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優柔 previous



1

注)『優柔』本編を先に読んでから、この物語をお楽しみ下さい。

この『優柔 previous』は、愛原優希と水谷椿が恋仲になった所から、
優希が別れを決心するまでの約半年間を振り返った記録である。
なお、本編では『クズ系主人公』という不名誉な称号を与えられた優希だが、
今作では心優しい一青少年であるのであしからず。

1年の11月某日、優希は椿に告白し、付き合うことになった。
同じクラスであったのと、お互い両思いであったことで、二人の恋は順調に進展していった。
ところで、この男子は誰にでも優しく、それに加えて母親譲りのベビーフェイスを備えていたので
(身長は168僂覆里如▲轡腑燭任呂覆い隼廚錣譴襦法
女子生徒の間で(一部の男子にも)ひそかに人気があった。
そのことを椿は知っていたが、この時点ではまだ、嫉妬心を持ち合わせていなかったので
特に気にすることはなかった。
付き合い始めた当初も、自分以外の女子生徒と話をしている優希を見て、
「ああ、私と違って異性と仲良くできて凄いなあ」ぐらいにか思わなかった。
嫉妬深く、独占欲をむき出しにするのは、しばらく後になる。

実のところ、初体験があまりうまくいかなかった。セックスに興味津々の優希と、抵抗のあった椿は、
お互いに未経験。
極度の興奮状態にあった優希は、破瓜の痛みを必死に堪えていた椿を、力任せに突き続けた。
大した前戯も行わないままに行ったものだから、椿には初めてのセックスが苦痛以外の何者でもなかった。
普段、温厚で他人を優先して行動するような優希が、まるで別人のように息を荒げて、
自分を襲っている。とても恐い思いをした。
そしてそのまま膣内射精。痛みと予告なしで膣内に射精されたショックで、行為が終わった後、
しばらく涙が止まらなかった。
我に返った優希は何度も謝ったが、簡単に許せるものではなく、その後1週間は口を利かなかった。

優希には、この仕打ちが堪えた。引っ叩かれ罵られたほうが何倍も楽だっただろう。
自分だけが楽しむ、独りよがりのセックス。この愚行のせいでずっと無視され続けられるかもしれない。
何度も何度も頭を下げて、心から謝った。そして許して貰えたのはさらに1週間後のことだった。

初体験の日から数えて二週間、優希はただ謝っていただけではない。
二度とあんな失態を犯さないように、あることをしていたのだ。
まず、クラスの所謂プレイボーイに、セックスのHOW TOを聞き回った。
女はこうされると悦ぶとか、逆にこれはしてはいけないとか、端から見ればちょっと馬鹿げたことに、
熱心に耳を傾けていた。
それだけではない。上の階に住んでいる、仲良くなったお姉さんにも相談し、
(このようなことが露見すると、おそらく大修羅場に発展しかねないが)お姉さんから
『いけないレッスン』を受けた。
その内容とは、少しでも女性の身体に慣れるために・・・。
だがここで弁明するならば、性交渉はしていない。

・お姉さんが裸になり身体の隅々まで見せ、それを優希が観察し、迫り来る性的衝動に耐え得る
精神力を身につける。
・お姉さんの手足の指を丹念に舐めることによって、奉仕の重要性を体感する。

簡単に言えばこのようなことだ。
優希のこの行為は、セーフかアウトかで判定するならば紙一重の差でアウトだが、
あくまでも自分の愚行を猛省していたからこその行為であり、決してやましい気持ちはなかった。
だがやはり、いけないことかもしれないという気持ちもあって、優希はこの体験を誰にも喋らず、
墓の中に持って行こうと心に決めた。
ちなみにこのお姉さん、レッスンと称して本当は優希をつまみ食いしようと打算していた。
しかし、彼女のことをいかに想っているかということを痛感し、自分の裸を見ても必死に耐えていた
優希を見ているうちに、とうとう踏み切ることができなかった。
今では後悔しているらしい。

そのような影の努力もあり、2度目のセックスはうまくいった。
前回のように暴走することもなく、椿の心身を思い遣り、快楽を与えようと健闘し、
最後まで恋人としてこなすことができた。
そして4回目にして椿は、初の絶頂を迎えることができた。
自身の身体の変化に戸惑いながらも、傍らで「大丈夫?」と労わりの言葉を掛けてくれる優希が、
益々好きになった。
しかし変化したのは身体だけではない。心境もまた変化していったのだ。

翌日のことである。通学路を2人仲良く歩いていると、背後から元気な女子生徒の声。
「おっはよ〜ゆうき〜!」
バンッ!と優希の背中を叩くと、早々に学校に向かっていった。
ただそれだけの行為。以前の椿なら大して気にも留めなかったのだが、その時は違った。
今まで感じたことのない不快感が身を過ぎったのだ。
「ねえ、優希君・・・今の人・・・誰?」
「えっ、うん、5組の浅田さんって言うんだけど・・・椿ちゃん、どうかしたの?」
「・・・何でも、ないよ」
何故このようなことを尋ねたのか椿自身も分からなかった。
だが、自分の知らない女が、自分の恋人とスキンシップを図ったことが、何とも言えない感情をもたらした。

さらに放課後、下駄箱で靴を履き替えている時のことである。

「愛原君、さよなら」
「さよなら、室田さん」
「愛原バイバ〜イまた明日〜」
「ばいばい井上さん。早くお金返してね」

クラスメイトと挨拶をしただけなのだが・・・

「ねえ、優希君・・・他の女の子と話すの・・・止めてもらえないかな?」
「えっ?」

言わずにはいられない自分がいた。それは優希にとっても予想外のことだった。
帰りの挨拶をするという、人間としてごく当たり前の行為に、難点を示されたからだ。

「どうして?」

優希が問うと、歯切れの悪い返答が返ってきた。

「うん・・・優希君が他の女の子と話してるとね、何だか、ちょっと、嫌だな・・・」

その言葉に違和感を感じた優希はしばらく考えた。何故椿がこんなことを言うのかと。
そして優希の導き出した結論は・・・

『・・・ああ、そうか!
僕は理解しました。あれですね、ラブコメとかでよく見かける、嫉妬する彼女。
要は椿ちゃんは、僕が他の女の子と話したことに焼き餅を焼いてるんです。
きっとこういうのって、恋人ができたら誰もが通過するシーンなんですね。
なんだ、そうなんだ。僕って幸せ者だなあ。』

あながち間違いではなかった。当時の椿の心境も、焼き餅程度のものだったからである。
椿の嫉妬深さは、本来ならばこの程度のものだったのである。
2人が普通に付き合って、普通に愛し合っていれば、椿はただの可愛い焼き餅焼き屋さんだったはず。
しかし、本編の第1話で優希は椿に別れを告げた。
それは言うまでもないが、椿の嫉妬深さと独占欲に耐えられなくなったからである。
では、いつ、誰のせいで椿はそうなってしまったのだろう。

2

原因は勿論、優希にある。
気づかないうちに、椿の秘めたる嫉妬心と独占欲を引き出してしまったのだ。
具体的に何が原因だったかというと、それは優希のセックスのやり方である。
この男子は、ある意味での『変態』だったのだ。

別にスカトロ趣味があるとか、極度のサディストだったとか、そのようなものではない。
お姉さんとの一件から、奉仕することの悦びに目覚めただけである。
初期段階においては、大した知識も経験もなかったので、ただの前戯だった。
だが身体を重ねるごとに、優希のテクニックは向上していった。
やがて指だけで椿をイかせることができるまでになった。
そしてここから、優希の『変態』が目を覚ました。

この男子にとっては「奉仕してやってる」のではなく「奉仕させてもらっている」なのだ。
椿を一つ上の存在と位置付け、無意識的に自分の立場を下げる。
そうすることによって、普通の青少年なら抵抗を感じてしまうような奉仕を難なくこなせてしまう。
事実、奉仕の悦びを覚えた優希は、何の迷いもなくスカートの中に顔を突っ込み、秘部を舐め上げる。
やがてアナルにまで奉仕の対象を向けるようになった。
全国の男子学生で彼女のアナルに奉仕する人は一体何人いるのだろうか。
おそらく、数える程もいないと思う。これが、優希が変態であることの所以なのである。
だが今説明したことは、ほんの一部にすぎない。
これだけならば、単に過度な奉仕好きなだけで終わり、椿の開花とは結び付かない。
重要なのは、さらに2つの要因なのである。

優希の奉仕は、椿にとって恥辱だった。
ほんの1ヵ月前まで穢れを知らなかった彼女にとって、平気で股間に顔を埋めてくる恋人の行動は、
理解出来ないものであった。
汚らわしい行為をさせているという罪悪感もあり、やめてほしいと願い出た。
しかし優希は、

「椿ちゃんを愛してるから・・・だからもっと、椿ちゃんを気持ち良くしてあげたいんだ・・・」

と言い、奉仕を止めようとしなかった。
さすがの椿も、うるんだ瞳で幸せそうに請う優希を見ていると、断ることができなかった。
それどころか、これほどまでに自分を想ってくれているのだと実感し、優希の奉仕を望むようになった。

それがいけなかった。
この後、優希の行為はエスカレートする。
最初は単なるクンニリングスやペッティングで納まっていたのが、日に日に過激なものなった。
ある時は椿をまんぐり返しにし、手マン、もしくはクンニリングスを行ったり、またある時は椿を
四つんばいにし、アナルを舐めながら、
片方の手で陰部を、もう片方の手で乳首を擦り続けたりもした。
このように、どう見ても一男子生徒とは思えないような淫行で椿を何度も絶頂に至らしめた。
さらには、奉仕中に尿意を催した椿を浴室に連れて行き、膝に乗せて陰部を擦り続け、
強制的に放尿させたこともあった。
さすがにその時は、お漏らしという一般の人間にとっては最も恥ずべき行為の1つをしたことによって、
恥ずかしさと、恋人に幻滅されるのではないかという恐怖感で泣いてしまった。
しかし優希は、歓喜の表情を浮かべながら、もっと恥ずかしい姿を曝け出してほしいと言ったのだ。

椿は、優希の奉仕に、かつて味わったことがないような幸福感と快感を得るようになる。
そして、そのような愛し方をされているうちに、優希への思慕が異常なまでに募っていった。
あられもない姿、自分では恥辱以外の何者でもなく、人として見られてはいけない姿を晒しても、
優希がそれを受け入れてくれるからだ。
これが1つ目の原因である。そしてもう1つ、椿が変貌を遂げる原因を述べる。

この男子は、相手が絶頂を迎える時の表情に、何よりも性的興奮を覚える。
簡単に言えば、相手のイった顔を見るのが好きなのだ。
そのために、1度のセックスで椿を何度も果てさてる。
幾度となく迫り来る快楽に耐え切れなくなり、正気を保てなくなっても、指や舌で弄んだ。
しかし、ただ奉仕をするだけではなかった。
優希は、事が終わるまでずっと、愛を囁き続けるのだ。
これがいけなかった。
ただ「愛してる」と言われるより、快楽を与えられ、朦朧とした意識の中での「愛してる」は、
椿の深層心理により深く刻まれていった。
呪文のように囁き、まるでマインドコントロールのように刷り込んでいくことで、
椿は異常なまでの愛を体感した。
最終的には、快感を得ると(それが自慰であっても)優希に愛されていると自動的に思うようになり、
逆に、優希に愛を囁かれるだけで、感じてしまうようになった。
つまり、優希無しでは生きていけないようにされてしまったのである。

断っておくが、優希は意図して椿を開発したのではない。
ただ椿を想い、愛したからこそであって、彼にとってはごく普通の行為でしかなかった。
これこそがこの男子の恐ろしい所である。自身の気付かないところ、すなわち無意識下で、
恋人を私物化してしまったのだから。
しかし、たった今述べたように、優希は自分の所業に気付いていなかった。
よって、椿が嫉妬深く、独占欲に満ちても、どうしてそうなったのか分からなかった。
それは奇しくも、丁度『優希君』から『ゆう君』に呼称を変えた時期だった。

椿にとって、優希の他人への優しさは、すでに耐えられるものではなくなっていた。
優希が愛しているのは自分だけ、そのような自負があったから。
優希の優しさが何よりも心地よい椿は、誰にも渡したくなかった。
そして、これほど自分を愛しているにも関わらず、他の女にも、自分と同じように接するのは
我慢ならなかった。
結果、自分以外の人間、とりわけ女性に対して、制御不可能なほどの嫉妬心を燃やすようになってしまった。

3

改札口でゆう君を待つ。そんな日常化したことが、今日の私には特別に感じられる。
先週の金曜日はゆう君の誕生日だった。そして、初めて男の人にプレゼントをあげた。
手編みのマフラー、巻いてきてくれるかな・・・

ほんの1ヵ月前、私は好きな人に告白された。
私達以外には誰もいない、夕暮れの教室。
すごく緊張してたけど、何も隠してない、ありのままの姿で想いをぶつけてくれた。
嬉しくて涙が出そうだった。
だってね、初恋の人が恋人になったんだもん。こんなに幸せなことはないよ。

「あっ、椿ちゃんおはよう」
私に気付いて、ゆう君は駆け足でやってきた。・・・ああ、やっぱり・・・ゆう君は優しいな。
「えと、マフラー巻いてきたんだけど・・・似合うかな?」
今日はそんなに寒くないのに、わざわざ巻いてきてくれたんだね。そういう優しいところ・・・
「うーん・・・マフラーに巻き付かれてるみたい」
「ええっ!?」
「うそうそ、じょうだん。すごく似合ってるよ」
「もう、朝からびっくりさせないでよ、椿ちゃん」
慌てる姿もすごく可愛くて・・・どうしよう、幸せすぎるよ。

でもね、ゆう君の誰にでも優しいところ、止めたほうが良いよ。
「おっはよ〜ゆうき〜!」
バンッ!

・・・ほら、勘違いする人が出てくるから。

「ゆう君・・・嫌なら嫌ってはっきり言わなきゃ」
「えっ・・・」
苦笑していたゆう君は、あっけにとられたような顔をした。
「あの人、いつもゆう君の背中を叩いていくけど、本当は嫌なんでしょ?」
「別に嫌ってわけじゃ・・・」
「そう?でも・・・私は嫌かな」
「椿ちゃん?」
「例えばね、私が毎朝他の男の人に身体を触られてるとするね。ゆう君、どう思う?」
「・・・嫌な気分になるかも」
「でしょ?だからこれからは、背中を叩かせないようにしてくれたら嬉しいな」
「う、うん。気を付けるよ」
「変なこと言ってごめんね」
「いや、僕の方こそごめん」

ゆう君は悪くないよ。
ゆう君は他人に強く言えない所も長所なんだから仕方ないよ。
でも本当、気を付けなくちゃ。
勘違いした人が出てきて、ストーカーにでもなったら大変だもん。
駄目、私以外に優しくしちゃ。

・・・あれ?前はこんなこと、思わなかったのに。なんでだろう?

お昼になった。さすがに12時40分まで授業していればお腹が減る。
だから授業が終わるとみんなすぐに食べる準備にかかる。
「ほら椿、さっさと食堂行くよ」
恋人になったとは言え、やっぱりゆう君と2人っきりで食べるのはまだ恥ずかしいかな。
そんなことを思いながら、私は友達に付いていった。
教室を出る瞬間、ゆう君を見た。男友達と楽しそうに喋りながら、包みを開いている。
そしてすぐに、私の視線に気付いて、誰にも分からないように微笑んでくれた。
・・・いつかお弁当、作ってこよう。

「あっ、愛原〜ちょっと待って〜」
「井上さん?」
昨日と同じ。
学校を出ようとしたところで、ゆう君は女子に声を掛けられる。
「椿ちゃん、ちょっと待っててね」

「どうしたの?」
「昨日やっとバイト代入ってさ、借金返そうと思って」
「本当?」
・・・初めてした時、すごく恐かった。
普段からは想像できないぐらいに野蛮で、やっぱりゆう君も男なんだって思った。
付き合い始めて1週間でしちゃうなんていくらなんでも早すぎると思ったけど、
ずっと前から好きだったんだもん。
「いつまでも借りっぱなしも悪いし。ほら、利息分、色目つけとくよ」
「え、いいよそんな・・・」
「いいから貰っとけって。長引いた分のお詫びだから」
付き合ってからの時間なんて関係ないよね。
それからほぼ毎日愛し合って・・・私ね、1ヵ月前は男のひとの素肌を見ただけで顔が赤く
なってたのに、今ではすごくエッチな子になっちゃったんだよ?
それは、ゆう君のせい。普段あんなに優しくて大人しいゆう君が、あんなにエッチな顔して
私を愛してくれて・・・
それなのに・・・私をこんなにしたのに・・・どうして他の女の子にその笑顔を向けるの?
「ありがとう。井上さんって・・・」
「ん?」
「変な所で律儀だね」
「変って何!?超ムカつくんだけど〜」
「ゴメンゴメン、冗談」
駄目だよゆう君・・・ゆう君は私を愛してるんでしょ?毎回気持ち良くしながら、
「愛してるよ」って囁いてくれるのに・・・駄目だよ。
クラスの女子って言っても勘違いしたらどうするの?そんな優しさは逆にみんなを傷つけるだけ
だっていうのが分かってないのかな・・・
ゆう君は私以外にそんな顔見せたら駄目なんだよ?私はゆう君の恋人だから、
私にしかその優しさを与えちゃ駄目なんだよ・・・
「ったく・・・あ、そうだ愛原?」
「えっ?」
「今度合コンやるんだけどさ、愛原もどう?カワイイ子いっぱい来るよ」
「いや、高校生で合コンって言うのはちょっと・・・」
ゆう君・・・駄目・・・私以外の女に話しちゃ・・・私以外の女と仲良さそうにするのは・・・
駄目だよゆう君。
ゆう君は私だけのものなんだから・・・ゆう君を愛してるのは私だけなんだから・・・
ゆう君いい加減にして・・・いい加減に他の女としゃべらないで・・・
「え〜いいじゃん。愛原って結構人気あるんだよ?ペットにしたい男ナンバーワンって」
「ははっ、何それ・・・」
ゆう君・・・ゆう君・・・ゆう君・・・ゆう君、ゆう君、ゆう君、ゆう君、ゆう君、ゆう君ゆう君
ゆう君ゆう君ゆう君ゆう君ゆう君ゆう君ゆう君ゆう君ゆう君 ゆう君ゆう君ゆう君ゆう君ゆう君ゆう君

「ゆう君!!!!!!!!!!」

響き渡る自分の声に一番驚いたのは、私。感情が抑えられなくなってた。
みんなびっくりしてる。無理もないと思う。こんな大きな声、出したことなんてなかったから。
ゆう君も井上さんも、他の人もみんな、私を見てる。
急に恥ずかしくなってきた。
「えっと・・・誘ってくれたのは嬉しいけど、やっぱりごめん」
「あ・・・い、いや、いいって別に・・・」
「あっ、うん、じゃあ、さよなら。また明日」

何だか気まずくて帰り道はお互いに無言だったけど、しばらくしてゆう君は手を握ってくれた。
ゆう君は優しくて気配りができるから、私の気持ちも分かってくれてるんだと思う。
嬉しいよ・・・でもね、その優しさは私以外の誰にも向けちゃ駄目。
きっとそれにつけ込んで、ゆう君を不幸にする人が現れるから。

私は手を握り直した。お互いの指を絡める合わせる、恋人の握り方。
私の髪を撫でる手。私の頬を撫でる手。私を悦ばせる手。
この手はもう、私のものなんだから。絶対誰にも渡したくない。
手だけじゃない。表情も、身体も、優しさも全部・・・全部!

私・・・いつからこんなこと思うようになったの?
こんな汚い感情、今まで感じたことなんてないのに。
嫉妬・・・独占欲・・・辞書で数回見ただけで、自分とは関係ないと思ってたのに。
ううん、違う。嫉妬とか独占欲じゃない。
ゆう君が好きなだけ。
そんな人間じゃない・・・違うよ、きっと。

4

この男子、『人には優しく』が信条である。
困っている人がいれば役に立とうと奮闘し、自分に敵意を向けてくる人間に対しても、
何とか相手の特長を見つけようと努力する。
断っておくが偽善者ではない。この頃は清く正しい心をしていたのである。
とまあ、前置きはここまでにしておこう。
言いたいことは、このような馬鹿げているとも見做されかねないほど優しい心を持った男子が、
自分の恋人を放っておけるわけがないということである。
だから、優希はまた、やってしまった。
自分の感情の変化に戸惑っている椿を、放っておけばいいのに、ケアしてしまった。
椿の部屋にお邪魔して、週の始めだというのに、とびきり優しく抱いた。

その行為自体は全く問題ではない。愛する男と女が交わることなど、至極当然のことだからである。
重要なのは、その内容である。いつにも増して優希は、快感を与えながら、愛を囁き続けた。
少しだけ傷ついている椿の心に、必要以上に薬を塗りすぎた。
そしてその結果、椿の独占欲と嫉妬心はさらに増幅してしまった。
ただし優希には故意がない。そこが厄介である。

椿の髪を撫でていた優希は、すでに椿の母――桜子が帰宅する時間になっていることに気付き、
慌てて帰り支度をした。
男子たるもの、やはり恋人の親に顔を見せるのは覚悟がいるようだ。
それができていない優希は、鉢合わせだけは避けたくて、置き手紙を枕元に置き、早々に玄関を出た。
しかし運が悪いことに、ドアを開けた瞬間、買い物袋を提げた桜子と対面してしまった。

「・・・」
「・・・」
「・・・は、初めまして、椿さんとお、お付き合いさせてもらっている、愛原と申します・・・」
「・・・椿の母です、初めまして・・・」
端から見ると、非常に殺風景であった。

椿から聞いていなかったが、日頃見ている娘の微妙な変化から、どうやら彼氏ができたらしいことには
気付いていた。
そしてその男が(ドアが開いた途端、知らない男が出てきたのにはさすがにびっくりしたが)
予想以上だったことに喜びを隠せない桜子は、終始にやにやしながら会話を楽しんだ。
優希は勿論、ヒヤヒヤしていた。
「椿はどうしたの?」と聞かれ、「疲れて眠っています」と答えてしまったのだから、
さっきまで何をしていたのか一目瞭然なのだ。
何を言われるか分かったものではないと、あからさまな笑みを浮かべている桜子の次の言葉に身構えた。
「ねえ、優希ちゃん」
「は、はい?」
「ハネムーンはどこにするの?」
「ぶっ!?」
思わず吹いてしまった優希。
どうやら飛躍しすぎてガードが吹き飛んでしまったようだ。

彼女の母親の手料理を待つ間ほど、手持ち無沙汰なことはないと思う。
話が弾んでしまったために、気がついたら午後7時。
ちょうど腹も減ってきたため、御暇しようと席を立ち上がった矢先、桜子の一言。
「そうだ、せっかくだからご飯食べていきなさいな」
そういうわけで優希は、そわそわしながらその時を待った。
「すぐに作るからちょっとの間、辛抱してね」
「い、いえ、お構いなく・・・」
何もすることがなかったので、優希はリビングから、キッチンで調理に取り掛かる桜子の後ろ姿を見た。

『椿ちゃんのお母さん・・・いい人だなあ。それに、すごく綺麗だし・・・椿ちゃんも、
もうちょっとしたら・・・ああいう風に大人の色気が出るようになるのかなあ・・・』

と、このようなことを考えていたのも付け加えておこう。
勿論、形の良い尻がどうのこうのとか、束ねた髪から垣間見えるうなじが色っぽいとか、
やましいことは考えていないのであしからず。

「はい、召し上がれ」
「あ、はい、頂きます」
出されたのはナポリタン。優希の大好物である。
丁寧にフォークに巻きつけて、いざ口の中へ。
「・・・すごく美味しいです!」
感想を求められていないのにも関わらず、優希は言った。
それぐらい美味しかったのだ。
「そう?それは良かったわ。おかわり一杯あるから、どんどん食べてね」
「はいっ!」
思えば、高校に進学してからというもの、優希は自分で家事をこなしてきた。
実家にいた頃は当然のように母親に任せていたせいか、独り暮らしを始めた当初は大変だった。
今では大分慣れてきたが、やはりまだ完璧にはいかないところもある。
それは炊事にも当てはまり、現在でも満足にいくものではない。
だからこそ、桜子の完成された、心までも充実させてくれる手料理を食べることが出来たのは、
ありがたかった。
「もう、そんなに急いで食べなくても料理は逃げていかないわよ?」
桜子もまた、自分の料理をこれほど美味しそうに食べてもらえるのが嬉しくて、
優希の顔を微笑みながら眺めた。

「あの、今日は本当にありがとうございました」
「いいのよ。優希ちゃんは椿の大事な彼氏なんだから。またご飯食べに来てね?」
「はい、また来させてもらいます。それじゃ、失礼します」
「またね。気をつけて帰るのよ」
優希を見送る桜子。その心中は、新しい家族ができたことに対する喜びで満たされていた。

・・・・・・さて、ここまでならごく普通の風景。恋人の母親に夕飯をご馳走になったという、
ありきたりな展開。
このまま終わっていれば、何も気にすることなどないのだが・・・

椿はずっと――優希が食べ始めた頃から――その様子をドアの隙間から眺めていた。
優希の所に行って、3人で食事をすれば良かったのに、あえてそれをしなかった。
その原因は、ご承知の通り、椿が自分の感情の急激な進化に戸惑い、認めたくなかったからである。

えっ・・・そんな・・・こ、こんなの・・・嘘、だよ・・・ね・・・

私・・・お母さんにまで・・・嫉妬・・・してる・・・

椿の独占欲と嫉妬心は、取り返しの付かないところまで来てしまったようだ。

5

お母さんとゆう君が一緒にご飯を食べている、ただそれだけのことなのに・・・どうして嫉妬してるの?
おかしいよ、こんなの。
お母さんはお母さんで、ゆう君から見たら彼女の母親ってだけなのに。
私はただ義理の親子みたいに思えばいいのに。
仲良くしてくれたほうが付き合う上ではいいことなのになんで・・・

「ほら、優希ちゃん。口の周りが汚れてるわよ?」
お母さんがゆう君を「優希ちゃん」て呼んで口の周りを拭いてあげた・・・ゆう君は恥ずかしそうに笑ってる・・・

・・・その瞬間、私の中で何かが壊れたような気がした。

 

何よゆう君、恋人の母にあんなにデレデレしちゃっていやらしい。
子供扱いされてるんだよ分かってるの?
・・・本当は嫌なんでしょ?
嫌なのに相手を傷つけたくないから拒絶できないんでしょ?
駄目だよゆう君そういうのが一番危ないよ?
そうやって分け隔てなく優しくするから勘違いする人が出てくるんだよ?
毎朝ゆう君の背中を叩いてく浅田っていう人も私と付き合ってるってこと知らなくて
ゆう君を合コンに誘おうとした井上さんも全部ゆう君の優しさをはき違えた可哀想な人達なんだよ?
気付いてないかも知れないけどゆう君って可愛い顔してて母性本能をくすぐるタイプなんだよ?
しかも性格が良いからちょっと優しくすると誰にでも好かれたりするんだよ?
気付いてないの気付いてないよね?
ゆう君ってそういうところだけ天然だよね?
それって一番タチが悪いよホントにもう分かってる?
それが計算だったらショックで寝込んじゃいそうだよ?
それからね普段はおとなしくて引っ込み思案なくせしてエッチの時はあんなに大胆なことしてるのに
何で学校にいる時は「愛してるよ」って言ってくれないんだろうね?
恥ずかしがってるのか知らないけどそれって失礼じゃないかな?
ゆう君初めてした時中に出したよね?
止めてって言ったのにあの日危険日だったんだよ?
ホントに危なかったんだからね?
そのせいか分からないけどそれからはすごく優しくしてくれてるんだけどちょっとやりすぎだよ?
あんなアブノーマルな愛し方されてるから私すごくエッチな体になっちゃったんだよ?
ゆう君私のお尻の穴舐めるよねあれ今じゃもうすごく気持ち良くて堪らないんだよ?
分かるゆう君私もう変態さんになっちゃったんだよ?
ゆう君のせいでお嫁に行けない体にされちゃったんだよ?
これでもゆう君他の女と仲良くするからそろそろ我慢の限界に来てるの分からないのかな?
もしこれで他の女に姦通とかしたらゆう君殺して私も死ぬからね?
何回も何回も刺しまくって気が済むまで続けるからね?
ああでも私お母さんからちゃんと教育されてるから人殺しなんてできないんだよ?
だから私以外に目移りしたとか冗談でも言わないでね?
ああこれからはちゃんとゆう君を教育しなきゃ自分のことに無知だなんて一番ダメだよ?
ああ明日から頑張ろうっと。
ゆう君にまとわりつくごろつきを1つ1つ駆除していかなくちゃ

「あら椿、起きたの?」
「優希ちゃん、もう帰っちゃったわよ?後で電話しておきなさいね」
「ご飯作り直すからちょっと待っててね」
「それにしても・・・椿も隅におけないわねえ」
「あんなにいい子と付き合ってるなんて、ちょっと羨ましいわよ」
「優希ちゃん、また家に連れてきなさいね。今度はもっと豪華なもの作っておくから」
「それと、彼氏を独りにしておいたらダメよ?」
「ママが手を出すかもしれないから」
「ジョークよジョーク、そんな恐い顔しないの」

・・・奥歯が痛いよ、ずっと噛み締めてたから。
分かってる。お母さんのこと大好きだから、はらわたが煮え繰り返るようになっても
絶対に怒ったりしちゃ駄目。
今度からはお母さんにゆう君を合わせないようにしよう。それが一番、良いから。

昨日はね、自分がこんな嫉妬深いなんて思わなかったけど、よく考えてみたらこれって
素敵なことなんじゃないのかな?
だってそれだけゆう君のことを愛してるってことなんだもん。
おはようゆう君。今日から私、ゆう君のために頑張るね。
「おはよ〜ゆうき〜」
ほら、来た。
こういうのは、放っておくといつまでも付きまとうタイプだから私が対処するね。
私はゆう君の後ろに立って、背中を叩かせないようにした。
「初めまして。私、ゆう君の彼女の水谷って言います」
「えっ、ゆうきってこの子と付き合ってたの?」
・・・そういえばゆう君、私と付き合ってることみんなに内緒にしてたみたいだね。
「そういうわけだから、浅田さんだっけ?ゆう君に触らないで欲しいんだけど駄目かな?」
私はできるだけ穏やかな口調で言った。
本当は

「私のゆう君に触るな!!!!!メス豚!!!!!!!!!!!」

って言いたいんだけど、流石にそれは酷すぎるからね。
「うん、分かった。ごめんな、気付かなくて。ていうかゆうき、お前彼女ができたんならそう言えよ?」
「う、うん。ごめんね」

あの人、ゆう君に気があったわけじゃないんだ・・・ちょっと安心。
でもゆう君、自分の彼女でもない人に下の名前で呼ばせるの、良くないと思うよ。
私はゆう君の手を握った。
するとゆう君、
「つ、椿ちゃん、さすがにみんなのいる前で手を繋ぐのは恥ずかしいからやめてよ・・・」
って言ったの。
・・・なんで私と手を繋ぐのが嫌なのかな?
おかしいよね?昨日帰り道で手を握ってくれたのに、ベッドの上ではあんなに私のこと愛してくれるのに
手を握るのは嫌がるなんて。
だから私、ちょっとムカってきて
「いたっ!椿ちゃん!?」
強く握りすぎちゃった。
ごめんねゆう君。でもね、私と付き合ってるんだからもっとそれらしくしてよ。
そうすれば他の女子に声掛けられるのも少なくなるんだから。

嫉妬なんてね、ただの愛情表現の1つなの。
だから私、もっと嫉妬するね?
ゆう君に話し掛けてくる女には敵意を向けるね。
もちろん、他の女のことを気にするゆう君にも、お仕置きするね?
まさか、嫌がったりしないよね?
だって私は・・・ゆう君を愛してるから・・・何をしてもいいの。

2006/06/07 To be continued....

 

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