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義姉 〜不義理チョコ パラレル〜



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        *        *        *
『士郎』

 殆ど眠ってないが胃袋は無事食事を受け入れてくれた。
  ――何か違う。味噌汁の出汁の事もあるが、もっとこう何か別の――雰囲気、
  いや空気が違うとしか説明できない何かが。
  どうでもいい考えを頭に巡らしながら制服に袖を通す。少し窮屈に感じる。
  春にやった健康診断以来背は測っていないが、まだ背は伸びているようだ。
「シロウ行くよ」
  呼んでもなければ遅刻間際という訳でもないのに姉ちゃんは勝手に人の部屋に入ってきて、
  人の鞄をかってに掴んで歩き出していた。
「ちょ、姉ちゃん――」
  既に階段を下りていく足音を追いかけて自分も部屋から出て行った。

 ――眠い。気を抜けば立ったまま眠れそうな眠気の中、姉ちゃんと肩を並べて歩いている。
  また違和感――今度はもう少し具体的にわかる。姉ちゃんとこんな風に歩いたのは随分昔、
  確か姉ちゃんが中学が上がるぐらいまでだ。翌年自分が中学へ入ったが、何か気恥ずかしさがあり、
  部活の朝練があるわけでもないのに出る時間をずらして行くのが当たり前になっていた。
  短いサイクルで地面を叩く音が後ろから近づいてくる――ああ、モカさんだ。
  振り向かなくてもわかる。待ち合わせをしている訳ではないが、
  大体駅までに落ち合う事になっている。
  いつもならこのまま体当たりをかますようにぶつかって来る――筈だったが、
「――おはよう」先に姉ちゃんが振り返って先に挨拶するなり足音は止んだ。
「……お、おはよう」少しの間を置いてモカさんからの返事が来た。
  眠い目を擦りつつ振り返り自分も挨拶をする。
  いつも体当たりかまされつつ抱きつかれたりしているが、こんな風に改めて挨拶したのは久しぶりだ。
  ――ああ、姉ちゃんがいるからか。そんな考えが頭に浮かんだが、
  いつもはあんまり回りの目を気にしている様子はなかったが、よく知っている人間がいるというのは
  また別なんだろ。

 また違和感――そういえばモカさんは昔から知っていたけど、
  ついこないだまで余り話したことなかった。そして姉ちゃんとモカさんが並んで歩いているのは
  よく見かけたが、三人一緒っては小学校の頃も殆どなかった。
  重い頭を体で引っ張りながら駅の改札を出て学校へと向かう。学校に行ったら机で眠ろう何も考えず。
  今日の朝一は熟睡してても何も行ってこない松木の授業だ、だから熟睡してやる。
  ただ右足、左足を交互に前に進めていると突然、襟首を掴まれた。
「あんた、ちゃんと前みなさいよ」
  ああ、赤だ。信号は赤だ。寝ぼけているオレをせせら笑うように目の前を車が横切った。
「ああ……うん」
「ホント始終見持っていてやらないとダメな子なんだから」
  生返事に対して、襟首を掴んでいた手は軽く頭を二回叩いていた。
「大丈夫大丈夫、私が――」
「ほら、行くよ」
  信号は青に変わり、モカさんが何か言おうとした時には姉ちゃんは人の肩を掴んで歩き――
  いや駆け出し始めていた。

 

 教室に入るなり田中とイノが折っている鶴が目に入った。熟睡しようという決意が
  好奇心に少しだけ負けた。
「何かあったの?」
  少なくともクラスの友達では入院したり転校したりって話は聞いたことがない。
「中学の時の友達が入院したんで」イノはこちらに向かって挨拶が終ると手元に視線を戻していた。
「暇だったら手伝って」と田中。
  返事はしない代わりに折り紙を一つとって右手で鶴を折り始める。
  自然と欠伸が漏れた。
「随分眠そうにしてんのね」
「……まあ一応」
  動揺を悟れない様に極力落ち着けつつ、右手は鶴折りつつ左手で目を擦る。
  間違っても、この歳で姉ちゃんと一緒に寝て、パンツの中に手を突っ込まれて
  一晩中抱き枕にされてたからなんていう、本当の理由を誰かに話せる訳がない。
「ああ、今日は友達の家に泊っている――そうかそうか、そういう事か……」
「へ?」
「ハイハイ、無理して墓穴掘らなくていいから。ほら、私気配りできているいい子だからね」
  田中は何かに思い当たった大きく頷きながら何かに納得していた。
「何だよ、それ?」
  重い頭を頬杖で支えつつ、右手は鶴を折り続ける。
「それより、あんた不器用な生き方しか出来無そうな性格なのに変な所で器用なタイプね」
「だから何が?」
「俺、片手で鶴折る奴なんて始めてみたんだけど」
  イノの一言でようやく理解した。片手で鶴を折る――極めてその価値を発揮する
  機会のない特技の一つ。出来るようになったなったで、あまり凄いとは感じられなくなったので
  余り意識したことはなかった。
  父さん――今の義父に教えられた方法だ。小学校の頃、担任が結婚して辞めるって時際
  千羽鶴を折ろうという話になって、家でチマチマと折っていたところ父さんがこうやると
  直ぐ折れるって教えてくれた。「涼子はいくら教えても出来ない」って父さんはぼやいていたけど。
  ――やっぱり眠い。もう一羽折ったら二人に悪いがもう寝よう。

        *        *        *
『モカ』

 四限終了。さってと、いつも通り士郎君とご飯ご飯。今朝はいちゃつけなかった分、昼にいちゃつくんだ。
  席から立った瞬間に後ろから右肩に手を置かれていた。
「――久しぶりに一緒にご飯食べようか」
「へ?」
  ……あの涼子、肩にのっかているだけの手が妙に重く感じるんですが。

 振り切る口実が浮かばないまま、結局士郎君の下へはいけず、久しぶりに涼子と昼を過ごすこととなった。
「あいつね、男の癖に滅茶苦茶神経細いのよね」今までの会話の流れを無視するように
  涼子が口を開けていた。
  あいつ――誰だろう。付き合っている人の事かな。涼子の顔は穏やかだ、
  観音様みたいな顔って表現したらいいのかな。そう思いながら黙って涼子の話に耳を傾ける。
「受験の時なんか十円ハゲ作ったりして、あいつ三十まで髪の毛持たないと思った」
  この話前に聞いたことある。士郎君のだ。
  ようやく今の涼子の顔を何と表現したらいいかわかった、お姉さんの顔なんだ。
「前々からアレだアレだって思ったけど、最近ハッキリした。あいつの事ちゃんと理解して、
  守ってやれる人間必要なんだって」
  こういうのを私に話すって事は――女将が若女将にこの店は任せたとかいうアレかな?
  応援しますよってことでOK?

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        *        *        *
『涼子』

 秋日に照らされた中庭に目を向ければ彼女――三沢さんが一人ベンチに小さくうずくまっていた。
「何やってんの?」
「……何でもありません」
  返事はするが顔を上げようとはしない。
  いつか見たシロウへの彼女の視線が思い浮かぶ。
「言いたい事言えないってあたり?」
  長い間をおき、彼女は言葉を返す代わりに小さく頷いた。
  そういえば、振られたとは聞いたが、具体的な流れについては全く聞いてなかった。
  シロウ達は一体どんな伝言ゲームやったんだろう。
「やりたいけどやれない、やらない方がいいに決まっている――そうやって
  自分に言い訳していることってのは大抵は後悔するもんだよ」
  彼女の後ろのベンチに背中合わせの様に腰を下ろす。何となく説教くさくて
  正面から話す気にはなれない。
「やって失敗したってのは大抵自分に決着付けた結果だけど、自分の本心偽ってやらなかったてのは
  例え悪くない結果でももしやってたらってのが心の中で引っかかりつづけるんだよ」
  振り返り彼女を見ればうずくまったままだ。この辺はシロウに似ているかもしれない。
「で、あんたはやるの? やらないの?」
  ――本来大した面識もないような相手に何故ここまで押し入っているんだろう。
  彼女は顔をしたままで返事はしない。
「はい決定! 今日の放課後」彼女の頭を軽く叩く。
「心の準備が――」
  慌てて顔を上げた、やっぱりシロウに似ている。
  大きな溜息が落ちた。
  ――手間のかかる――

 ――彼女は行動に移すのだろうか。
  放課後になってそんな考えが浮んだ。あのまま首根っこを掴んでシロウの前まで
  突き出してしまった方がよかったかもしれない。
  自分で悩んでもしかたないのだが、背中を押してしまった手前気になって仕方ない。
  校門へと向かって歩いていくとシロウと三沢さんは向いあっているのが見えた。
  二人ともまるで見合いを始めたかのようにお互いを前にしたまま口を開こうとしては
  上手くいかない。
  二人を見守る為に足を止めて数分立つがお互いが言葉らしい言葉を発していない。
  多分放っておくと終電時間までこの様子が続きかねない。
  言葉よりアクション。無言で近づき、シロウの頭を掴んで、そのまま前へと押し出す。
  掴んだ頭が正面にある別の頭にぶつかる感触がした。
  ラブコメなら上手い具合にキスになるだろうが、
  鼻もしくはおでこがぶつかっただけかもしれない。そこまでは責任はもたないが、
  二人の動きに変化は現れるに決まっている。
  数秒たつが、二人に動きはない。頭を押した誰かより、
  目の前に存在に全神経を持っていかれているんだろう。
「士郎くーん!」
  モカが駆けてくるようだ。せっかくの話の腰を折りそうなタイミングで。
  ラリアットの要領でモカの首を引っ掛け止める。
  喉にあまりにいい具合に入りすぎたモカはうめいている。
「こっちは適当に話つけとくから、あんた達はキッチリ決着つけときなさい」
  相変わらず二人は固まったままだ。
  ――こっちは蚊帳の外ですか。
「さーて、邪魔者はさっさと帰るよ」
  首を絞めたままモカを引き摺って歩き始めていた。

 

 ――数日後。
  秋というより冬に季節は変わりつつあり、日が沈んでしまった帰り道のことであった。
「にゃおん」
  鳴き声がした。
  なるべく視界に入れないようにしていたが、やっぱり入ってしまう。
  極太マジックで『拾って下さい』と書かれたダンボール箱の中のものが。
  この声は私へ向けてのものだ、間違いない。
  小さく溜息を吐いて声の主へと顔を向ける。
「何かの罰ゲーム?」
  ご丁寧にネコミミに鈴付首輪までつけたダンボール箱の中のモカへ向かって投げかける。
「捨てられた哀れな仔猫にゃーん。ここまで体張れば誰かいい人に拾われるかと思ったけど
  小学生にまでシカトされる始末だにゃ。人の別れ話作らせた原因なんだから
  誰かいい人紹介してにゃ」
「誰かいい人ってもね、あんたと私の交友関係でダブってない人間なんて何人いると思う?」
「――うん確かに」

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        *        *        *
『モカ』

「いや、でもオレ掃除あるから……」
「いいじゃん、いいじゃん、私も今日バイトあるから何処にも寄れないけど、さっさとかえろ」
  グイグイと士郎君を腕を引っ張る。
「その辺にしときなさい」
  何時の間にやら近づいていた涼子が士郎君の肩をグイッっと引っ張る。そして、なんか目がキツイ。
「こいつはそんな事したら、後で思い返して胃を痛めるようなタイプなの」
「うーうー」
  士郎君の腕を大袈裟にブンブン振り回してみるが、涼子はキッツい視線を送ってきていて、
  士郎君は少し困った顔。
「うー、後で電話するからね……」
  このまま粘ってるとバイトに間に合わなくなってくる。渋々観念してトボトボと背を向けて
  歩き始めた。
「……にゃおん」
  三歩程歩いてから名残惜しげに後ろを振り返る――猫に学ぶ名残惜しさの表現方法。

        *        *        *
『士郎』

 姉ちゃんと一緒に並んでドラマを見ている。
  別にいつも通り、極々普通の日常――のはずだ。
  しかし時折、目線が姉の方へ向いている。そして自分がそのことに気づくと慌てて
  目をテレビに戻す。そんな事を最近ずっと繰り返している。
  そして再び目が勝手に隣の住人にへと向いた時、その顔は笑っていた。
「ふ、風呂入ってくる」
  慌てて立ち上がっていた。

 ――おかしい。
  湯船に肩まで浸かってから考える。
  なんでもない事をやっている。その筈なのに何か意識してしまう。
  その『何か』が何であるかは、わかっている。三沢に抱いていたものと同じだ。
  今頭の中を空っぽにすべく、頭から湯を被った。
  目を閉じたまま手探りでシャンプーを探す。
「ナイスタイミング」
「へ?」
  風呂のドアが開くと同時に姉の声が聞こえる。
「まだ髪洗ってないね」
  人の脳味噌の硬直を無視したまま姉は勝手に人の頭を洗い始める。
「いや、あ……」
「昔ね、同級生の子が弟の髪洗っているって話しててね、そういやあんたに、そんなこと
  してあげたことないな、って思い出してね」
  今何が起きている? シャンプーが目に染みそうで目が開けられない。
  全身硬直したまま、リンスも無事終えると姉はさっさと風呂場から出ていった。
  何だったんだ――

 チラチラと部屋のドアを見つめては机の上のノートに目を戻しては少しだけ
  手を動かす作業を繰り返す。
  隣のベッドに枕が二つある。昨日からあるオレのと、姉ちゃんの。
「ここに枕あるってことは、そういう事だよな……」
  その言葉を口にした時、それを期待している自分に気づいた。
  階段を上ってくる音がする。一歩、二歩とこちらに近づいてくる。その音にあわせて
  胸の鼓動が早くなってくる。
  ドアが開く音――この部屋ではない、姉ちゃんの部屋だ。
  大きく深呼吸を繰りかえし、鼓動が落ち着きかけた頃頭を大きく振った。
「何か分らない問題でもあるの?」
  ベランダ側から唐突に声をかけられ背筋を伸ばしていた。

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        *        *        *
『モカ』

 バイトから帰って来て、そのまま軽くベットに体を投げ出す。
  ぐるりと寝返りをうち仰向けになり携帯を取り出しメモリから士郎君の番号をコールする。
  五回のコールを待たないうちに電話は繋がる。
「はい」
  ――あれ? 涼子の声?
「シロウは只今お風呂で、電話に出られません」無味乾燥の涼子の声。
「あ、うん――」――こっちから何か言う前に電話が切られた。通話時間僅か五秒。
  これってあれ? 携帯電話普及前の時代によくあった恋人の家に電話をかけるにはお父さん、
お母さんのガードを掻い潜らなきゃいけないとかいうアレ。
  でもねーでもねー、用件だけ言って切るなんてあんまりじゃないかな。
それにいきなり切るなんて、そこまで愛想が悪かったかな。友達と弟の関係は
適当に茶化したりしないのかな。
  ま、いっか三十分ぐらいしたらもう一回電話しようか。
  そう思っていると小さく鈴の音がなる。外を見ればこの間の白猫がいる。
「おいでおいでー」
  窓を開けて声をかけると、この間の僅かばかりの警戒心は何処かに言ってしまったらしく、
人懐っこく仰向けになってまで体をこすり付けてくる。
  指を差し出すとしばらく甘噛みした後、私の指を咥えて舌を小刻みに動かし吸い始めた。
「赤ちゃんみたい」
  士郎君にもやらせたいな、こういう事。
  猫のお腹を撫でつつ、そろそろ頃合かなと思い、再び士郎君へと電話をかける。
  しかし電話越しに聞こえてくるのは女性の声。
  そんな――携帯の電源切れてるじゃん……

        *        *        *
『士郎』

 グィっと顔を前へと押し付ける。独特な柔らかさをもった感触につつまれる。
その感触をもっと味わいたくて顔を擦り付ける。
  猫が体を摺り寄せてくるのは自分の匂いを擦り付ける為だと昔テレビで言っていたが、
自分は違うと思う。あの擦り付けている時の気持ち良さそうな顔を見ていると、
気持ちいいから体を擦り付けたがっているようにしか思えてこない。
  夢現の中、今顔を擦りつけながら、それは間違いないと思えてくる。
  ――はて、今顔を擦り付けているものは何なのだろう。一応知っているはずなのだが、
半分眠った頭でははっきりしない。
  瞳を開くとかすんだ視界のぼやけた焦点がゆっくりと合い始める。ついさっきまで顔を
こすりつけていたものの上によく見知った顔があった。
  一瞬体が勝手にビクッと跳ねたが、姉ちゃんはまだ熟睡しているらしく反応はなかった。
  起こさないようにゆっくりと体を引き離しベッドから抜け出る。
  カーテン越しに薄っすらとオレンジ色に照らされた部屋に脱ぎ散らされた衣服などない。
  ベッドの端に腰を下ろし、姉ちゃんの顔を眺める。静かに規則正しい呼吸を繰り返す整った顔。
ずっと見ていたのに――いやずっと見ていたから意識することを忘れてしまった顔。
  気がつけば自分の右手がゆっくりと姉ちゃんへと伸びかけていた。
  今自分はこの手でどうしたいんだろう。伸ばしていた手を戻し、意味もなく自分の手を
何度も握り返す。
  スキンシップ――だよな……

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        *        *        *
『士郎』

「そこの下をもう少し下……あっ」
  指示されるままに体を動かし、それに答えるように姉の口からかすかに溜息にも似た声が漏れる。
  ――何故に休日の朝からマッサージなんてしているのだろうか
  頼まれた以上断れない。「なんで?」と聞けば「やって」との返事がかえって来た。
ここで断るという選択肢は存在しない。
  誰かに見られたら誤解を生むような状況かもしれない。
  ひなたぼっこをする猫の様の如く上機嫌そうに眼を細めた姉の顔が視界を占有する。
モカさんは似た匂いだと言ったが今自分が感じているのは全く別の僅か甘味の漂う香。
今手が触れているのはとてもこっているとは思えない柔らかい肉。
  意識すまいとすればますます感情が頭を支配しようとする。
何故ここまで無防備でいられるのだろうか。
「もうそろそろいい?」
  いい加減疲れてきた。今頭に広がりつつある煩悩から引き離す為懇願する。
「うん、いいよ」
  安堵の息と共に体中から力が抜けていく。開放される。
「次私の番だからね、はい横になって」
  ――断れない。
  言われるがままに横にされ背中に乗ってくる。
「あんたはさあ、神経質なところあるからこってるでしょ」
  背中に置かれた手はリズミカルに動かしはじめる。
  少々痛い気もするがあえて口には出さない。
「もうちょっと自分に正直に生きなさいよ」
  その声と共に上半身を倒して全体重を預けてくる。背中に胸が密着する。首筋の息が当たる。
「正直ってなんだよ?」――何したいんだ姉ちゃんは。
「わかってる癖に」
  姉ちゃんの吐く息が脊髄を激しく振動させる。どうしろってんだ――
 
         *        *        *
『涼子』

 退屈な授業中に顔が緩んでいたのに気がついたから慌てて顔を戻した。
  次はどんなことをしようか、それだけで自然とワクワクしてくる。そんな事を考えていたら
にやけている自分に再び気がついた。
  シロウシロウシロウシロウシロウシロウシロウシロウシロウ――ノートを見れば半ば無意識に
ビッシリと文字が刻み込まれていた。

        *        *        *
『モカ』

 少々野暮用があったものの、いつもどおり屋上へと向かおうとしていたところ、
教室の床にルーズリーフノートが落ちていた。別に気にするものでも何でもないゴミなのに
ちょっとオーラを感じたのついつい拾ってみた。
  ――なに、これ? ビッシリと「ウシロ」と書き込まれたルーズリーフノート。
  呪術か何かとしか思えない独特の異常性を感じてしかたがない。拾うんじゃなかったと何かが囁く。
「みなかったことにしよう」
  そう誰に言うわけでもなく小さく呟きノートを二つに折ってゴミ箱に放り投げた。
  ところで「ウシロ」ってなんだろう。後ろから何か来るのかしらん。
  おっと屋上屋上――

2006/11/05 To be continued...

 

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