何?あの子?
練習の終わった純也くんにタオルを届けようとした私より先に、一人の女の子が近付いていく。
恐らく、茜ちゃんだろう。
純也くんと茜ちゃんは一言二言手話で会話すると、茜ちゃんを残して純也くんは部室へと入っていく。
ギュッと唇をかむ。
何で茜ちゃんがそこにいるのよ!!
そこは私の場所でしょ!!!!!!
私は、遠くから茜ちゃんを睨んでいた。
しばらくして、純也くんが部室から出てくると、あろうことか茜ちゃんは純也くんと腕をくんだ。
あの女ぁぁ!!!!
強くかみすぎた唇は血が吹き出し、口中に鉄臭い血の味が広がったが、たいして気にならなかった。
それほど、私の心は黒い嫉妬の濁流にのみこまれていた。
あ〜、いいお湯。
お風呂の湯かげんはベストの状態で、あまりの気持ちよさに、今日あった嫌な事も、
全て私の体から出ていくような気がした。
――あの後。
私は、無意識に彼等を尾行していた。
何故尾行なんてしたのだろう?
そもそも、純也くん達を尾行するメリットはゼロだ。純也くんの家の場所などとうに知っている。
しかし、その一見無意味な尾行のおかげで私は大きな収穫を得ることができた。
すなわち、純也くんの家の鍵のありかが判明したのだ。
純也くんの家は母子家庭で、昼間母親は仕事で家にいない。
そして、純也くんと茜ちゃんも学校があるので家にいない。
つまり、昼間純也くんの家は確実に留守状態なのだ。
ふふふ、茜ちゃんには感謝しないとね。
私はお風呂のなかで包帯の巻かれた右手を見上げる。
純也くん家の鍵のありかが分かり、浮かれ気分で家に着いた私は、
思わずにやけそうになる顔を必死で抑えて、部屋にいそいそと入っていった。
ベッドに座り、
これからは、いつでも純也くんの家にお邪魔できるのね。なんて素敵な事なんだろう……。
みたいな事をうっとりと考えていると……。
痛っ!!
急に右手に痛みが走る。
慌てて右手を見ると、いたる所から血がにじみ出ていた。
考えて見ると、道中ずっと腕をくんだままだった茜ちゃんに対する怒りを静めるために、
ずっと爪を立てた手を握り続けていたのだ。
(左手は握力が足りなかったのか、かろうじて血はでていなかった)
その後、私は急いで右手の治療をした。
包帯は少しやりずぎかな?とも思ったけど、私のからだはもう私一人のモノではないので、
一応大事をとった。
しかし、いずれにしても茜ちゃんにはおしおきしなくちゃ。
茜ちゃんに感謝してるけど、これとそれとは話は別。
……でも、あまりヒドい事はしたくない。
もうすぐ私の妹になるわけだし、何より純也くんの悲しむ顔が見たくないから……。
まぁ、ひとまず純也くんが誰のモノかを分からせてあげる事からはじめよう。
私はお風呂のなかで作戦をねりはじめた。
あまりに長い時間、お風呂のなかでねり続けたためのぼせてしまったのは、また別の話。 |