、処女幕の抵抗を破り、一気に突き入れた。
「繋がっ、たん、ですね」
  痛みのせいか、目尻に大粒の涙を浮かべながら、絞り出すようにサクラは呟く。
  確かにこの小さな体では辛いだろう、両手でシーツを掴んで堪えている姿が痛々しい。
「動くぞ」
  念のために告げてから動きだす。
  姉さんの場合はねっとりと絡み付いてくる感じだったが、
  サクラの場合はひたすら強く圧迫してくる感じだ。未発達な体の上、
  根本まで埋まらないような幼い性器だから無理はないのかもしれない。
  それでも粘膜が擦れる感触は気持ち良く、暫く動かしていると射精感が込み上げてきた。
「サクラ、出そう」
「中、に、下さ、い」
  抜こうとしたが腰にサクラの脚が絡み付きて、引き抜くことが出来ない。
  普段弱い筈の力がとても強く、振りほどくことも出来なかった。
「出し、て」
  言葉と共に膣が更に締め付けてきて、
  僕は中にぶちまけた。

To be continued....

 

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