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振り向けばそこに…

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  あれから数日。 どうにか平常を装って過ごしてはいるけどやっぱり辛い。
未だ祥ちゃんに断わられたのが尾を引き摺っている。
  未練がましいとは思いつつも祥ちゃんが心変わりして私のことを受け入れてくれないだろうか、
そんな事ばっかり考えている。 気持を切り替えなきゃいけないのに……。

 そんなある日祥ちゃんに屋上に呼ばれた。 二人っきりで話がしたいって。
  胸が高鳴った。 期待と不安が胸中を交差する。 若しかしたら……
  いや、そんな都合の良すぎる考え……。 そう思いつつも期待が胸をよぎる。
  やっぱり私と交際してくれると言ってくれるのかな……?
  でも祥ちゃんの口からは出てきたの言葉はそうしたのとは全く関係の無いものだった。
「なぁ羽津姉。 羽津姉と結季は仲良しだよな?」
「何言ってるの今更。 当然よ、結季は私の大切な妹なんだから」
  何で今更妹の結季の事なんか聞いてくるんだろう。 私は疑問に思いながらも答えた。
「だよな、うん。 俺も昔っから幼馴染としてずっと見てきたからよく知ってるよ。
  だから結季の幸せは羽津姉にとっても望むところだよな?」
「当たり前じゃない」
  私は笑って応えた。 私が笑って見せると祥ちゃんはホッとした表情を見せそして直後、
  今度は何かを決意したような表情になった。
「なぁ、羽津姉。 このあいだあんなこと言った直後なのにこんなこと言うのもなんだけど、
  その、俺が断わった理由ほかに好きなコがいたからなんだ」
「そ、そうなんだ。 で、そのコに告白したの?」
  私は祥ちゃんの言葉に訊き返した。 ふといやらしい考えが頭をよぎる。
  いけないと思いつつも若し其の告白が駄目であったなら自分にも未だ目があるのでは、と。
「結論だけ言うと、断わられた」
  其の言葉を聞いた瞬間顔が思わずにやけそうになる。 そして必死で其の表情を堪える。
  い、いけない顔に出しちゃ駄目だ。 兎に角こういう場合は慰めてあげるのがセオリーよね。
  焦っちゃ駄目。 あざとい女だと思われてしまっては元も子もないのだから。
  そうして私は平静を装い慰めの言葉を掛けようと口を開こうとした。
  だがそれより早く、祥ちゃんがした予想外の行動に私は面食らった。

 

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「ごめん! 羽津姉!」
  俺はしゃがみこみ両手と額を地面につけた。 つまりは土下座だ。
「ちょ、ちょっと祥ちゃん?! い、いきなりどうしたの?!」
  俺の行動に羽津姉は戸惑いの声を発した。
「その、言いにくいんだけど……、実は俺が好きなコってのは結季なんだ」
「え?ちょ、ちょっと待って。 そ、それって……」
「結季は羽津姉が俺のことを好きなの知ってて、それで俺とは付き合えないって……
  だから羽津姉、頼む! 自分でも勝手なこと言ってるの分かるけど、でもお願いだ。
  結季を説得してくれ」
  我ながら酷いことを言ってると思う。
  だけど、結季が羽津姉を気遣って俺と付き合えないと言うのならコレしか解決方法が浮かばなかった。
「そ、そんな……。 ど、どうし……」
  羽津姉の困惑した声が聞こえる。
「どうして!! どうして私じゃなくてあのコなの?!!!」
  そして俺は羽津姉に胸倉を掴まれ、しゃがみこんでた俺は引っ張られ引き起こされた。
  羽津姉の顔には困惑と悲しみと怒りが、其の瞳には涙が浮かんでいた。
「ゴメン……だけど……」
  そう言いかけた俺は襟を掴まれたまま金網のフェンスに叩きつけられた。
「聞きたくない!! 聞きたくない!! そんなの……、そんなのイヤアァァァァ!!!」
  逆上し頭に血が上った羽津姉は俺を揺さぶり何度も何度も金網に叩きつけた。
  羽津姉に揺さぶられるたびにフェンスが音を立て背中に痛みが疾るが、
  俺はされるがままに責めを受けた。 仕方ないとは言え羽津姉を傷つけたんだ。
  これしきの痛みから逃げるわけにはいかない。

 その時変な音が聞こえ、瞬間嫌な汗が流れた。 まさか、この金網そうとう老朽化してる?!
  ヤバイ!!
  だが、気付くのが遅かった。 背中の金網の反動が消えた。
  そして金網もろとも俺と羽津姉の躯は後ろに倒れこみ宙に放り出される。
  その時俺の目に映った羽津姉の顔。 だが其の顔にあったのは悲しみでも憤りでもなく、――笑い?!
  その笑顔に背筋が凍りつく
「う、うわああぁぁぁぁ……!!!」
  そこで俺の感覚も意識……も消……え

2006/04/07 完結

 

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