INDEX > SS >ケーキ

幼馴染と妹とモンブランケーキ

 

1

今日はおにいちゃんの誕生日。
えへへ、押しかけちゃった。
久しぶりにお兄ちゃんに会えるんだ。
……緊張しちゃうな。
おにいちゃんは今年になって一人暮らしを始めたばかり。
一人きりの誕生日は始めてのはずだ。
えへへ。
だから、あたしが一緒に祝ってあげるのだ。
手にはケーキ。おにいちゃんの大好きな、三角堂のモンブラン。

えへへ、おにいちゃん、喜ぶだろうなぁ。


驚いた。
アルバイトを終えて帰ってきたら、アパートの前で思いがけない人物が待っていたのだ。
艶やかな黒髪が腰まで届く、人形のような美少女。
「あ、お兄ちゃん!」
弾けるような笑顔には、確かに見覚えがある。
「……加奈?」

俺がまだ幼かった頃。
一番の年長だったからか、俺は近所の子どもたちのお兄さん的存在だった。
いつも子どもたちと遊んでやっていた俺は、大人からの信頼も厚かった。
もちろん、子供たちからも信頼されていたと思う。
中でも、「お兄ちゃんお兄ちゃん」と特に俺に懐いてくれた少女の姿は、今でも忘れていない。
その少女というのが――加奈だった。
俺が大学に入学してからは疎遠になっていたのだが……

「本当に久しぶりだな」
「うんっ! 一年ぶりだもんね!」
そう言って飛び込むように抱きついてくる加奈を、俺はなんとか受け止める。
ちょっとした衝撃。
少し見ない間にずいぶんと成長したもんだ。
加奈はこういう外見なのに、けっこう活発な性質なんだよなぁ。
……いや、そうじゃない。
俺が初めて会った時は、見た目どおり、友だちの陰に隠れているような大人しい子だった。
それがいつのまにか、すごく明るい娘になってたんだ。
忘れかけていたことを思い出して、少し笑う。
本当に、ずいぶんと成長した。そう思った。
なんだか胸の方も――
「だああああっ、離れろっ!」
俺は子泣き爺みたいになっていた加奈をベリベリと引き剥がした。
ぶーぶー言う加奈を放って、なんとか鼓動を鎮めようと深呼吸する。
ふう、妹みたいな存在に欲情するなんて、どうかしてる。
「まったく。で、いきなり何だよ? なにしに来たんだ?」
「何にしに、って……もう、なに言ってるのよ!
  加奈、今日はお兄ちゃんの誕生日をお祝いしにきたんじゃない!」
「誕生日? ――ああ、そうか」
そんなもの、すっかり忘れていた。
そう。そうだ。確かに今日は、俺の誕生日だ。
「……覚えててくれたのか」
「そんなの当たり前じゃない。お兄ちゃんの誕生日なんだから。
  ね、ケーキもあるんだよ。お兄ちゃんと一緒に食べようと思って買ってきたの」
手に持った袋を掲げる加奈。
なんというか、瞳がものすごくキラキラしている。
そんなにケーキを食いたいのか?
「まあ、とりあえず部屋にあがれよ。お茶くらいは出してやるからさ」
「はーいっ!」
返事だけは素直に、加奈は再び俺に抱きついてくる。
やれやれ。バイトで疲れてるってのに。
そう毒吐くけれど、俺は口の端に浮かぶ笑みを抑えられないのだった。

加奈ちゃんがおにいちゃんと一緒に部屋に入っていく。
なによ、おまえ。
わたしのおにいちゃんに近づかないでよ。
加奈ちゃん……加奈、昔はよく遊んであげたじゃないの。
おにいちゃんに加奈を紹介したのはあたしじゃない。
おにいちゃんと遊ぶとき、加奈も誘ってあげたじゃない。
おにいちゃんに怒られた時だって、一緒に謝ってあげたじゃない。
どうして裏切るの?
どうしておにいちゃんと一緒にいるの?
おにいちゃんはあたしのモノでしょ?
おまえのモノじゃないでしょ?
おまえは、あたしの後ろでびくびくしてる子だったじゃない。
あたしの前に出ないでよ。
あたしより先に行かないでよ。
――待ちなさいよ。

 

ケーキはいつのまにか潰れていた。

三角堂のモンブラン。
別にいいよね。
おにいちゃんはあたしに会えるだけでも嬉しいはずだわ。
とりあえず害虫を駆除しなきゃ。
ケーキはその後で買ってくればいいのよ。
えへへ、えへへ。
待っててね、おにいちゃん。
いま、そっちに行くからね。

邪魔な虫は、潰してやる。

2006/01/22 完結

 

inserted by FC2 system